ご留意ください
第1層の攻略が終わり、しばらく経った。
あの後、またキバオウ達と一悶着あったり。キリトとフレンド登録し忘れていたのを思い出して、せっかく良い感じに別れたのにまた会いに行ったり。
アスナにオレとミコトの関係を教えて、面白いくらい驚いたりと、色々あった。
第1層攻略後は、それなりに順調に攻略は進んだ。
キリトやアスナとは、たまに狩りやクエストにいったり、ボス戦ではまた即席でパーティを組んだりした。
その際、何人かのプレイヤーがキリトに突っかかったのに反発したせいで、ビーターのお仲間だとか何だの言われたが、さして気にしていない。
どうせミコトとのコンビだし、キリトに向くヘイトが少しでも減るなら、汚名でも被ってやろう。キリトは申し訳なさそうにしていたけど。
そして、デスゲーム開始から3ヶ月が経った。
2023年 2月中旬
アインクラッド第10層 主街区 ジャホウ村
基本的に西洋風な設定のSAOには珍しく、建物や街道が日本建築的な階層である。
瓦屋根の木造家屋や石畳など、初めて見た時は懐かしさを感じたものだ。
そんな街中の内、鍛冶屋が立ち並ぶ通りにて……
「……んふふふふふふ」
オレ──ナギは、満面の笑みを浮かべて歩いていた。
その姿にドン引きするミコトにも気付かないで、何をそんなに夢中になっているのかと言うと。
その理由は、その手に持たれた、1本の剣。
腕程の長さに、軽く反りが入った細身の刀身。
片刃の部分は薄く波線が走っている。
柄には赤い細布が巻かれており、銀色に反射する刃とのコントラストが美しい。
───そう、紛うことなき『刀』である。
SAOが始まって以降、カタナスキルを目的にオレたちは、曲刀を延々と使っていた。
それはもうすっごく。他のスキルの取得も最低限にして、曲刀スキルを強化しまくった。
その努力がようやっと実を結び、直近の9層のボス戦後、遂にオレとミコトに、カタナスキルが解放されたのだ。
それだけでも狂喜乱舞した上に、10層に行ってみればこの和風な景観である。
期待するだろう、してしまうだろう。
そしてその後日、つまり今日、オレたちは刀を手に入れたのだ。
「はあ……やっぱ良いなあ、刀」
「ナギ、そろそろこっちに戻ってきて。視線が痛いから」
「とは言ってもなあ。この感動を抑える事なんてできようか……いやできまい」
「反語やめい」
ジト目を向けてくるミコトの腰にも、刀が提げられている。
柄巻の色は紺色で、オレと色違いだ。
オレは、第1層の
その出で立ちは、正に江戸時代の侍のようである。
「いやぁ、ここまで本当に長かった。βテストの時とタイミングが違ったから、条件が変わってるんじゃないかって最近冷や冷やしてたわ」
「だねー。にしてもエラく高性能だったよね、この刀。しかも店主さんが勝手に譲ってくれたやつだし」
「何かしらのイベントだったんだろうな。初めてあの店に訪れた、カタナスキルを持っているプレイヤーに発生するとかの」
「それじゃあラッキーだったね」
あれは驚いた。一先ず1番大きな店で探そうと言って扉を開けたら、急に店主が呼び止めてこの刀を渡してきたんだから。
見てみると性能は店に置いているもののどれよりも高く、あと20層くらいは使い続けられそうなくらいだ。
一応、後でこの情報を公開しておこうか。
ちなみに、オレの刀の銘が《
やっと刀を鞘に納めると、ミコトが聞いてきた。
「明日だっけ?ボス戦」
「ああ、そのためにも、今から迷宮潜って肩慣らしすんぞ!」
「ラジャー!」
そう言って、オレたちは迷宮区へと走る。
さあ、モンスター共。手に入れたこの刀の錆にしてくれよう。
◇◇◇
「それで、刀の使い心地はどうだったんだ?」
後日、10層のボス戦に参加したオレたちは、迷宮区を歩いていた。
その道中、キリトからこう問われた。
「ああ、とんでもなかったぞ。このボス戦じゃ無双できそうなくらいにな」
「その様子だと、期待して良さそうだな」
「でも、スキルレベルはいいの?手に入れたばかりなんでしょ」
「そこは問題ないよアスナ、曲刀からの引継ぎだから」
そう答えるミコトだが、尚もアスナは不安そうにしている。
「その使い慣れてる曲刀から、いきなり刀にしたら動きに支障が出るんじゃない?」
「それこそ問題ない。オレは曲刀からして刀を意識して使ってたし、ミコトはミコトだからな」
「ああ、なら大丈夫そうね」
「待ってアスナ、何でその説明で納得してるの?明らかにおかしくなかった?ねえ」
「「「だってミコトだし」」」
「不本意!」
変態アクロバティックを1層以降も連発している奴が叫ぶが無視無視。集中しゅーちゅー。
今回のボス戦メンバーは割と少なめ。1層の3分の2程度だ。取り巻きが居ないって情報だし、油断しなければ勝てるだろう。普段邪魔してくるキバオウらも居ないし、存分に腕を振るわせてもらう。
そうこうしている内に、ボス部屋前までたどり着いた。
いつもの扉は金属製っぽい重々しい物なのだが、今回は襖だった。ここまで和の雰囲気出してくるか。
「よし、やるぞ」
「うん、目にもの見せてやろ」
いつもの拳を突き合わせるルーティンをし、襖を勢いよく開ける。
しばらく部屋は暗かったが、全員が入ったところで襖がピシャリと閉められ、フロアの両脇に並べられた灯篭に火が灯されていく。
そして、姿が見えた。
『……グルルルルル……』
赤黒い鎧。伊達政宗よろしく三日月を鋭くしたような兜。右手には太刀が、左手には何やら白い蛇が巻かれている。
双眸を爛々と紅く輝かせながら、第10層ボス《カガチ・ザ・サムライロード》は低く唸った。
「全員散開!刀は正面から受けないで!」
アスナの号令により、ボス含め全員が動いた。
オレとミコトは前に出て、ボスへと攻撃を仕掛ける。
最初に振斬撃を、受けることなく横にズラす。そこで少し崩れてくれれば良かったんだが、ボスはお構い無しに2連撃を繰り出した。
「うおっ!?」
「あっぶな!?」
すんでのところで斬撃を回避し、1度ボスから距離を取る。
シュルシュルと蛇舌を出しながら息を吐くボス。人間ぽいのは見た目だけらしい。
タンクが引き付けてくれてる間に、作戦を練ろうと思ったのだが
「! 全員、柱の影に隠れろ!」
「!?」
ボスの左腕に巻かれていた蛇が解かれ、鞭のように上に放たれた。
白蛇は螺旋を描きながら周囲のタンクを蹴散らし、ボスの腕に戻った。
その様子を見て、ミコトに話しかけた。
「……ミコト、いけそうか?」
「刀の方は多分。蛇がちょっとキツイ」
「OK、蛇はオレがどうにかする」
「分かった。アスナ!キリト!2人で1回アイツの刀抑えられる!?」
「「分かった(わ)!」」
「さっすがー!」
4人は一斉に柱から飛び出すと、言った通り、まずキリトとアスナが2人がかりで刀を受け止める。
「2人ならいけるみたいだな!」
「ミコト!スイッチ!」
「あいよ!」
2人の後ろから飛んだミコトが、カタナ3連撃ソードスキル《
するとボスは、1度左手を溜める動作をした。
「蛇来るよ!一旦退避!」
「どうするんだ?タンクまだ回復してないぞ!」
「そこは……何とかするんだよね!?」
「心配すんな!」
ミコトの確認に、ボスの真正面に待機していたオレは大きく頷いた。
3人は柱に隠れ、それ以外の面子もボスの眼中に無し。
ボスのタゲはオレ1人に向いている。
(オレの予想通りなら……)
左腕の白蛇が解かれる。そしてその左手は、真っ直ぐオレに向けられた。
そしてそれは、多少うねったり螺旋を描いたりしながらも、ほぼ一直線だ。
読みはオレの当たりだ。標的が1人なら、そこへ最短距離で飛んでくる。さっきよりも動きは単純になる。
左下に構えた小烏丸が、青く輝く。
「───はああっ!!」
衝突の瞬間。
白蛇の上下の牙は、オレの剣の間を通り過ぎた。
横薙ぎの一閃、カタナ単発ソードスキル《
蛇の体はその速さが仇となり、オレが剣を振り抜く頃には真横に一刀両断されていた。
『……ジュラアアァァアア!!?』
ボスが苦悶の咆哮をあげて膝を着いた。
どうやら蛇を破壊すると、スタンするらしい。嬉しい誤算だ。
「ナイスナギ!」
「おう、何とかなったろ?」
「「何危ないことしてるんだ(してるの)!?」」
キリトとアスナはオコだった。
ミコトのように素直に賞賛してくれれば良いものを……あの感じだと終わったら説教コースだな。
スタンが終わるまで一通りタコ殴りにし、残りHPバーは1本。
そこでボスは起き上がろうとしたため、全員退った。
すると、ボスが蛇を失った左手を虚空に向けると、そこにもう1本刀が現れた。
「二刀流!?ズルいオレもしたい!」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!ボスのソードスキル来るぞ!」
居合の姿勢を取ったボスの刀が青く光り、そこから十字に空を切り裂いた。
すると斬撃は滞留し、こちらに迫ってきた。
大抵は柱に隠れ、ミコトやキリトは跳んで回避した。
その攻撃に対し、オレは声をあげて抗議した。
「飛ぶ斬撃とか、どんだけ羨ましいことすれば気が済むんだよ!スキルレベル高い自慢かお前ぇ!?」
「そんだけムカつくなら、あの猛攻止めさせられないか!?」
「今行ったらサイコロステーキになっちゃうよ!」
蛇が破壊された事にご立腹なのか、ボスはやたらめったら斬撃を飛ばしている。もう柱も半分以上切り飛ばされていた。
ボスはやっと攻撃をやめると、オレたちはようやく動き出した。
先程のタイミングで全開したタンクが、刀1本の時よりも数段激しくなった猛攻を耐え凌ぐ。
隙を見て、脇や足にダメージを加える。偶に飛んでくる斬撃も、1本くらいならタンクで防げた。
が、ある程度ダメージを与えると、また暴れ斬撃モードに入った。
もうほとんど残っていない柱に隠れ、様子を見る。
「ナギ、LAキメるよ」
「お、ミコトからなんて珍しいな」
「私もナギほどじゃないけど、新武器でテンション上がってるからね」
「ハハッ!んじゃ一気にいくか!」
「うん!」
斬撃の嵐が止む一瞬前、オレとミコトはボスに向かってダッシュした。
ボスはオレたちを捉え、両手の刀をクロスさせて、こちらに突進してくる。
直接攻撃でくるか───そう思い、オレたちは刀を下段に構える。
すると、ボスが間合いの半歩前で刀を振りかぶり、斬撃を飛ばす。
直接攻撃はフェイント。しかも迫る斬撃は避けにくい✕の字。この距離ならば、予測していなければ確実に当たる。
「危ない!」
アスナの叫びに、オレは内心ほくそ笑む。
何を心配している。こんなもの───
「「───読めてんだよっ!!」」
予測してるに決まってんだろ!
ボスが刀を振る直前に真横へステップしていたオレたちは、もう一度ジャンプして斬撃の間をくぐり抜ける。
オレとミコトの左右の位置が入れ替わり、2人の刀身が再び蒼い光を纏う。
「「ぜやあああ!!」」
二筋の《白波》はボスの鎧を容易に切り裂き、分断されたボスは眩い光と共に消滅した。
リザルト画面が出たのを確認して、ミコトとハイタッチをする。
「ちゃんと合わせてくれてありがとな」
「まあね、ナギの考えてることですから」
ムフーとドヤ顔するミコトの頭を撫でていると、後ろに何やら不穏な空気が差した。
「ナ〜ギ〜……」
「ミコト〜……」
「すぅ───……お2人とも、いい笑顔ですね」
「「……もっと自分を大切にしろ(しなさい)!!!」」
とびきりの雷がフロアに木霊したのは、言うまでもなかった。
今日は後書き小話はお休みです。
第10層、カタナスキルの出現タイミング、カガチさんの
挙動、オリジナルソードスキル……
一気にオリジナル設定ぶち込みました。楽しんで頂けたら幸いです。
それと、別に狙ってる訳ではありませんが、感想や評価も頂けたら、私は大変嬉しくなって筆が速くなります。
別に何かを狙ってる訳ではございません。
次回は、キリト曇らせ回のアレです。