ボンッボンッボンッと一定のリズムで爆炎と共に40mm2ポンドの演習弾が砲口から弾き出され、地面に着弾する。炸薬が入っていないとは言え、弾頭が持つ運動エネルギー、それによって生じる着弾の衝撃は実弾とさして変わらない。直撃すれば一発でも並の生徒であれば気絶は免れないだろう。
はい、祗園アイカです。ちょうどいいのでポンポン砲で前衛部隊の訓練相手になってほしいと言われまして、ロイアルティー号の荷台からひたすら演習弾を撃ち込む作業をしてます。
僕も一年生だし前衛戦闘の訓練とかやらなくてもいいのかと聞いたけど、愛銃のことを抜きにしても前衛より後衛で支援や指揮とかする方が向いてるらしい。銃弾を受けるのはやっぱり痛いので、しなくていいならそれでもいいんだけどね。
そうして訓練をしているうちに、この前の茶会で会った二人と演習することになった。
「いつでもはじめて良いよ~」
「では、行きますわよ……Fire!!」
クランクを回して射撃を開始する。砲身が躍るように交互に動いて発射する様は何度見ていても飽きない。その砲口の先では、マアサが軽い身のこなしで演習場を駆け回っていて、中々狙いが定まらない。マアサが撹乱している間にマイハは最低限の動きで回避しつつ遮蔽物に身を隠していた。
「当たってませんよ?」
「貴女が、すばしっこいから、ですわ!」
砲弾を当てようと躍起になって撃ち続けるが、ひょいひょいと躱されて翻弄される。
「マアサちゃんに気を取られてませんか~?」
「なっ、いつの間に……!」
そうしてしばらく射撃を続けて、集中力が切れてきた。一旦手を休めようとしたら、ちょうどそこに視界の外から飛んできたスナイパーライフルの7.62mmNATO弾が頭に直撃してふらつく。
「砲撃が止んだ隙に……っと、これでおしまいです」
さらに一気に距離を詰めてきたマアサの.303弾を撃ち込まれてチェックメイト。
「お、お二人はすごいですわね……」
「うふふ~伊達に期待の新人扱いされてないよ~」
「まあ、そういうことです」
その後もしばらく訓練を続けて、それが終わったらティーパーティーらしく紅茶と茶菓子を摘まみながら一息つく。
「それにしても、アイカちゃんはなんでポンポン砲なの~?」
「オンリーワンの、誰も使ってないような銃を使いたくて……入学前に探していたらたまたまこの子と出会いましたの」
「まあ、対空機関砲を個人用の銃として使う生徒はまずいないでしょうけど」
「……確かに不便なこともありますわ。狭い場所には持ち込めませんからサブウェポンを常に携帯する必要がありますし、取り回しもあまりよくありません。それでも、一撃必殺のロマンがありますから」
多少利便性を犠牲にしてでも、自分だけの大火力装備というものは胸が躍るものだ。
「お二人の銃はあたくしとは逆に取り回し重視、ですかしら」
二人が椅子に立て掛けている銃を見やる。マアサの銃はNo.5 Mk1、通称“ジャングル・カービン”でマイハはL42A1。どちらもリー・エンフィールドNo.4 Mk I小銃を基に改設計を施したものであり、幅広い戦場で使用されてきた実績を持つ銃だ。
「……そうですね、私のスタイルはさっき見てもらった通りなので銃身が短めな方が使いやすいです」
「わたしは特に持ち運びとかは気にしてなかったけど、なんかピンときたからこの子にしたよ~」
「なるほど、そうでしたのね」
キヴォトスの生徒で共通の話題と言えば、やはり自分の武器についてだろう。そうして話に花を開かせながら、茶会を終えた。
◇◇
「……なるほど、ご説明ありがとうございます。ヒフミさんが仰っていることはよく分かりました」
昼下がりのティーパーティーがよく茶会に使うベランダ。そこにはティーパーティーのホストと、ある一般生徒が一人。
──阿慈谷ヒフミ。ナギサが懇意にしている少女で、時折茶会に招待されている友人だ。彼女はたまたま会ったアビドス高校の生徒と行動を共にし、そこで見聞きしたことについて報告した。具体的にはカイザーコーポレーションの関連企業と思われるカイザーPMCがアビドス砂漠で何か企んでおり、その為に何年も前から砂嵐対策で困窮していたアビドス高校へ融資しつつ、その返済のために自治区の土地を売らせてカイザーの私有地としたこと。そうしてアビドスのほぼ全てを掌握して、最後に残ったアビドス高校分館をヘルメット団に襲撃させて占領しようとしていたことも。
もちろん、アビドス高校対策委員会と会ったきっかけであるブラックマーケット*1への出入りや、カイザーローンを襲撃して書類などを奪ったことについてはボカす他なかったが。
「その先生の言葉が本当だとすると、このまま聞き流すわけにはいかなそうです。例の条約も目前に迫っていますし、今は下手に動くわけにはいかないのですが……」
そこで一度、ナギサは目を閉じて少々思案する。再び目を開くと、そこには不安そうに返事を待つヒフミがいて、表情を緩めてその不安を解消しようとした。
「……ただ、そのカイザーPMCという企業の存在が、我が校の生徒たちに良くない影響を及ぼしそうなことは確かですね。今回はちょっとした例外ということで、何か考えた方が良さそうです」
「あ、ありがとうございます、ナギサ様……」
その言葉を聞いて、ヒフミはホッとした様子で感謝を述べる。
「そうですね……確かちょうど、牽引式榴弾砲を扱う屋外授業の予定があったはずです。せっかくですし、ちょっとした
そういうことにしておきましょうね、という意味を込めて微笑んでみせる。
「えっと、牽引式榴弾砲ということは……L118の……?」
「はい。他ならないヒフミさんですし、全てお任せします。細かいことは私の方で調整しておきますから、他に何か分からないことがあれば同行させる士官候補生に聞いてください」
「士官候補生、ですか?」
「ええ、優秀ですよ。とても」
とても、と言う時に一瞬だけナギサは憂いを帯びた表情を見せたが、ヒフミはそれに気づくことはなく。
「愛は巡り巡るもの……ヒフミさんがいつか私に愛をお返ししてくれる時を、楽しみにしています。ふふっ」
「あ、あぅ……」
「それにきっと……いえ、間違いなく、『シャーレの先生』には貸しを作っておいた方が良さそうですからね……」
「あはは……」
もちろん、エデン条約に向けて。着任からまだ数週間ほどしか経っていないにも関わらず、既にキヴォトス全土に先生の話題は広がっている。その先生が味方するのならば、エデン条約締結に向けてこれ程心強いことはないだろう。
前回のマアサに続きマイハのプロフィール紹介。多分マアサ、マイハの情報を開示した時点でアイカのモチーフについては、詳しい人ならもうほぼ特定できるかと思います。
名前 マイハ
フルネーム 土御門マイハ(つちみかどマイハ)
武器種 SR(L42A1狙撃銃)
学園 トリニティ総合学園1年生
部活 ティーパーティー
年齢 15歳
誕生日 12月5日
身長 175cm
趣味 料理、食べ歩き
基本情報
トリニティ総合学園の生徒会にあたる「ティーパーティー」でサンクトゥス派に属する少女。
誰とでも話せるムードメーカーで、友人と一緒に食べ歩いたり、料理を振る舞うのが好き。
そんな普段の様子からは想像しにくいがかなりの切れ者であり、サンクトゥス派の将来を背負う存在であると言われている。