ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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09 断じて奴隷にはならぬ

 侵入者と見るや否や無条件で襲ってくるオートマタやドローンの他には人のいないアビドスの砂漠を、L118榴弾砲を牽引するトラック十数台が駆ける。先頭を行くトラックの荷台には2ポンド連装ポンポン砲が設置されており、その砲火が手当たり次第に行く手を阻もうとする機械たちを砂屑へと変えていた。

 

Some talk of Alexander, and some of Hercules. Of Hector ──

 

 いやー、ついにやってきましたアビドス砂漠。これからのことが楽しみで歌なんか歌っちゃう。多分運転席のヒフミには聞こえてるだろうけど気にしない。

 

 

 

 

 事の始まりは3日前、10日振りくらいにナギサに呼ばれてのお茶会で。

 

「アイカさん、この前の茶会では士官候補生に指名すると言いましたね」

 

「はい、確かに。1年生の代表として恥ないよう訓練も精進させていただいていますわ」

 

「それは良いことですね。早速ですが士官候補生として最初の任務、と言いますか。ある屋外授業に同行してほしいと思っていまして」

 

「屋外授業……というと、もしかして榴弾砲を使うあの授業ですの?」

 

 そう、ゲームの対策委員会編で挙げられていた屋外授業(ピクニック)だ。先生に貸しを作るということで榴弾砲による支援射撃を行うわけだが、かなり気になっていた。

 

 だって名分付きでカイザーぶっ飛ばせるんだよ?正直めちゃくちゃ参加したかったけど自分のクラスじゃないから落ち込んでいたところだった。

 

「そうですね。諸事情で、ある二年生の生徒も同行するのでその補佐と砲兵隊の指揮をお願いしたいのです」

 

「ええ、承知しました。それと……」

 

 答えなんて決まってる。二つ返事でOKを出したら、あるお願いというか、了承を求めることにした。

 

「なんでしょう?」

 

「あたくしのポンポン砲の試射もしてみたいのですが、構いませんか?」

 

 僕がそう言うと、その意図を汲んだのかナギサはフッと微笑んで。

 

「ええ。人もほとんどいない砂漠地帯ですし、遠慮なさらずにどうぞ」

 

「感謝いたしますわ、ナギサ様」

 

「はい、同行する二年生……阿慈谷ヒフミさんのことをお願いしますね」

 

「お任せくださいませ」

 

 そして僕は三日後を楽しみにして部屋を退出したのだった。

 

 

 

 

──With a tow, row, row, row, row, row, for the British Grenadiers!

 

 攻撃ドローンやオートマタ、後はカイザーに雇われたらしい兵士を粗方片付けて、しばらく車を走らせていたら。

 

「……あの、アイカさん!そろそろです」

 

「あら、もう着きましたの?では」

 

 荷台の隅に放っておいた無線機を手繰り寄せてスイッチを入れ直す。

 

〈演習地点に到着しました。各員トラックを止めて戦闘配置に着いてください〉

 

 指示と共に榴弾砲を引くトラックが減速して停車し、運転台や荷台から降りてきたティーパーティーの白制服の生徒たちが射撃準備を開始する。

 

「あの、阿慈谷先輩。準備が終わったら射撃の号令は先輩にお願いしてもよろしいでしょうか」

 

「それは構わないですが、アイカさんは……?」

 

「ちょっとポンポン砲の試射をしたいと思いまして」

 

「あ、あはは……」

 

 うん、ただの試射だからね。その砲口の先にカイザーの兵士(まと)がいてもたまたまだよ。

 

〈各員、射撃準備が整ったら阿慈谷ヒフミ先輩に報告するように。射撃開始は彼女の指示に従ってください〉

 

「では、これで失礼いたします」

 

「はい、アイカさん」

 

 ヒフミの指示に従うように無線を飛ばしてから無線機を彼女に渡し、ロイアルティー号に乗り込んで発進する。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

〈敵発見、攻撃を始めています!〉

 

「兵力を集結させろ!北と東からも呼び寄せておけ、北方の対デカグラマトン大隊もだ!」

 

〈はい!……あ、そんな、馬鹿な!?〉

 

「なんだ、どうした?」

 

〈東の部隊が既に攻撃を受けて半壊しているとの報告が……さらに北方に少数の戦力を確認、我が部隊と交戦するつもりです!〉

 

「な、な、何がどうなっているんだ……!?」

 

 

 その日、ボンッボンッボンッという40mm対空砲弾が撃ち出される音と共に聞こえてくる少女の歌声はカイザー兵士にとってのトラウマとなった。

 

「うあああああああ!?」

 

「なんだあの車、撃ちながら突っ込んでくるぞ!?」

 

When Britain first, at Heaven`s command. Arose from ──

 

 その爆轟は並の生徒なら一発で気絶する威力であり、それはカイザーの兵士とて例外ではなく、地に倒れる他なかった。

 

──and Guardian Angels sang this strain!

 

 爆音と共鳴するように高らかに砂漠に響く歌唱は、本当に楽しくてしかたがないといった様子で、対空機関砲を掻き鳴らしながら突っ込んでくる姿とはあまりに不釣り合いで恐怖さえ覚えた。

 

Rule, Britannia! Britannia, rule the waves! Britons never never never shall be slaves! Rule, Britannia! Britannia, rule the waves! Britons never never never shall be slaves!!

 

 こうして、東側のカイザー兵力の大半は無力化された。たった一基の対空機関砲と一人の少女によって。彼女に恐れをなして撤退する残存兵力を見下ろして、彼女は笑う。

 

「おーっほっほっほっほ!ざまぁ見なさい、薄汚い金貸し共め!あなた方は砂漠でガラクタとして朽ち果てるのがお似合いですわ!!」

 

 その高笑いは、しばらくアビドス砂漠に響き続けた。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 一方、その頃のトリニティ砲兵隊。

 

〈阿慈谷ヒフミ様、各砲発射準備完了しました。いつでも撃てます〉

 

「は、はい……!では、目標に向かって……撃ってください!」

 

 ヒフミの号令と共にドンッと空を切り裂くような轟音が鳴り、105mm砲弾を打ち上げた。

 

 

 

〈前方に敵を発見しました!距離は2km、もうすぐ接敵します!皆さん、対応の準備を……〉

 

 奥空アヤネがカイザーの部隊を発見して、前衛に知らせたその直後。

 

〈!?……あれは〉

 

「支援射撃?」

 

 轟音と共に前方で爆発が起こる。おそらく榴弾らしいそれの直撃を受けて、一瞬でその部隊は戦闘不能となった。

 

〈……L118、トリニティの牽引式榴弾砲です!一体どうして……〉

 

〈あ、あぅ……わ、私です……〉

 

 アヤネの疑問に答えるように通信に入ってきたのは、穴の空いた覆面代わりの紙袋を被った、見覚えのある姿で。

 

「あっ、ヒフ──」

 

〈ち、違います!私はヒフミではなく、ファウストです!〉

 

〈……〉

 

「わあ、ファウストさん!お久しぶりです!ご自分で名前を言っちゃってましたが☆」

 

〈あ、あれ!?あぅぅ……!〉

 

 痛恨のミスをさらっと指摘されてしまい狼狽えるヒフ…ファウストだが、すぐに気を取り直す。

 

〈その、このL118はトリニティの牽引式榴弾砲ですが……と、トリニティ総合学園とは一切関係ありません!射撃を担当している皆さんにも、そう伝えておきましたので……〉

 

 そして一呼吸おいて、紙袋越しでもいたたまれなさそうな表情が想像できそうな小声で続けた。

 

〈す、すみません、これくらいしかお役に立てず……〉

 

「ううん、すごく助かった」

 

「はい!ありがとうございます、ファウストちゃん!」

 

〈あはは……えっと、みなさん、が、頑張ってください!〉

 

〈阿慈谷先輩?どなたと話しておりますの?〉

 

〈あ、後輩が戻ってきたので切りますね!〉

 

「……火力支援の直後に突撃、定石通りだね」

 

〈はい!敵は砲撃により混乱状態です、今のうちに突破しましょう!〉

 

 通信に声を拾われたヒフミの後輩が少しだけ気になったが、せっかくのチャンスだ。今はただ、自らを犠牲にしようとした、向こう見ずな自分たちの先輩を助けに行かなくては。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 そうしてアビドス高校は無事に小鳥遊ホシノを奪還することに成功し、カイザーPMCは対策委員会、ゲヘナの風紀委員会、便利屋68、トリニティの砲兵部隊(ピクニック客)、そして歌いながら対空機関砲(ポンポン砲)をぶっぱなしてくる頭のおかしな赤髪の少女らによって戦力の5割超を喪失、部隊の壊滅と相成った。

 





実は作品を書くに当たって、最初に考え付いたシーンが冒頭の英国擲弾兵を歌いながらポンポン砲を乗せたトラック(ロイアルティー号)でアビドスの砂漠を駆けるアイカだったりします。紅茶キメてますね。
あと、ここで1章が終了して区切りがいいので1日更新お休みします。
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