01 シャーレの先生
「シャーレの募集を受けてあちらに赴こうと思っておりますの」
マイハ、マアサとは訓練を繰り返すうちに打ち解けて、時折喫茶店に集まって茶会のようなことをするようになった。基本的に話の内容は世間話とかただの雑談だけど、仮にも士官候補生の集まりということで情報共有をしたりもする。
「シャーレ……連邦生徒会長が創設したというアレですか」
「そう、アレですわ」
シャーレは、というかシャーレの先生は、つい先日のアビドスの件以外にも、未だに失踪して音沙汰のない連邦生徒会長の捜索にリソースを割くのがやっとの連邦生徒会に代わり、キヴォトス中に出向いて問題解決に邁進している。
SNSでは先生の話題で持ちきりで、目撃情報まとめなんかもあるらしい。そんな先生について、いくつか噂がある。
「でも、シャーレの先生ってなんだかすごい人らしいよ~?ブラックマーケットの銀行を襲うのに協力したとか、ゲヘナの風紀委員の脚を舐めたとか聞いたし~」
「いや、いくら大人でもそんなことをするわけがないでしょう。ただの噂じゃないですか?」
事情があったとはいえ事実なんだなぁ、これが。まあ裏を返せば危ない橋を渡り、自尊心を捨ててでも助力を求めた生徒のために尽力してくれる人物ってことだけど。
「アイカちゃん、どっちにしてもトリニティの外だしシャーレに行くなら気を付けてね~。もし、何か変なことをされそうになったら言ってね」
そう言ってマイハはL42A1の銃身を撫でた。キヴォトスの生徒と違って多分耐えても一発なので*1それはやめた方がいいと思います。
「心配しすぎですわよ、目撃証言もほら。夕食をコンビニのカップ麺で済ませてたとか、オモチャ屋でロボット玩具を手に取ったかと思ったら値札と財布の中身を交互に見てしょんぼりしながら棚に戻したとか、基本的にはそういう微笑ましい?ものばかりですし。悪い大人ではないと思いますわ」
「……先生って薄給なんでしょうか~?」
どうだろうね。普通の人間の耐久性でありながら、銃を持つのが当たり前な生徒と接するわけだからある意味常に死の危険と隣り合わせで。だけど桁外れに高額な給与を貰ってるわけではなさそうだし、割に合わないと言えばそうなるだろう。
「まあ、私も先生がどういう人物なのか気になるので会えたら情報共有お願いしますね」
「はい、任せてくださいませ」
そうして僕は、先生について調査するという任務を請け負った。
◇
ちなみにこのタイミングにシャーレへ行くことにしたのは、対策委員会編も終わって一息着いたところだろう、と思ったから。
「シャーレの本部は……ここ、ですわね」
大体1ヶ月ぶりのD.U.地区、いつ不良に絡まれるかと警戒していたけど特に何事もなくシャーレのビルに到着した。…というかなんかスケバンの方から距離を取られてた気がする。まあ何もしてこないならそれに越したことはないし、気にしないけど。
「先生がいらっしゃるのは……この奥の部屋、ですわよね」
建物に入って廊下を進み、その突き当たり。シャーレのメインロビーだ。ドアをノックして、反応を待つ。
「"こんにちは。シャーレに用事かな?"」
出迎えたのは、白いコートに黒シャツの大人だった。男性と言えば男性に見えるし、男装した女性と言えばそう見えるかもしれない。そんな、不思議な印象だった。
「ええ、シャーレの当番がどういうものなのか興味がありまして」
「"うん、わかった。詳しい話は入ってからしようか。"」
「はい、失礼いたしますわね」
多分この人が先生……だよね。なんというか、見た目的には普通の青年って感じだな。既に目の下に隈ができてて若干目が死んでるのが気になるけど。
「あ、申し遅れましたわ。あたくしはトリニティ総合学園、ティーパーティーの祗園アイカですわ」
「"うん、よろしく。私がシャーレの先生だよ。アイカは、シャーレの当番について聞きたいんだよね?"」
「はい、あとはキヴォトス中で話題の『シャーレの先生』がどういった人物なのか知りたくて」
というかそっちがメインです、はい。その言葉を聞くと先生は苦笑いして言葉を返す。
「"私としては、ただ生徒の悩みを解決しようとしてるだけなんだけどね……。"」
「まあ、そちらについてはまた追い追い、ということで。シャーレの当番の方ですが、具体的にはどういったことをしますの?」
「"うーん、これと言って決まったことはないかな。強いて言うなら私の、シャーレの事務仕事を手伝うとか、治安維持活動とかだけど別に強制ではないよ。"」
「ふうん、なるほど……。ただその、隈などを見ると相当に疲労が溜まっているようですが」
「"仕事も溜まってるよ、はは。"」
「笑い事なのですか、それは……?」
「おーい先生、戻ったぞ……って誰かいる?」
そんな風に先生と話をしていたら、生徒がロビーに入ってきた。この声は、もしや。
「"や、イオリ。この子、シャーレの当番に興味があるんだって。"」
銀鏡イオリ。ゲヘナの風紀委員会の一員で、
「げっ、その制服ってトリニティ……しかも生徒会のティーパーティーじゃん……!」
「……?」
いきなり面倒ごとに巻き込まれたみたいな様子のイオリを不思議に思って眺めて、少し置いて思い出した。トリニティとゲヘナは学園間でかなりの確執がある。ティーパーティー……つまりはお嬢様学校のトリニティの中でもガチガチのお嬢様集団。ゲヘナ生なんて見るだけで羽虫を追い払うかのごとく発砲し出すと思われているのだろうか。僕個人としては、トリニティ・ゲヘナ間のいざこざとか正直どうでもいいんだけどね。
「ああ、あたくしはトリニティでも田舎の方出身で……別にゲヘナの生徒だからどうこう言う気はありませんわよ」
「"それに、シャーレの部員として活動する時は学園の区別は基本的にない。それはイオリも知ってるよね。"」
「いや、私は問題を起こそうとしないならそれでいいんだけど……」
「"あ、そうだ。イオリからも彼女……アイカにシャーレの仕事について教えてあげてもらえるかな。私が説明するより、生徒が実際の体験談を話す方が分かりやすいと思うんだ。"」
「それもそうですわね。それではよろしくお願いします、“先輩”」
そうして、イオリも交えてシャーレの業務について説明を受けた。彼女が始終居心地悪そうにしていた以外は特に問題もなく、早速少し事務処理を手伝って帰途についた。あとついでに先生とモモトーク交換した。まあ何か用事がない限りこっちからはあまり連絡しないと思うけど。
◇
そしてトリニティに戻って、翌日。再び近所の喫茶店でティータイム、情報共有の時間だ。
「アイカちゃん、どうだった~?」
「先生はどんな人でしたか?」
「普通の人でしたわよ、仕事に忙殺されて寝不足のように見えた以外は」
少なくとも、シャーレの権限を使って生徒を呼び出してグヘヘみたいな悪い大人ではない。ゲームでそれは知っていたし、実際に会ってみてそれを再確認した。
「あと、男の子が好きそうなホビーが趣味で、それにお金を使って食事を疎かにしていたらミレニアムの生徒に怒られて家計管理されてるそうですわ」
「……悪い人じゃないけどダメ人間ではある……ということでしょうか」
……それはちょっと否定できない。
「気になったのであれば、お二人も会ってみては?帰りにモモトークを交換したので口添えもできますわよ」
「そうだね、そのうち~」
「私もすぐにはちょっと……ミカ様がこのところ席を外しがちで、その分の負担が一年生にまで回ってきてるんです。余裕ができたら行ってみたいとは思いますが」
ミカが……ということはアリウスの生徒と接触してるんだろうか。ゲームではあまり描写されてなかった気がするけど、仮にも派閥のトップがフラフラしてたらそりゃ部下に負担が行くよね。
そしてそう、エデン条約調印式の日。原作通りに行けばそこでアリウスによる妨害が行われる。知識として知ってはいても、一応士官候補生という役職付きとはいえただの一年生である僕にできることはほとんどない。というか下手に介入すると薄氷の上で成り立ってるキヴォトスの存続が途絶えかねない。
前にも思ったけど、いっそ前世の知識とかなくて何も知らないままだったらこうやって思い悩まずに済んで楽だったのに。
「アイカちゃん、険しい顔してどうしたの~?」
「いえ、先生の仕事量を思い返して。もしティーパーティーのホストにでもなったら、あんな量の書類を一人でこなさないといけないのかと想像しておりましたの」
うちのトップも大変だろうね。セイアは表立って動けないし、ミカはミカだし。
「一人でやる必要は無いのでは?下級生に押し付けて処理させるのもアリなようですし」
さらっと陰で皮肉られるミカさん。でも多分本人いても遠慮せずに言うんだろうなぁ、マアサ。堂々と言えばいいという問題でもないけど。
「ま、その時のことはその時考えよ~」
「そうですわね、今はこのマカロンを食す時ですわ」
そうして、重い話は終わりにして雑談に戻る。エデン条約の調印式は少しずつ、しかし確実に近づいてきていた。
先生がようやく本格的に登場。
眼鏡については描写をあえて省いていますが、基本的には便利屋スピンオフの先生みたいな感じをイメージしています。今度ゲーム開発部のスピンオフも出るみたいですが、そちらはどんな容姿になるんでしょうね?