ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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03 怪しい人ではありません

 正義実現委員会来襲事件の翌週。そろそろ先生もゲーム開発部の問題を解決できた頃だろうか、等と思っていると、ナギサから茶会に呼ばれた。

 

 もう何度目かのいつもの部屋に行ってみると、そこにはマイハとマアサもいた。この三人を集めるということは何かする気だな、ということは察した。それが何かは分からないけど。

 

「皆さんにはティーパーティーの士官候補生としてある依頼をしようと思っています」

 

「依頼、ですの?」

 

「ええ。まずはこちらをご覧ください」

 

 手渡されたのは、三人分の紙。一枚手に取って見てみると、そこには僕たち三人がそれぞれ、トリニティ内でティーパーティー以外に力を持っている組織への偵察に行くようにという指示が書いてあった。

 

「そちらに書いてある通り、アイカさんにはシスターフッド、マイハさんには図書委員会、そしてマアサさんには正義実現委員会の視察を行い、報告をお願いしたいと思っています」

 

 シスターフッド……シスターフッドかあ。裏でなんか企んでるとか、血塗られた儀式をやってるらしいって噂は聞くけど、結局ただの噂だろうし。

 

「私は指示に従うだけです」

 

「あたくしも同じく」

 

「わたしも~」

 

「ありがとうございます。それではまた後程、報告をお願いしますね」

 

 解散した後、三人で廊下を歩きながら話す。

 

「それにしても視察、ですか。ナギサ様は一体何を考えているのでしょう」

 

「そうですわね……やはりエデン条約があるから牽制、ということですかしら」

 

「なんだかナギサ様、焦ってる感じするよね~」

 

「……まあ、私たちは依頼されたことをこなすだけですね」

 

「ええ」

 

「うん~」

 

 ……前から思ってたけどマイハっておっとりほわほわって感じに見えて結構鋭いな?

 

 

 

 

 そうして何日か経って、僕はシスターフッドへの調査に向かったわけだけど。

 

「こんにちは、お祈りですか?」

 

 入学式でチラッと見かけて以来のマリーが出迎えた。あのときとは違って立派にシスター服を着こなしている。

 

「いえ、ナギサ様にシスターフッドの様子を見てきて欲しいと頼まれましたの。見学させていただいても構いませんか?」

 

「はい、分かりました。ちょうどサクラコ様もいらっしゃるので、こちらへどうぞ」

 

 奥の方へ案内され、聖書や注釈書などが隙間なく収められた本棚が並ぶ部屋に入ると、粛々と書類の積まれた机に向かう後ろ姿が。

 

「サクラコ様、ティーパーティーから来客の方が」

 

「……来客、ですか」

 

 立ち上がってこちらを振り返るのは、怪しげな微笑*1を浮かべた歌住サクラコ。

 

「シスターフッドはいつでも来客を『歓迎』します。……お名前を伺っても?」

 

「申し遅れました、ティーパーティーの祇園アイカですわ」

 

「なるほど、祇園アイカさんですか。時折話を聞きます、不思議な雰囲気を纏った人であると。『お話』できるのを『楽しみに』していました」

 

「は、はあ……」

 

 なんだろう、別に裏とかがある訳じゃないってことは知ってるのにいまいち不審さが拭えない。

 

「それで、『ご用件』は一体なんでしょうか?」

 

「はい、伊落さんにも話しましたが、ナギサ様からシスターフッドの様子を見てきてほしいと」

 

「なるほど、ナギサさんから……となると、『例の件』が絡んでいるのですか?」

 

 マリーがキョトンとした様子で僕とサクラコを交互に見ているのを視界の端で捉えた。まあただの一年生だし例の件、おそらくエデン条約のことは詳しくは知らないのだろう。

 

「ええ、そうなりますわね。ただ、あたくしはシスターフッドの皆さんがどういった活動をしているのかを見させていただければ、と。シスターフッドにはいくつか妙な噂がありまして、それが本当でないことの確認ですわ」

 

 妙な噂と聞いた瞬間、サクラコは見覚えのある苦悶の表情を浮かべた。

 

「噂、噂……ええ、私もよく耳にしています。やれ地下には秘密の拷問場があるだの、ブラックマーケットと裏で繋がっているだの、素行不良の生徒を生贄にして怪物を呼び出す儀式をしているだの」

 

 あ、ちょっとスイッチ入っちゃったかなこれ。

 

「確かに前身組織には熾烈な面もありましたし、今でもシスターフッドは他の派閥に左右されない程度の戦力は保持しています。しかし私たちは断じてそのような怪しい組織ではありません。秘密主義的とよく言われますが、誰だって秘密の一つ二つは抱えているものですし、水面下で権力抗争に明け暮れるトリニティでは迂闊に動けないがゆえなのです」

 

 どう声を掛けようかとおろおろしているマリーを見て、さすがに止めるべきかと判断する。

 

「ええ、はい、その……あたくしもシスターフッドの皆さんはボランティアなどに奉仕活動に精を出す方々だと知っているので。疑っているというわけではないのです」

 

「……申し訳ありません、少し熱くなりすぎてしまいました」

 

「いえ。シスターフッドの活動の見学、させていただいても構いませんか?」

 

「……分かりました。仕事もおおかた片付いたところですし、私が直接案内しますね」

 

 歩き出して部屋を出るサクラコに、マリーと共について行った。

 

 

 

 

 そうして朝の祈りに始まり、教会やその周辺の整備、炊き出し、ミサといったシスターフッド一日の活動を見学して、もう空は赤くなり日も落ち始める時間になっていた。

 

「……あの、アイカさん。最後になりますが、ナギサさんには是非伝えておいてください」

 

「『私は怪しい人ではありません』と!」

 

「は、はい……」

 

 逆にクッソ怪しいわ!と言いたくなるのを抑えつつ、まあ今のところシスターフッドが何か企んでるわけではないということは確かなので、それは伝えることに決めて聖堂を後にした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「……」

 

 ナギサは三枚の書類を眺めていた。祇園アイカによるシスターフッドの、土御門マイハによる図書委員会の、そして炎谷マアサによる正義実現委員会の報告書。

 

 今回の視察を企画したのは、各組織への牽制と共に、士官候補生の三人が何か不審な動きをしないかあちらの方で観測させる……いわば相互監視をさせるためだった。

 

 三人が視察に訪れた後、それぞれの組織にコンタクトを取り、視察時の行動について聞いてみたものの。

 

「ふむ……他組織の活動について改めて聞く機会などあまりありませんし、こうやって知ることができたのは良いことかもしれません」

 

 ただ普通にシスターフッドの一日についてまとめてあるアイカの報告書を見ながらそう呟く。結局、特に怪しい行動は各組織にも、士官候補生達にも見受けられなかった。

 

「……私の疑心は、間違っているのでしょうか」

 

 少しの迷い。本当は自分に協力しようとしてくれている人間ですら疑い、その手をはね除けようとしている、していたのではないか。マイハのポップな字体で書かれた報告書を読んで思案する。

 

「いいえ、エデン条約はそれだけ大きなことです。警戒してもしすぎることはありません」

 

 そう、自分に言い聞かせた。セイアが倒れた今、相談できる相手などいないのだから。自分の手で成し遂げる以外道はない。

 

*1
本人にとっては愛嬌のある笑顔のつもり。




ちなみにこの2章は原作で言うとパヴァーヌ1章とその前後に対応していますが、前回アイカが述懐していたように本編には介入しないしできないのでぶっちゃけ箸休め章です。

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