あとタグがなんかバグって二重表示されてたので修正しました。
はじめは前世のこともあって戸惑っていたけど、あれから数年が経ってすっかり女の子としての生活にも慣れてきた。
体も二次性徴期を迎えてむ…胸やお尻も膨らんできて、髪の方も記憶を取り戻した当初のボブカットから伸ばして、肩まで届くセミロングになった。
前世で女装趣味があったとかそういう訳じゃないけど、近頃は女の子らしい可愛い衣装を着るのが楽しくてしょうがない。田舎暮らしなのと背中にある翼のせいで少し服を選ぶのには苦労するけど、それも些細なことだと思えるほどに。
そして最近、習い事としてピアノを始めた。親に習い事をするけど何がいいかと聞かれ、いくつかの候補から水泳や体操などのスポーツ系を外したりして選んだのがピアノだった。前世で経験はなくて全くの初心者から始めたけど、この体は覚えが早くてすぐにそこそこぐらいは弾けるようになった。家でもアップライトピアノを買ってもらって時間があるときに弾いている。
もう一つ最近始めたことと言えば、手芸だ。こちらは習い事ではなく母親に教えてもらっている。元々ぬいぐるみが好きで……それこそ前世から。それを見た親がぬいぐるみを自分で直せるように、と始めた。新しく物事を知るのは楽しくて、この前少し拙いながらも自分で人形を一から作ることができた。これからもっと上達していきたいな。
……ただ、当然のことだけど楽なことや楽しいことばっかりではない。ヘイロー持ちである僕は膂力が強いということで農作業をぼちぼち手伝うようになっていた。
「アイカ、次はこれを納屋になおしてきてくれ」
今はまだ小学生なのでそこまでキツい作業は任されないけど、いずれもっと重労働をすることになるかもしれない。
「うん、わかった。これ持ってけばいいっちゃね?よいしょ…っと」
ちなみに、喋ろうとするとなぜか方言になる。前世の記憶を取り戻す前からずっと方言で喋っていて、体に引っ張られているのか自分で矯正しようとしたけど無理だった。親も別に方言だからといって気にしてはいないようなので結局そのままにすることにした。
◇
いつも通りピアノを弾いていると、ドンドンドン、とやや乱暴な連打ノックが響く。近所の人はこんなノックしないので別のところからの来客だろうか。
「お邪魔します、カイザーローンです」
──カイザーコーポレーション。それはキヴォトスでも有数の企業グループで金融や小売、製造業……果ては民間軍事会社にまで手を伸ばしている。
前世のブルーアーカイブの知識では、グレーゾーンすれすれでも平気で活動する色々と黒い企業だという。ただ、僕が住んでいるのはカイザーの影響が比較的少ないトリニティ自治区、その中でもかなり郊外にあたる田園地帯だから名前は聞いたことある、程度でイマイチ実感が湧かなかった。
「……なるほど、それで金利は?」
「お客様の場合ですと、500万で40%ですね。更に融資額が必要な場合は、万一返済中に破産されて回収できない、となると困るので50、60%と上げていく形で……」
「それはちょっと、困りますよ」
「しかしながら、個人経営の農家でこれだけの金額となると致し方ないかと思われますが…」
そろそろガタがきた耕運機とコンバインの更新をしようと言うことで、近くの銀行に相談したのだがあまりいい回答は得られず、丁度訪問してきたカイザーローンの銀行員*1の話を聞いているところだった。しかし、この行員は素人目に見ても明らかな高金利を吹っ掛けてきているのだ。
「そこをなんとかできませんか?」
「……はあ。お客様、我々も慈善事業ではないのです。埒が明きませんのでまた後日お伺いするということでよろしいですか」
「えっ、ちょ……」
「それでは失礼します」
銀行員は扉をピシャリと閉じて帰っていった。あちらから勝手に来たくせに随分と無作法なものだと呆れる。それを表情には出さず、何も知らない体を装って親に声をかける。
「どうしたと?」
「コンバインを買い換えようって話をこの前してただろ?だけどお金が足らなくて銀行を頼ろうとしたけど全然いい返事がなくてな。さっきの銀行さんもちょっと無理そうなんだ」
「うーん、ようわからんけど大変っちゃね」
「アイカの進学も控えてるのになぁ」
そう、僕は来年から中学へ進学する。授業料の準備や制服や通学カバン等々を買うために何かと入り用な時期だから、普段より家計に余裕がないのだ。前年が不作だった影響でなおさら苦しい状況だというのもあった。
「大丈夫?」
「ああ、何とかして見せるよ。アイカのためにも」
「うん……」
……こんな時、まだまだ子供で何もできない自分が悔しい。もう少し成長していれば、バイトとかをして少しは楽にできたかも知れないのに。
「ありがとうございます……!本当に助かります」
「良いってことでさ」
結局農機の更新費は、金額が大きすぎて貸してもらえないだろうと元から候補から外していた地元の信用金庫から無事融資してもらえることになった。ただやっぱり額が大きすぎたのを近所の人々から口利きしてもらって何とか融資まで漕ぎ着けた形なので、皆さんには感謝しきれない。
「よかった、これでなんとかなりそうね」
「ああ。アイカも、心配しなくて大丈夫だぞ」
「うん、それならよかった」
人の繋がりの大切さを再確認する一方で、僕の心の奥底では、あんな態度のカイザーへの不信感が溜まった。時系列的には、既にアビドスの方ではカイザーによるアビドス自治区切り取りが進行しているのだろう。まだ中学にも入っていない僕はどうすることもできないけど、いつか近い将来、カイザーには一泡ふかせてやろうと密かに決意を固めた。