ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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06 補習授業部の人々

 訓練を終えた後の昼。マアサがパテル派の仕事が残っているということで別れて、マイハと二人になる。

 

「どうしよっか、アイカちゃん~?」

 

「そう、ですわね……二人で遊びに行くのもなんだか……」

 

 全然意識してないけどこの三人はそれぞれ別派閥なわけで、誰か一人の仕事を手伝うにしても派閥の機密情報などがそれなりにあるから、やれることは少ない。

 だからこその別行動なわけだけど、仕事してるマアサを置いて遊んだりとかするのはなんか申し訳ない。

 

「あ、良いこと思いついた~確か補習授業部の合宿ってもう始まってるんだよね?勉強教えに行こ~」

 

「そうですわね、マイハさんがいらっしゃれば心強いと思いますわ」

 

 マイハはかなり勉強ができる。さすがにハナコ程じゃないけど、トリニティの一年生ではほぼトップだ。それに教え方も上手いからね。

 あと、この前の調査の時に勉強を手伝うという名目で情報提供してもらったので、一応筋を通すという意味でもあちらに赴いた方がいいと思う。

 

「それじゃ早速出発だね~」

 

 合宿が行われる別館は学園の中心部からはそこそこの距離がある。徒歩で行くのは疲れるだろうから一旦駐車場に向かってロイアルティー号を出した。

 

 

 

 

 十数分ほど車を走らせて、周りに木々が生い茂る古びた建物の前に到着した。

 

「ここか~、趣があるね~」

 

「そ、そうですわね……」

 

 さすがに直球でボロいと言うのはお嬢様らしくないので婉曲表現を使う。そうして入館しようとしたら、マイハが制止した。

 

「ちょっと待って、アイカちゃん。何か仕掛けてある……」

 

「えっ?」

 

 何かってなんだよ!?と思ってよく見てみると、玄関から少し歩いたところにピアノ線が張ってあるのが見えた。多分これって……。

 

「確かに何かありますわね……」

 

 どうしようかと辺りを見回して、崩れた壁面から落ちた大きめのレンガが目に入った。

 

「あれでも投げてみます?」

 

「うん、ちょっと離れた方がいいかもね~」

 

 そして少し距離を取り、玄関の中にレンガを投げ入れると、ピッと何かが作動する音と共に爆発が起き、普通に足を踏み入れたら驚いて後ずさりするであろう位置でさらに地雷が作動した。そして玄関内からさらに二度の炸裂。

 

「な、何ですの……これ……」

 

「侵入者撃退用かな?かなり綿密に用意してあるみたい……」

 

 一回爆発させたとは言え、さらに何か仕掛けられていないとも限らない。そうして次の一歩を踏み出せずにいると、ある人影が現れる。

 

「だ、大丈夫ですか……!?って、アイカさんにマイハさん?」

 

「あ、ヒフミ先輩だ~。わたしたちは大丈夫ですよ~」

 

 マイハがヒフミにそう答えたところで、もう一人煙の中から現れる。

 

「あら?その制服、ティーパーティーの……どういった用事ですか?」

 

 トリニティの生徒会であるティーパーティー。その制服を着た生徒二人が補習授業部と先生以外人のいない校舎にやってきた。そんな状況なら聡明な彼女なら当然というべきだろうか、ハナコは少し警戒した様子だった。

 

「えっと、ティーパーティー関係なく、個人的に参りましたの。……とりあえず、続きは中でよろしいでしょうか?」

 

 うーん、どうしましょうとハナコが考えていると、奥の方からやって来たのは。

 

「"アイカ、マイハ?この前手伝いに来てくれるって言ってたし、それかな?"」

 

 シャーレの先生。現在はトリニティにて補習授業部を受け持って付きっきりの状態で。

 

「はい、そんなところです~」

 

「"ハナコ、この子達は大丈夫だと思う。ただ勉強を手伝いに来ただけだよ。"」

 

「そうですか……先生が仰るなら」

 

 そうしてようやく、建物の中に入ることができた。

 

 

 

 

「その……ごめん。敵襲に備えて仕掛けてあったんだけど」

 

「いえ、巻き込まれる前に気づいたのでそれは構いませんが……」

 

 教室に入って先程のブービートラップを仕掛けた張本人を含む、補習授業部の四人全員と対面する。

 

「えっと、皆は初めて会いますよね。アイカさんとマイハさん、自己紹介をお願いできますか……?」

 

 そうヒフミに言われて、まずは僕の方からやることにした。

 

「ごきげんよう、皆様。あたくしはティーパーティーの傘下組織で士官候補生を拝命しております、祇園アイカと申しますわ」

 

「わたしは同じく士官候補生の土御門マイハです~。士官候補生は一年生から三人選ばれてるんだけど、もう一人の子は今派閥のお仕事に行ってるんだ~」

 

 こちら二人が紹介し終えると、コハルがずいっと出てきた。一番手を引き受けるってことかな?

 

「ふ、ふーん……つまりエリートってことね。私は下江コハル、正義実現委員会よ!ワケあってここにいるけど……同じ一年生のエリートとして覚えておくわ!」

 

 ふとマイハの方を見ると、ハナコと一緒にコハルを微笑ましそうに見ていた。いやまあ、副委員長たちに一目置かれてるって意味では間違いなくエリートではあるんだけど。

 

「……次は私か?白洲アズサだ、転校してきたばかりでトリニティの慣習にはあまり慣れてないけどよろしく頼む」

 

 それにしても間近で見ると印象より小さいな、アズサ。プロフィールによるとコハルと1cm差らしいし当たり前といえば当たり前か。マイハと頭ひとつ分くらい違うし。

 

「では、最後は私ですね。浦和ハナコです、よろしくお願いしますね♡」

 

「は、はい……」

 

 そうして終わりかと思ったら、ヒフミが一歩踏み出した。

 

「えっと、ご存じかもしれませんが改めて。私は阿慈谷ヒフミ、今は補習授業部の部長……ということになっています」

 

「部長……そうだったんですね~」

 

「ああ、実際ヒフミは一次試験では唯一合格だったからな。私は紙一重の差だったが」

 

 紙一重ってなんだっけ……。多分紙十枚くらいじゃないかな、あれは。

 

「あ、アズサちゃん……あの時も言いましたが60点ラインの32点は全然紙一重じゃないです……」

 

「む、そうだったな」

 

 自己紹介も終わったし、そろそろ本題に入ろうかと思っていると、先生が軽くパンパンと手を叩いた。

 

「"さて、勉強を再開しようか。二人はティーパーティーの所属だけど、今日はそれとは関係なくみんなを手伝いに来てくれたんだよね。"」

 

「ええ、そうですわね。あくまで一年生なので二年生以上の勉強を教えるのは難しいかもしれませんが……」

 

「そうか、それなら私とコハルの勉強を見てほしい。私は二年生だけど転校前の学習進度の差で一年生用のを受けてて、コハルは同じ学年だから」

 

 アズサのその提案を否定する理由は特になかった。そういうわけで僕はコハルに、マイハはアズサに付いて教えることになった。

 

 

 

 

「……ねえアイカ、この式はどうやって因数分解すればいいの?」

 

「4x²+4xy-28x-16y+48、これは……まず係数を括りましょうか。係数が全て4の倍数になっているでしょう?4で割った式をカッコの中に入れて、その左に4をつけてカッコ内の項全てに4をかけると示しますと……ほら」

 

「あ、この形なら分かるわ!えっと、(x-4)(x+y-3)……?」

 

「ええと……はい、そうなりますわね」

 

「ふふ、私の手にかかればこんな問題すぐ解けるわ!」

 

 

 

 

「マイハ、このmolというのはどういう意味があるんだ?」

 

「そうだね~、まずは定義について話しましょうか~。molは物質量の単位で、12gの炭素12に含まれる炭素原子の数が6.02×10²³個で、この個数を1molとするの~」

 

「何のためにそんなことをするんだ?」

 

「うーん、よく言われるのは1ダースで12個なのと同じように、1molで6.02×10²³個って感じで大きな数字を扱いやすくするためかな~。原子量や分子量はg単位でもとてつもなく大きな数字になるからね~」

 

「そうなのか……」

 

「まあこれは実際にやって慣れる方が分かりやすいかも~。ということで、まずはこの例題~!」

 

「『二酸化炭素が132g存在するとき、この気体の物質量(mol)を求めよ。ただし二酸化炭素の分子量は44とする』か」

 

「まずは二酸化炭素の化学式は何か思い出して、構成原子の原子量を見てみて~」

 

「CO2だな、C…炭素の原子量は12、O…酸素の原子量は16か。Cが1つにOが2つだから、CO2の原子量は44か」

 

「分子の時は原子量じゃなくて分子量だね~、それで二酸化炭素の分子量がなんで44なのかは分かったよね?」

 

「ああ、これからどうするんだ?」

 

「じゃあ、ここでmolの定義~」

 

「『12gの炭素12に含まれる炭素原子の数が6.02×10²³個で、1mol』だな」

 

「つまり、12g÷原子量12=1molってことだよね~?」

 

「そうか……そうか……!つまりこういうことか、132÷44=3、で答えは3mol。」

 

「そういうこと~」

 

「よし、molについて完全に理解できたかもしれない」

 

「ふふふ、それはどうかな~?」

 

 

 

 

 勉強をしているうちにいつの間にか、夕陽が教室に差していた。

 

「あ、モモトーク来てる……マアサちゃんだ」

 

「マアサさんから?あら、あたくしの方にも」

 

 内容は「仕事は終わったけど二人はどこにいるのか」というものだった。スマホの左上隅の時間表記は19時を少し過ぎた頃で……ここに来たのが昼過ぎだから、5時間くらいずっといたことになるだろうか。

 

「"二人ともそろそろ帰る?"」

 

「ええ、そうですわね。お腹も空いてきましたし……皆様はまだ勉強されるんですのよね?頑張ってくださいませ」

 

「うん。ハナコも勉強を教えるのがすごく上手だけど、二人がいてくれてより効率的に勉強できた。ありがとう」

 

「わ、私からも部長としてお二人に感謝します……!」

 

「助けになったならよかった~、それじゃあまたね~」

 

 そうして合宿場所である旧館を後にして、トラックに揺られて学園の方へと戻る。そこで合流したマアサと夕食を共にして解散、一日を終えた。

 




molの勉強シーン書いてる時に思ったんですが、学校で習った内容って復習しないとしばらくしたら抜け落ちちゃうんですよね。
本文で書いてるのなんてmol辺りでもかなり初歩の内容なのに「あれ、これどういうことだっけ……」って解説サイト見て回ってましたし。
転生して知識無双したい場合は定期的に復習しないといざというとき出てこないのではないでしょうか?(そもそも転生の機会なんてねぇよというのは置いておいて)
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