やはりというか、補習授業部は二次試験を妨害に次ぐ妨害で突破できず。試験から戻ってきた時の彼女たちの様子は。
「もう嫌っ!!こんなことやってらんない!わかんない!つまんない!めんどくさい!!」
「えっと、その……まずは落ち着きましょう?」
「落ち着いてられるわけないじゃん!というかアイカ達もティーパーティーなんでしょ?どうにかできなかったの!?」
そうコハルに詰め寄られて返答に詰まる。もちろん自分としては権限があれば、少なくともナギサが勝手に急な変更をするのは止めたかった。
「わたしたちも、どうにかできるならしたかったんだけどね……」
マイハが珍しく憂いを帯びた視線を床に落とすのを見て、ハナコはコハルを諭す。
「コハルちゃん、アイカちゃんたちはティーパーティーの中でも戦闘部隊の人ですよ。私たちのテストに関わることはできなかったと思います……」
「それは、分かってるけど……」
うなだれるコハルを見て、もどかしい思いを募らせる。全く、ナギサは何を考えてるんだか。いや、何を考えているのかは分かるけども。
「み、皆さん!とりあえずその、今はみんなで知恵を寄せ合って何か良い方法を探さないといけません。でないと一週間後には本当に仲良く退学と言うことに……」
ヒフミのその言葉を聞いたハナコは何か思いついた様子で……ああでも、この感じは多分ろくでもないことだな。コハルとアズサを見つめながらニコニコし始めたし。
「『知恵を寄せ合う』……なるほど、悪くはないのですが、あまりグッと来ませんね。もう少しこう……例えば、『弱くて敏感な部分を寄せ合う』、といった形はいかがでしょう?」
「い、いきなり何言ってんの!?下ネタはダメ、禁止!死刑!!敏感な部分って何をどう寄せ合おうっていうわけ!?」
やっぱりエ駄死なやつだったか、と思いつつ。コハルがネガティブになってたところを吹っ飛ばそうと気を回してくれたのかなとも考える。
二人が何を言ってるのかよく分かってなさそうなマアサはともかく、マイハも僕と同じ考えに至ったようで微笑ましそうにやり取りを見ている。
「ああ、ちょっと分かりにくかったですか?なら実際にやって見せましょう。もう少しこう、脚を開いていただいて……」
そう言いながらにじりよるハナコに後退りして距離を保とうとするコハルだが、壁の方に追い詰められて行き場を無くし、追い付かれる。
「えっ?や、やめて!知らないし分かりたくもないしまだ早いから!!」
「えいっ♡」
床に押し倒され、尻餅をついたコハル。抱きついてきたハナコを引き剥がそうと必死に体を捩る。
「や、やめっ……助けて先生!先輩相手にタメ口だったのは謝りますから!!それはまだ嫌ぁーーっ!!」
まあハナコも本気で襲おうとしてる訳じゃないだろうし放っておこう。そして、この痴態をただ眺めていたアズサだが……。
「なるほど、そういう制圧術もあるのか。白兵戦で使えそう……でも、無駄な動作が多い気がするな。私ならあと2テンポ前の段階で、関節をきめてる」
「ははは……アズサ先輩、あれは多分そういうのじゃないと思いますよ~?」
苦笑いをしつつもやんわりと訂正するマイハ。それにしてもどこかずれてる感じだな、アズサ。ただ育った環境が環境だから仕方ない部分もあるだろうし、これ以上は何も言うまい。
「そうなの?まあ参考にはなったし、何でもいいけど」
「せ、先生ぇ……」
その様子を見て困惑するヒフミに、先生は苦笑しながら答える。
「"……うん、私も頑張るね。アイカたちも引き続き手伝ってくれるみたいだし。"」
「よ、よろしくお願いします……。このままだと、本当に私たち全員退学に……」
そうして改めて、補習授業部の学習に助っ人として参加することになった。
◇
その日の夜、ナギサから連絡でいつものベランダに呼ばれた。今度は何のつもりだろうと思ってその場に行ってみると、ティーパーティーの行政官が一人にマイハとマアサだけで。
椅子は僕を含めた四人分しかなく、ナギサは席すら無かった。呼びつけておいて姿を現さないなんて一体どういう了見なんだ……?
「皆さん揃いましたね、それでは通信を繋ぎます」
そう言って行政官はタブレット端末を起動してスタンドで立て掛け、僕ら三人の方に向けた。しばらくして、そこには。
〈ごきげんよう、みなさん。ご無沙汰しておりますね〉
「ナギサ様……!」
マイハはジト目でタブレット越しのナギサを見つめる。マアサは溜め息を吐き、手元を机で隠しながら攻略本を読み始めた。マイハと僕に知らされるまではよく事情を知らなかった彼女だけど、やっぱり思うところはあったらしい。
〈おや、随分と歓迎されていない様子ですね……貴女方は比較的人情にこだわるタイプですし、私のやり方を快くは思っていないのでしょう〉
「……ご用件は何ですの?論争をするために呼んだわけではないのでしょう」
〈ええ、アイカさん。皆さんには士官候補生として、大事な任務を依頼したいと思っています〉
皮肉の一つでも言ってみるが、特に気に留めず彼女は続ける。
〈補習授業部、については説明不要でしょうね。皆さんは独自に行動して粗方把握しているようですし〉
「……それで、今度はわたしたちに妨害をさせようってつもりですか~?」
マイハは笑顔で返す。はっきりとは言わないが、その声色には「嫌です、やりませんよ?」という雰囲気を滲ませていた。
〈いえ、そうではありません。およそ1週間後の、補習授業部最後のチャンスである第三次特別学力試験……その時に正義実現委員会に会場を警備してもらうことにしました。それで人手が足りないので、私の護衛を皆さんにお願いしたいのです〉
「はぁ……別に護衛は構いませんが、なぜ正義実現委員会を会場に?それに人手が足りないって……ティーパーティーが動かせる正実の人数は決して少なくはないはずですが、ナギサ様の護衛にすら割けないほど人員を回す必要があるのですか?」
マアサがそう疑問を述べるが、ナギサは少し考えて。
〈
「ちょっと待ってください、それは納得が──」
そう言いかけるマアサを無視して、ナギサは通信を終了した。
「……ナギサ様からは以上のようです。私も詳しくは把握しておりませんので、疑問に答えることはできません」
行政官はそう言って立ち上がって僕ら三人を置いて一足先に退室し、ホスト不在の茶会はお開きとなった。
そして、部屋を出て自室へと戻る途中にマアサが呟いた。
「全く、こんな重要そうな場面で姿を見せないなんて……ナギサ様はどこに行ったんでしょう」
「うーん、多分セーフハウスかな~」
マイハがそう答えたが、マアサはまだ疑問を持ったままの様子で。
「何ですかそれ」
「セーフハウス、隠れ家のことですわね」
ナギサがそういった場所を何十ヶ所も用意しているらしいというのは聞いたことがある。前世のゲームでも、今のこの世界でも。
「そうそう~。フィリウス派閥のトップで、今はトリニティの最高権力を持つ人物でもあるわけだから……もし政争とかで危機に陥った場合に、身を隠す場所を準備してあるのは不思議なことじゃないね~」
「そうですか、ですが何のために今隠れているんです?」
何のために、と言えばここまでの情報を鑑みれば……補習授業部がトリニティの裏切り者としての本性を現し自分を始末しに来る、と考えてエデン条約の調印式まで身を隠すつもりだろう。
僕がそう言うと、マイハはまあ、そんなところだろうねと同調しつつ。
「でもやっぱり、補習授業部の四人がそんなことするつもりには全然思えないんだけどな~」
「それは私も同感ですね。ちょっと変わったところはありますが、皆いい人だと思いますし」
ちょっと……ちょっとかなぁ?それは置いておくとして、マイハがメモ帳を取り出して見返しながら言う。
「わたしね、自分で色々調べていくつかナギサ様のセーフハウスについて見当を付けてるの~。確か80箇所ぐらいだったかな?」
後は利用するセーフハウスのローテーションとかを詰めれば、もうナギサ様は丸裸も同然だよ~というマイハを見て、末恐ろしい人間だなと思う。味方だから心強いけど、敵に回したらかなり厄介だろう。
「それで、ナギサ様の居場所が分かったらどうするんです?突撃でもしますか?」
マアサが面倒になったら力で解決しようとする癖を出してきたけど、マイハは首を横に振る。
「いや、突撃したところでろくに答えを得られないまま無意味に警戒させちゃうだけだと思うから……三次試験の当日まで待とうかな~」
「それもそう、ですわね。試験の当日、何もないとよいのですが」
僕のその言葉に二人は頷き、それぞれの寮の部屋に分かれていった。
やめて!ハナコのとっさの一言で、ヒフミとの思い出を焼き払われたら、ヒフミを友人だと思ってたナギサの脳まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでナギサ!あんたが今ここで倒れたら、ミカやエデン条約はどうなっちゃうの?策はまだ残ってる。ここを耐えれば、「トリニティの裏切り者」に勝てるんだから!
次回、「ナギサ死す」。デュエルスタンバイ!