ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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10 長いトリニティの夜

 それから数日が経って、試験開始の午前9時まであと半日程という時間。僕たちはナギサのセーフハウスの一つに呼び出されて、1週間ぶりにナギサと対面した。

 

「それでは皆さん、護衛任務を開始してください。襲撃などがないことを祈りますが、くれぐれも事が終わるまで誰も通さないようにしてくださいね」

 

 そう言ってナギサは建物の中へと入り、僕らは玄関前で待機する。内部にも数名のティーパーティー傘下組織の人員がいるけど、全員一年生で僕らの指揮下にある。

 

「はぁ……それにしても、今度はゲヘナではなくトリニティが会場で試験時間も朝からだから大丈夫かと思っていましたが……」

 

 マアサがそう口にすると、マイハが続ける。

 

「まさか、動員できる正実部員ほぼ全員で試験会場を包囲して厳重警戒にするなんてね~」

 

 そう、試験会場であるトリニティ総合学園第19分館はあと少しすると、ティーパーティーからの指示で正義実現委員会がエデン条約に関する機密書類保持のために隔離される。

 補習授業部には本来正実の所属であるコハルもいるが、彼女たちを通せばティーパーティーからの命令を違反する形になるので説得は厳しいものとなるだろう。

 つまり、試験に合格するには多数の正実の警護を正面突破して建物に入り試験時間まで耐えなければならないということを意味する。あの4人だけならどうあがいても無理だろう。

 

「やはり、合格させる気は無いようですわね」

 

 ここ一週間できる限り勉強の手伝いをして、彼女たちは前回定められた試験範囲3倍で合格ライン90点の無茶なテストでも、ちゃんと受けられさえすれば合格は可能というところまで持ってこれた。それ故に、この状況に何もできないというのは本当に虚しい。ばにたす。

 

「そうだね……苦しいけど、補習授業部の皆が自分でなんとかするのを祈るしかないね」

 

 原作では、確か……あ、アリウスが襲撃してくるじゃん。やばい。だけどいきなりそんなこと言っても誰にも信じてもらえないだろうしなぁ……。浮かない表情で飲み込みながら、護衛を続ける。

 

 

 

 

 

 そして、何時間かひたすら建物の前で立っていると、なんだかかすかに声や音がする。昨日から戒厳令が出ていて、そうでなくてもこの時間帯は極一部の生徒以外は皆寝静まっているはずだから本当ならおかしいことなんだけど。

 

(やっぱり来たか)

 

 ゲーム通りなら、アリウスの部隊がナギサ襲撃のために展開しているのだろう。

 絶えず聞こえる物音にマアサが警戒を強めたその時、僕らの前に二つの人影が現れた。

 

「こんばんは、良い夜ですね♡月もあんなに明るくて、裸で出歩いたら気持ちが良さそう……♡」

 

 片方は桃色で、もう片方は銀色の長髪を夜風に棚引かせてこちらに相見える少女たち。補習授業部の、四人のうちの二人。

 

「……用件は?」

 

 そうマアサが言うと、アズサは単刀直入に言った。

 

「桐藤ナギサの身柄をこちらに引き渡してほしい」

 

「……私とてナギサ様のやり方や、あなた方補習授業部に対する処遇に思うところが無かったわけではありません」

 

 あれ、マアサさん……?何か勘違いしてません?いやアズサの言い方も紛らわしいけどさ。

 

「ですが、それとこれとは別です。私たちはナギサ様の護衛という命を受けているわけで、それについては全うしなければなりません。ナギサ様をどうにかしたいのであれば……」

 

 そう言って、立て掛けていた自分の銃に手を掛ける。それを見てアズサも銃を構えようとしており……ちょっと止めないとまずいなこれは。

 

「ちょっと待ってくださいまし、マアサさん。どういう事情でナギサ様の身柄を、ということを聞いてからでも遅くはないと思いませんか?」

 

 不安そうにやり取りを見ていたマイハも、僕に同調して。

 

「うん、もしかしたら何か考えがあってのことかもしれないし~」

 

「……それもそうですね。二人の言うとおり、事情くらいは聞きましょうか」

 

 銃を下ろすマアサを見て、アズサたちも構えるのをやめて、とりあえず衝突は避けられた。

 

「話せば長くなるんだけど……なるべく手短に済むようにする」

 

 そう言って、アズサは説明を始める。

 

「まず、私はトリニティに来る前はアリウス分校というところにいた。……アリウスについても話した方がいい?」

 

「アリウス……確か、トリニティが連合する前の時代に最後まで統合に反対して、それからそれ以外の派閥によって袋叩きにされて追放された学校だよね」

 

 マイハがそう答えると、ハナコが続ける。

 

「そうですね、マイハちゃん。トリニティの血塗られた過去の一つです。そしてそのアリウスはキヴォトスのどこかに逃げ延びて、ずっとトリニティへの恨みを募らせていました」

 

 そこまでハナコが言うと、「でも」とアズサが前置きして代わった。

 

「それはもう何百年前の話。今もアリウスの生徒は苦しい生活を強いられているけど、それを今のトリニティにぶつけるのは無意味だし、ただの八つ当たりでしかない……少なくとも私はそう思う」

 

「……それで、そのアリウスは今の状況とどういう関係があるんですか?」

 

 マアサがそう問うと、アズサは続けて答える。

 

「少し複雑な話になるけど、最後まで聞いてほしい。まず私はアリウスによるトリニティ侵攻の工作を行うためのスパイとして、転校してきた。ナギサが言っていたトリニティの裏切り者は、私のことだと思う」

 

「なるほどね……でも本当にスパイなら、わたしたちに話す必要はないですよね?」

 

 マイハがそう言うと、アズサは頷いた。

 

「うん、アリウスはエデン条約を破壊しようとしていて、その時に邪魔になるのがティーパーティー。だから、私に命じて排除しようとした」

 

「ということは、セイア様も……」

 

 栗色の頭を垂れて呟くマイハに、さらに続ける。

 

「……百合園セイアを襲撃したのは私だ。その時に彼女に諭されて、救護騎士団長と協力して死亡したことにした。彼女は生きてる」

 

「やっぱり、そうだったんですね。セイア様は亡くなったって噂を聞いたけど、わたしはどうしてもそう思えなくて」

 

 マイハは少し安心した様子だった。そういえば忘れてたけどマイハはサンクトゥス派で、そのトップがセイアだもんね。

 

「それでセイアの次は桐藤ナギサを排除しようと、私たち補習授業部の妨害に手を回して、彼女の身辺警備が手薄になるこのタイミングでアリウスが仕掛けてきた。私はそれを防がないといけない」

 

「分かりました。でも、アズサ先輩がそれをする義理はないですよね。なぜナギサ様を守ろうとするんですか?」

 

 ぶっちゃけこの辺は前世で知ってるから、口の挟みようがないんだよね。そう思いながら聞いているとマアサがアズサに尋ねた。

 

「……ナギサの身に何かあれば、エデン条約は調印どころではなくなる。それによってトリニティとゲヘナの対立が深まって、もし衝突することになったらキヴォトスの混乱は深まるだろう。その最中でアリウスのような学園が生まれるとしたら、それは絶対に避けなければいけない」

 

「……どうでしょうか、事情は理解してもらえましたか?」

 

 ハナコからの確認にマアサは頷き、答える。

 

「はい、分かりました。一先ずはあなた方を信じましょう。ナギサ様の安全を確保するためということであれば、協力もします。ただ、私たち士官候補生への命令はあくまでナギサ様の護衛であり、それに反するようであれば……」

 

「……分かってる、安心してほしい」

 

 そうして、僕が代表してハナコとなぜかガスマスクを被りだしたアズサをナギサの元まで案内する。別にここ毒ガス噴射装置とかは設置してないんだけどな……。

 

「あれ、アイカさん?その二人は……」

 

 建物の中を進んでいくと、二人一組でずっと持ち場に立っていたらしいティーパーティー傘下組織の生徒。声を掛けてきた方と別の生徒は、あくびをしていてかなり眠たげだ。

 

「今日はもう休んで構いませんわ、他の方にもそう伝えますので」

 

「え、でも……」

 

「士官候補生命令です、いざというときの責任はあたくしが取ります」

 

 まあ、この後のゴタゴタのことを考えるとこれに対する処分は有耶無耶になりそうだと踏んでるけど。

 

「わ、分かりました……それでは失礼します」

 

 そうして、その生徒はうとうとと船を漕ぎ始めた相方の手を引いて建物から出ていった。

 

「士官候補生ってお飾りじゃなかったんだな」

 

 そのやり取りを見ていて、アズサが一言。うぐ、地味に気にしてるところを……。

 

「アズサちゃん、それはさすがに失礼ですよ?」

 

「それもそうか……ごめん」

 

「いえ、補習授業部の皆さんに対するナギサ様の横暴を止められなかった時点で、あたくしの権力などたかが知れておりますので……」

 

 そうやってこのセーフハウス内の護衛全員を帰らせて、ナギサがいるという屋根裏部屋の前まで来た。

 なんでこっちが案内する側なのに伝聞形かって?それについては隣のピンクの人に聞いてほしい。僕は知らない。

 そしてそのピンクの人がドアをノックすると、中からは「紅茶はもう結構です」という返事が聞こえる。一呼吸おいて、ハナコは扉を開けてナギサの前へと姿を現した。

 

「……可哀想に、眠れないのですね?」

 

「……っ!?」

 

「正義実現委員会が傍におらず、護衛は傘下組織の一年生が数名だけ……不安にもなりますよね、ナギサさん?」

 

 ナギサはその姿を見て酷く驚いた様子を見せる。マイハがある程度目星を付けていたとはいえ、僕らだってどのセーフハウスを使用するかは当日になって知らされたのだ。普通の生徒なら知るはずがない。

 

「う、浦和ハナコさん……!あなたが、どうしてここに……!?」

 

「それはこのセーフハウスをどうやって知ったか、という意味ですか?それはもちろん、全てを把握しているからですよ。合計87箇所のセーフハウス、そしてそのローテーションまで……ふふっ♡」

 

 それを聞いてナギサは有り得ないものを見た、というような表情を見せる。自分以外の誰にも全容を知られていないはずのものを知られていたのだから。

 

「変則的な運用もおおよそ把握しています。例えば……今のように心から不安な時は、この秘密の屋根裏部屋に隠れるということも♡」

 

「なっ……!」

 

 そこまでハナコが説明したところで、アズサが部屋に突入し、ナギサに自らの銃を突き付ける。僕もそれに続いて部屋に入った。

 

「動くな」

 

「ああ、それと……警護の方々は全員アイカちゃんに帰していただきました。だからこそこうやって堂々と来たわけですが」

 

 みんな夜にわざわざ呼び出されて眠かったのか、特に疑問も持たず素直に帰って拍子抜けだったけどね。

 

「白洲アズサさん、浦和ハナコさん、そして祇園アイカさんまで……『裏切り者』は一人ではなかったと……!?」

 

「ふふっ、単純な思考回路ですねぇ♡私もアズサちゃんも、アイカちゃんもただの駒に過ぎません。指揮官は別にいます」

 

 その言葉を聞いて、ナギサはハナコに詰め寄って。

 

「それは、誰ですか……!」

 

「ふふ、そのお話の前に……」

 

 そこで一旦区切って、それからナギサを見据えて。

 

「ナギサさん。ここまでやる必要、ありましたか?」

 

「……」

 

 いったい何を、と言いたげな視線を向けるナギサにハナコは続ける。

 

「補習授業部のことです。ナギサさんの心労はよく分かります。が、こうしてシャーレを動員してまでやる必要はなかったのではありませんか?」

 

「それ、は……」

 

 そう言われてハッとして、それからバツが悪そうにうつむいたナギサに、ハナコは前傾姿勢になって顔を合わせる。

 

「最初から怪しかった私やアズサちゃんはまだしも、ヒフミちゃんやコハルちゃんに対してはあんまりな仕打ちではありませんか?」

 

「……」

 

「特にヒフミちゃんは……ナギサさんと仲が良かったじゃないですか。彼女がどれだけ傷ついてしまうのか、考えなかったのですか?」

 

 そう言われると、視線を逸らしてナギサは零した。

 

「……そう、ですね。ヒフミさんには悪いことをしたかもしれません……ですが」

 

 顔を上げて、ハナコに向き直って、それから表情を引き締めて言う。

 

「後悔は、していません。全ては大義のため。確かに彼女との間柄だけは、守れればと思っていましたが……私は……」

 

 ハナコはそれを聞いて、何か良からぬことを企んでいる感じの微笑を浮かべ、口を開いた。これは、もしや……。

 

「……ふふっ♡では改めて、私たちの指揮官からナギサさんへのメッセージをお伝えしますね」

 

『あはは……えっと、それなりに楽しかったですよ。ナギサ様とのお友達ごっこ』とのことです♡」

 

「……っ!?ま、まさか……!」

 

 ついに出た、お友達ごっこ……!まさか護衛に抜擢されたお陰でこの名、迷……?場面にも立ち会えるとは。

 そして怪しいとは思っていたものの、まさかヒフミが全て裏で手を引いていた*1とは思っていなかったのか、明らかに狼狽えている様子のナギサ。

 

「浦和先輩、阿慈谷先輩はそのようなことは仰っておりませんでしたが……」

 

 ただちょっと、さすがにナギサが可哀想なのでちょっとフォローはしてあげることにする。

 

「あ、アイカさん……」

 

「もう、バラすなんて駄目じゃないですかアイカちゃん♡……ええ、ナギサさん。さっきのは冗談です、ヒフミちゃんが言った訳じゃありません」

 

「そ、そうですか……」

 

 少しだけ安心した様子のナギサに、「でも」とハナコはナギサに再び視線を合わせて続ける。

 

「ヒフミちゃんにしたこと、それからコハルちゃんやアズサちゃんにも。私は……身勝手な理由で紛らわしい行動をしていたから仕方ありませんが、先生やアイカちゃんたちを巻き込んだことも、ご自分のやったことをしっかり反省してください」

 

「はい……もう、疲れてしまいました。お好きなようにどうぞ……」

 

 そう年下に説教されて頭を垂れるナギサに、アズサは5.56mm弾を弾倉丸ごと撃ち込んで気絶させ、玄関へと降りていった。

 

 

 

 1階まではアズサがナギサを背負っていたけど、さすがにこのまま運ぶのは煩わしいと思ったようで。廊下に放置されていた普段は紅茶や茶菓子、料理の運搬に使われているワゴンに入れて手押しして運ぶ。

 外へ出ると、そこには暇そうに待っていたマイハとマアサがいてこちらへ振り返る。

 

「あの……そのナギサ様、生きてますよね?」

 

 運搬用ワゴンに気を失ったまま突っ込まれてアズサに運ばれているティーパーティーのホストを見て、マアサがジト目で尋ねる。

 

「5.56mm弾を一弾倉丸々撃ち込んだから気絶しただけ。1時間くらいは起きないだろうけど大丈夫」

 

「そ、そうですか……それなら良いんですが」

 

 良いのかなぁ……いやでもキヴォトスの生徒だったらこれくらいじゃ死なないし良いのかなぁ……。

 

「さて、これからまずは……そうですね、アイカちゃんとマイハちゃんは私と一緒にシスターフッドへ急行しましょう」

 

「シスターフッド、ですか~?ハナコ先輩は交流があるとは聞いてましたけど、シスターフッドはこういうことへの介入は好まないような~?」

 

 不介入主義で秘密主義……それがシスターフッドに対するトリニティ生の一般的な評価だ。マイハも例外ではなく、ハナコがシスターフッドに協力を取り付けようとしていることは察したものの、本当に動くかは疑問視しているらしい。

 

「ふふっ、それについては私に考えがありますから。その後はアズサちゃんと合流しますので、二人はアリウスの増援を迎撃してもらえますか?」

 

「了解~。あれ、そういえばマアサちゃんはどうするんですか~?」

 

 シスターフッドへ行くのは僕とマイハだけと言われた。あえてマアサを省いた以上、マイハが発する疑問は極当然のものと言える。

 

「マアサちゃんはアズサちゃんと一緒にナギサさんを安全な場所まで運ぶのを手伝ってください。一年生の中ではかなり強いと聞きますから、より安心して移動できます♡」

 

「私は異論はありません。ナギサ様の護衛が私たちの使命である以上、誰かが付いていないといけませんから」

 

 そう言うわけで、マアサはアズサと共にナギサを運搬しながらアリウスを誘導し、僕とマイハはハナコと共にシスターフッドへ向かった。

 

*1
引いてない




過去2回に渡って疑心暗鬼のあまり精神的に参ってしまっているナギサを書いたのでちょっとくらいお友達ごっこのダメージ軽減してあげてもいっか、ということでこの改変です。原作でもハナコ自身がちょっとやり過ぎたなって思ってましたし、まぁ大丈夫でしょう。

感想にあった「士官候補生は補習授業部と繋がりがあるって分かってたのになぜ素直に護衛として採用したのか」についてですが……そうですね、正実を全部試験会場の封鎖に回してマジで人員がいなかったのと、それで傘下組織を使うにしても三年生や二年生よりはペーペーの一年生の方がまだ素直に指示に従うだろうと踏んでいたからですかね。あとは万一襲撃があっても、自分が逃げるための時間稼ぎくらいはマアサ、アイカが何とかしてくれるだろうと強さだけは信用していたからです。そうして精神的にかなり追い詰められていたために、それ以上の良案が浮かばなかったのが本編ということになります。
まあ結果的に助かったから良かったですけどね。
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