ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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12 些細なきっかけの結末

 何度目かの爆発音の直後。アイカたちが開けた穴とは反対方向から粉塵が舞う。

 

「けほっ、今日も平和と安寧が、みなさんと共にありますように……けほっ」

 

「すみません、お邪魔します……」

 

「あうぅ……二方向から壁を壊したら、この体育館が倒壊してしまうのでは……」

 

 そんなヒフミの心配をよそに、煙があがって現れたのは、修道服の意匠を取り入れた制服が特徴の集団……シスターフッド。その先頭には、長である歌住サクラコの姿もある。

 

「シスターフッド、これまでの慣習に反することではありますが……ティーパーティーの内紛に介入させていただきます。そしてティーパーティーの聖園ミカさん。他のティーパーティーメンバーへの傷害教唆及び傷害未遂で、あなたの身柄を確保させていただきます」

 

「シスターフッド、歌住サクラコ……あはっ、さすがにシスターフッドと戦うのは初めてだなー。なるほどね、これが切り札ってこと?」

 

 そんな風におどけた後、ミカはハナコと目を合わせて。

 

「……浦和ハナコ、どうやってシスターフッドを動かしたの?シスターたちと仲が良かったのは知ってるけど、それだけでシスターフッドが動くわけないもんねぇ。ねえ、()()()()()()の?」

 

「……ある約束をしました。ただそれだけです、あなたは知らなくても良いことですよ」

 

「……ふうん、あくまで黙秘ってことか。それでも良いけどね」

 

 そしてミカはくるりと振り返りながら、辺りを見回した。補習授業部と、士官候補生と、そしてシスターフッド。

 対して、自分の方は?アリウスの兵が少しと、後は自分だけ。増援が来るとしても、それまで耐えるのは少々キツいか。

 

「さて、片付けないといけない相手が増えちゃったなぁ。まあでもちょうどいいや、ホストになったら大聖堂も掃除しようと思ってたし。じゃあ、やってみよっか?」

 

 そう言って再度銃を構えるミカに、ハナコは。

 

「……ようやく顔色が変わりましたね。そして、あくまで戦うつもりですか。この状況での勝算がどのくらいか、分からないあなたではありませんよね?」

 

 後ろをチラッと見やると、相変わらずアイカの機関砲はこちらに砲口を向けている。あれに当たった時のことは考えたくない。

 

「先生の指揮に、私たち補習授業部と士官候補生の三人……しかも、そのうち一人は対空機関砲をいつでも撃てるように準備している。さらにシスターフッドも来て、援軍はアイカちゃんとマイハちゃんが大体片付けてきたはずなので期待できませんよ?」

 

「……うん、そうかもね。でもここまで来て『おとなしく降参します』なんて言えないでしょ?私は行くところまで行くしかないの」

 

 援軍が来るまで持ちこたえれば、と思っていた。しかしとっくにその手は潰えていたことを知ってわずかに動揺するが、ここで止まることはできなくて。

 

「あくまで抗戦するのであれば、手加減はできませんよ」

 

 サクラコがそう言って手を振り上げると、一斉にシスターたちが銃を構え、ミカに向ける。それを振り下ろせば、一斉射撃が体に打ち付けられるだろう。

 シスターフッドが来た時点で覚悟していたはずだったが、改めてその光景を目の当たりにすると、頭がぐちゃぐちゃになる。どうして。

 

「……どうして、今なの?セイアちゃんが襲撃された時だって動かなかったのに、なんで今になってシスターフッドが介入するんだろう。洒落にならないよ」

 

 そして銃口を下げて、今日何度目か独りごちる。

 

「……何を見誤ったのかな。ハナコちゃんのことをみくびったから?アズサちゃんが裏切ったから?それともヒフミちゃん、コハルちゃん?」

 

 補習授業部の四人を順番に見て、それから最後に目に入った人物。そちらに目を向けて、一人言から会話へと切り替えた。

 

「ううん、違うね。一番のミスは……シャーレの先生、あなたを巻き込んだこと。ナギちゃんが裏切り者がいるって騒ぐから、何でも屋みたいなことやってるみたいだしちょうど良さそうだなって思って連れてきたあの時。きっと私の負けは決まってたんだね」

 

「……ミカさん。セイアちゃんは……」

 

 セイアの名前を聞いて、ミカは視線を伏せてポツポツと話す。

 

「本当に、殺すつもりじゃなかったの。何を言っても言い訳みたい……いいや、言い訳そのものになっちゃうけどね。事故だったと思うの、セイアちゃん体弱いしさ……」

 

「セイアちゃんは無事です、生きていますよ」

 

 その言葉に青天の霹靂と言った様子で、ミカはハナコを見据えて。それから、セイアの現状についてハナコは説明した。

 

 セイアは襲撃を受けたが、死亡したわけではなかった。襲撃の犯人が分からないままだったことから、死を偽装してこれ以上狙われることを防ごうとしていた。

 傷はまだ治っていないのか意識は戻っていないが、救護騎士団の団長が側で看護しており生きていることは確かだと言うこと。そして、セイアを守ったのは──。

 

「いえ、これは直接ご本人から聞いた方がいいでしょう」

 

 そうして説明を聞き終えて、ミカは力が抜けたのか地面にへたり込み、呟いた。

 

「セイアちゃん、生きてたんだ……よかったぁ……」

 

 一呼吸置いて、座ったままで補習授業部と先生を見上げて言ったのは。

 

「……降参、私の負けだよ。おめでとう、補習授業部……そして、先生。あなたたちの勝ちってことにしておいてあげる」

 

 そう言うと、今度は押し黙っているアズサの方を見て、口を開いた。

 

「……アズサちゃん、自分が何をしてるのか、これからどうなるのか。それは分かるよね?」

 

「もちろん」

 

「あなたは元々、私がティーパーティーの権限で書類を改竄して入学させたんだよ。トリニティがあなたのことを守ってくれると思う?これからずっと、追われることになると思う、あなたが安心して眠れる日は来るのかな?」

 

 アズサのトリニティにおける厳しい現状を改めて説明して、「それに」と付け加える。

 

「……サオリから、スクワッドから逃げ切れるのかな?アリウスの出身ならもちろん知ってるよね、et omnia vanitas(全ては虚しい)……」

 

「うん、分かってる。それでも私は最後まで足掻いて見せる、最後のその時まで」

 

「……うん、そっか」

 

 破壊された体育館の壁の外はもう、明るくなり始めていた。

 

 

 

 

 ようやく動けるようになった正実の部員に両脇を固められて、連行されていくミカ。それを見送っていると、先生が近づいて声をかける。

 

「"ミカ……。"」

 

「今はちょっと、先生からは何も聞きたくないなぁ……」

 

 複雑な心境を表すような、困ったような笑顔を浮かべて彼女は言う。

 

「やっぱりシャーレのことを巻き込んだのが、一番のミスだったね。うん、でも……」

 

 そう言って、合宿中のある朝に先生が言った言葉を思い返す。

 

 

『"もちろん、ミカの味方でもあるよ。"』

 

 

「……あの言葉を聞いたときは本当に、本当に嬉しかったんだ。あの時、もし……」

 

 ──先生を頼って、全部話していれば。そう言いかけて、口をつぐむ。

 

「……ううん、やっぱり何でもない。バイバイ、先生」

 

 柔らかな眩しさの朝焼けの中、ミカは正実部員に連れられて、消えていった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 捕縛されたミカと何か話していた先生が戻ってきて、補習授業部の様子はというと……。

 

「あ、あうぅ……もう色々とありすぎて、疲労困憊です……」

 

「ようやく落ち着きましたね……」

 

「うん……」

 

 疲れて切って睡魔に襲われたのか、ふらついて眠ってしまいそうになるコハル。

 

「コハルちゃん!?」

 

「ご、ごめん、なんだか力が抜けちゃって……あ、ありがと」

 

 それを咄嗟に受け止めるヒフミだが、彼女も、それにハナコもかなり限界に近い状態だった。一応五日くらいなら不眠でも動けるらしいアズサも、疲労がないわけではないだろう。

 

「それもそうですよね、一晩中走り回りましたし……」

 

「それにここ一週間、睡眠も毎晩きちんと取れていたわけではないですからね。これでようやく……」

 

 正直、僕も眠いからさっさと寮に戻って寝たい。さすがに今日はティーパーティーの訓練とかやってる場合じゃないだろうし、休みになるはずだ。

 

「何を言ってるのヒフミ、ここからがスタートだろう」

 

 そのアズサの言葉に他の三人は一瞬キョトンとして、それから。

 

「えっ?あ、ああ……そうでした……」

 

「試験が残ってますね……」

 

「忘れてた……」

 

 まあ、気持ちは分からなくもない。こんな状態で受けるの?って僕が補習授業部だったら思っただろうし。

 

「現在時刻は午前7時50分。試験会場まで1時間で行かないと、走……」

 

「それについてはあたくしに考えがあります」

 

 ここから試験会場の第19分館まではかなりの距離がある。全力で走れば間に合わないこともないけど、色々と疲れたであろう補習授業部にそれはかわいそうだと思って。ほら、ちょうどここに使えそうなものがあるし?

 

「アイカさん、それってもしかして……」

 

 そう言ってヒフミは僕も背後にあるトラックを見る。ええ、そのもしかしてです。

 

「はい、ロイアルティー号……あたくしの使っているトラックに皆さんを乗せて向かいましょう」

 

「まあ、それはありがたいですね♡でも、このトラックって私たちだと座席が足りない気がするのですが……」

 

 それは承知の上の提案だ。何せ、今回は急を要するので……。

 

「補習授業部の四名には大変申し訳ないのですが、荷台で会場に着くまで辛抱いただけませんか……先生は生徒ほど体が頑丈でないそうなので、運転席で」

 

「あはは……ですよね。でも、背に腹はかえられぬと言いますし、お願いします……」

 

 補習授業部部長の一言で、体育館発試験会場行きの屋根なし臨時バスが運行することとなった。運転席に先生と乗り込み、窓から顔を出して荷台に四人が乗ったのを確認する。

 

「試験会場は第19分館でよろしいですわよね?ちょっと急ぎますので、しっかり何かに掴まっていてくださいまし。まあ多少揺れた方が眠気も飛びますし、丁度良いでしょう?」

 

「……うん、それは確かにそうだ。私は大丈夫、乗り物酔い対策の訓練もしてるから」

 

 そうアズサが言ってなぜかガスマスクを被ったところに、コハルがひょっこり顔を出す。

 

「掴むものってポンポン砲(これ)でもいいの?」

 

「ええ。頑丈ですし多少しがみついたところで影響はありませんわ」

 

 そう言うわけで、エンジンを入れて出発進行。試験会場へ向けて一直線で進んだ。

 

 

 

 

「うっ……はきそ……アイカぁ……!」

 

「申し訳ありません、コハルさん……さすがに飛ばしすぎましたわ」

 

 飛ばしに飛ばして、到着は8時10分。まだ40分以上余裕がある。

 

「あ、あはは……お陰で時間に余裕はありますし……ちょ、ちょっとお手洗いで落ち着けましょうか……」

 

 目を回して、少しふらつきながら荷台から降りるヒフミ。ハナコ、アズサもそれに続き、先生も運転席から出る。

 

「お待ちしておりました、補習授業部の皆さん。ハスミ副委員長からの伝言です、『頑張ってください』と」

 

 そして補習授業部に、建物の警護に就いていたらしい正実の部員がやって来てハスミからの言葉を伝えた。

 

「あらあら」

 

「は、ハスミ先輩……!」

 

「それから、『力になれなくてごめんなさい。この分は、いつか必ず』とも」

 

 まあ立場上、表だって動けなかったのはしょうがないだろうけどね。

 

「……そうか」

 

「"うん。じゃあ、入ろっか。"」

 

 そうして先生の先導にしたがって補習授業部は試験を受けるために建物に入っていった。

 ここから先は、彼女たちの戦いだ。僕は正義実現委員会に「お疲れ様でした、それとティーパーティーがご迷惑をおかけして申し訳ありません」とだけ告げて、寮へと戻った。

 




ようやくエデン条約編2章の内容が終わりです。事件の後始末が終わったらようやくアイカも一息つけますね。
実は当初、マイハとマアサがいなかった頃はミカと戦うのはショットガンを持ったアイカの予定でした。ただ、ぶっちゃけ戦う理由付けが薄くなるのでマアサを考え付いてからは現在の形に落ち着いたわけですが。
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