場所はトリニティ自治区の中心地。今日、車で家を出てきてから僕はずっとドキドキが止まらなかった。
「これがトリニティの中心地……!」
中学の卒業を目前に控え、この前の入学試験で無事合格し入学が決まったトリニティ総合学園。その制服を受け取り、その他の入学準備を済ませに来たのだ。
ちなみに制服の採寸は家の近くの服屋でやって、そのデータをトリニティに送っている。その時の身長は161cmで、バストは……年齢の割に大きいとだけ言っておく。
あ、そうそう。髪もさらに伸ばして、腰まで届く立派なロングヘアになりました。やっぱりロングストレートは女の子って感じがして良いよね。
トリニティ総合学園の校内に入り、購買部へと駆けていく。
「ふふ、アイカったらはしゃいじゃって」
「ああ、でもトリニティ学園に入るのをすごく楽しみにしてるみたいだからな」
「お父さま、お母さま、こちらですわ」
身内だけのときは相変わらず方言しか喋れないけど、中学に入ってからは段々と外では普通に標準語で話せるようになったので、せっかく令嬢の身分だからとお嬢様言葉を使っている。不思議とこの口調は体に馴染むのだ。
「いらっしゃいませ、もしかして新入生の方ですか?」
「はい、制服を受け取りに来ましたの」
「承知しました、こちらの受取書にお名前などをご記入ください」
制服の受け取り案内にしたがって販売所に来て、渡された用紙に必要事項を記入して担当者に返す。
「えーっと……祗園アイカ様でお間違いありませんか?」
「はい」
「わかりました、それではしばらくお待ちください」
そう言って奥の方へ入っていった販売員を見送って数分後。戻ってきたその手には、白を基調とし、ターコイズブルーの襟とスカートに赤いリボン、そして胸当てには三位一体を彷彿とさせるトリニティ学園の校章が入ったセーラー服。
「はい、こちらが祗園アイカ様の制服です」
「わぁ……!」
トリニティ生の象徴とも言えるセーラー服。これを少しすれば自分が着ることになるのだ。
「ご利用ありがとうございました、ご入学おめでとうございます」
「はい、ありがとうございました!」
制服代の会計を済ませたら、制服を受け取って販売所を後にする。制服だけじゃなく、鞄や文具等々買わなければいけないものはたくさんあるからのんびりしてられない。
「さて、いよいよ……だな」
「そう、ですわね……!」
文房具や入寮に備えてしばらくの日用品などを買い終えて、向かった先は銃類販売店が多くあるエリア。
そう、ここはキヴォトス。生徒同士の銃撃戦が当たり前の場所。今までは田舎に住んでたから銃が要るのなんて熊や猪が出た時くらいだったけど、中心地で暮らすなら自衛用の銃は必須品と言ってもいいだろう。トリニティはお嬢様学校なので他の学園に比べると揉め事は少ない*1*2ものの、お嬢様だから金を持っていると踏んでカツアゲや誘拐からの身代金要求をしようとする柄の悪い方々もいるのでやっぱり必要なのだ。
「……ところでアイカ。本当にそれにするの?」
母は僕が指差しているソレを見て再確認する。声からも顔からも本当に大丈夫?と言わんばかりの様子が伺える。でも、僕は本気だ。
「はい!だって、折角ならオンリーワンを目指したくて」
「それはまあいいんだけど、いくらアイカが力持ちでもそれを持つのは無理だと思うんだが……」
「もちろん持てませんわよ。でもトラックに乗せますから大丈夫です」
「トラックって……まさかさっき買ったやつか?おかしいな、うちの農作業用の予備だと聞いてたんだが」
「もちろん、あたくしが実家に帰った時はどうぞ予備として使ってくださいませ」
「うーん……うん……まあ、いいか。こうなるとアイカは頑固だし……」
親の了承*3を得たところで、店員を呼んで購入手続きに入る。
「そ、それではヴィッカースQF2ポンド砲を個人携帯用でご購入ということですね」
「はい!」
そう、僕が選んだのはヴィッカースQF2ポンド砲の連装型。一般的には『ポンポン砲』と呼ばれるこれは口径40mmの機関銃、というか対空機関砲である。いくらキヴォトスの生徒が頑丈だとしても、これを食らえば大抵は一発で気絶だろう。
そんなオーバーキル気味な火力と機銃本体だけでも100kgを優に越える重量もあって個人携帯用として使う者はまずいない代物。かなり前に店長が気まぐれに入荷してずっと売れ残ったままだったらしいけど、オンリーワンの銃が欲しかった僕はこれを見つけたとき、まさに運命の出会いとさえ思った。
「ふう……対空砲が欲しいと言い出した時はどうなるかと思ったけど案外安く済んだな」
無事購入の済んだポンポン砲をトラック*4に設置して全ての用事が済んだ帰り道。
「店長さんが出てきてまけてもらったのよね」
『このロマンを分かってくれる女の子がいてくれて嬉しいよ!!それにどうせこの先売れそうもないし』
……と、かなり値引きされて最終的には普通の銃よりちょっと高い程度に収まったらしい。
そうしてAIによる自動運転のトラックに揺られていると、セーラー服を着たトリニティらしき生徒の声が聞こえてきた。
「それにしても、セイア様はいつまでご入院されるのでしょう」
「もう何ヵ月も音沙汰がなくて不安ね……」
セイア様……百合園セイア。トリニティ総合学園の生徒会にあたるティーパーティーの所属で、トリニティを構成する主要な派閥のうちの一つ、サンクトゥス派のトップに当たる。彼女は何者かの襲撃によって負傷し、入院中……とされるが、実際はヘイローを破壊されて死亡している。
……というのもカバーストーリーであり、本当は生きているが更なる襲撃を防ぐため、襲撃者本人だが殺害に乗り気でなかった白洲アズサやトリニティの保健委員会に当たる救護騎士団の団長蒼森ミネの協力で死を偽装している。
もちろんトリニティに入学すらしていない僕が本来そんなことを知っているわけはなく、前世の知識によるものだ。
(……そっか。もう、ブルーアーカイブの物語は動き出しているんだ)
ここから先、キヴォトスには何度も事件が起こり、滅亡の危機に晒される。もちろん僕が通おうとしているトリニティでも。いっそ何も知らない立場なら気楽だったのかもしれない。それでも僕は……どうする?
(先生……そう、先生)
ブルーアーカイブにおけるプレイヤーの代理者である、先生。彼、あるいは彼女がこのブルーアーカイブの世界においていろんな意味で鍵を握っており、ひいてはこのキヴォトスの存亡を左右する存在で。
(僕は、青春を楽しみたい。3年間を……いや、それ以降もずっと無事に生きていたい。その為にはキヴォトスが無事である必要があって、先生に頑張ってもらわないといけないわけで……)
もし先生がこのキヴォトスへやって来たら、できる限りのサポートをすることにしよう。もちろん、ちょっとしたきっかけでバランスが崩壊しかねないので細心の注意を払いながら。
そう決意して、前世での記憶を思い起こしながら帰り道を進んだ。
ちなみにアイカの方言はこれ以降、夏休みに里帰りするまで出ません。プライベート空間で家族の前という本当にリラックスした状態でしか出ないんです。