さて、事件から数日が経ってようやく落ち着いてきた頃。補習授業部関連の騒動に巻き込まれて何日か遅れてようやく里帰りの準備ができた。
ノートPCやお気に入りのぬいぐるみ、ブラウン・ベス銃にトリニティで買った服の一部など、邪魔にならない程度の荷物を一旦家に持ち帰ることにしていよいよ出発!そのまま実家に直帰……ではなく、その前に寄らないといけない場所がある。
「ふぅ、着きましたわね。造船工学部……」
近くの駐車場にロイアルティー号を停めて、ミレニアム自治区の郊外にある沿岸地域で圧倒的な存在感を醸し出す、赤いレンガ造りの建物へと入っていく。
「おー、アイカちゃん!久しぶりだねぇ!」
「はい、お久しぶりです。セイラさん」
出迎えたのは金色の長い髪をボリューミーなツインテールにまとめ、アクアマリンを思わせる碧眼。上のボタンを三つ、四つほど開けてその立派なモノが形成する谷間を見せつけ、その襟に合わせて緩めまくったミレニアム生の象徴とも言える水色のネクタイ。黒いプリーツスカートはやや短い程度だが、シャツは裾を結んでヘソ出しルック。何度見ても寒冷地で生きていけなさそうな格好をしている長身の少女。
ゲームでは見覚えが全くなかったけど、現世では中学校の時によく足を運んで馴染みのあるのが、ここミレニアムサイエンススクールの造船工学部。その部長を務めるのが目の前の三年生、
「今日来た目的はやっぱあれだよな、リマーカブルちゃん見に来た?」
「ええ、そうですわね。早速お願いしてもよろしいですか?」
「おうよ、任せな!造船工学部だけじゃなく、エンジニア部や新素材開発部にも協力してもらってミレニアムの叡知を結集した最高のフネができたんだからね!」
……順番に説明しよう。まず、中学一年生に上がった頃。前年の記録的不作から打って変わって豊作で、信金から農機を更新するために借りたお金もしっかり返してなお余裕があるほどだった。
それで親が何でも買ってくれるというので、以前ネットで見て気になっていたものを指した。
『これって農薬散布用のラジコン飛行機だよな?うちは無農薬栽培だから使ってないけど、これを買ってどうするつもりだ?』
『なにって、遊ぶに決まっとうやん?使ってない農道を滑走路にして飛ばしたら絶対楽しいと思うっちゃけど』
『ははは……まあ何でもって言ったしな。一機だけ?それとも何機かいる?』
『じゃあ、とりあえず10機*1!』
そうして買ったラジコン飛行機。塗装と小改造で見た目をソードフィッシュ*2そっくりにして手榴弾を投下できるようになったこれで遊んでいたら、さらに朗報が。
何でも父の友人に漁師をやっている人がいて、うちの農機みたいにガタが来た漁船を更新するらしく。「古い方はもし要るならただでやるよ」と言われたらしい。うちの実家は土地に隣接する、海と運河で繋がった湖の利用権も持っているので色々と使い道はある。
『アイカってそういうの好きだろ?だから貰ってきたんだけど……アイカ?』
『ありがとう、お父さん!この船、改造して空母にしたい!』
『えっ、空母?ラジコン飛行機用か?うーん、サイズ的には不可能じゃないと思うけど……ただの漁船から改造するのは無理じゃないか?』
『大丈夫、あたしに考えがあるけん』
そうして漁船を空母に改造するという依頼をしたのがここ、ミレニアムの造船工学部。
……実は言うと、トリニティにも船が関係する組織は存在する。トリニティ
ただ、その二組織は規模こそそこそこ大きいが、自分達で船を作っているわけではない。前者はヨットをはじめとしたマリンスポーツに興じる部活。一方後者はクルーザーの船上で茶会や釣りなどを楽しむ活動だ。
一応両者とも造船関係への伝手はあるだろうけど、どちらも活動場所が海で被っており、帆船と汽船、汗くさいスポーツと上品ぶった遊興という対立構造もあって互いの部員が鉢合わせしたら問答無用で銃を構えるくらい仲が悪い。正直関り合いになりたくないのでトリニティ外部を頼ったわけだ。
そうして中学一年生の冬に依頼して、中学三年生の夏に船体と自動航行に必要な最低限の設備が完成した。全長35m程度の、錆びて古びた何の変哲もない漁船は、1年半を掛けてイラストリアス級空母*3にそっくりなミニチュア空母『リマーカブル号』*4へと姿を変えたのだ。
そうしてしばらくソードフィッシュを発着させて遊んでいたら、秋ごろに造船工学部から他の部活とも協同して最強の空母を作りたい、ということで航空隊と一緒に再び引き渡すことになり。先日ようやく納得のいく出来になったということで見に来てくれと言われた。
「まず、この扉から中に入るのは変わってない。で、中はエレベーターをはじめとして色々と機器に手を加えて、格納庫から航空機を甲板に上げて発艦、それから着艦のあとの格納庫への収納まで全て自動で行うんだ」
船について説明するときは、彼女はこだわりゆえか普段の奔放な様子ではなく、いくらか真面目な表情になる。
「確かに、前に乗った時はなんだか侘しい壁面でしたが……今はたくさんの機械が並べられているのが分かりますわね」
飛行甲板に上がって、並べられた航空隊を見て。今にも飛び立とうとしている気迫を感じる。冷静に考えたらただの模型飛行機なのに気迫ってなんだろう。
「こいつらにもちょっと手を加えさせてもらったよ。AIをアップグレードして、より直感的かつ簡単に指示を出せるようになったんだ。もうこいつらだけで並の生徒の集団なら無力化できる」
「それは、すごいですわね」
そうして、飛行甲板からその側面へとセイラは視線を落とした。
「これを見てみなよ、どう?」
「これは……副砲、ですわね。確か前はなかった気がしますが」
そう、前はただの壁だった場所に高角砲とその台座が増設されていた。
「口径は16mmで船体の縮尺と大体同じ。こいつの為だけにエンジニア部とも協力した専用装備だよ、胸が躍るよな?」
「専用装備……よい響きですわね」
「だろ?まあ、対空機銃の方はさすがにレプリカだけど」
お次は艦橋を見上げる。索敵関連の設備が詰め込まれており、サイズ的にはギリギリ中に人が入れるかどうかというところ。その外観で一極目を引くのは、艦橋上部で回転しているレーダー。
「あれも今回の施工で追加した設備だな。実際のレーダーと同じく接近してくる敵を見つけることができるし、地図用の偵察衛星との送受信にも使う」
甲板から降りて、再び内部。艦首の方には以前と変わらず制御室があり、発着艦コントロールAIや対空砲射撃管制AIなどの、艦内の様々なAIにアクセスできる場所である。
「んで、これがこの制御室に繋がる専用コントローラーだ」
そう言って手渡されたのは、少し大きめのタブレット端末。タッチして起動すると、インターフェースが表示される。左上にタブレットのある位置の周辺地図が表示され、右には航空機、副砲。下に索敵、機関の各セクションに分けられ、航空機の項目を開いてみるとこの艦に搭載している20機が表示され、5機ごとに一括で発艦、着艦、指定位置への爆撃が可能らしい。機関を開くと、自動航行となっており上の地図で位置を指定すれば操舵と加減速は自動で行ってくれるようだ。
「地図はズームイン・アウトができるよ。確かこっちまでは車で来たんだよな?」
「ええ、そうですわね」
「じゃ、一先ず艦から出て……」
そうして一緒に出てから、彼女はタブレットを操作する。
「アイカの家はトリニティ郊外の……この辺りだよな?ここまで自動航行させておくよ」
無人で動くのは便利なのだが、勝手に扉を開けて押し入られたりしないか聞いてみると。
「ああ、コントローラーを持ってる人間でないと中には入れないし、強引に入ろうとしたら迎撃システムが発動して離れるまで高角砲に撃たれるぞ」
それにこのコントローラーは自動指紋認証式となっており、僕とセイラ以外がタッチしても反応しないらしい。
「な、なるほど……」
「あと、今回は初めてということもあって格納庫の空きスペースに大量に高角砲の弾薬の予備を乗せてあるけど、無くなったらここまで受け取りに来てくれないといけない」
ただまあ、基本的に航空機による爆撃がメインだから早々尽きることはないだろう。使う爆弾は今までと同じく市販の手榴弾で問題ないとのことだし。
「使う燃料は船も飛行機も今までと同じく普通のガソリンで大丈夫だ。さて……伝えることはこれくらいかな。何か聞きたいことがあったら電話してくれ、そして長く使ってやってくれよ、何せリマーカブルちゃんはアタシが一年の時からの付き合いだからなぁ!」
「はい、大切にしますわね」
そうしてリマーカブル号が造船所から出港したのを確認したら、駐車場に戻ってロイアルティー号を出した。今度こそ、実家へ一直線だ。
◇
何時間か車に揺られて、懐かしい景色が見えてくる。のどかな田園地帯、この人生の大半を過ごした場所。
逸る気持ちを抑えられず、荷物を荷台に放置して、手ぶらで久しぶりに我が家の扉を開ける。
「ただいま!」
「おお、アイカ!待ってたぞ、お帰り」
「元気そうで何よりだわ、トリニティでは……ううん、中でゆっくり聞きましょう」
入学式の翌日に入寮してから今まで何ヵ月も帰ってきてなくて、本当に全てが久しぶりで。
トリニティでは本当に色々あったけど、ようやくここから何週間かは学校のことも忘れてゆっくりできる。
というわけで夏休み突入&新たなる攻撃手段を手に入れたアイカ。
あと、新登場したオリキャラの唐帆セイラですが……多分この話以外の出番はありません。この人もモチーフはありますが結構分かりやすいです。
それと、まあ知ってはいると思いますがミレニアムの造船工学部とトリニティの縦帆操術部、汽船倶楽部は原作には出てこない部活です。