ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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16 放課後アルバイト部

 翌朝起きて、朝食の時間。ちょうどいいので両親に海へ行くことを話す。

 

「あ、この前トリニティでのこと話した時、友達と一緒に水着に買いに行ったって言っとったやろ?」

 

「ああ、それがどうかしたのか?」

 

「昨日の夜に友達からモモトーク来て、海に行くならいつがいいかって聞かれたと。行っても大丈夫?」

 

 そう聞くと、父は少し考えて。

 

「そうだなぁ……三日後ならどうだ?私たちも一日丸々休みにするから、楽しんでおいで」

 

「うん、分かった!友達にもそれでいいか聞いとくね、ありがとう」

 

「いいのよ、アイカは大事な一人娘なんだから」

 

 ……本当、素敵な親に恵まれたなぁ。そうしみじみ思っていると、父が何か思い出した様子で。

 

「ああ、それと言うの忘れてたんだけど……今日からしばらくの間、アルバイトが来るんだ」

 

「アルバイト?」

 

「去年にメロン畑を新しく開いただろ?それにアイカもトリニティ総合学園に進学して、人手が足らなくてな。トリニティの中心部で求人を出してたら4人集まったんだ」

 

 そう、基本的にうちの農業は僕と両親の三人で回している。自動化もだいぶ進めているから三人でならなんとか回せていたけど、両親二人だけだと厳しい。

 今は僕も実家に帰ってきて仕事を手伝っているけど、夏休みが終わればまた寮に戻らなきゃいけないわけで。

 そういうわけで、夏休みで暇なトリニティ生をアルバイトで雇い、収穫の他にも夏のうちに終わらせられることは全部終わらせてしまおうというわけだ。

 

「アイカも同じトリニティ生だし、もしかしたら知り合いだったりするかもな」

 

「もう、お父さんトリニティに通ってるの何人おると思っとうと?そんなピンポイントで来るわけないよー」

 

 正確な数は憶えてない、というか知る機会がなかったけど……トリニティ総合学園に通う生徒は数千とも数万とも言われている。僕が知り合いなのはマアサとマイハ、補習授業部、そしてティーパーティーの面々に正義実現委員会とシスターフッドの一部くらい。多くて50人くらいだし、確実に友達と言えるのは士官候補生の二人くらい。わざわざ田舎にアルバイトをしに来るようなタイプもいないし、さすがにドンピシャで知人が来るとは思えない。

 

「はは、まあそうだな」

 

 そうして朝食を食べ終えたら、まずはモモトークでマイハに連絡。三日後なら行けますよ、と送ると「了解ー^-^ 場所は無為ヶ浜ってところだから、朝の10時くらいを目処に現地集合ね>ω<」とすぐに返信が来る。分かりました、楽しみにしていますと返して、今日の作業の準備を始めた。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 トリニティ郊外を走るガラガラの列車の中で、4人の少女たちが揺られている。彼女たちの格好は多少個人差があるがセーラー服で、胸当てにはトリニティの校章が刺繍されている。

 ──放課後スイーツ部。その名の通りスイーツを食することが目的の部活動。伊原木ヨシミ、栗村アイリ、柚鳥ナツ、杏山カズサの四名が構成部員であるが、ゲヘナの悪名高い美食研究会ほど過激ではなく、友人同士の集まりに近い。

 

「ねぇ、まだ着かないの?っていうか、どこに行こうとしてるのこれ?」

 

「………パラダイス」

 

 金色の髪を短いツインテールにした少女……ヨシミが尋ねると、ナツがボーッと車窓の景色を眺めながら答えた。

 

「パラダイスなんて、こんな田舎にあるわけないでしょ!?」

 

「まあまあ、ヨシミちゃん。パラダイスかはともかく、保養地とかはあるんじゃないかな?」

 

 ミントキャンディを取り出しながらアイリがなだめると、猫耳にボブヘアが特徴的なカズサが続けた。

 

「……この辺はフルーツの栽培が盛んみたい。道の駅で地元スイーツ食べるとかそんな感じ?」

 

 彼女はいつものナツの思い付きにたまには乗ってみようとしたはいいものの、こんなところまで引っ張り出してきて何をするつもりやら、下らないことを考えてるのであればさっさと帰ってダラダラしようと考えている。

 

「いや、もっとすごいところ。美味しい果物が食べられる上にお金まで貰える」

 

 それを聞いた瞬間、ナツ以外の三人は今すぐ引き返すことを考え始めた。行く前、体操服とかの汚れても良い服や着替えを持ってくるように言われて素直に持ってきたが……明らかに怪しい。何か、いかがわしいことをさせようとしているのではと疑う。

 

「そんなおいしい話あるわけないでしょ……騙されてるわ絶対」

 

「帰っていい?」

 

「ナツちゃん、何か隠してない?」

 

「行けば分かるよ~」

 

 ナツが発端と言えば、この前。メープルシロップでできたツララのことで一悶着あり、それでも実在したところまでは良かったものの……殺菌もされていないものを口に入れたら当然というべきか、その後しばらく体調を崩したことは記憶に新しい。一名を除く放課後スイーツ部は不安になりながら電車に揺られ続けた。

 

 

 

 

 1時間以上かけて鈍行列車でたどり着いた先は、何の変哲もない小さな田舎駅で、そこから集落を通ってさらに歩いた先には立派な邸宅があり、周囲はひたすら果樹園や温室が広がる場所。

 

「着いた」

 

「……で、結局何しに来たの?」

 

「これ、見れば分かるよ」

 

 そういって差し出されたのは、とある求人広告。求人を出したのは農家で、繁忙期だから人手がほしいということらしく。時給はかなり良く、交通費が支給される上に別途賄いまであるという。

 

「そのアルバイト先がここ……ってことかな?」

 

「いぐざくとりー」

 

 アイリがそう言うと、ナツはサムズアップして答えた。

 

「えっ、農家……?絶対キツいじゃん……」

 

 そういって踵を返そうとするカズサの肩を掴んだナツ。そしてそのまま説得フェーズに移る。

 

「聞いてほしい、ここのフルーツはすごい高級品。ブドウは一房一万円するし、イチゴは最高級のものだと一箱数万円。ミカンも柿も、1キロ何万円もする」

 

「……ごくり」

 

 いくらお嬢様学校であるトリニティに通う生徒と言えど、そんな高級フルーツはそう滅多に食べられるものではない。

 

「仕事のついでに、味は変わらないけど形が良くないものとかを貰えるらしい。放課後スイーツ部としては逃すべきじゃないと思うんだけど……どう?」

 

「……そう言われたらしょうがない、どうせもうここまで来ちゃったわけだし」

 

 ……そうして改めて、この農家でアルバイトすることを全員が決意したのだった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

「おっ、そろそろアルバイトの子達が来たのかな?アイカ、迎えに行こう」

 

 ドアチャイムが鳴ったのを聞いて、父が言う。ダイニングテーブルから立ち上がって玄関へ向かう父についていき、扉の鍵を開けると。

 

「こんにちは、農作業のアルバイトに来ました。祇園農園ってここであってますか?」

 

 黒髪セミロングで、翡翠色の瞳のトリニティ生……放課後スイーツ部の栗村アイリがいた。その後ろには他の三人もいるのが見える。この四人が今回アルバイトしに来たということらしい。

 

「ああ、そうだよ。早速だけど、農作業の説明をするから……集落の方にある民宿に行こうか」

 

 その民宿はうちが所有している建物で、10部屋分の宿泊機能がある。普段は普通の宿泊施設として使われているけど、こんな田舎に観光に来る人なんてそうそういないのでガラガラだ。ぶっちゃけ赤字である。

 そういうわけで、いつも空いていてちょうどいいので農繁期にはアルバイトたちの寮として使われることが多い。というか、赤字でも維持してるのはほとんどそのため。

 

「さて、皆用意はできたかな。説明を始めるよ」

 

 一人一部屋を放課後スイーツ部の四人に貸し出して、汚れても良い格好……体操服に着替えてもらい、ロビーに集まってもらう。ちなみに僕はロング丈のサロペットスカートで、昨日のガチ農装よりはマシだけど若干野暮ったい。

 

「収穫する際に商品としての見極めは私や妻、娘がやるから、四人にやってもらいたいのは収穫してある程度仕分けた果物を倉庫へ運んだり、倉庫から空いた籠を持ってくるという作業だ」

 

「へー……」

 

「一々倉庫と畑を往復するというのは地味ながら結構なロスになるんだ。それをアルバイトの皆に任せて、私たちは収穫と仕分けに専念すればかなり効率的に動けるということだ」

 

 うちの果樹園はとにかく広い。エリアごとに納屋があり、家屋の隣にそれらからの荷物を集約する大きな倉庫がある。その途中はトラックで移動するにしても、往復と積み降ろしで割と時間を使ってしまうので、それを分担するのは作業速度向上に貢献する。

 

「もちろん作業が終わったら求人にもあった通り、収穫したものの一部を賄いとして出すから是非頑張ってほしい」

 

「分かった」

 

 親指を立てて答えるナツ。他の三人も頷いており、理解できたらしい。それでは、ということで実際の農作業へと移っていった。

 

 

 

 

「こことここの籠はあそこの納屋へ持っていってくださいまし、その代わりに赤い籠二つと青い籠一つを持ってきてください」

 

「分かりました……!」

 

 昨日に引き続きブドウの収穫の最中、籠が埋まってきたのでアイリに指示を出す。

 

「あ、そういえば、アイカさんって私と同じくらいですよね?学校はどこに通ってるんですか?」

 

「トリニティ総合学園ですわ、確か皆さんと同じだったと思います」

 

 まあ今までにこの世界では会ってないし、あちらからは僕のこと何も知らないだろうけどね。

 

「へぇ、部活とか委員会は?」

 

「ティーパーティーの傘下組織、護衛部隊ですわね」

 

「……えっ」

 

 そんな声が聞こえて、どうかしたのかと思い作業を止めて振り返ると、彼女があわあわとしていた。なんか小動物みたいな印象でかわいい。

 

「え、えっと……ティーパーティーって、トリニティの生徒会ですよね?そ、そんな人がこんなところで……?」

 

 ……なるほど。ティーパーティーというのは、一般生徒からしたらあまり馴染みがないというか、雲の上の存在のような組織である。傘下組織とはいえ、その構成員が田舎でガッツリ農家の娘やってるなんて結び付かなかったのだろうか。

 

「夏休みの間だけ、実家に里帰りして家業を手伝っておりますの。農繁期とも重なりますし。何週間かしたらトリニティに戻らないといけません」

 

「い、色々大変なんですね……」

 

「そうですわね、でも久しぶりの実家というのは本当に心が落ち着くものですよ」

 

「ほぇー……」

 

 そんな気の抜けた返事をしたアイリだが、話は一旦終わりということなのか籠を取りに納屋へと歩き出したので、自分も仕分け作業に戻った。

 

 

 

 

 そうして農作業の終わった夜、母と共にある物を持って民宿へと向かう。

 

「みんな、賄いを持ってきたからどうぞー」

 

 そう母が言うと、四人が同時に部屋から出てきてすぐに集まってきた。

 

「高級フルーツ……!」

 

 そう言って目を輝かせる少女たちの前に出して見せたのは……。

 

「そうね、今日の作業で最初の方に収穫したものをフルーツポンチにしてみたの。遠慮せず食べてちょうだいね」

 

 形や大きさの問題で贈答用には適さないと判断したブドウとメロン、それに温室栽培していたミカンとイチゴをシロップに漬けて冷やした、シンプルなフルーツポンチだ。

 

「おおー!」

 

 食器を配布し終えると、各自取り皿に分けて食べ始める。さすがトリニティ生というか、がっついたりはしないながらも、とても美味しそうにフルーツを頬張る。

 

「甘い……すごく甘い……!こんなに甘いブドウ、食べたことないかも……」

 

「何というか、ジューシーな果汁が溢れてるって感じね」

 

「すごくおいしい、です……!」

 

「初めての農作業、結構キツかったけど……そのお陰でこれを食べられたんなら、無駄じゃなかったと思えるかな」

 

 四人のそれぞれの反応を見て、相当喜んでもらえたらしいことを確認する。家族以外がうちの果物を食べてることを直接見る機会って結構珍しいことだから、こうやって他人に評価してもらえるのは気恥ずかしくて、むず痒くて、でも……すごく嬉しい。

 




放課後スイーツ部登場です。トリニティのフルーツ関係となったらまあ出てくる理由は十分でしょう。
それに彼女達は、謀略渦巻くトリニティの中では貴重な、友人同士で青春を満喫してるグループ。青春をやり直したいと思っているアイカにとってある種の目標とも言える存在ですからね。
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