「ひゃんっ!?ま、マアサさ……そんな……いきなり、はぁっ……」
ヌルヌルの液体を身体に塗られる。夏の日差しの下だと言うのにソレはいやに冷たくて、思わず声を出してしまう。
「んぅっ……そこ、だめぇっ……」
腕に、脚に、脇腹に。ヌルヌルした感触が体全体に広げられて、自分でもあまり触ったことのない居場所にまで。でもうつ伏せになっているから自分が今どうなっているのかはわからない。
「ひうっ、どこ触って……こんなの、はじめてっ……」
そうして脳内コハルのエ駄死警報がウーウーと鳴りやまずにいたところ、ヌルヌルの液体こと日焼け止めジェルを塗っていたマアサが一言。
「アイカ、いちいちうるさいです。静かにしててください」
「だって、これ……ヌメっとしていて、冷たくて……変な感じですのよ」
というかマアサもどさくさに紛れて胸の方触ってなかった?振り向いてそう聞くと、彼女はあっけらかんとして答える。
「私の胸はそこまで大きくないので、大きい人のモノがどんな感じなのか興味があっただけですよ」
本当にそれだけ、という感じで平然と言われてなんだかモヤモヤする。
「そうでしたら、あたくしよりマイハさんの方が……」
「わたしのはアイカちゃんがやってくれるんじゃなかったの~?」
「それは、確かにそうですけれど……」
ジェルの担当は僕がマイハ、マイハがマアサ、そしてマアサは今やっている通り僕に塗るという風に決めていた。
「じゃあはい、アイカ。まだ塗り残しがあるので伏せてください」
「……変なところは触らないで下さいませね?」
「アイカの方こそ、卑猥な声を出さないで下さい」
ぷくっと頬を膨らませて、卑猥な声などという言い種に若干不服なことを示しながら仕方なくまたうつ伏せ状態になった。
「ぴゃぁっ!?つめたっ……んぁっ……」
……早く終わってぇ。
マアサがようやく塗り終わって、次は僕がマイハにジェルを塗ることに。
「え、えっと……よろしい、ですか?」
前世では男だった僕が、自分以外の女の子の身体にじっくり触れるとか初めての経験で。どうしても腰が引けてしまう。
「うん、いいよ~」
「では、行きますわね……」
「んっ……冷たくて、ちょっと気持ちいいかも~」
ジェルを垂らすと、僅かに漏れる声。触れた肌はスベスベで、ハリがあって、瑞々しくて。なんというか、陳腐な表現だけど赤ちゃんみたいな肌だ。
「どう、でしょうか……?」
「平気だよ~」
ゆっくり、ジェルを塗り込んでいく。マイハのきめ細かい色白の肌を撫でるように染み込ませる。僕の肌は、農作業のせいか若干日焼けしてるからちょっとうらやましい。
「アイカちゃん、すごい遠慮がちだね~。あんまり気にしなくていいのに~」
「こういうこと、初めてですのよ……」
それにしても、改めて見るとすごいなぁ……マイハの体。全体的におっきくて……特に胸とか、うつ伏せになって潰れたのが横に広がってるのが分かるし。
「背中……終わり、次は……脚、ですわね……」
「ふふ、くすぐったーい」
丁寧に……丁寧すぎるくらいゆっくり塗っているからか、マイハはさっきの僕みたいに嬌声を上げたりはしない。
「……」
ふとマアサの方を見ると、パラソルの下でゲームの攻略本を読んでいた。というかここにも持ってきてたんだ。
そうして、マイハに塗り終えたら。ラストはマイハがマアサへと塗る番というわけだ。
「ん……容器が日に当たったせいか、少しぬるいですね……」
「マアサちゃんの肌、弾力があるね~」
「そう、ですか?私は、よく分かりませんが……」
純粋に女の子同士のキャッキャウフフを眺めながら、自販機で買ってきたキンキンに冷えたミカンジュースを飲む。そろそろ昼時だからか若干並んだけど、良いもんだね。さすがに実家のミカンには劣るけど。
それから全員分の日焼け止めを塗り終わって、お腹も空いてきた頃合い。この無為ヶ浜には美味しいと評判の海の家があるということで、そちらへと行ってみたのだけど……。
「いらっしゃいませー!今日のおすすめは『チョコミント焼きそば』と『なまこジュースのチョコレートがけ』だよー!」
サービスに不満を抱いた店を爆破することで有名な、ゲヘナ二大テロリストの片割れともっぱらの噂の美食研究会……そのメンバーの一人、獅子堂イズミがいた。
彼女は上級生二人と違って積極的に破壊行動をしようとするタイプではないものの……一般に想像されるような美食はもちろんのこと、ゲテモノと呼ばれるタイプの料理でさえ美味しく食することが可能な舌と鋼鉄の胃袋を持っている*1。その結果、イズミのゲテモノ食いに付き合わされて撃沈した人物は数知れず……というか、今まさに犠牲者が増えようとしてる。
「おかしいですね……事前に調べたときは、そんなメニュー無かった気がしますが」
「それに店長さんはどこ行ったんだろ~?あの娘が店長って訳じゃないよね~?」
「……どうしましょう?」
もちろん、この状況の原因とその後起きることについては前世で知っている。そのため、正直に言ってしまえば今のあの海の家に行くのは断固拒否である。
「……なんというか、イヤな予感がしますね」
「わたしも同感かな~」
「では、一旦戻りましょうか」
全会一致でその場を後にして、別の店で買ってきた軽食と僕が持ってきた弁当でお腹を満たすことにした。海の家を楽しめなかったのは残念だけど、せっかく来たのに体調崩したくないしね。
その後食べ終わってもう一度覗きに行ったら案の定、海の家の前で銃撃戦やってたし巻き込まれないうちに戻った。
さて、海へ遊びに行くということ以外に何をしようとか、そういったことは決めずに場当たり的にやって来た今回の海遊び。三人だとやれることも限られてるし、早々にやることが尽きた。
マイハは綺麗な貝殻を探して、マアサは近くの桟橋で釣り、僕はソードフィッシュに曲芸飛行をさせて遊ぶといった感じで思い思いに過ごしていると、こちらに銃撃が来た。痛い。
「はぁ……今度はなんですの?」
「てめぇらの銃に入ってる紋章……よく見たらトリニティじゃねぇか。ということはよ、捕まえて身代金を要求すればガッポガッポって訳だ」
「お前らとあそこの団体客が来てからこちとらロクな目に遭ってねぇんだよ!ちょっとくらいイイ思いさせろってんだよ!!」
団体客って先生たちか。ぶっちゃけ海の家の件以外は君らから喧嘩売ったせいだと思うけど……。
「うーん、自業自得じゃないかな~?」
マイハも同じことを考えていたらしく、単刀直入にグサリ。それでサングラス越しに苦虫を噛み潰したような顔をした後、ヤケクソ気味に叫んだ。
「うるっせぇんだよ!!」
数だけは30、40人くらい集めているようだけど……ここまで何度もボコボコにされて満身創痍の状態では、烏合の衆と言う他無い。
「航空隊、爆撃開始」
「ぐああっ!?」
曲芸飛行していた部隊と新たに発艦した部隊が合流したら、そのまま一斉に空爆を始めた。それでも立っていた数名を三人全員で囲んで倒したら、それで終了。
「なんだかもう、段々可哀想になってきましたね……」
「うん、自業自得だけどね……」
苦笑いしながら、砂浜に倒れるスケバンたちを見る。ガッツだけはあるよね、ガッツだけは。
日も傾いてきて涼しくなってきたところで砂山を作ったり、それに満足したら今日のこととか色々お喋りをしていたら、もうすっかり空は赤らんでいた。
「アイカちゃん、マアサちゃん!最後に夕日が沈むところ見ようよ~」
「良いですね」
僕も静かに頷いて、三人で並んで座り、少しずつ水平線へと沈んでいく太陽を眺める。
「それにしても、花火が買い占められていたのは残念でしたね。夜も遊びたかったのですが」
まあアズサにヒフミたちとスケバンが買っていったんだろうけどね。
「でも、もし遅くなったら親御さんも心配するのではなくって?」
「まあ、それもそうですけどね」
そこで会話は一旦途切れ、再びゆっくりと流れる静かな時間。ふとマイハがこちらを見つめて言う。
「ね、二人とも。今日は楽しかった?」
「はい、もちろんですわ。途中柄の悪い方々に絡まれたりもしましたが……お二人と一緒に一日中遊ぶことができて、とても素敵な日でした」
それは紛れもない本心。トリニティと離れた場所で、ティーパーティーとしてのしがらみも忘れて、三人で遊ぶのは……とても、とても楽しかった。
「……マアサちゃんは?」
「私も、楽しかったですよ。二人とこんなに長く休日の一日を過ごすことなんて、これまで無かったので……少し戸惑いなどはありましたが」
そこまで言うと、彼女はフッと微笑んで。
「また、来たいですね。三人で、海でも他の場所でも、何でも良いですが」
「……ええ、あたくしたちはまだ一年生ですもの。いくらでも行けますわ」
「ふふ、そう言ってもらえてよかった。わたしも、もちろんすごく楽しかったよ」
そして誰に言われるでもなく、正面を見ると、日は既に水平線の下へと潜った後だった。
「さ、お日様も沈んだし、身体冷やさないうちに着替えて帰ろっか~」
「そうですわね、行きましょう」
そして更衣室へと行って私服に着替え直し、僕はリマーカブル号を待機させている埠頭へ、マイハとマアサは駅へと向かって解散した。
◇
そして翌朝、農作業の前にモモトークを見ると、いつ撮ったのか分からない写真がマイハから送られていて……あ、先生からも通知がある。
『"海、楽しめた?みんなのいい写真が撮れたから送るね。"』
というメッセージと共に、僕ら三人を写した画像を何枚か送ってきていた。
「……気付いとったと!?」
まあ割とスケバンとの戦闘で目立ってたし、気付いても不思議じゃないけど……。「三人は三人で楽しんでるなら、邪魔はしないでおこう」とかそういう配慮なんだろうか?
「……先生にはかなわんねぇ」
そう呟いて、朝の作業の準備をした。昼頃には放課後スイーツ部も戻ってくるからね。