ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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19 夏の終わり、友達と

 海から帰ってきて三日間働いたら、一日全休。そして三日間働いて……そして今日はお休みの日。放課後スイーツ部たちはいちいち戻るのがめんどくさかったらしく、休みは民宿で過ごすことにしたらしい。

 ただ、徒歩圏内とはいえこの家と集落まではそこそこ距離があるので、基本的に会うのは三食を持っていく時くらいだけど。

 

「おっ、来たんじゃないか?アイカ」

 

「うん、出るね」

 

 休みも昼を過ぎた頃、チャイムが鳴ったので出る。そこにいたのは……。

 

「やっほー、アイカちゃん~」

 

「アイカの家は、すごい広い農園を持ってるんですね」

 

 いつもの友人二人。何で彼女たちがうちに来たのかというと、三日前。昼休憩のときにスマホを見ていると、モモトークが来ていて。

 

『アイカちゃんのお家、結構遠いから夏休みのうちに行ってみたいんだけど、いつなら大丈夫?*^-^*』

 

 と、マイハから。それで親に次の休みを聞いて今日来てもらったわけだ。あと、今日は泊まりで明日の朝に帰るということだったので若干準備でバタバタしたりもした。まあ友人とお泊まりは楽しそうだから全然良いんだけど。

 

「今日は休みですから、好きなだけ遊べますわよ」

 

「そうなんだ、この前の空母とかじっくり見てみたいな~」

 

「言われてみれば、私も気になってきましたね」

 

 そういうわけで、玄関を出て湖の方へと出向く。少し歩いて、波止場に到着。そこには堂々とした艦容の漁船改造空母が係留されていた。

 

「近くで見ると意外とおっきいんだね~」

 

「中には入れるん……でしたっけ。確か海に来るときはこれだったんですよね?」

 

「ええ、元は漁船ですから。5人くらいなら普通に入りますわよ」

 

 そう言いながら扉を開けて、艦内へ入る。格納庫には20機のソードフィッシュがしっかり整備された状態で収容されている。ちなみにこの前の戦闘で損傷した箇所は、前回の休みを半分くらい使って修理した。

 

「おお、あの子達がこの前支援してくれたんだね~ありがとう~」

 

 ただのラジコン飛行機だから気のせいだろうけど、マイハのその感謝を聞いて、航空隊は心なしか誇らしげだった。

 

「あ、そういえば喉は渇いていらっしゃいますか?」

 

「そうですね……少し」

 

 マアサがそう答えたので、制御室の前にある大きめのボックスの蓋を開けて、中からうちの果樹園で採れたブドウを絞ったジュースを取り出す。

 

「これは冷蔵庫になっていて、いくらか食料や飲料をなおして*1おけるんですの」

 

「はぇ、すごい~」

 

 受け取りのときには戦闘関連のことしか説明されなかったので、制御室の棚にあった艦内案内とマニュアルで初めて知った機能だったりする。ちなみに他にも、簡易ベッドと椅子のある休憩室やトイレなども備えてある。マニュアルによると、1週間くらいの航海にも耐えられるよう想定してあるらしい。

 

 休憩室でジュースを飲みながらちょっとお喋りして、一旦艦外へ出る。そこでタブレットを操作して、航空隊に爆弾を装着せず発艦指示を出す。

 

「今から発艦させますわね」

 

「わくわく~」

 

 じっと飛行甲板に並べられる航空隊を見るマアサ、そして発艦の瞬間。

 

「……すごいですね。確か、ミレニアムの技術が色々と使われてるんでしたっけ」

 

「ええ、航空隊は元々ただのラジコン飛行機でしたが……搭載したAIはミレニアムでプログラミングされたものですわね」

 

 そうして空中を旋回し、インメルマンターンまで披露して一糸乱れぬ曲芸飛行を見せる部隊。元となったソードフィッシュも運動性が高く操縦が容易という特徴を持っており、それが複葉機という開戦時には既に時代遅れになりつつあった代物ながら、ヨーロッパ戦線で長く活躍するに至った要因のひとつとも言われている。

 

「あ、戻ってきた~」

 

 そんな風に言っているうちに帰投して着艦する。本物の空母と同じく、飛行機のフックに横ワイヤーを引っ掛けて止める方式だ。

 

「さて、家の方に戻りましょうか」

 

「そうですね」

 

 来た道を戻って、今度はダイニング。トリニティ中心の方の駅で軽く食べてきたらしいけど、ちょうど小腹も空いた頃だろうということで。

 

「マアサさん、マイハさん、どうぞ」

 

 二人は目の前のフルーツ盛り合わせを興味津々に見ている。

 

「これって、あの果樹園のものですか?」

 

「ええ、見た目などの理由で贈答用の出荷からは外されたものですわ。ただ味はほとんど変わりませんわよ」

 

 とにかく、贈答用の何倍もこういう不揃いの果実があるから余ってるんだよね。そういうのはさっき飲んだみたいなジュースはもちろん、ジャムやフルーツサンドにお菓子、それからブドウは発酵させてワインにしたりと色々使い道はあるけど……まあ少しくらい客人に出しても問題ないくらいは確保してある。

 

「もぐもぐ……ん~、すごい甘くて美味しいね~」

 

「ふむ……あ、この味は……時々親が買ってくるあのブドウですか。アイカのところの商品だったんですね」

 

 放課後スイーツ部よりだいぶお嬢様な生活をしている二人だけど、そこまで頻繁に食べるわけではないらしい。

 

「ふぅ、ごちそうさまでした~」

 

「何度か食べたことはありましたが、やはり美味しいですね」

 

「ふふ、アイカのお友達にもそう言ってもらえて嬉しいわ」

 

 割と直球に、忌憚なく意見を申すマアサが素直に褒めてくれるということはかなり信用できる。幼少期からずっと食べてたから、美味しいのは美味しいんだけど他の人もそう感じるのか少し不安だったんだよね。

 放課後スイーツ部の四人や友人二人直々に美味しいといってもらえて、自分も栽培に携わっているこの果物たちに自信が持てた。そうだよ、よく考えたら高級フルーツとして流通してるのに美味しくないわけないよね。

 

 

 

 

 それからしばらく、僕の部屋で一緒に雑談しながらゲームをして、そろそろ肩が疲れてきたなということで一旦休憩を兼ねてピアノの前に座る。

 

「あ、そういえばずっと気になってたんだよね~確かアイカちゃん、ピアノ弾けるんだよね?」

 

「はい、小さい頃から習い事で弾いておりますの。何か弾きましょうか?」

 

 そして二人に、既にある程度弾き慣れた曲の楽譜を渡す。ジャンルはクラシックからポップス、バラード、軍歌や行進曲、ゲーム音楽まで幅広く揃えてある。僕自身、色んな音楽を聞くのが好きだからね。それに中には、前世で聞いた曲を記憶を頼りに自分で書き起こした楽譜もある。

 

「そうだな~、じゃあわたしはこれ弾いてみてほしい~」

 

「私はこれで」

 

 その楽譜を見ると……マイハが選んだのは恋愛がテーマのポップス、マアサはキヴォトスで流行ってるRPGゲームのメドレー曲だった。

 

「ええ、分かりましたわ。ではマイハさんのリクエストから──」

 

 ピアノを弾き始める。指を滑らせ、打ち込み、音を紡いでいく。楽譜を覚えて、なめらかに躓かずに弾くまではとても大変だけど……それができるようになった時の達成感というのはすごく強いものだ。

 そうやって考え事をしながらも、楽譜を捲る。大体は覚えているので、楽譜を見るのは確認という意味が大きい。

 

「すごい……」

 

 ……恋愛というのは、正直僕にはよく分からない。悲しいことに前世ではそういうのとは全く縁もなかったからね。大切な人、ということであれば家族や、今目の前にいるこの二人……それと、先生。

 そう、こうやって今僕が青春を享受できているのも、先生が生徒のために、結果的にはキヴォトスのために、陰ながら尽力しているからだ。そういう意味では、大切な存在だろうけど……なんだろう、それ以外にも何だかある気がして。

 

(……いや、気のせいかな。だって僕、前世では男だよ?)

 

 若干中性的な感じに見えたけど、多分先生は男だろうし……それが仮に恋愛的な意味だとしたら、精神的には同性愛ということに……。

 

(……この話はやめやめ。演奏に集中……ってもう最後の方だ)

 

 そんなことを考えていたら、一曲目が終了した。弾き終えて二人の方を見ると、パチパチと拍手してくれる。

 

「すごい!こんなに上手に弾けるなんて~」

 

「途中から演奏に熱に籠っていたような気がしますが、どうかしたんですか?」

 

「な、なんでもありませんわ……次はマアサさんのリクエストですわよね?」

 

 マアサの疑問を誤魔化すように弾き始める。その後も何曲か弾いて、キリがいいところで夕食のために一回に降りた。

 

 

 

 

 夕食を終えて、お風呂にも入って……さすがに一人ずつ別々に入ったからね?

 まあそれは置いといて、風呂を上がって寝巻きに着替えたあとは。……そう、修学旅行でよくあるようなお喋りの時間だ。夜のテンションで時に恋バナとかにも発展するこの時間、マイハは心待ちにしていたようでいつの間にか親から貰ってきたお菓子を食べながらニコニコしていた。

 

「うふふ、女子会だね~」

 

「ですね」

 

 僕は前世では男子だから微妙だけどね……でももう8年ぐらい女の子として過ごしてるわけだし女子カウントでも……?いや、せめて女性として過ごしたのが前世と合わせて半分以上にならないとダメなのでは……?

 

「えいっ」

 

「うにゃっ!?ま、マイハさん……?」

 

 そうして考え込んでいたら、マイハに頬を指でつつかれてビックリした。

 

「なに考えてるのか分からないけど、話したいこと話そ~」

 

「話したいこと、ですの?そうですわね……」

 

 急に言われても、思い付かない。僕はそういう感じなのでマアサに振ってみると、彼女は。

 

「そういえば、トリニティに来た理由とかは気になりますね」

 

「もー、マアサちゃん~。せっかくの女子会なのに面接みたいなこと聞かないでよ~」

 

 頬を膨らませながらも、せっかく相手から話題を出してくれたわけだし、と結局マイハは答えることにしたようだ。

 

「そうだね、わたしはD.U.地区に近いところに住んでたんだけど……色んな人と仲良くなりたくて、三大校のどこかに行こうと思ってたんだ~」

 

「ふむ」

 

「それで、事前に情報を見て一番わたしに合ってるかな~って思ったのがトリニティだったの。……実はね、ゲヘナやミレニアムに行かなかったのを後悔することもちょっとだけあるんだ」

 

 いつも朗らかでほんわかした感じのマイハでも、トリニティ以外に行けば良かったなんて思うこと、あるんだな……。

 

「ほら、この前アズサ先輩について調べたとき、いじめの話を聞いたでしょ?わたし、そういうのって聞くのも好きじゃないんだけど……トリニティではいっぱいあるからね」

 

 やや暗い表情でそう語るマイハだが、「でも」と顔を上げてこちらを見据える。

 

「トリニティでアイカちゃんとマアサちゃんに出会えたからね。総合的に見たら入って良かったと思ってるよ~」

 

 そんなに、マイハは僕たちのことを友達として評価してくれてたのか。誰にでも、もちろん僕らにも変わらず明るく接するからいまいち分かりづらかったけど……。

 

「……そう目をまっすぐ見て言われると、少し気恥ずかしいですね」

 

「そうですわね、あたくしも……」

 

 そうしてモジモジしていると、マイハがまた「わたしは答えたんだから二人も早く」と頬を膨らませたので、僕が答えることにする。

 

「あたくしはずっとこの農園のある田舎で暮らしていましたのよね。高校へ上がるにあたって、地元だけでなくもっと広い世界を知りたいと思いましたの。それで三大校の中で一番近いトリニティ総合学園への進学を決めましたわ」

 

 数ヵ月前、ティーパーティーの面接の時にナギサがトリニティの志望理由を聞いたときとほぼ同じ回答。そう、あのティーパーティーへの面接に招待された時から全ては始まったんだ。マイハやマアサと出会ったり、補習授業部の騒動に巻き込まれたり。そしてこれから、エデン条約の調印式でも……。

 

「なるほどね~。それじゃ、マアサちゃん~」

 

 さて、言い出しっぺである彼女は一体どんな話をするのかと思って出方を伺うと。

 

「何を期待してるんです……?私は二人ほど目的があってトリニティに来たわけではないですよ。一番近い大きな学校だから選んだというだけです」

 

 マアサがそんな平凡な答えを言ったあと、次の話題に移っていって、しばらく話をする。僕が実家に戻っている間にトリニティではどんな動きがあったかとか、マイハからは最近食べて美味しかった料理屋さんとか、マアサからは一度面会しに行った時のミカの様子とか。そして、休みの機会を利用してシャーレの当番に行ったこととか。

 

 そうして話題も大体出尽くして、眠くなってきた頃合い。ふとマイハが穏やかな表情で僕とマアサを見て言う。

 

「ふふ、やっぱり二人と一緒に遊んだり、お喋りして過ごすの楽しいな」

 

「どうしたんですか、いきなり。でも、そうですね……私も、楽しいですよ。好きな時間です」

 

「うふふ、あたくしも当然楽しいですわ。特に、こうやって実家にいるとモモトークくらいでしか会話できませんから、1週間ぶりに顔を合わせられて良かったです」

 

 そして、本当に心の底から思ったこと。

 

「ずっと、この三人で一緒にいたいですわね」

 

「……いられますよ、きっと」

 

「うん、卒業したって一緒だよ」

 

 三人で笑い合って、しばらく無言のあと。本格的に眠気が襲ってきたので電気を消して眠りにつくことにした。

 

 

 

 

 その翌朝、起きて学園の方に戻るマイハとマアサを見送る。

 

「忘れ物、ありませんわよね?」

 

「うん、何回もチェックしたし大丈夫~」

 

 後ろ手に手を振るマイハ、そしてマアサが一言。

 

「また、学園で会いましょう」

 

「ええ、また」

 

 そうして遠ざかっていく二人が見えなくなるまで見送って、それから気合いを入れ直す。

 あと一週間、農作業の仕上げだ。寝間着から作業着に着替えて、仕事に手をつけた。

 

*1
西日本の方言で片付ける、収納するの意。

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