ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

38 / 75
21 エデン条約に向けて

 授業の後に古聖堂へ赴くこと、数日間。制服を汚さないように体操服に着替えて、修繕作業の手伝い。髪はペンキや接着剤などが付かないように、シニヨンを作って三つ編みで巻いて固定してまとめている*1

 

「ここの補修は白モルタルを塗った上に石灰を吹き付けます」

 

「分かりましたわ」

 

 工事責任者を務めているシスターフッド幹部の指示で作業を進めていく。柳葉鏝(やなぎばごて)*2でひたすらモルタルを塗り広げてる僕の姿を見てティーパーティーに所属してるお嬢様だと見抜ける人は少ないだろう。

 黙々と塗り塗りしていると足音が二人分。振り返ると、僕と同じく体操服のマイハとシスター服のままのマリーがいた。

 

「アイカちゃん、どんな感じ~?」

 

「まあ順調というところでしょうか、マイハさんは?それと、伊落さんは何かご用事が?」

 

 格好からして手伝いに来たわけじゃなさそうだし、一体どうしたんだろうか。

 

「わたしはもう、自分が今日やる分は終わらせたよ~。マリーちゃんは集中して作業してる人たちのために飴と飲み物を配ってるの~」

 

「はい、アイカさん。今日も平和と安寧が、みなさんと共にありますように……では」

 

 そう言って塩飴とペットボトルのミルクティーをくれたので、お礼を言ったけど彼女はそのまま別の人のところへ行ってしまった。

 

「じゃ、アイカちゃんの作業を手伝おっかな?鏝、借りるね~」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 そうして二人で並んでモルタルを塗り塗り塗り塗りして、十数分で僕の今日の作業分は終わり。

 

「ふぅ……助かりましたわ、マイハさん。そういえばマアサさんはどんな感じなのでしょう」

 

「マアサちゃんはアイカちゃんの様子を見てから行こうと思ってたんだ~。じゃ、今から行こっか?」

 

「ええ、また何かやらかしていないと良いのですが……」

 

 一昨日は勢い余って壁に大穴を開けてしまい、昨日は柱を削りすぎて今にも折れそうな細さにしていた。今日は何もないといいんだけど……。

 

 

 

「えーと、これは何ですの……?」

 

 マアサが作業しているはずの場所に到着したが、目の前には廊下の天井ど真ん中をぶち抜く穴。おかしいな、マアサに振り分けられたのは天井の破壊じゃなくてカーペット敷きだった気がするんだけど。

 

「……本人に聞いた方が早いかと思います」

 

 シスターフッド幹部は事故現場にやって来た僕らを一瞥して、僕の疑問に答えることなく説明放棄してマアサに視線をやった。

 

「そうですね……カーペット敷く時に1ロール分丸々位置がずれてることに気づいて、ここで一気に巻き取ろうとしたら勢い余って天井に叩き付けてしまって……あとは見た通りです」

 

「まあ、その……この辺りは古聖堂でも、特に脆くなっているのでその衝撃で崩壊してしまうことは有り得るとは思いますが……」

 

 マアサの自供の後、工事責任者が精一杯のフォローをするが……さすがに三日連続でやらかしてしまっているので、僕らも眉をハの字にして苦笑いするしかなかった。

 

「……明日からの作業は、マアサさんにはあたくしたち二人のどちらかを付けた方が良いのでは?」

 

「そうですね……全体の作業配分を見直して明日までに考えておきます」

 

 結局僕ら三人で天井の修復をすることになり、責任者の彼女もその作業が終わるまで場を離れず監視する他なかった。

 

 

 

 

 今日の作業がようやく終わり、メインの会議場として最優先で補修され、一応の体裁を整えてある大ホールへ制服に着替えて向かう。

 

「……士官候補生の皆さん。お手伝いご苦労様です」

 

 そこにはいつもの様子で佇むナギサに、いつも通り胡乱な微笑*3のサクラコがいて。

 

「当日の予定ですが、10時頃にまず正義実現委員会とシスターフッド、ティーパーティーの儀仗隊。ゲヘナの風紀委員会と万魔殿の儀仗隊が現場入りします」

 

 儀仗隊、つまり儀礼を行うための部隊だ。原作のスチルで旗を持って睨み合ってた人たちのことである。

 

「そこで最終的な調印準備を行い、その後14時頃を目処に私が古聖堂へ入場します。ゲヘナも万魔殿議長と風紀委員長が同じ頃に到着するはずです。まずは古聖堂に到着するまで私を護衛することが、士官候補生の皆さんの使命です」

 

「了解です~」

 

「各学園の代表が集まったところで調印式が開会、15時30分に調印宣言が行われ、16時に全てのプログラムが終了する予定です。それまで皆さんは古聖堂周辺の警備をお願い致します。その後は古聖堂を退場した私を学園本部まで護衛すれば皆さんの調印式当日における任務は終了となります」

 

 ただしそれは、何事もなければの話だ。調印宣言の前にほぼ間違いなく、アリウスが発射したミサイルによってこの古聖堂は破壊されるのだろう。そんな未来のことを考えていると、ナギサが表情を引き締めて言う。

 

「それと、この事は内々密として欲しいのですが……私は初め、裏切り者候補を押し込める枷として士官候補生という役職を設けていたという話はしましたね」

 

 ミカのクーデター未遂事件の直後に謝罪された時の話か。それが今、なんでその話を……?

 

「ですが、あれから私は考えを改めて……一年生としては非常に優秀で、友人として派閥を超えて連携する皆さんを信じることにしました。調印式当日のみ、士官候補生の権限を傘下組織の上位に引き上げます。総指揮官の下の下くらい、でしょうか」

 

 随分思い切った決断だ。疑心暗鬼に囚われていた彼女が、他人を信じるという選択を取ったことも。優秀と評されてはいるけど、所詮は一年生である僕たちの権限を一時的にでも強化するということも。

 

「あってはならないことですが……もし、調印式で()()が起きた場合。皆さんが率先してその後の混乱を収めてください。私は皆さんならば、それが可能だと信じています。お願いいたします……」

 

 そう頭を下げるナギサに顔を上げるよう言って、それから答える。

 

「承知致しましたわ。もちろん、何事も起きないことを祈っておりますが……ナギサ様が託された使命、全うさせていただきます」

 

「私も同じく、それが命とあらば」

 

「わたしもですよ~」

 

 三人の返事を聞いて頷いたナギサ、そして今日の分のリハーサルへと移っていった。

 

 

 

 

 

 

 調印式の二日前にようやく古聖堂の修繕作業は終わり、そして調印式前日の夕方。今日くらいはたっぷり休もうと寮の部屋で一日中ゴロゴロしていた。明日は一般生徒は休みだけど僕らは護衛として色々やらないといけないことがあるからね。

 

 ふとテレビ付けると、連邦生徒会の緊急記者会見をやっていた。

 

〈──このエデン条約は、元々は連邦生徒会長が提唱したものだと聞きました。なのに未だに彼女は姿を現していないままです。連邦生徒会長の消息は?〉

 

〈連邦生徒会長は今年の4月を前にして行方をくらましており、懸命な捜索を続けてきましたが、誠に残念ながら依然として進展はありません。以上で会見を終えます〉

 

 画面中央には無愛想な連邦生徒会の暫定トップ、リンちゃんこと七神リンが映っており、その周囲には連邦生徒会の各部署の責任者がいる。

 

〈ちょっと待ってください行政官!それはつまり、連邦生徒会長の行方はまだ分かっていないということですか?〉

 

〈要するにそうです〉

 

〈要約しなくてもそうでは!?〉

 

 ……なんか右端の人*4、腕骨折したままで会見に出てるんだけど大丈夫なのかな?というか何会見中に堂々とポテチ食べてるんだよ由良木モモカァ!

 

〈連邦生徒会の能力について、世間の評価は厳しくなっています。この点についてはいかがでしょうか?〉

 

 先ほどとは別の記者による質問。連邦生徒会って前世のネットだと大概無能扱いされてたけど……まあ、超人って呼ばれてる連邦生徒会長が突然失踪したわけだし、いくらか仕方ないところもあるとは思う。

 

〈まあ、仕方ないんじゃん?〉

 

〈モモカちゃん……!〉

 

 その辣腕で連邦生徒会とキヴォトスのほとんど全てを取りまとめていたのならば、その存在はある種の独裁者と見ることもできる。

 有能な独裁者が死去した結果、混乱を極めて立ち行かなくなった国なんていくらでも例はあるからね。連邦生徒会長は死んではないけども。

 ただそれはそれとして、仕事の説明中や会見中ですら素知らぬ顔で何か食べてるのはどうかと思う。

 

〈不確定な情報については、現段階でのコメントは差し控えさせていただきます〉

 

 リンが相変わらず愛想なんて知らないと言わんばかりに言い捨てると、記者たちからの質問が矢継ぎ早に投げ込まれる。

 

〈それぞれの自治区で起きているジェントリフィケーション*5への対応策はどうなっていますか?〉

 

〈SRT特殊学園の閉鎖が決定したこと、それと以前のサンクトゥムタワーでの騒動は何か関係があるのですか?タワーの一部が焼失したとの情報*6もありますが?〉

 

〈トリニティとゲヘナのエデン条約についてはどのようにお考えですか?〉

 

 マイクを自分へ向けて言う記者たちに、行政官は溜め息をついて忌々しげに一言。

 

〈各学園で起きた事件につきましては、基本的にそれぞれの学園に対応を委ねています。連邦生徒会の無闇な介入は却って無責任であるかと考えます〉

 

〈ま、介入する時間も人手も無いし〉

 

〈モモカちゃん……っ!〉

 

 あんまりにもあんまりな態度のモモカに頭を抱えるしかできない岩櫃アユム。先ほどの言葉で言うべきことは終えたということなのか、リンは会見の終了を宣言した。

 

「……駄目そうですわね」

 

 まあ元から期待してなかったけど、連邦生徒会はエデン条約で何があろうと知らんぷりだろうね。先生寄越してるんだからそっちに言えってことだろうか。

 

「はあ、この世界がアリウスがトリニティ襲撃しない世界線だったりしませんかしらね」

 

 いざ明日、となるとやっぱり不安になる。そんな仮定を思い付いたけど、ミカがアリウスを引き連れてた時点でそれは有り得ないだろう。明日、ナギサから密かに託された任務……それを成し遂げられることを祈りながら眠りについた。

 

*1
通常衣装トキ、別作品でいうならFateのセ○バーのイメージ

*2
漆喰やモルタルなどの建材を壁や床に塗り込むのに使用する、左官鏝の一種。その名の通り、刃が柳の葉のような形をしている。

*3
本人は親しみ深い笑顔のつもり。

*4
ハイネ。不知火カヤの指示で動いたFOX小隊に襲撃を受けて負傷。

*5
gentrification。都市中心部の貧民街地域に中・高所得者が流入して地価が上昇、再開発が行われる現象。これに伴って、立ち退きや家賃のインフレで低所得者が他の地域へと追いやられることも多い。

*6
不知火カヤの指示で動いたFOX小隊によって、ハイネを含むカヤにとって邪魔な連邦生徒会役員が襲撃を受けた際の騒動。




ジェントリフィケーション対策って連邦生徒会の仕事なんですかね……?本文では注釈を付けましたが、馴染みのない言葉なので原作でいきなり出てきてびっくりした先生方も多いのではないでしょうか。まあ詳しく説明したところで話の流れには一切関係ないんですが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。