ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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22 エデン条約調印式

 朝起きて、いつもよりしっかりと髪を整え、服装を正してから寮の部屋を出る。今日はエデン条約調印式の当日。そして、長い長い一日の始まり。

 

 護衛ということだし、必要になるかと思ってロイアルティー号で寮から学園の中心部まで向かう道のり、いつもより出歩いている生徒は少ない。調印式という一大イベントのため、今日は全学休講。つまり、一般の生徒にとっては休みと言うこと。

 

 いつもティーパーティーが茶会に使っているベランダや、ナギサの執務室からも程近い応接室へ向かう。彼女が古聖堂へ向かう時間までここで待機することになっており、部屋に入ると既にマアサとマイハもいて、クロノスの報道をスマホで見ているところだった。

 

「あ、アイカちゃん~!ほら見て、エデン条約の話題で持ちきりなんだよ~」

 

 画面に顔を近づけると、記者の生徒が今回エデン条約に関わっていない三大校のミレニアムで街頭インタビューを行っているところだった。

 

〈──エデン条約についてどう思いますか?〉

 

〈はい!エデン条約とはなんでしょうか?アリスが思うに、おそらく強くなるための呪文だと考えますが……〉

 

 そしてまさかの、インタビュー相手は冒険をしていたらしい天童アリス。ピンポイントでそこに声かけるかって選択。

 

〈──あまり興味はない、ということのようです!〉

 

 言葉につまった記者はそれだけ言うとインタビューを終えた。その応答を見た、スタジオのゲストは真剣な面持ちで見解を述べる。

 

〈強くなるための呪文、ですか……和平によってトリニティ=ゲヘナが協同して、それで軍事的な動きを起こせば並大抵の学園では太刀打ちできない武力となる。彼女はミレニアムの生徒として、警鐘を鳴らしているのかもしれませんね〉

 

 アリスちゃん絶対そんなこと考えてないと思うよ。

 

「ははは……まあ、一般の生徒からしたらあんまり関係ないもんね。さっきの子、ミレニアムの生徒だし~」

 

「それにエデン条約が無事締結されたとしても、トリニティとゲヘナが協力して他の学園に侵攻するなんて有り得ませんよ」

 

 これまでいがみ合ってきた学園がすぐにそんな統率できるわけないし、さすがにミレニアムや中小の学園、それに連邦生徒会も黙ってないはずだし……そもそも、このエデン条約にかなり深く関わっているシャーレの先生が早い段階で止めるだろうからね。

 

 

 

 

 そうして2時間くらい報道特番を見たり、適当に雑談をして、そろそろ頃合いだろうということでナギサの執務室へと向かった。

 ノックをして入ると、機密書類とにらめっこをするナギサ。最終確認の最中だろうか。

 

「ナギサ様」

 

「……ええ、古聖堂に向かう時間ですね」

 

 それだけ言って立ち上がると、彼女は持っていた書類をなんか重厚な感じの封筒に入れて外へ出た。

 

 

 

 建物の前で待っていた、ロールスロイスのシルバークラウド。お付きのティーパーティーメンバーが車の中から出てきて、後部ドアを開ける。ナギサが乗り込んで、ドアが閉じられてお付きも再び運転席に戻ってエンジンを入れた。

 

「あの、あたくし達は……?」

 

 まさか徒歩で行けとか言わないよね?そう思って立ち尽くしていると、ナギサはお付きに何か伝えて、ドアを開けた。

 

「あら、言っていませんでしたか?アイカさんのトラックでこの車の後ろを着いてきてください」

 

 いや聞いてないんだけどそんなの。今日はたまたま乗ってきてたからいいけど、そうじゃなかったら寮まで一々戻らないといけなかったんだけど……。

 

「は、はい……とりあえず、指示通りに致しますわね」

 

 まあ何にせよ徒歩にならなかっただけマシかと思って、近くの駐車場に止めていたロイアルティー号に乗ってシルバークラウドの後ろへ。運転席にはマイハとマアサを座らせて、僕は荷台でポンポン砲の側。それから護衛としてナギサの乗っている車のすぐ後ろに控えながら目標の場所まで向かった。

 

 

 

 

 

 上空にはゲヘナの飛行船が浮かんでおり、あちらも既に到着したらしい。

 

「では皆さん、周辺警備をお願いしますね」

 

「了解です~」

 

 古聖堂に到着して、車から降りる。建物内へ入るナギサを見送ったら、今度こそ前に言われていた通り警邏の任務に就く。

 

 しかし、それから数分もしないうちにマアサが何かを言いたげにこちらを見た。

 

「どうされましたの?」

 

「……喉が渇きました」

 

「まあ、控え室にいたときから全然飲み物とか飲んでなかったもんね~」

 

 僕も正直ちょっと飲み物が欲しいなと思っていたところだし、まあ数分離れるくらいなら大丈夫かと思って、三人で近くの自販機を探すけど……。

 

「……無いですわね」

 

「この辺り、普段は誰もいないから自販機なんて置いてないんだよね~」

 

 想定より時間が掛かってしまうことになるが、まあ正義実現委員会や僕ら以外の傘下組織も大勢いるし三人が少し離席したところで大した影響はないだろうということで、トラックに乗って道路沿いに自販機を探すことにした。いや、自販機じゃなくて売店とか屋台でも良いんだけども。

 

「なんだか、だいぶ遠出になりましたね」

 

「ええ、本当に……」

 

 ようやく自販機を見つけた頃には、探し始めてからもう20分くらい経っていた。僕はミルクティー、マアサはグレープジュース、マイハはミルクセーキを買って喉を潤した。

 ひとまず目的を果たしたので、急いで古聖堂へ戻ろうとして、その道中。

 

「……ん?何の音ですか?」

 

 ()()が空気を切り裂き飛翔する音。飛行機?いいや、こんな航路を通る航空機は存在しない。ならば……ならば?

 

「あれって、ミサイル?……あ、ダメ、古聖堂の方に向かってる!?」

 

 珍しくマイハが取り乱した様子を見せ、先に音に気づいたマアサも()()を見て目を丸くしている。

 

 ──原作通り、無名の司祭の持っていたものがベアトリーチェ経由でアリウスに渡り発射された巡航ミサイル。現代のミサイルで使われるターボエンジンやラムジェットエンジンではない未知の動力で動いているという、謎の多い代物。

 

 いくら対空機関砲と言っても、ポンポン砲でミサイルの撃墜は不可能だ。迎撃するには、ファランクス*1やゴールキーパー*2といったCIWS*3でないと。

 しかし、あのミサイルはトリニティの防衛網に採用されているゴールキーパーやブラッドハウンド*4には引っ掛からず突破してきたらしい。現状利用されている大体のミサイルの迎撃が可能な防衛網を素通りする技術……そんなもの、現在のキヴォトスには存在しないはず。

 

「急がないと……!」

 

 僕はそう呟いて車の速度を遠隔操作で上げるが、当然ミサイルに追い付けるはずもなく、轟音と爆炎が唸りを上げて古聖堂が崩れ落ちるのを見ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 ほぼほぼ交通違反の速度でかっ飛ばしながら現場に辿り着くと、無惨に崩壊した古聖堂。所々火の手が上がり、血を流して倒れる怪我人や逃げ惑う生徒達。

 ここで結ばれるはずだった条約の、楽園(エデン)という名とは正反対に地獄の様相を呈していた。

 

「な、何をどうすれば……」

 

 そう呟くマアサに、マイハは冷静であるように努めながら言う。

 

「まずは生徒の避難誘導をしないと。マアサちゃんは北側、わたしは南側の生徒をやるから、併せて瓦礫の下敷きになってる人を助けよう。……アイカちゃん」

 

「は、はい」

 

 呼び止められて、真剣な表情のマイハに見据えられて何も言えなくなる。

 

「アイカちゃんはナギサ様、それにサクラコ様を探して。こんな感じだし……たぶん無事じゃないだろうけど、行方すら知れないままだと益々状況が混乱するから」

 

「……分かりましたわ」

 

 そう頷くと、マイハは周辺の生徒の誘導を始めた。それを見てマアサも北の方に向かう。

 

 

 

 

 壁や天井が著しく崩壊してるから分かりにくいけど……たぶん、この辺が大ホールだった辺り。この後、おそらくアリウスやユスティナ聖徒会がここにやってくる。それを見越して、せめて回収したら速攻で退却できるようにロイアルティー号でここまで乗り入れた。

 

「それに、重機代わりにもなりますからね」

 

 機関砲の砲弾で瓦礫を吹き飛ばしつつ、捜索していると、瓦礫の隙間から煤けた大きな白い翼が見えて。

 

「……ここに居たんですね。まったく……探しましたよ、ナギサ様」

 

 農作業で鍛えられてたお陰か、なんとか壁の一部らしい瓦礫を退かして、下敷きになっていたナギサを荷台に乗せる。近くで柱の下になっていたサクラコも回収して、そのまま救護騎士団の方へ行こうとすると。

 

「動くな」

 

「はぁ……出ると思いましたわ」

 

 見覚えのあるガスマスクに、バラとドクロを組み合わせた校章……アリウス兵。戦力は……大体20人前後、ネームド*5の姿は無し。戦闘になってもポンポン砲で一掃できる程度だし問題ないかな。

 

「なんだ貴様、人を害虫か何かのように……!」

 

「そこまでは思っていませんが、あたくしはこの方々を適切な救護を受けられる場所まで運ばなければなりませんの。戦場で救急車を攻撃するのは重度の戦争犯罪のはずですが?」

 

 僕がそういうと、その部隊長らしいアリウス兵は一足踏み込んでポンポン砲を指差しながら言う。

 

「そんなふざけた代物が付いた救急車などあるものか!!」

 

「護身用です」

 

「……もういい、トリニティは話が通じないお嬢様ばっかりだ!こうなったら力ずくで行くぞ!!」

 

 こちらを攻撃しないならば、急いでるしそのまま見逃そうと思ったけど……交戦するというのなら、仕方ないよね。

 

「40mm2ポンド対空砲弾、発射ですわ」

 

 クランクを回して、二つの砲身は首を伸ばして引っ込めてを14回繰り返す。爆炎で相手がどうなったのかは見えず、煙が晴れたところで周囲を見渡す。

 

「……対象沈黙、救護騎士団へ急ぎましょう」

 

 倒れてるアリウス生を轢かないように気を付けて古聖堂の跡地を出たところで、やや離れたところにいたため倒れずに済んだらしいトリニティ生とゲヘナ生の集団が戦闘していた。

 

「ゲヘナの代表者も出席する調印式を攻撃するなんて、同胞すら平気で犠牲にしようというの!?卑劣極まりないわ、この悪魔め!!」

 

「私たちはあんなこと知らない!お前らの自作自演だろう、陰湿なお嬢様気取りめ!!」

 

 この非常事態に何やってんだか。というかエデン条約はトリニティとゲヘナの平和条約じゃなかったの?銃声で掻き消されないよう、声を張り上げて割り込む。

 

「落ち着きなさい!!」

 

「ポンポン砲?丁度いいわ、ゲヘナの連中の顔にその40mm弾を叩きつけてやって!」

 

 トリニティ側のとある一人は、僕を見て加勢しに来たと勘違いしたらしくそんなことを言う。別に支援しに来たんじゃないし、というかナギサとサクラコ運んでる最中で急いでるんだけど。

 

「黙らっしゃい!!」

 

「!?」

 

「先程の爆発の前に、一瞬遠距離ミサイルのようなものが見えました!この攻撃はトリニティでもゲヘナでもない第三者によるものです!交戦を止めなさい!!」

 

 そう叫ぶと、ひとまず銃撃をやめた二集団。だが今度はこっちを怪訝そうに見つめる。

 

「第三者ってなんだよ!?」

 

「ゲヘナじゃないとしたら、誰が……!?」

 

「ミサイル、つまりは先端技術です。仲間外れにされた三大校の一角……ミレニアムによるものかもしれません。それを今確かめる術はありませんが、とにかくトリニティ及びゲヘナによる攻撃ではないはずです」

 

 そう言って攻撃がトリニティやゲヘナによるものででないことを力説すると、生徒の集団は「ミレニアムめ……」とか「研究オタクが高みの見物決め込みやがって……」とか呟きながら散っていった。

 

 前にナギサと先生の会談に同席したときもそうだったけど……全く関与してないの知ってて濡れ衣着せてごめん、ミレニアムの人たち。でも手っ取り早く納得させる理由がこれくらいしかないんだよ。今度造船工学部に大口発注するから許してくれないかな。

 

「まあ、それは後に考えることにして……今はこの二人を運ばなければ」

 

 例え意識を失っていても、健在であることが分かればいくらかマシな状況にはなるだろう。僕は車を走らせて救護騎士団の本部へと向かった。

 

*1
アメリカで開発された、M61 バルカン20mm機関砲と目標捕捉・追尾用のレーダーを組み合わせた自動迎撃システム。タングステン徹甲弾を毎分3000発以上発射できる。

*2
オランダで開発された、GAU-8 アヴェンジャー30mm機関砲とフライキャッチャー火器管制レーダーを組み合わせた自動迎撃システム。発射速度は毎分4200発。

*3
Close-In Weapon System,近接防空システム

*4
1958年に開発されてから90年代まで、イギリス空軍などで用いられた地対空ミサイル

*5
具体的にはアリウススクワッド




原作のミレニアムは三大校の一角という立ち位置だけ考えると不自然なほどエデン条約に関わろうとしてないんですよね。ただまあ、実際のところは生徒会長であるリオがアリスへの対策とエリドゥ建設でそれどころじゃなかったのと、そもそもミレニアム生自体が研究できりゃそれでいいみたいなのでよその学園が何してようと割とどうでもいいのかも知れませんが。
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