そして、なんとか到着した救護騎士団。扉をノックしたら返事も確認せずに入る。出迎えたのは、紫色の髪をツインテールにして救護騎士団の制服を着た少女。
「あれ、入学式の時の?怪我はなさそうですが、どうしたんですか?」
「はい、お久しぶりです朝顔さん。負傷したのはあたくしではなくて……とりあえず見てもらえますか?」
そうして、玄関前に止めたトラックの荷台を見せる。ハナエはそれを見て驚いた様子でこちらを見る。
「え、これって……ナギサ様とサクラコ様!?」
「はい、先ほどエデン条約が執り行われる古聖堂が攻撃を受けたことはご存じですわね?あたくしはたまたまその場を離れていたので助かりましたが、お二人は巻き込まれて瓦礫の下敷きになっておりましたの」
「それで連れてきてくれた、ってことですか?」
静かに頷いて、そして言葉を続ける。
「……手当てをお願い致します。それと平行して、彼女たちが見つかったことを学園全体に伝えてもらえますか?」
「分かりました、先輩達に伝えてきます!」
そして、救護騎士団の生徒によって担架で運ばれる二名を見送ったら、次は傘下組織の訓練場へ向かう。そこで無線機や応急処置セットなど入り用のものを確保したら、マイハと電話を繋ぐ。
「マイハさん、避難誘導の方はいかがですの?」
〈うん、わたしもマアサちゃんも大体終わったよ~。でも、次は負傷者の回収をしようと思ったんだけど……誘導してる間に古聖堂の方で戦闘始まっちゃって、近づけないの〉
戦闘……たぶんツルギやハスミ、ヒナ対アリウス兵力だろうな。
「分かりました、マアサさんはそちらにいますか?」
〈うん、隣に。代わる?〉
「いえ、いるのが確認できれば良いので。それで今はどちらに?」
元々、この拝借してきた無線機を渡そうと思っての連絡だ、居場所を聞かないと。
〈第3講堂の前だよ、どうかしたの~?〉
「ええ、無線機を渡そうと思っておりまして。この状況下なら電話より便利でしょうから」
〈なるほどね、ありがと~。それじゃ、待ってるね〉
電話を切って、トラックを発進させる。第3講堂か……今来た道と反対方向だな。まあそんなこと言ってられないし、急がないと。
「アイカちゃーん~!」
十数分かけて言われた場所に行くと、何人か負傷した生徒を床に寝かせたマイハとマアサがいた。
「こちらは……古聖堂の近くで回収した負傷者、ですわよね?」
「はい。ただ救護騎士団への連絡網もなく、応急処置の道具もないので寝かせるしかなくて」
荷台から医療用キットを取り出して開き、手当ての準備をする。
「とりあえずあたくしたちでやれるだけの処置はしておきましょう。あとはこの無線機で救護騎士団に措置を頼みますわ」
しばらくして、たまたま近くにいた救護騎士団員が呼び掛けに応じて来てくれたので彼女に対応を任せて僕らは車に乗り込んだ。
無線機を二人に分けて、僕は荷台で襲ってくる敵がいないか警戒する。行き先は一応、ティーパーティーの本部。例の茶会場所とかもある建物だ。今のところ呼び出されてるって訳じゃないけど、念のため。
「そういえばアイカちゃん、ナギサ様見つかった?」
「はい、気を失っていたので救護騎士団に搬送しておきましたわ」
そのナギサに託された任務、今のところしっかりこなせているはず。本当はこんな状況にならないのが一番良かったんだけどね。
「よかった、とにかくちゃんと存在が確認できるだけでも混乱度合いが違ってくるからね~」
そんなことを言ってるうちに、マアサの電話が鳴って。彼女が出ると、電話主はティーパーティーの行政官らしく。
「アイカ、パテル派の緊急召集令が出ました。ただ、今はティーパーティーの本部へ急がないと」
「はい、分かりましたわ」
緊急召集令って……なんかすごい不安な響きだな。そんなことを思いながら、ロイアルティー号に揺られる。
日も傾いて来た頃、いつの間にか雨もポツポツと降りだした。ティーパーティーの本部施設に到着すると、入口に立っていた生徒に会議室へ案内される。中に入るとガヤガヤとかなり落ち着きのない様子で、僕らが入ってきたのを見た、二年生の行政官が木槌を叩いて静粛を促した。彼女が臨時の議長らしい。
「それでは、現状健在のティーパーティー主要人物が集まりましたので緊急会合を執り行います」
それにしても、三年生のティーパーティーの構成員がほとんど見当たらないんだけど……まさか全員ミサイル攻撃に巻き込まれた訳じゃないよね?
それに、いるのはフィリウス派とサンクトゥス派の構成員ばかりでパテル派はマアサを除くと2,3名しかいない。
「現在の状況を確認しましょう。古聖堂が何者から飛翔体による攻撃を受け、現ティーパーティーホストである桐藤ナギサ様はこれに巻き込まれて行方不明──」
そう言いかけたところに、別の行政官が手を挙げて続ける。
「そちらについては先ほど救護騎士団からの連絡で、ナギサ様の身柄を保護して手当てを行い、現在安静状態であるとのことです。意識不明の重傷で数日間は動けないだろうとも」
あ、救護騎士団はちゃんとやってくれてたか。なんか前世の知識で団長とかハナエが時々ヤバいって聞いててちょっと不安だったんだよね。あと一見マトモそうな鷲見セリナも別方向にヤバい*1らしいし。
「そうですか、どちらにせよ指示を出せる状態ではないのですね。そして他の首長ですが……サンクトゥス派百合園セイア様は以前から意識を失ったままで、パテル派聖園ミカ様は先日起こした事件の結果収監中。ヨハネ派の蒼森ミネ様もセイア様の看護に付きっきりで、その他の派閥も混乱で機能していません」
俯瞰して見るとなんかもう色々とダメだな、今のトリニティの上層部の状況。ナギサが倒れたらもう完全に機能不全じゃん。
「今入った連絡によると、第14校舎付近で何か騒動が起きているようです。こんな大変な時に一体どこの誰が……」
「あら?パテル分派の行政官から……はぁ?戒厳令?ゲヘナへの宣戦布告の準備?勝手に何を……」
ふと横のマアサを見ると、「何やってんだあいつら……」とでも言いたげな苦々しい表情で話を聞いていた。
「シスターフッドは何と?正義実現委員会の状況は?」
「シスターフッドは……ナギサ様と同時にサクラコ様も保護したようですが、そちらも同じく重体ですぐには動けないと。正義実現委員会は委員長及び副委員長と連絡が取れず、各組織からの要請にどう答えるべきかと指揮系統に乱れが生じています」
どうすんだろこれ。仮にナギサが驚異的な回復力見せて今すぐ復帰したとしても、どうにかできる状況じゃないよね。
「ティーパーティーの傘下組織は何をやっているんです?」
「護衛部隊が古聖堂の外郭でゲヘナ?第三勢力?と交戦して、被害甚大とのことです」
そうしてお偉いさん……というか本来中間管理職の人たちがああでもない、こうでもないと言い合っているのを見ていると、さらにまた連絡が入る。
「第5ゲート付近からゲヘナの救急車両が入場、中には銃撃で負傷したシャーレの先生がいらっしゃると」
「先生が負傷!?」
「先生……」
おそらく、錠前サオリに腹部に撃たれたのだろう。前世の知識で知っていた、知っていたけど……。だって、先生は……僕ら生徒ほど頑丈じゃない。アロナの保護がなければ、銃弾一発で死に至る危険すらある。そしてそれが、今まさにこの時で。
体が震える。どうしようもなく不安になる。落ち着け、先生は原作通りならなんとか意識を取り戻せる、だから……。
「…イ…ちゃん、アイカちゃん!」
「ま、マイハさん……」
マイハに肩を叩かれ、遠退きそうだった意識を取り戻す。
「すごい顔青くなってたよ、大丈夫?」
「は、はい……なんとか」
一旦深呼吸して、脈拍を落ち着かせる。うん、先生はきっと大丈夫。
「……シスターフッドからの連絡です。サクラコ様が動けない状態なので浦和ハナコさんが臨時に指示を出しているとのこと」
「あの、元才媛ですか。本当に大丈夫なんですか?」
元、ね……。まあ、彼女が抱えていた事情なんて大体の生徒は知らないから、優秀な生徒が急に奇行に走って成績も落ちて凋落したとしか見えないよね。
「非常事態の最中です、さすがにふざけはしないでしょう……彼女によると、負傷者への処置を最優先するよう指示を出すべきとのことです」
「……一理あります。救護騎士団の状況は?」
そう問われた行政官は救護騎士団への電話を繋いで、しばらく話してから報告する。
「怪我人の多さに手一杯で、ゲヘナの救急医学部の手も借りて何とかなっているそうです。当然トリニティだけでなくゲヘナ側の怪我人もいるようで」
「……正義実現委員会の人員を負傷者への対処にいくらか割きましょう。彼女たちも応急処置くらいは訓練で習っているはずです」
そしてまた電話が鳴る、今度は救護騎士団の方から通話してきたようで。
「……はい、分かりました。議長、たった今正義実現委員会の委員長と副委員長の両名が救護騎士団へ運び込まれたそうです。どちらも重傷とのことで」
「委員長と副委員長は病床で安静にしていること、そして正義実現委員会の最優先任務は負傷者対応の手伝い。これを各員へ通達しましょう。」
学園内放送によってその内容を流して、ようやく混乱が収まってきたかと思いきや、またまた電話が鳴る。議長は忌々しげに受話器を取り、耳を傾ける。
「今度はなんですか?……はあ?ゲヘナに宣戦布告?勝手な行動は大概にしなさい!」
またパテル分派が何かやってるらしい。それを聞いて、マアサは立ち上がって。
「すみません、うちのバカな上役を止めてきます」
「えっ、マアサさん……!?」
そういって足早に出ていくマアサに付いていき、会議室を後にした。後ろを振り返ると、マイハは座ったままで。
「ごめんね、とりあえずここなら情報が勝手に集まってくるみたいだからそっちは二人に任せるよ。何かあったら、ほら。アイカちゃんがくれた無線機もあるから」
「マイハさん……申し訳ありません、頼みますわね」
「うん、大丈夫。わたしはその為にいるから」
会議はマイハに任せて、マアサと共にパテル派の横暴を止めるために急いだ。
◇◇
「宣戦布告の文章はできましたか?」
「はい、大丈夫です」
パテル分派の行政官や傘下組織の構成員はとある講義室に集まり、この混乱に乗じて憎きゲヘナの殲滅を開始しようと企んでいた。が、そこにドアを破って現れたのは。
「待ってください!宣戦布告は校則上、ホスト無しではできないはずです!」
「なっ、浦和ハナコさん……?どうしてここに!」
そう聞き返すパテル派の行政官に、構わずハナコは続ける。
「古聖堂での映像をご覧になったでしょう、相手はゲヘナではありません!あれはきっと、アリウスが操っている『別の何か』です!トリニティ自治区内の各地にある遺跡から、地下のカタコンベを通って──」
それ以上聞く必要はないと言わんばかりに、その行政官はハナコを拘束するよう指示を出した。両脇を傘下組織に固められ、身動きが取れなくなる。
「浦和ハナコさん……こんなことになってしまい残念です」
「一体何を……」
そう問われた行政官は、淡々と説明を始めた。
確かにあれは、シスターフッドと関係のあるユスティナ聖徒会のような集団である。それに巡航ミサイルが発射されたのも、シスターフッドの管理下にある聖堂の遺跡。アリウスがトリニティを侵略しようと動いている可能性もあり得ないわけではない……が。
「そもそも、シスターフッドがアリウスと通じてトリニティの実権を握ろうと画策している可能性だってありますよね?あの秘密主義集団が政治的孤立を破って介入し始めたこの段階での事件。そう考えるのが自然では」
「……っ!そんなことは……!」
確かに、タイミングとしては非常に悪い。シスターフッドがそう疑われるのもある種仕方のないことでもある。
「私たちパテル分派はこの危険な事態に対して迅速に対応することを決めました。この決定に反対するフィリウス派やサンクトゥス派の人員はこの後身柄を拘束するつもりです」
「それはつまり、クーデターということですか……!」
「いえ、違いますよ。ティーパーティーの一人、ミカ様がまだ健在ですから。彼女を解放し、セイア様とナギサ様が動けぬ今、ティーパーティーホストとしてお望み通りゲヘナとの全面戦争を──」
そこまで言ったところで彼女は一旦口をつぐんだ。扉を銃撃され、ぶち開けられたからだ。
「へぇ、随分と
「……炎谷、マアサさん」
その蒼青の髪を見て、その場にいるパテル派たちは苦虫を噛み潰したような顔で出迎えた。一年生で最強とも言われる戦力。並のティーパーティー部隊員では、二年生や三年生でも1対1で勝つのは難しいとさえ言われている。
「……その人を離しなさい」
そう言われて、判断に迷う傘下組織構成員たち。確かに彼女たちにとっては行政官の命令よりも、実働部隊の指揮を行う士官候補生の方が優先度は高い。しかし、ハナコを拘束するように指示を出したのは上級生だ。
「マアサさん、貴女は他の士官候補生と共に古聖堂を警備していたのでは?それであの攻撃を受けたなら、今も動ける状態ではないはず」
行政官がやっと言葉を切り出して、まず出たのは何故ここに無傷でいるのかと言う疑問。それに対してマアサは平然と答える。
「少し喉が渇いたので、アイカとマイハと一緒に飲み物を買いに行ったら幸運にも巻き込まれずに済みましたよ」
サボった結果難を逃れたのか、と内心舌打ちしながら行政官は続ける。
「……あなたも同じパテル派閥なら、今すべきことは分かっているでしょう?」
暗にゲヘナとの戦闘行動に協力しろ、という意味を含ませて詰め寄るが、そんなこと知ったことかと言わんばかりに応えた。
「……正確な情報を収集し、この混乱を収める。それ以外に何があると?まさか、この状況でゲヘナへの宣戦布告など馬鹿げたことをする気ですか?」
交渉は決裂だ。相手は強いと言ってもただの一年生、他の反対者と一緒に牢にでも入れてしまおうと考えて。
「残念です、炎谷マアサ。一年生の中でも特に武に秀でた貴女は、来年以降のパテル分派を担う存在となったでしょうに。……捕らえなさい」
そう傘下組織に指示を出すが、彼女たちは無言で突っ立ったまま動かず。
「……」
「何を躊躇っているんです、早くしなさい」
痺れを切らしてそう急かしても全く聞く様子がない。それを見たマアサは溜め息をついて言う。
「はぁ……実働部隊の指揮権は誰にあると思っているんです?」
「それはもちろん、傘下組織の総指揮官──」
「指揮官なら、先程勝手にゲヘナと交戦して狙撃を受けて気絶したそうですよ」
本当にバカな連中だ。早とちりして行動を急いだ結果、無駄に負傷者を増やしているのだから。そうマアサが心の中で嘲笑すると、行政官は。
「じゃあ、その下は!?」
「次席である副指揮官も古聖堂で巻き込まれて負傷、救護騎士団によってベッドに縛り付けられています。その次は私たち士官候補生ですよ。本日だけの特別権限として、予めホストであるナギサ様直々に指令を受けています」
つまり、総指揮官も副官も指揮できない現況で、パテル分派の傘下組織実働部隊の全権を握っているのは……炎谷マアサその人ということだ。
「そんな……」
「……士官候補生権限で命じます。浦和ハナコを離しなさい。そしてティーパーティー傘下組織の護衛部隊は、ゲヘナへの宣戦布告があっても動かないように。フィリウス派とサンクトゥス派にも同様の通達があるはずです」
そう言われて、傘下組織構成員はハナコを離す。一旦場が収まったかと思いきや、別のパテル派が入ってきた。
「ミカ様を解放する準備が整いました!」
「……アイカ、この場は頼みますよ」
そう言ってまた駆け出すマアサを見送るしかできず、アイカはその場に立ち尽くすしかなかった。
この小説の主人公ってマアサでしたっけ……?そんな冗談はともかく、未来を知っているがゆえに慎重であまり積極的に動かない、動けないアイカと違って自分が正しいと思う道にひたすら突き進むマアサは、私としては動かしやすいキャラだなとは思います。
初期段階では影も形もないキャラだったことは以前話しましたが、そのまま進んでたら私は本当にどうやって話を展開するつもりだったんでしょうね……。