トリニティの監獄棟の一室。
「世間知らずのお嬢様が!わざわざ牢屋から出してあげようってのに、調子に乗って……!」
「自分の立場を理解しなさい!!ティーパーティーから解任直前の身で!!」
ゲヘナへの宣戦布告のために、名目上はクーデターを起こしたということで収監されているパテル派首長・聖園ミカを、刑務官を買収して解放したティーパーティーの主戦派。
しかし、ミカはゲヘナのことを嫌ってはいるが、宣戦布告なんて気分じゃないと拒絶。やりたければ勝手にやれば?と突き放した。
それに逆上した彼女らは、自分達のトップとは言え、囚人の身。まずは頬を張り、それから殴る蹴るなど凡そお嬢様とは思えない行動で害していた。しかし、そこに。
「な、何してんのっ!?」
「な、何だお前は!」
正義実現委員会の黒セーラー服を着た、小柄な桜色の髪の少女。彼女はミカと主戦派の間に割って入った。
「い、いじめはダメっ!どうして、こんなに大勢で寄って集って……!こ、こんなの私が許さないんだから!!」
そしてさらに、彼女とは別にこちらへやってきた、青色の髪にティーパーティーの制服。その姿を見た主戦派は、その名前を呼んで味方に付けようとする。
「炎谷マアサ!見てたんなら早くこっちに来て、この正実部員を摘まみ出しなさい!」
「はぁ……うちの派閥はどうしてこんなに馬鹿ばっかりなんでしょうね」
しかし、マアサは溜め息と共に哀れむような視線を向けた。
「な、何を……」
「最初から見ていたわけではないので知りませんが……大方、唯一健在のティーパーティーであるミカ様に宣戦布告しようとしてもらったけど、拒否されたから逆ギレした……そんなところですか?」
そうして大体の流れを言い当てられると、主戦派の一人は図星を付かれて声を張り上げた。
「う、うるさい!!一年生の癖に偉そうに!!」
「……別に戦いたいのなら良いですよ、私が相手しても。まあ、私が演習弾以外を使ったらどうなるか……傘下組織のあなた方が、知らないはずがないでしょうが」
ミカはそれを聞いて思い返していた。一ヶ月ほど前、マアサと戦った時に受けた銃弾。それはしばらくの間、神経毒を仕込まれたかのような痛みを伴っていたことを。何時間か経てば毒は消えたが、そう何度も食らいたい代物ではない。
「くっ……」
コハルとマアサは一歩も引く様子がなく、主戦派の方もそれ以上踏み込めずにらみ合いがしばらく続いて、その膠着はある人物によって破られた。
「"何してるの。"」
「せ、先生っ!?」
銃撃を受けて出血多量、意識不明の重体となっていたシャーレの先生。まだ痛みの残る体ながら、事態を収めようと動いていた。
「"お願いだから、まずは暴力をやめてほしい。"」
「そ、それは……」
「……か、帰ろう。先生を相手にするのはマズいって」
そうして先生の強固な意志を宿した表情を見て、主戦派たちはすごすごと退散していった。
「せ、先生……先生……!」
普段は人見知りなコハル。複数の、交戦も辞さない敵意の視線に晒されて、どうしても内心心細かったらしく、涙目になって先生を見る。
「"コハル、カッコよかったよ。さすが正義実現委員会のエリートだ。"」
「先生……!」
「そうですね……コハル」
そのやり取りを見て、マアサもまたコハルに声をかける。
「な、なに?」
「……すみません。最初、補習授業部で会う前にあなたの話を聞いたとき、正実なのに弱いんだなと思っていました」
そうして、頭を下げて言う。それを聞いたコハルは先ほどの泣きそうな表情から一転して。驚いたような、怒ったような表情で答える。
「そんなこと思ってたの!?」
「でも、今。考えを改めました。……あなたは、強いです。私が保証します」
一年生の中ではトップクラスに強いとされるマアサによる保証。この前の戦闘でミカ相手に劣勢ながらも凌いでいたことを見ていた彼女は、その意味を充分に知っている。
「あ、ありがとう……?」
……ただ、コハルにとっては“当たり前”のことをしただけ。それで何故「強い」と言われたのかはよく分かっていない様子だった。
「"……ミカは、大丈夫?"」
先生はミカの方へ向き直って聞く。痛みこそあるが、彼女の頑丈さなら大したことではない。しかし、先生はそういうことを聞いているわけではないのだろう。
「えっと、何て言うか……久しぶり、だね?」
「"そうだね。ミカ……ミカは、どうしてさっき……。"」
ゲヘナへの宣戦布告に賛同しなかったのか。そう問うて、彼女の答えは。
「え、あー、それは……なんでだろ。絶好のチャンスだって言うのは分かるけどね、でも……私にも、よく分からないや……」
そこにマアサがいつもの調子で口を挟んで言う。
「ミカ様にも、今は余計なことをしないという分別があったからだと思っていたんですが……違うんですか?」
「もう、マアサちゃんってホント減らず口だね。まるでセイアちゃんみたい……」
ミカはセイアの名前を出すと、何故かは分からないが自然と涙が零れて。
「セイアちゃん……あれ、ちょっと待って、私……」
そうして思い返す、すべての始まりを。
きっかけは、アリウスと仲良くしたいとティーパーティーで集まった時に言って。政治的利益について聞かれて、アリウスを吸収してさらに強くなったトリニティで何をするつもりだと言われて。ゲヘナを攻めようって声があるからそうしようかと軽く言ったら、呆れたような視線を向けられて。
(真面目にアリウスと和解したいって言っただけなのに、なんでそんな目で見られなきゃいけないの?)
腹が立って、アリウスの部隊に命じて病院送りにさせようとしたら、セイアが死んだという知らせを聞いた。
(違う、そんなつもりじゃなかったのに……あれ、私はなんでセイアちゃんを襲撃させたんだっけ……)
(……そう、私がホストになって、ゲヘナが嫌いだから、攻めようと思って。ナギちゃんがゲヘナと和平条約を結ぶなんて変なことを言うから)
(だから、これは仕方ないんだ)
「わ、私は……っ、ごめん……セイアちゃん……どうして、こうなったんだろう……こんなにバカな私で、ごめん……」
「"ミカ……。"」
ミカは泣き腫らした顔で、先生を見上げる。
「先生……私、セイアちゃんに会いたい……ナギちゃんにも……こんな私じゃ、もうダメかもしれないけど……」
「"……任せて、ミカ。"」
ただ、彼女はまだ謹慎中の身であり、セイアもナギサも昏倒している。それに、先生は今現在の混乱も収めないといけないわけで。ひとまずこの牢を後にして、向かうべき場所へと向かっていった。
◇◇
「先生……!」
コハルとマアサを連れて部屋に入ってきた大人の姿を見て、安心する。とにかく、先生が生きている。その事に、心から安堵する。情報として知っているのと、自分の目で確認することには明確な差があるから。
「"みんな、待たせてごめん。ここから先は、私に任せて。"」
そうして、先生は各組織に指示を出していく。超法規的権限を持つシャーレだからこそ為せる業。そして僕とマアサも、先生の指示で古聖堂へと向かう。
古聖堂へ向かう途中にティーパーティー本部に寄って会議でだいぶ疲れた顔のマイハを回収したら、訓練場で弾薬の補給の後に目標の場所へ。
「士官候補生、到着しましたわ!」
そこには既に補習授業部に正義実現委員会とシスターフッド、アビドス対策委員会と風紀委員会もいて。
「ん、アイカ。久しぶり」
「は、はい。砂狼先輩」
そういえば、シロコとセリカは前にシャーレの任務で一緒になったことあったね。その一回だけだったからぶっちゃけ忘れかけてたけど。
「包囲、されてしまいましたねぇ……。特にあのポンポン砲、当たったらすごく痛くて苦しそうです……」
「これはちょっと厳しいんじゃない、リーダー?」
そしてそう、目の前で対峙しているのは……アリウススクワッド。秤アツコは確かヘイロー破壊爆弾で負傷してここにはいないけど、それ以外の三人が。
「問題ない、無限に増殖するユスティナ聖徒会の前ではいくら頭数を揃えようと無意味だ」
その言葉に呼応するように、ハイレグレオタードにウィンプル、そしてガスマスクまで装備した変た……特徴的な格好*1の集団が現れる。
「この場にいる全員に知らせてやろう、この世界の真実を。殺意と憎しみに満ちたこの世界で、努力など何にもならないと。足掻こうと何の意味もないと、全ては無駄なのだということを!」
ヒフミは先生にアイコンタクトを取り、それに先生も頷いて。それから、アズサの方へ向き直る。
「ヒフミ……」
「アズサちゃん、私は今すごく怒っています。すっごくです」
そう言われて目を逸らすアズサだが、ヒフミは続けて言う。
「ですが……それ以上に、無事でよかったです。それにすごく怒っていましたが、よく考えたらそれはアズサちゃんのせいではありません。だから、私はアズサちゃんにはもう怒っていません」
そして再び、アリウススクワッドに向かって。
「ですが、あの方々についてはまだ怒っています。殺意ですとか、憎しみですとか……それが、この世界の真実ですとか……それを強要して、全ては虚しいのだと言い続けていましたが……」
「お前だっていずれ思い知る!この世の全ては──」
しかし、ヒフミがそこまで言ったところでサオリが口を挟んで反抗しようとする。ちょっと、人が話してる途中でしょ。
「お黙りなさい!」
「なっ……!?」
何人たりとも、今この瞬間だけは、彼女のその言葉を遮ることはできない。──遮らせない。
僕が一喝して静かにさせたところで、ヒフミはその先を続ける。
「それでも、私は……アズサちゃんが人殺しになるのは嫌です……!そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです。それが真実だと、この世界の本質だと言われても、私は好きじゃないんです!」
僕は、その言葉を知っている。この物語の、最大の山場のひとつ。とある一人の少女の、心からの叫び。
「私には、好きなものがあります!平凡で、大した個性もない私ですが……自分が好きなものについては、絶対に譲れません!」
言うほど平凡だったり個性ないかな……?めちゃくちゃ非凡だし個性が濃いと思うけど。もちろん、良い意味でね。
「友情で苦難を乗り越えて、努力がきちんと報われて、辛いことはお友達と慰め合って……!途中に苦しいことがあっても、最後には必ず誰もが笑顔になれるような……そんなハッピーエンドが、私は好きなんです!」
友情、友達……マイハとマアサをふと見る。彼女達もまたヒフミの言葉に聞き入っていて、こちらの視線に気づくと、ただ静かに頷いた。
「誰がなんと言おうとも、何度だって言い続けて見せます!」
その声に呼応するかのように、朝日が顔を出し、雨を落とす雲が薄れる。
「私たちの描くお話は、私たちが決めるんです!」
ヒフミは決意を込めて、拳を握り締める。
「終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!」
そしてこの物語の主役は、天に指を突き刺して言い放つ。
「私たちの物語……私たちの、
雨雲は完全に晴れて、青い、青い空が祝福するようにこの世界を包む。
「雨雲が……気象の操作?いや、これは……」
「き、奇跡、ですか……?」
「っ、奇跡なんてあり得ない!何これ……」
困惑するアリウススクワッドだけど、それに構わず先生は毅然として立ち上がる。
「"──ここに宣言する。私たちが、新しい
「なっ……!?」
ここはエデン条約締結の場である古聖堂のあった場所で……そして今、本来のエデン条約の主体であるトリニティのパテル・フィリウス・サンクトゥス各派閥の代表者と、正義実現委員会にシスターフッド。ゲヘナからは風紀委員会が集まっている。
そして、この条約の発起人は今は失踪している生徒会長。その代理として連邦生徒会長が創設したシャーレの先生が宣言した。
つまり、エデン条約を“奪った”アリウスから、先生がさらに“奪い返した”ということ。『大人』のやり方には、『大人』のやり方で。
「……リーダー、ユスティナの統制がおかしくなってる」
その戒野ミサキの言葉通り、ユスティナ聖徒会の複製は消えたり出現したりを繰り返しており、戦闘どころではなく。
「こ、混乱してますね……エデン条約機構を助けるというのが戒律、だけど今はETOが二つあって……」
ETOは『2つ』あったッ!という台詞が一瞬頭を過る。今はそんなこと言ってる場合じゃないけども。
「知ったことか!ハッピーエンドだと!?ふざけるな!そんな言葉だけで、世界が変わるとでも!?」
未だに
「それだけでこの憎しみが、不信の世界が変わるとでも言うつもりか!?何を夢のような話を……!」
「"生徒たちの夢を……その実現を助けるのは、大人の義務だから。"」
先生は、サオリたちを諭す。悪い大人に利用され続けてきた彼女たちを、その暗闇の中から助け出すために。
「何を……!」
「"私は生徒たちが願う夢を信じて、それを支える。生徒たち自身が心から願う夢を。"」
先生がそこまで言い終えたところで、僕は自分の思ったことを、思ったままに口にした。
「……本当に全てが虚しいのならば、そこに帰結するというのならば。あたくしたちは負け、あなた方が勝つはずです。でも、そうはなりません。それを証明しましょう」
「……いいだろう、思い知らせてやる。お前たち全員に……そしてアズサ、お前にも思い出させてやろう!」
その声と共に、後ろには前世で見覚えのあるデカい怪物のようなモノが現れた。
「……アンブロジウス。あの人形は失敗作と言っていたが、これでも充分だろう」
なるほど、それが切り札というわけか。でも、先生の指揮さえあれば……負ける気なんて、全く感じない。
◇
「撃っても撃っても湧いてきますわね……!」
ボンッボンッボンッと爆煙を撒き散らしながらひたすら支援射撃。混戦状態なせいで、味方を巻き込まない位置を見極めながらなのであまり連射はできない。
一応先生に味方同士で固まるよう伝えてほしいとは言ったけど、さすがにそう徹底できるわけではない。
ユスティナの複製はたまに至近距離で湧くので、そういう時は拳銃で片付けてる。だけどいちいち射撃を中断をしなきゃいけないのは煩わしい。
アリウス兵はその点遥かにマシだね。無限湧きせず段々減ってるのが分かるし、唐突にポップしないから近づかれる前に40mm2ポンド弾で吹っ飛ばせばいいし。
あ、あとさっき皆で集中砲火して倒したアンブロジウスも楽だったな。デカいしあんまり動かないからいい的だった。
「補習授業部は、どうなりましたの……!?」
前線にいるマアサに、無線機で補習授業部について尋ねる。
「先ほど包囲を突破して、今はアリウススクワッドと……あ、アズサ先輩がスクワッドを追って古聖堂の地下に……」
「分かりました、あたくしも行きますわね」
地下にあるのは……ヒエロニムス。なら、戦力は多い方がいいだろう。動きの少ないデカブツ相手ならこのポンポン砲もやり易い。
地面も瓦礫でガタガタな中、パンクしないことを祈りながら地下に入る。少し開けたところでアズサとサオリが戦闘している様子なので、こちらも支援射撃をする。
「貴女にはたくさんの仲間がいます。補習授業部と先生はもちろんのこと、あたくしたち士官候補生だって、それ以外のトリニティ生も大勢。だから、貴女は……負けません」
もちろん、この呟き声は離れたところで戦闘中の彼女には聞こえていないだろう。それでも、アズサはフッと笑みを浮かべた……そんな気がした。
しばらく二人がやり合って、先にサオリが倒れる。そのすぐ後、力が抜けたようにアズサも床に伏した。というか、2回くらいポンポン砲を打ち込んだのになんでサオリは立ってたんだろう……。
そしてそこに、所々欠けたマスクを着けてフードを被った少女が現れる。何を言っているのかはここからは聞こえないけど、多分前世通りなら……アリウスに戻っても殺されるだけだから逃げよう、という話だろうか。そんなことを考えていると、突然地面が揺れる。奥の方でアンブロジウスと同じく、ゲームで見たことのある姿が。
「出ましたわね、ヒエロニムス……!」
一瞬前世のコラ画像*2のことを思い出して笑いそうになったけど、すぐに気を引き締める。
そして、アズサたちの側にいた先生が何かを取り出して掲げるのが見えた。
───大人のカード。先生が使える謎の多い存在、あるいは手段。使う度に人生を、時間を代価として削られていくという物騒なもの。
それを、先生は今回……この場にいないはずの生徒を呼び出して助力を求めるようだ。ゲームだと、自前で持ってる生徒を出さないと行けないからレベルが足りてないと結構苦戦する箇所なんだよね。本来の推奨レベル65前後らしいし。
「先生は誰の手を借りるのでしょうか……?」
そう思って見ていると、ヒエロニムスの前には……和楽チセ、春日ツバキ、水羽ミモリ、才羽モモイの四人が。そして僕の少し手前ぐらいに、戦車に乗った棗イロハと愛清フウカ。
(フウカ以外会ったことないな……)
フウカについてもシロコと会った時と同じ任務で一緒になったけど、それっきり。まあ所属校の都合、珍しいことでもないけどね。
そんなことを考えていると、先生の指揮の元、大人のカードで呼び出された彼女たちは周囲に湧き出すユスティナ諸共ヒエロニムスを倒し、消滅させた。
ただ、そのどさくさに紛れてアリウススクワッドは退却した様子で。まあ、アリウスには戻らないみたいだし……トリニティにこれ以上何かするつもりもないだろうけど。
「お疲れ様でした、アズサさん、先生」
「あ、アイカ……」
呼び出された六人もどこかへ姿を消したところで、アズサと先生の側まで、トラックに乗ったまま移動した。
「地上まで……いえ、救護騎士団の方まで送りますわね。先生も体に鞭打って来たのでしょう」
「"そう、だね……お願いしてもいいかな。"」
「はい、お二人とも運転台へどうぞ」
そうして、相変わらず瓦礫ばかりの床を、ユスティナ聖徒会も消えたことだしゆっくりと進む。そして地上に出たら、先生は周囲で待っていた皆に全部終わったことを知らせて、救護騎士団の建物へと向かった。
本文で先生が大人のカードで呼び出した生徒は、私が実際に突破した時の編成です。レベル56でのクリアでしたね。
それとこの話をゲームで再現するとしたら、エデン条約編3章19話の戦闘ではアイカがSPECIAL枠に加わって対策委員会の前にウェーブがひとつ追加され、マイハ、マアサが援軍として登場し、その後アンブロジウスのウェーブで二人も再登場。
エデン条約編3章23話の戦闘ではたまにアイカの対空砲の砲撃が飛んでくると言った感じになるでしょうか。
ただでさえ原作でも集中砲火食らってるのにさらに相手戦力が増えるアンブロジウスくんは泣いていい。