事件の後始末、とにかく忙しく動くことになった。三大派閥のトップがセイアに加えてナギサまで倒れてしまった上、古聖堂への攻撃に巻き込まれたり、ゲヘナと勝手に交戦した結果負傷したり、アリウスとユスティナ聖徒会からトリニティを防衛する際に攻撃を受けたり、パテル派のクーデターに参加していたために拘束されたり。色々な要因で、ティーパーティーの稼働人員は実に半分近くにまで減っていた。そのため、一年生である僕ら士官候補生まで駆り出される羽目になったのだ。
そういった業務がようやく落ち着いた事件の数日後、とある病室。僕はある目的でここで療養している人物に会いに来た。
「お身体の具合は如何でしょう、ナギサ様」
「ヘイローが砕けるかと思いましたよ……どうやら無事ではあったようですが」
そう、ナギサがようやく目を覚ましたということで見舞いに来ていた。
「はい、ともあれご無事で何よりですわ。まだ完治したわけではないそうなので、無理はなされないでくださいませね」
「……古聖堂で倒れていた私を運んでくださったのは、アイカさんだったそうですね。ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。こちらは見舞品です」
そう言って、実家から取り寄せたフルーツを台に置く。
「ところで、いらっしゃったのはなにかご用件が?」
ナギサから切り出されて、ある封筒を手渡す。
「実は言いますと、ミカ様からナギサ様宛の手紙がありまして」
「ミカさんから……中身は?」
「いえ、ご友人同士ですし……ご自身で確認された方がよろしいかと思いまして。中身の確認は、検査で危険物でないかどうかだけです」
まあ前世のゲームで大体何が書いてあるかは知ってるけど。ナギサはどこか期待した様子でそれを開けて、読んでいくが……段々と眉間にシワが寄っていく。
「……アイカさん」
「な、なんでしょう……」
「刑務官に伝えてください。『ミカさんの今後のお食事はロールケーキのみで構わない』と」
「は、はぁ……」
ナギサは手紙を読み終えて、そう言い捨てた。本当にそんなことやったら栄養偏りすぎて病気になるんじゃないかな……僕はとりあえず、苦笑いして返事を濁すしかなかった。
◇
それからさらに数日が経って、ひとまずナギサも傷が癒えたということで……久しぶりにティーパーティーを開催することになった。
「あれ、マイハちゃんいないの?」
ナギサの側で控えていると、左にマアサ、右に脱走しないよう監視の正実部員が付いている状態でミカがやって来て。
「ミカさん……」
「ナギちゃん、何でまだそんな顔してるの?上手く行った……ことはまあ、少ないのかもしれないけど」
ぶっちゃけナギサが考えていたエデン条約は完全に破綻したわけだしなぁ……結局、エデン条約最大の目的であるトリニティとゲヘナの和解は騒動で有耶無耶になったまま終わっちゃったし。
「それは……」
「まだ私たちには、解決できていない問題が山積みだから……だろう?」
ナギサがなにか言おうとしたところで、金色の髪にキツネらしい耳の生えた少女──百合園セイアと、それに付き従っているマイハが登場した。
「せ、セイアさん……?」
「セイアちゃん!?」
「……やあ、ナギサ、ミカ。……それに、アイカとマアサだったかな」
久しぶりに、ティーパーティーの三人が集合した。セイアが襲撃によって寝たきりになってから実に一年近く。
「長い時間が経ち、色々なことがあったが……私たちはそろそろ、お互いに話さなくてはいけない。言わなかったこと、言えなかったこと……そして、本当は言いたかったこと」
そうセイアが話している間に、マイハにふと気になったことを聞いてみる。
「マイハさんって、セイア様と会ったことはございましたの?」
「いや、さっき急に呼ばれて会ったばっかりだよ~」
まあ一年生だし、入学した時には既に襲撃されてたから会えるわけないよね。
「誤解もあるだろう、信じられないこともあるだろう。例えどこにも到達できないとしても……それでも、他者の心という証明不可能な問題に向き合うしかない。私たちは、進まねばならない。その宿題をずっと背負いながら、それでもこの暗闇の中を……ただその先を目指して」
「……そう、ですね」
ナギサが相づちを打つと、ミカは頬を膨らませて答える。
「うん、それはすごく同感……だけど、相変わらず難しいことばっかり。セイアちゃん、そんなだから友達少ないんじゃないの?自覚してる?」
早速喧嘩売ってるよこの人、大丈夫かなこの先。そんな風に思っていると、セイアの方も売り言葉に買い言葉という感じで。
「……まずミカは、そのがらんどうで良く音の鳴りそうな頭に、教養と品格を入れてもらった方が良さそうだね?」
「ふーん、ああそう。それにしてもセイアちゃんって小さいよねー。横にマイハちゃんがいるから際立ってるよ☆」
「五月蝿いな、今それは関係ないだろう。そう、君はいつもそうだ、自分に不都合なこととなると話を逸らして──」
「あの、お二人とも……」
そうしてやいのやいの言い始めた二人。マアサは溜め息を吐いてゲームの解説書を読み出し、マイハは「セイア様って意外と面白い人なんだね~」と笑って眺める。僕はというと、苦笑いしながらナギサがどうにかするのを待つ他なかった。
◇
それから一週間。なんかニュース見てたらSRT特殊学園閉鎖に反対する生徒の抗議とか、ヴァルキューレ警察学校が襲撃されたとかでD.U.地区が騒がしいらしい。それはつまり、カルバノグ1章の内容が起きているということだ。ただし特にやれることはないのでスルーして、今。僕はとある教室にいるわけだけど……。
「マ、マイハ……足がしびれる……」
補習授業部の四名が、マイハによって正座させられていた。三次試験も全員合格で突破した訳だし、そもそもナギサが補習授業部を作った目的である『エデン条約の妨害者・トリニティの裏切り者を探す』ことについても既に決着した。本来であれば、彼女たちは“元”補習授業部のはずなのだが……。
「もう、本当に理解できません。ヒフミ先輩、なんでまた試験をサボるんですか?ペロロ様が大事だというのは分かりますが、学生の本分は学業ですよね?」
「はいぃ……」
ガチトーンのマイハによる説教。僕とマアサは後ろに控えていて、ふわふわの翼が特徴的な背中しか見えないけど……補習授業部にはどんな表情のマイハが見えているのやら。
「アズサ先輩、ちゃんと自分で勉強する習慣を付けてください。環境が特殊だったので仕方ないところもありますが、もし分からないところがあるのなら周囲の人を頼ってください。あなたのことを助けてくれる人は少なくないはずですよ」
「うん……わかった」
そして次はコハルの方へ向き、彼女はビクッと体を震わせる。ただでさえ小さめの体が、さらに萎縮したように見える。
「コハルちゃん。自信を付けるのはいいことだけど、物事には順番ってものがあるよね。もしかしたら、この四人で一人だけ一年生だから飛び級して並びたいとか、そういう気持ちもあったのかもしれないけど。自分にできることを見極めて、少しずつやろうね」
「ひゃい」
そしてラストはハナコ。普段は飄々としている彼女でさえ、今はマイハと対面して冷や汗を流している。
「ハナコ先輩、別に補習授業部が解散したからって永遠に離ればなれになるわけじゃないですよね。この四人で一緒に何かしたいというならいくらでもやりようはありますよね?わざわざ手を抜いて不合格になって来る必要はあったんですか?」
「それはですね……」
他の三人と違って弁の立つハナコは何か反論しようとしたものの、それを言う前に一刀両断される。
「言い訳は聞きません。真面目に試験を受けてください」
「はい……」
一応先生もここにいるけど、思うところがあったのか、それとも下手に刺激しない方がいいことを察したのか、無言を貫いていた。
「ま、まあマイハさん。今回は退学も無いみたいですし、試験範囲も普通で合格点は60点ですし……ちゃんと勉強すればすぐに合格できますわ。なので、そのくらいで……」
「うん……アイカちゃん。ちょっと、言いすぎちゃったかも。でもちゃんとしないと、あとで後悔するのは自分だからね」
いやー、普段滅多に怒らない優しい人がいざ怒るとマジで怖いってことを痛感したよ、本当に。その後は普段通りの様子に戻って普通に勉強教えてたけど、なんか四人の表情が固かったもん。
カルバノグ1章はナレーションスルーです。どう考えてもエデン条約のあれこれで介入しに行く暇がないでしょうからね。