ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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26 私の信じる正義

 拝啓──お父様、お母様。残暑もようやく去って秋の涼しさが感じられる今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。

 

〈セイア様に危害を加えた聖園ミカを許すな!!〉

 

 もしかしたらニュースなどでご存じかと思いますが、トリニティとゲヘナの和平条約であるエデン条約。その調印式が何者かの攻撃によってご破算となりました。

 

〈トリニティにアリウスを呼び込み、エデン条約を滅茶苦茶にした裏切り者に天誅を!!〉

 

 あたくしもティーパーティーに所属する者としてそこにいましたが、あたくしは無事ですのでどうぞご心配なさらず。そして近日まで、その事後処理に当たっていたのですが……それもようやく一段落したところです。

 

〈咎人に断罪を!!〉

 

 それとあたくしにはあんまり関係のないことですが、ヴァルキューレ警察学校関係で色々あって、D.U.地区は色々と騒がしいようです。ヴァルキューレはよりにもよってあのクズ……失礼、カイザーグループと組んで汚職に手を染めていたと聞きました、全く許しがたい事態です。

 

〈裏切り者の魔女を退学させろ!!〉

 

 さて、小難しい話はそれくらいにして。スポーツの秋と言いますが、まさに運動日和の晴れた空、適度に涼しい気候が続いています。あたくしもまた半月後に迫ったキヴォトス全域を挙げてのスポーツの祭典『晄輪大祭』に向けて、種目の練習などに励んでいるところで──。

 

〈トリニティを、私たちを騙した魔女を引きずり出せ!!〉

 

「……あぁもう!!」

 

 せっかく静かで人もあんまりいない自習室を見つけて、のんびり手紙でも書こうと思ってたのに、うるさいったらありゃしない。せめて拡声器使うのはやめてくれないかな。

 

「しゃあしか*1って言いよろうもん!!くらされたいと*2!?」

 

〈えっ、何いまの……!?〉

 

〈何言ってるか分かんないけどめっちゃ怒ってるのは分かる……〉

 

 窓を開けてデモ隊に向かって叫ぶと、怖じ気づいたのか蜘蛛の子を散らすように帰っていった。多分ミカの断罪デモだろうけど、マジで迷惑だな。

 

 

 

 

 そして翌日、マイハとマアサと一緒に食堂へ向かっていると、普段は全然人のいないちょっとした広場で、数人の生徒が集まって何かを囲んでいる。

 

「あれって……」

 

 マイハと一緒に覗き込むと、そこには薪と一緒に服やアクセサリー、それにアルバムや飾られた箱が乱雑に積まれている。それを囲んでいる生徒の一人はガスバーナーを持ち、その側には恐らく灯油が入っているであろうポリタンクまで置いてある。これは、まさか。

 

「……ちょっと行ってきます」

 

「マアサさん……?」

 

 僕が動くより先にマアサが集団の中に入っていき、今まさに燃やされようとしているもの……恐らくは、ミカの私物の前に立ちふさがった。

 

「へぇ、こんな真っ昼間からキャンプファイアーですか。面白いことをしてますね?」

 

「炎谷、マアサさん……」

 

 彼女の名を呼んだ、バーナーを持つ生徒に詰め寄ってマアサは聞きただす。

 

「で、そんな冗談は置いておいて……これは誰の物です?処分予定の不用品には見えませんが」

 

「……あなたも大体、想像が付いてるんじゃないの?」

 

 きっと、マアサもまた、これがミカの私物であり……いじめの一環で燃やそうとしていることは察しているのだろう。

 

「なら、なおさらこんなことは認められませんね」

 

「……なぜ?魔女……聖園ミカは、アリウスと繋がってエデン条約をめちゃくちゃにした。そのせいで、あいつの所属してる派閥ってだけで私たちパテル分派は白眼視されてる!全部あの魔女のせいよ、関係ないのに!!だからこれくらい許されるはず……あなたもパテル派なら分かるでしょ?」

 

 いや、普通にどさくさに紛れてクーデター起こそうとしたりゲヘナに宣戦布告しようとしてましたよね?それでミカを牢から出して担ぎ出そうとしたけど、どうでもいいって一蹴されて。

 

「あなた方のやっていることは正式な手順もへったくれもない、ただの私刑。……いえ、それ未満ですね。八つ当たりでしかありません」

 

「だから何よ!?」

 

 そう言って激昂してマアサの制服の襟を掴む生徒に、憐憫の視線を向けてただ冷静に言う。……戦闘をするつもりなら、僕もマイハもマアサの援護をする準備はできている。

 

「ミカ様がやったことは確かに軽く済むことではないでしょう。結果的には、彼女がゲヘナとの調印式を破壊した罪人であることも確かです」

 

「そうよ、だから……」

 

 襟首を掴む手を強引に離させ、その反動で相手は尻餅をついた。彼女を無表情で見下ろして、マアサは続ける。

 

「だから、何をしても良いと?犯罪者だって最低限の人権は約束されています、それが法治の原理です。相手が犯罪者だからと言って殺害していいのですか?」

 

「それは……」

 

「同じことです、確かにミカ様は許されがたいことをしました。だから彼女から物を盗んでもいいのですか?その盗んだものを壊したり、燃やしたり……そんなことがトリニティの法規では許されているのですか?」

 

 そう問いかけ、マアサは銃を向ける。そこには演習弾ではなく、実弾が込められている。最後に彼女は、今まで聞いたこともないような冷たい声色で言い放った。

 

「散りなさい、パテル分派の恥さらし」

 

「……覚えてなさいよ」

 

 そう呟いて去ろうとするパテル派に、マアサは口角を上げて言う。それはまるで、挑発するかのような表情で。

 

「……へぇ、私にもミカ様にしたようなことをする気ですか?言っておきますが、私に犯罪歴はありませんよ。私を害するというなら、それは“犯罪者に罰を”という最低限の体裁すらない行為。心置きなく正義実現委員会に通報できますね?」

 

 そう言われて顔を真っ赤にした生徒は、ダンッダンッと苛立ちで地面を踏みしめて音を立てながら帰り、彼女が主犯格だったのか周囲の生徒もそのまま散り散りになる。そうして場には僕ら三人が残された。

 

「……はあ、本当にうちの派閥は馬鹿ばかりですね。情けない」

 

「これ……ミカ様の私物、ですわよね?どうしましょうか……」

 

「そのままミカ様に返したら、また盗られちゃうよね」

 

 ただ、僕らで保管って言うのも現実的じゃないしな……と思ったところに人影が現れる。

 

「性懲りもなく戻って……あれ、コハルじゃないですか」

 

 マアサは先ほどの連中が戻ってきたと思ったのか銃を構えるが、その姿を確認するとすぐに降ろした。正義実現委員会の制服を着た、小柄なピンクの少女。

 

「え、えっと……あの!それ、私の方で預からせてもらえない……?」

 

「コハルちゃんが?」

 

 そうマイハに聞かれて、コハルの答えはというと。

 

「いや、私っていうか、正義実現委員会で……正実でも、ミカ様に対するああいうことは何とか止めようとしてるんだけど……」

 

「ふむ?」

 

「それで、私……押収品管理をしてるから。押収品管理室でしばらく預かろうと思うの」

 

 それを聞いたマイハは、何か合点が行った様子でコハルに向き直る。

 

「うん、そうだね……いくらあの人たちでも、正実の部室にまでは手出しできないよね。コハルちゃん、ナイスアイデアだよ~」

 

 そう言って、マイハはコハルの頭を撫でようとするがさっと避けられた。

 

「子供扱いしないでよ!?じゃ、そういうことだから!私に任せて」

 

「……頼みましたよ、コハル」

 

 マアサは薪を取り除いて、ミカの私物たちをまとめ、それをコハルに手渡した。

 

 

 

 ……と言っても、さすがに一人で持ちきれる量ではないので僕たちとコハルで押収品管理室まで手分けして運ぶ。

 

「それにしても、マアサってすごいのね」

 

「?」

 

「だって、あんな……火も持ってる人たちにも物怖じしないで向かっていくなんて」

 

 コハルがそんな風に呟くと、マアサはフッと笑って答える。

 

「この前コハルも似たようなことしてたじゃないですか」

 

「えっ、あれは……うん、でも……そうかも」

 

 この前……僕は直接見てないけど、エデン条約の当日、ゲヘナへの宣戦布告を拒否したミカに、暴行を加えていた主戦派から庇ったことだろうか。

 

「コハルはとても強いですよ。この()()()だって見ぬふりをしてしまう方が、面倒ごとを抱えずに済むという点で楽だったのにコハルはそれをしませんでしたから」

 

「うん、だって見過ごせなかった……」

 

 そうして、ミカの私物を秘密裏に押収品管理室へ持っていき、耐火の高耐久コンテナに詰めて厳重に保管することとなった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 エデン条約の当日からそれなりに時間も経って、だいぶ体調も回復してきたナギサ。彼女は執務室にて、フィリウス派の行政官によるある報告を受けた。

 パテル分派の生徒によってミカの私物が盗まれ、焼却されようとしているところにマアサたちが割り入って止めさせ、コハルの提案で押収品管理室にて保護されたという件について。

 

「ふむ……士官候補生とコハルさん、彼女たちには感謝しなければいけませんね」

 

 ただ、それはその場しのぎに過ぎない。さすがに押収品管理室へ忍び込み、正義実現委員会と真っ向から敵対してまでミカの物を奪って破壊するような人間はいないだろうが……それ以外の、毎日開かれているデモやミカ自身に対する嫌がらせが止まるわけではない。

 

「相変わらずミカさんへの糾弾は厳しいですね……」

 

 ナギサが何よりも……自分の地位や、命よりも優先するような存在であるミカが害されているというこの状況。何とかしたいが、ティーパーティーのホストである自分がミカを庇おうとすればするほど……桐藤ナギサの幼馴染で親友という立場を利用し、ティーパーティーの権力で庇わせようとしているという謗りは避けられないものとなるだろう。

 

「どうしたものか……」

 

 中には実際にミカによって被害を受けた生徒もいるだろうが、多くは八つ当たりや、野次馬といったもの。時間が解決してくれるだろうか。

 

「ただ、その前にミカさんが限界を迎えてしまうかもしれません……」

 

 エデン条約のことも完全に片付いたわけではないのに、まだ解決しなければならないことがある。ナギサは行政官が去った後の執務室で一人、頭を抱えた。

 

*1
うるさい、の意

*2
殴られたいのか、の意




この辺の、ミカへのいじめを軽減するのはマアサのキャラを思い付いたときから考えていたことです。その結果コハルとの絡みがやたら増えるのまでは予測できませんでしたが。
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