ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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28 檻の中のラプンツェル

 ミネとサクラコが戻ったあと、ナギサは小さく溜め息をついた。

 

「ナギサ様、大丈夫でしょうか?」

 

「ええ、胃が痛いですね……元々は私とミカさんが招いた事態なので、これに関しては受け入れる他ありませんが……」

 

 今後もしトップに立つことがあれば、こういったことにならないよう慎重に行動しないとだね……そんなことを思っていると、まずは労う先生。

 

「"お疲れ様。"」

 

「……ありがとうございます、先生。何だか情けない姿ばかりお見せしてしまっておりますね……」

 

「"さっきの話だけど、ミカに何かあったの?さっきから何か……。"」

 

 そう聞かれて、ナギサは先生に明日行われる聴聞会について話し始める。これまでにミカが犯した罪、とりわけエデン条約でのことを中心に話し合われる予定で、ミカは恐らく退学処分が下されるだろうということも。

 

「エデン条約の事件以降、ミカさんに対する世論は悪化の一途を辿っています。彼女は既に所属していたパテル分派から追放され、明日行われる聴聞会でティーパーティーとしての資格も剥奪されることが決まっています……」

 

 過程や真相はともかく、事実としてミカはアリウス分校と結託してエデン条約に関わる事件の主犯となっているわけで。険しい表情でナギサは続ける。

 

「聴聞会が開かれるまでにも、断罪を要求するデモが度々行われ、ミカさんのいる檻へ石を投げ込む生徒もいます。トリニティの掲示板にはミカさんを非難する書き込みが殺到し、パテル分派はミカさんが所属していたというだけで冷遇されています……」

 

 そういえば、この前ミカの物を燃やそうとしてた連中がそんなこと言ってたね。まあ、だからって何でもしていいわけじゃないけど。

 

「ミカさんが使っていた本や所持品は押収され、大事に集めていた服やアクセサリーも焼却されかけました……これについては、防いでくれたアイカさんたち士官候補生に感謝せねばなりませんね」

 

「いえ、率先して動いたのはあたくしではなくマアサさんですので。ただ、ミカ様が重ねてきた罪は重いでしょうが……それがどんな扱いをしても良いという免罪符にはなりませんもの」

 

 マアサの言っていたことの受け売りだけど、僕もまたその通りだと思う。

 

「"アイカ……。そして、そんな事態になってたんだね。"」

 

「……正義実現委員会が取り締まってはいますが、学園全体に広がっているこの空気を払拭するのは不可能でしょう」

 

「"……。"」

 

 生徒の味方であろうとする先生、その生徒にはもちろんミカも含まれており……何とかしたいという思いがあるのだろう、無言で考え込んでいる。

 

「……ミカさんはトリニティにおいて、公共の敵になってしまっています。それら全てをミカさんの負うべき罰として切り捨てることもできますが……」

 

「"ナギサは、どうにかしたいんだよね。"」

 

「……はい。ミカさんは既に自分の犯した罪以上の代償を払っているはずですから」

 

「"分かった、私も手伝うよ。"」

 

 その先生の言葉を聞いてわずかに表情に光を取り戻したナギサだが、またすぐに暗くなる。

 

「……ありがとうございます、先生。ですが、ミカさん本人が、ご自身の弁護をするつもりがないようでして……」

 

「"ミカが……?"」

 

 ミカは聴聞会を欠席しようとしているらしく、そうなればやらかした事が事なので一方的な決定で退学は避けられないだろうと。ナギサによる説得も彼女の判断を変えるには至らず。

 

「あるいは、セイアさんならできたのかもしれませんが……彼女は体調が優れずそれどころではありません」

 

 そして少し溜めて、ナギサは先生の目を見据えて言う。

 

「……先生、お願いしてもいいですか」

 

「"うん……私がミカに会って説得してみるね。"」

 

「ありがとうございます、先生のお言葉ならきっと……それに、ミカさんは先生のことを待っているようですので……」

 

 そこまで言うと、ナギサは溜め息をつく。このところ休まることがほとんどない様子なので、身体的にも精神的にも疲弊しているのだろう。

 

「少し、安心しました。まだ何も解決してはいませんが……」

 

「"ナギサは大丈夫……?"」

 

 先生の言葉を聞いてナギサは一瞬呆けて、それから。

 

「私……ですか?ええ、大丈夫です。いつも通りですよ」

 

 大変な状況がデフォルトになってるから、まあある意味いつもと変わらないのかもしれない。

 

「……ふふ、私のことを心配してくださるのは先生と……それに、アイカさんたちくらいですね。ありがとうございます。それでは……あとはよろしくお願いいたしますね」

 

 ミカのもとへと向かう先生を見送ると、ナギサは僕に呼び掛ける。

 

「……アイカさん、今日は讃美歌の演奏をするのではありませんでしたか?」

 

「あ……」

 

 エデン条約に関わる一連のことでシスターフッドと関わりを持ち、ピアノの腕を買われて時々聖堂に赴いて演奏をしている。そして今日がその演奏をする日だった。今回の会談が終わったら向かう予定だったけど、時計を見ると結構ギリギリの時間になっていた。

 

「……申し訳ありません、話が長引いてしまって。片付けは私がしておきますから、聖堂の方へどうぞ」

 

「お言葉に甘えて、失礼致しますわね」

 

 約束の時間まであまり余裕がない、僕は早足でシスターフッドの方へと向かっていった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 向かう途中に見た、断罪デモの様子を見て先生はミカを必ず説得しなければという気持ちを新たにして、そして何とか聴聞会に出席するという決断を取り付けた。

 次はセイアの元へと向かい、ミカと一度話をするように言おうとしたが、彼女は予知夢でキヴォトスの終焉を見たらしく……。

 

「"……でも、セイア。君は今、とても危険なことをしている。それは一人で何とかしようとするものじゃなくて、みんなで協力するようなことだよ。"」

 

「……」

 

「"そういうことは大人に任せてほしい。そして、セイアは目の前にいる人をちゃんと見てほしい。"」

 

 目の前にいる人、という言葉でセイアはある人物を思い浮かべ、そして思案する。

 

「……私はあの夢に圧倒されて、自分を見失っていたのかもしれない。先生の言う通りだ、まずは目の前にあることを何とかしなければ」

 

 そして考え込んで、また言葉を紡ぎだす。

 

「今は、ミカを泥濘の中から救い出すのが最優先だ。どうして私は、それに気づかずに……先生、ありがとう。私たちは一歩ずつ──まずはミカの問題を解決していかなければならない」

 

「"ありがとう、セイア。ミカは君に謝りたがっていたよ。"」

 

 セイアは既に彼女を許していたが、それはあくまで夢の中でそう言っただけで……ミカは今もなお、セイアに許されていないと思っている。

 

「子供じゃあるまいに、お互いに“ごめんね”と伝えることすらまだできていないとは……恥ずかしい限りだ。今すぐ、ミカを呼んできてもらうことにしよう」

 

 そして明日の聴聞会に出席し、恐らくミカの最大の被害者であろう彼女がミカを赦し、弁護すれば。そう思い立って、セイアはベルを鳴らした。

 

「はい、セイア様~どうしましたか~?」

 

 呼ばれてきたのは、サンクトゥス派の士官候補生であるマイハ。セイアが寝たきり状態から復活したことで、外出する際のボディーガードや、雑用のようなことも担当している。

 

「悪いが、ミカに会いたい。今すぐここに連れてきてもらえるかな」

 

「ミカ様ですか~?ふふ、分かりました~ナギサ様に確認してみますね~」

 

 そう言って部屋から出ようとする彼女に、セイアは少し頬を赤らめて言う。

 

「ありがとう。あと、なるべくミカと二人きりで話したいと伝えてくれないか。どうにも、他人が同席するのは恥ずかしいというか……」

 

「かしこまりました~それでは、急いでいきますね~」

 

 部屋を出るマイハを見送ったら、先生もナギサへこの事を話すために出ていき、伝え終わったら早めにシャーレへと戻っていった。

 

 

 

 

 ミカを連れてきたマイハは、二人で話したいというセイアの要望に従って、ミカの脱走監視に付いている正実部員と共にセイアの療養室の外で待っていた。

 

「ふふ、ちゃんとセイア様とミカ様、仲直りできるかな~あなたはどう思う?」

 

「は、はい……えっと……仲直り、できるといいですね」

 

 あくまで任務として来ているだけであって、多くは語らないということらしい。マイハはまあそれもいいか、と彼女としばらく雑談していたが。

 

「へー、そんな穴場のスイーツ店があったんだ~?」

 

「はい、ただ副委員長はダイエットするとのことでしばらく行けないそうで………ん?」

 

(君が、先生を連れてきたから……!)

 

 そうセイアが珍しく張り上げる声が聞こえて、マイハたちは異変を感じ取った。

 

「……どうしよう?」

 

「あちらから何か呼ばれるまでは……」

 

 二人で話したいという意志を尊重しようと考えていると、部屋の中からミカが叫ぶ。

 

「誰か!!誰か人を呼んできて!!セイアちゃんが……セイアちゃんの様子がおかしいの!!」

 

 マイハは正実部員にアイコンタクトを取ろうとするが、やはり緊急の状況で、勘違いがないように言葉にした方がいいと考え直す。

 

「……ごめん、呼んでくれるのお願いしてもいい?」

 

「は、はい!わ、分かりました!!」

 

 彼女が駆け出すのを見て、マイハは扉を開けて入る。そこには喀血して倒れるセイアと、それを抱くミカ。

 

「ミカ様……!セイア様はどうしたんですか!?」

 

「マイハちゃん……会いに来て、謝ろうとしたんだけど、アリウスのことを聞かれて、先生がアリウスに狙われてるって……!」

 

 それは聞き捨てることのできない情報ではあるが、それよりセイアの方が優先だ。

 

「セイア様は……」

 

「そしたら急に倒れて咳き込んで、血を吐いちゃって……どうしよう……!セイアちゃんが、どうして……こんなことに……」

 

 ミカは自分のしたことを深く反省しており、セイアへの謝罪の機会を求めていた。それに二人きりになりたいと言ったのはセイアの方からだ。彼女がセイアを再び害そうとしていたわけではないとマイハは判断して真剣な表情で聞く。

 

「分かりました、ミカ様がセイア様に何かしたというわけではないんですね?」

 

「うん……でも……」

 

 自分のせいかもしれない、セイアもそう言っていた。全部自分がバカだから、こんなことになってしまって。ミカはそんな思考循環に陥り、深く消沈していった。

 

 

 

 

 セイアは戻ってきた正実部員によって手当てを受けているが、出血と痙攣が止まらず。救護騎士団を呼ぶことになった。ナギサは至急病室へ向かっている最中で、シャーレの先生とは連絡が取れないという。

 

「犯人は!聖園ミカですか!?あの魔女が!!」

 

「ミカ様は何もしていません!!」

 

 聴取のために一旦牢に戻されたミカだが、押し掛けた生徒と話を聞いて様子を見に来たマアサ、それにマイハの競り合いが起きていた。

 

「彼女がセイア様の元を訪ねたからこんなことが起こったのではありませんか?あの女が何かをしたに決まって……!」

 

「やめなさい!憶測で物事を語らないで下さい」

 

 ドンッドンッと牢の壁が蹴りつけられる。振動がここまで伝わってくる。

 

「人殺し!この魔女め!!出てきなさい、極悪人め!!全部あなたのせいよ!!」

 

 そのすぐ後に銃のストックで殴ったような鈍い音がして、一旦声と振動は収まったが。

 

「あはは……私のせい、全部……こうなったのは……私がバカだったから……全然許されてなかったんだ……」

 

 涙が溢れだす。

 

「……挽回できるチャンスがあるのかもって思っちゃった。明日の聴聞会で、セイアちゃんと、ナギちゃんと、それに先生と……一緒に……」

 

 黒いモノが湧き出してくる。

 

「挽回のチャンスなんて、あるわけないのに……そんなおとぎ話を信じて……バカみたい。私がバカだから、アリウスに利用されて、そのせいで……大切な人たちを傷つけて……これじゃあまるで……」

 

「魔女め!!」

 

 次は.303弾が撃ち込まれる銃声が小さく響いたが、彼女の耳には届かなかった。

 

「……そうだ、考えてみたら簡単なことじゃん。アリウススクワッドの錠前サオリ……全ては、あの女が元凶なんだから」

 

 そう呟いた彼女の表情は、天真爛漫なお姫様などではなく──まさに復讐に燃える魔女そのものだった。

 

「私を利用して──セイアちゃんを殺そうとして、ナギちゃんにミサイルを飛ばして、先生を傷つけて……全部……ぜんぶ、ぜんぶ、ぜーんぶ!あの女が計画したことだった」

 

 拳に力が入る。自分は何もかも奪われたのに、元凶のサオリがのうのうと逃げ延びているなんて……。

 

「──許せない」

 

 私が失ったのと同じくらい、あいつも大切なものを、人を失わなきゃ……不公平でしょ?

 

 

 

「離しなさい!炎谷マアサ!!出てこい聖園ミカ!!」

 

「うるさいと言ってるんですよ、次は口の中に鉛玉ブチ込まれたいんですか?」

 

 何かあったということを聞いてマイハと様子を見にきて、そこでミカの牢の前で騒ぎ立てる生徒にお灸を据えるためにまず警告として愛銃の銃床で殴って気絶させた。しかしすぐに気がついてまた騒ぎだしたので警告第二段階で実弾を一発撃ち込み、気絶している間に拘束しておいたが懲りずにまだ捲し立ている。

 

 次は正実に引き渡そうかと考えていると、牢の壁が揺れて……破壊された。

 

「ぐあっ!?」

 

「!?」

 

 そこから姿を現したのは、当然牢の中にいたミカ。

 

「ごめんね~☆えっと、私の銃は……あっちだっけ?」

 

 そうして、声を掛ける間もなく駆けていった彼女に士官候補生もミカを糾弾していた生徒も呆然として。

 

「えっ、今、壁を素手で……!?」

 

「ちっ、あのバカお姫様……!……マイハ!」

 

 マアサは舌打ちして、まだ呆けているマイハに呼び掛ける。

 

「とりあえず、報告しましょう。あとアイカも呼んできてください、ミカ様を止めないと。何を考えてるのかは分かりませんが……放っておくべきではありません」

 

「う、うん!」

 

 そして、壁を破壊した衝撃でそこの床にのびている生徒をチラッと見やって。

 

「あとはついでに、そこの馬鹿を正実に放り込んでおきましょう」

 

「そ、そうだね……」

 

 電話でアイカに連絡して待ち合わせ場所を指定し、正義実現委員会へと急いだ。

 




思いっきりマアサにシバかれてるミカ糾弾トリモブですが……まあこの程度、キヴォトスじゃ挨拶にもならないので大丈夫でしょう。
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