ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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29 壊された鳥かご

 聖堂でキリエを弾き終わったら、今日はもう特に用事もないので寮の自室で休んでいた。明日の聴聞会には僕ら士官候補生も出席することになってたからね。エデン条約で色々動いて混乱を納めるのに尽力したから重要参考人ということらしい。

 

 そうして、マイハがおすすめしてくれて近くの書店で買ってきた恋愛漫画をのんびり読んでいると、電話が鳴る。

 

「はい、もしもし」

 

〈アイカ、ミカ様が壁を壊してどこかに飛び出していきました。すみませんが来てもらえますか?ティーパーティー本部のエントランスで待ち合わせましょう〉

 

「ミカ様が……分かりましたわ」

 

 前世の記憶だと、サオリに復讐しに行ったんだよね。どうしようか……確かどこかのカタコンベの入口で落ち合うんだろうけど、入口って300箇所ぐらいあるんだよね。

 それらを全てを何のヒントもなしに探すのは非現実的だろう。ゲームだと、確かセイアが……。

 

 

 

 

 ロイアルティー号を出して、十数分ほど走らせる。着いた時間は大体10時を過ぎた頃で、ティーパーティー本部近くの駐車場に停めたら、エントランスへ向かう。そこにはいつもの二人が待っていて。

 

「アイカ!」

 

「マアサさん、マイハさん……ミカ様は……」

 

「すごい勢いで飛び出しちゃって、どこに行ったか分かってないの……あっ」

 

 マイハのスマホの着信音が鳴り、彼女はすぐに電話に出た。外だからか相手の声は聞き取れない。

 

「はい、はい……はい、全員ここにいますよ。はい、分かりました~」

 

「……お相手は?」

 

「セイア様の電話だったよ。ミカ様のことで話があるから、今すぐティーパーティーで使ってるベランダに来てほしいって」

 

 幸いにも、建物の目の前にいるからすぐに呼び出された場所へと向かった。

 

 

 

 

 そのベランダには、セイアとナギサ、それにサクラコとミネ、ハスミまでいた。トリニティの主要組織の重要人物のほとんどが一堂に会しているという、中々みられない光景。まずは呼び出した本人であるセイアに出迎えられる。というかさっきまで倒れて吐血してたらしいけど大丈夫なんだろうか。

 

「三人とも、来てくれて助かるよ。……ナギサ」

 

「はい……お願い致します、皆様……ミカさんを、ミカさんを救ってください……!」

 

 そう言ってナギサは憔悴した、真剣な面持ちで頭を下げる。

 

「ミカさんが助かるなら私が差し出せる全てを差し出すつもりです……この地位も、何もかも。ですので、どうか……!」

 

「私からも、頼む」

 

 頭を垂れるティーパーティーの二人を見てハスミたちは顔を見合わせて、それから。

 

「頭を上げてください、ナギサ様、セイア様。あなた方が私たちに頭を下げるべきではありません」

 

 そしてミネは一呼吸置いて続ける。

 

「ミカ様の問題は承知しました。そして、セイア様がご無事で何よりですが……一体何があったのですか?」

 

「その説明をする前に今のアリウスの状況を理解する必要があるんだ、少し長くなるぞ」

 

 実際長くなるんだよねぇ、この状況をちゃんと説明しようとなると。

 

「……分かりました。それならば、今は止めておきましょう」

 

「何より優先すべきは、先生のことです。私も最善を尽くしましょう」

 

「トリニティには私だけでなく、先生を慕う生徒が多いです。彼女たちなら協力してくれるでしょう」

 

 マイハやマアサはどうかは分からないけど、僕も先生のことを信頼している生徒の一人だし、ミカのことも心配だ。

 

「ああ……お願いするよ」

 

 そうしてサクラコはシスターフッドでカタコンベについての記録を探しに、ミネは救護騎士団の出動準備、ハスミは正義実現委員会に戻ってアリウス自治区へ向かう準備をするため解散して。

 

「さて……皆には私たちがあちらへ行く時、色々協力してもらいたいことがあるんだ」

 

「お願いできますか?」

 

 僕らは互いの心づもりを確認するかのように目を合わせて、そして頷いて答える。

 

「もちろんです。あのおバカなお姫様をさっさと連れ戻しましょう」

 

「ははは……わたしも、あの方のことは心配ですから~」

 

「あたくしも、できることであればなんだって」

 

 セイアとナギサは表情を少しだけ緩ませて、それから僕らに手伝ってほしいことを話し始めた。

 

 

 

 

 サクラコがアズサにあくまで本人の同意の上でカタコンベについて聞いたり、彼女の頼みでハナコ*1が図書館の書庫を探してユスティナ聖徒会が残したカタコンベの地図を見つけて古関ウイに修復してもらい、セイアの持つ情報とも擦り合わせて、何とかカタコンベからアリウス自治区へと向かうルートを割り出して、そして今。

 

「ナギサ様……本当にこのティーセットは必要なものですの?荷物はなるべく少ない方が助かるのですが……」

 

「必要です」

 

「は、はぁ……」

 

 あちらへ向かう際の機材を車に積んで、いよいよ出発というところ。ナギサとセイアは装甲車*2に乗り、僕ら士官候補生はお馴染みのロイアルティー号で向かう。別の入口からは正義実現委員会の戦力がほぼ総出で突入している。

 

「積み込めない分はアイカさんのトラックに乗せますね」

 

「いえ、その……こちらも救急キットや予備弾薬で既に一杯なのですが」

 

 これ以上何か積もうとすると僕も乗れなくなっちゃうし。そう言うと、セイアがこちらの積み荷の一つを眺めながら口を開く。

 

「そういえばアイカ、その機密書類のタグが貼ってあるボックスは一体……?」

 

「これですか?中身はミカ様の私物ですわ。以前燃やされそうになったのを保護して、コハルさんに預かってもらっていまして……そろそろ頃合いということで本人に返却するため、先ほど彼女に託されましたの」

 

「そうか、あの子が……」

 

「コハルさん……私たちはあなたに酷いことをしたと言うのに……」

 

 そうして何とか荷物を全て積み込んで、出発する。僕らが先に行って危険を排除しつつ、その後ろにナギサたちの装甲車が付いてくる形で。

 

 

 

 

 アリウス兵やユスティナの複製をポンポン砲で蹴散らしつつ、地下の道を進んで到着したアリウス自治区。

 その郊外にある大きな建物の廃墟に臨時の指揮本部を設営したら、僕らは次の任務。

 

「ミカと先生を探してくれ、私たちは指揮系統構築のためにここにいないといけないんだ。本当は自ら探したいところだが……」

 

「……皆さんを信じて、任せます」

 

「……はい、分かりましたわ」

 

 最低限の予備弾薬と医療キットだけ乗せて、捜索へ向かう。ミカの私物はこちらに残してナギサたちに任せた。

 

 

 

 しばらく探していたところ、聞き覚えのある奇声が遠くから聞こえて、そして。

 

「……けけけけけけ」

 

 そう近くで聞こえたあと、左の建物の壁が無惨にも破砕され、そこから現れたのは。

 

「きあああああああっーー!!」

 

 出たわね。というか、お嬢様学校のはずのトリニティに躊躇なく壁を破壊して進むやべー女がなんで二人もいるんだよ。いや、なんかミネもやりそうだし三人かな?

 

「……ツルギ先輩、落ち着いてほしいっす。ほら、ティーパーティーの子たちもびっくりしてるじゃないですか」

 

 そしてツルギの側には以前補習授業部について調べる時、正実の部室に行った帰りですれ違って以来のイチカも一緒にいて。

 

「……あ、よく見たらマアサじゃないすか」

 

「はい、久しぶりですね。イチカ先輩」

 

 どうやらすれ違っただけの僕とマイハと違ってマアサは面識があるらしい。夏休み前、各組織の視察に行った時はマアサは正義実現委員会担当だったからその時に会ったんだろうか。

 

「……イチカ、行こう」

 

「あ、そっすね。今はミカ様と先生を探さないと……確かこの辺にいる可能性が高いって……」

 

 ツルギが急に落ち着いてイチカを促し、歩き出したので僕らもスピードを落としたトラックで同行すると、激しい戦闘があったらしく路面がボコボコになった道路の真ん中に目標を発見した。

 

「"みんな……。"」

 

「正義実現委員、それに士官候補生のみんな……ど、どうしてここに……」

 

「話せば長くなるんすけど……あ、こんにちはっす、先生。正義実現委員会のイチカっす。お二人を助けに来ました」

 

 イチカがそう話している間にマイハは医療キットからガーゼとサージカルテープ*3、消毒液を取り出し全身ボロボロになっているミカの傷口を手当てする。なんかしみて痛いとか言ってるけど、マイハはスルーして黙々と作業する。

 

「"うん、会えてとても嬉しいよ、イチカ。"」

 

「えへへ……先生挨拶できて嬉しいっす。それじゃ」

 

 イチカは通信で先生とミカを確保したことを告げて、僕は二人を荷台に乗せて指揮本部へと急いで戻った。

 

 

 

 

「先生……!!ミカさん……!!ご無事でしたか……!」

 

 トラックから降りた二人を見て、ナギサは不安で仕方がなかったようで、目尻には涙を浮かべていた。

 

「な、ナギちゃん……?あれ、どうしてここに……」

 

「ここがアリウス修復作戦の指揮本部で……」

 

「というか、どうやって来たの……?」

 

 そしてそこへ、ティーパーティーのもう一人が姿を現す。

 

「私が教えたのだよ」

 

「"セイア………!?"」

 

「せ……セイアちゃん……」

 

 ミカはセイアの姿を見て、泣きそうな表情になっている。色々思うことはあるのだろうけど、ようやく戻ってこれたのだ。

 

「……ミカ、君は本当に愚かだ。常のように、衝動で動いて事を過つ。君の悪癖だ。だが──ひとまず、無事でよかった」

 

「セイア、ちゃん……ど、どうやって……」

 

「言葉を紡ぐには、些か時間が足りないかもしれない。白昼夢で偶然、ある人と邂逅できて、それから……」

 

 ミカと先生を助けるため、明晰夢から抜け出して起き上がったセイアはシスターフッドと正義実現委員を呼び、ナギサもミカのために全てを投げ打つ覚悟でトリニティの各自に協力を要請し、アリウス自治区に入る道を見つけ出した。そして今、本来動かせる規模を遥かに超えた総力で作戦に当たり、二人を助け出したのだ。

 

「みんな……」

 

「私たちも、先生の手を借りてばかりではいけない。彼の人の道先に光を灯せてこそ、理想的な関係たり得るからね。だから……君を救うために来たよ、ミカ」

 

 そう言うセイアにくすっと小さく笑って、ミカは。

 

「もう、セイアちゃんってば相変わらず何言ってるのか分かんない。本当に偉そうだしムカつく。何度も懲らしめたいとか、そう思ってた」

 

 いきなりそんなことを言われて、ムッとしたような、意味が分からないというような顔をするセイアに、ミカは続ける。

 

「それでも──大好きだよ、セイアちゃん」

 

「えっ?」

 

 端から見たら全く意図が掴めない発言。鳩が豆鉄砲を食らったようにキョトンとするセイアを置いて、今度はナギサの方を向く。

 

「ナギちゃんはヒステリーが酷すぎ!っていうか、こんなところまで紅茶を手放せないのはどうかと思うよ?……カフェイン中毒?それとも脅迫症?」

 

 そう言われて、やはりセイアと同じような顔をするナギサに。

 

「──でも、そんなナギちゃんが大好き」

 

「えっと、その……これは、緊張してしまって……?」

 

 言葉に切れのないナギサに、何と言えばいいのか迷うセイア。そんな二人にミカは抱き合って言う。

 

「うん……二人とも、大好きだよ。二人とも、ありがとう……そして、ごめんね」

 

「ミカさん……」

 

「……いや、むしろ謝るのは私の方だ。すまなかった、ミカ……いつも君に謝ろうと思っていたんだ」

 

 ミカは抱き合っている状態から離れて、彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「だが、子供のような意地が邪魔をして、果たすことができなかった……ミカ、君がアリウスと和解したいと言い出した時、私は……」

 

「ううん……何も言わないで、大丈夫だから……ごめんね、私が悪かったの……」

 

 そうしてようやく、一年越しに仲直りが果たせたところにある人影が。

 

「あ、ええっと……良い雰囲気のところ申し訳ないんすけど、ミカ様に渡すものがあって……これっす」

 

 そう言ってイチカは、ミカに例の耐火高耐久コンテナを渡した。

 

「えっと、これって……機密書類……?」

 

「あ、鍵開けるの忘れてたっす。えっとこれをこうして……中、どうぞ」

 

 普通の鍵と電子ロックの二重鍵を解除して、箱の中身はというと。

 

「これ、私の服とか……ナギちゃんと写ってるアルバム……?盗まれて燃やされたって聞いてたのに……!?」

 

「ああ、えっと……焼却される前にそこの三人が防いでくれたらしくて……それでまた燃やされたりしないよう、うちの押収品管理室の担当員が預かってまして」

 

 説明を受けて、ミカは僕たちと箱の中を交互に見る。

 

「三人、それにコハルちゃんが……?」

 

「はい、コハルが……って、コハルのことご存知だったんすか?」

 

「……うん、知ってる。ありがとうコハルちゃん……元はと言えば私のせいで、退学させられそうになってたのに……」

 

 そう呟いたら、ミカはこちらの方へ歩み寄ってきて。

 

「皆が燃やされる前に止めてくれたんだよね、ありがとう。あなたたちにも、結構迷惑かけたのに」

 

「あたくしはたまたま居合わせただけで、止めるために動いたのはマアサさんですわ」

 

 僕はマアサが勇敢に向かっていくのを眺めて、もし銃撃戦になった時のために備えていただけで……その事で感謝されるほどの働きはしてない。

 

「わたしもアイカちゃんと同じ感じで~感謝は、マアサちゃんにしてあげてください」

 

「マアサちゃん……?え、うそ……嫌われてると思ってた……」

 

 まあ、前に対峙した時はボロクソ言われてもんね。

 

「はあ……別に好きとか嫌いとかではなく、理不尽なことを見逃せなかっただけですよ。それに、その箱の中身を誰にも手が出せないよう実際に守っていたのはコハルですから」

 

「"……お互いに、色々と話す時間をとった方がいいね。"」

 

 そう先生に言われて、セイアはしみじみと思い入った様子で頷く。

 

「……ああ、そのようだね」

 

「……ただ、まずは今日の聴聞会を終えてからですね。そろそろ参りましょう、あまり時間がありませんから」

 

 そうして、トリニティへ戻ろうとしたが……ミカは足を止めたままで。

 

「えー、私この格好で行かなきゃダメ?服ボロボロだし、マイハちゃんに応急処置はしてもらったけど本当に最低限って感じだし、髪もセットし直したいし……」

 

 そう言われて、二人は顔を見合わせしばらくの沈黙の後に、しょうがないなと言った感じの表情で答える。

 

「……はぁ、好きにするといい」

 

「ええ、それに私たち三人とも徹夜してしまっていますし、こんな格好では……」

 

 カタコンベやアリウス自治区は長い間ろくに手入れもされず放置されてきたため、ほとんど戦闘をしていないセイアやナギサですら埃や砂塵で服が汚れており、これから会議という状態ではない。ポンポン砲をひたすら撃って本格的に戦闘していた僕は……まあ相当煤だらけだろうね。

 

「"私も一緒に行くよ。"」

 

「……勿論です、先生。全員で聴聞会に出席するのが、私たちの約束ですからね」

 

 何はともあれミカと先生を連れ戻すという当初の目的は達成し、僕らはトリニティへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 聴聞会は、参加者の過半数がアリウス突入の一連の流れで疲労が溜まっており、予定されていた午前10時から午後3時へと開始時刻が変更された。

 

 そうして僕もまた、色々と疲れていたので仮眠を取ってから身支度をして改めて迎えた聴聞会。

 

「──それでは、聖園ミカへの処分についての結論を」

 

 一に、聖園ミカのティーパーティーとしての全権限を剥奪とする。個人の居宅や活動費、特別校舎での授業などの特権は受けられなくなる。

 二に、パテル分派内で聖園ミカの代表性に疑問が呈されたため、パテル分派は新しい代表の選出を行うが、それが完了されるまでは形式上聖園ミカが代表の権限を維持する。

 三に、聖園ミカの拘禁を解除し学業への復帰を認めるが、己の立場を意識して学業以外の活動を自粛することを求める。

 

 議長の行政官は最終的にそう裁決を下した。ナギサとセイアは勿論のこと、僕ら士官候補生もミカの弁護に尽力して、退学は免れた形だ。

 パテル派の一部はもっと厳罰に処すべきと不服なようだが……厳正な審議の上で決まった以上、大きな抵抗をするのは難しいだろう。

 

「また、一緒にいられるのですね……」

 

 隣に座っているナギサはそう呟いて、肩の力を抜いた。まあ決して軽い処罰ではないけど、それでも退学によって離れ離れにならずに済んだことに安堵した様子だった。

 

*1
深夜の徘徊……散歩……水泳の最中に呼び出されたらしく水着のままだった

*2
FV432 トロウジャン

*3
ガーゼを固定する時などに使う、伸縮性のあるテープ




さて、これでようやく長丁場かつ大きな山場であった3章(原作ではエデン条約編に対応)が終わりですね。
エデン条約編4章に対応する内容はミカや先生視点ではなくアイカの視点からなので若干あっさりした感じですが……まあそこは是非とも原作ゲームをやってみて、ミカがどういう心境の変化を辿ったのか確かめていただきたいです。

それと、思いの外次の章を書くのに苦労していて……申し訳ありませんが数日ほど間が開きそうです。
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