01 久しぶりの休息
数日経って、やっとエデン条約関連のいざこざが大体片付いての休日。朝起きると、スマホにはマイハからメッセージが届いており……。
「お洋服を選びに行かない?^-^ マアサちゃんも呼んでるから、もし来れるなら正門前に来てね>ω<」
おお、これは……!女の子同士のショッピング、アオハルの予感。折角落ち着いたところだし、ぜひ行ってみたい。それに目前に迫った晄輪大祭へ向けて英気も養いたいし、ね。
すぐに行きます、と返事をして急いで準備し、待ち合わせ場所へ向かった。
「あ、アイカちゃん~。さ、早速行ってみよ~」
「服を見に行きますのよね、楽しみですわ」
そこには既に二人が待っており、僕を迎えたらすぐに駅前の方へと歩いていった。
◇
エデン条約でバタバタしてて久しぶりにやって来たいつものショッピングモール、前に来た時は警備ロボットの暴走が起きてたらしいから今日は何事もないといいんだけど。
「じゃあ、まずはこっち~」
そう言ってずんずん進んでいくマイハにそのまま着いていった先にあったのは、というと。
「えっ、ここは……」
「ん~、ランジェリーショップだよ~?」
あれ、服って言ってなかったっけ。マアサの方を見ると、ポカーンとした様子であまりアテにならなそうだった。
「服の前にまずは下着選ぼうと思って~、ほらあれとかすっごい可愛いよ~」
さすがに女の子の体として目覚めてから数年が経ってるから、ちょっと気恥ずかしいながらも一人でなら普通に来れるんだけど……友達と来るなんて初めての経験だし、なんかすごく顔が熱い。
「ま、マアサさん……?」
「え、ええ……そうですね。私は別にどちらでもいいですが……」
「え~、一緒に選ぼうよ~?」
そう言って懇願するような目で見られ、さすがに断るのは罪悪感がすごくて。僕もマアサも折れてマイハに付き合うことにした。
洋服屋にはよく置いてある半自動採寸機で今のサイズを計ったり、マイハがマアサにフリッフリの下着を着せようとして反抗したりと一悶着あって、大体このくらいかなと見繕ったところ。
「おっきいと中々可愛いの選ぶの大変なんだよね~ハスミ先輩とかすごくすごいでしょ、どうしてるんだろ~?」
「さ、さぁ……?」
僕はほどほどの大きさなので下着選びで困ったことはあまりないけど、色々と大きいマイハは大変らしい。ハスミは……うーん、わからない。
「あ、見て見て!これ、清楚な感じですごくアイカちゃんに似合いそうだよ~」
「そ、そうですの……?」
マイハが手に取ったのは、純白のボディスーツ型下着。レースとフリルで装飾されていて、確かに綺麗だ。僕に似合うかはよく分からないけど……。
「うん、絶対似合う~!マアサちゃんのもほら、選んであげるから~」
「……私は、シンプルなもので大丈夫ですからね」
そうして選びあった下着をいくつか購入して、お次は服を見に行くことに。
◇
「アイカちゃんは長くて綺麗な髪してるから、これとかどう~?」
そう言ってマイハが見せてきたのは、肩出しで所々にフリルがあしらわれており、上が白のブラウスで下が紺色のツーピース。
「肩出しは少し恥ずかしいですが……でも、良いと思いますわ」
「じゃあパフスリーブとかにする?似合うと思うんだ~」
「マイハさんは、こちらなどどうでしょう?」
僕の方から提案したのは、黒のペンシルスカートにクリーム色のセーター、それにスカートと同色のベレー帽。身長が高いマイハの強みを活かせるのは、女性らしいシルエットを引き立てるタイトなスカートかなと思って。
「なるほどね、かっこいい感じかな?うん、すごくいいよ、アイカちゃん~」
お次はマアサだが、彼女はというと一人で服を物色している様子だった。そこにマイハが近づいていき、薄ピンクのブラウスに黒色のハイウエストのスカート……俗に『童貞を殺す服』と呼ばれるタイプのものを差し出す。
「マアサちゃんはこれ!」
「私はスカートよりパンツの方が落ち着くのですが……」
確かに華奢で暗色の髪色のマアサには似合うと思うし、ぜひ着ているところを見てみたいという気もちはある。
「そうですわね……なら、こちらは?」
僕が手に取ったのはタータンチェックのキュロットに白のシャツ、それにカーディガンとバケットハット。
「おお、これは中々良いですね」
「ちょっと、わたしのは~!?」
「マイハは私にフリフリの衣装ばかり着せようとしないでください」
そう言われて、マイハは絶対似合うのに~と若干不服そうだった。それはともかく、色々と見てみて試着と購入を済ませたら、もう時間は昼過ぎになっていた。
さすがにお腹も空いてきたので、マイハおすすめのレストランへ向かったのだが……。
「ふぅ……トリニティのレストランだけあって値は少々張りますが、それに見劣りせぬ味にサービスも良好。中々良い場所ですわね」
「そうですね、量が少し物足りませんがまあ良いでしょう☆」
うわでた。ゲヘナの問題児集団の一角でゲヘナ風紀委員会は勿論のこと、うちの正義実現委員会など学区外の治安維持組織にもお世話になったことのある美食研究会。その四人が、マイハが向かおうとしていたレストランの奥のテーブル席に鎮座していた。
「ねぇ、あれって……」
「ええ、ほぼ間違いなく美食研究会ですね。ゲヘナにて指名手配中で、気に入らない店は爆破するという……」
今のところ爆破されてないし、彼女らの言葉から察するにこの店に対して不満点はないようだが……いつ爆破されるかビクビクしながら食事はしたくない。
「うん、それはそうなんだけど……あの銀髪の人、この前海に行ったとき海の家で変な名前の料理出してた子じゃないかな?」
銀髪の人……イズミか。あの時は遠くから見てただけなので、こちらのことを見ても多分何も気づかないだろうけど……。
「あの……残念ですけれど、別の店にしませんか……?」
非常時にはなんだかんだ頼りになる集団なのは前世の知識でわかってるけど、普段の生活ではなるべくなら関り合いになりたくないタイプ。
僕ら三人の見解は一致し、そっとその店を後にして近くにあった百鬼夜行で修行したという料亭にて昼食を済ませることにした。
あとついでに、正義実現委員会に美食研究会の居場所を通報しておく。現時点では問題を起こしているわけではないが、あちらの返答は監視を付けて警戒はしておくとのことだった。
◇
お腹を満たしたあとは、コスメやバス用品を選ぶ。今日はいつにもましてテンションの高いマイハだが、彼女の提案で折角だし一緒のものを買うことにして、一言。
「ふふ、お揃いのシャンプーだね~。友達とおそろってすごく憧れてたんだ~」
そう顔を綻ばせるマイハは本当に楽しそうで、僕らといる時間を心地よく思ってくれているのだと感じる。……ただ、ちょっと気になったことが一つ。
「マイハさんは、あたくしたち以外にもご友人が多いのかと思っていたのですが……」
生来内気であまり交遊関係の広くない僕と違って、ね。そう聞くと、彼女はにこやかに答える。
「そうだな~、確かによく話す子は結構いるけど、こんな風に何回でも一緒にお出掛けしたりするくらい深い関係なのはアイカちゃんとマアサちゃんくらいだよ~」
「そうなんですか?」
「うん、二人は本当に大事な友達なんだよ?」
そう穏やかな表情で見つめられて、照れ臭くなる。でも……。
「そう言っていただけるのは、とても嬉しいですわね。もちろんあたくしの方からも、お二人は大切な方ですわ」
マアサもまたしばらく押し黙って、それから言わなくても分かるでしょうと頬を赤らめる。いいよねぇ、青春って感じで……。
◇
そうしてなんだかんだ満足の行く一日を過ごすことができて、そろそろいい時間ということでトリニティ学園内まで戻ってきて各自解散した。
ちなみに美食研究会についてはその後、マイハが行こうとしたレストランは無事だったものの、トリニティ内の別のコーヒーショップを爆破。だが監視していた正実にその場で取り押さえられ、風紀委員会に引き渡されたという。
他校の自治区でも見境ないなぁ……まあゴールドマグロ強奪しに、トリニティの水族館を襲撃した事件で分かってはいたけども。
アイカが美食研究会のことをかなり警戒しているのは実家が食品関係だからです。アイカの実家で栽培しているのはかなり評価の高い高級フルーツなので爆破などはされないでしょうが、もしそれが知れたらフウカのように拉致されないとも限らないですからね……。