ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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03 いいレースをしましょう

 昼食はスタジアム外の屋台を食べ歩き。マアサと共にわんこそばのせいでもうほとんど食べれない状態のマイハに一口分けてあげたりして、存分にお腹を満たす。

 満足した頃には既に午前競技は終了しており、昼休みに入っていた。ちなみに現在の暫定1位はゲヘナ。大食い大会での大量得点で一気に優勢になったらしい。

 

 昼休みはまだわんこそばで若干苦しそうなマイハの体調が落ち着くのを待つと共に、午後の種目に備えて体を休めるため、三人一緒に日陰で紅茶を飲みながらゆっくりする。

 

「マイハさん、体調はどうですの?」

 

「うーん、だいぶマシになってきたよ~。でも、そばはしばらく見たくないかな……」

 

「トリニティにはあまり蕎麦屋はないので安心ですね」

 

 そういう問題なんだろうか……?そんな風にお喋りしながら休憩していると、ある人影が。

 

「"士官候補生のみんな、こんにちは。"」

 

「ご機嫌よう、先生。どうされましたの?」

 

 上着を脱いで片手に持っている先生が、座り込んでいる僕らに挨拶する。

 

「"さっき借り物競争が終わったところでね。まだ昼ごはんを食べてなかったから、外に食べに行こうかと。"」

 

「そうだったんですか。私たちはもう済ませてしまって、午後に向けて休んでいるところです」

 

 ちなみに午後は距離走でマイハが長距離走、マアサが中距離走に出場予定。僕は最初から槍投げのみの出場なので、午後はもう応援するだけだ。

 

「"そういえば、アイカは槍投げで1位になったんだよね。おめでとう。"」

 

「えっ、その……はい、あまり人気の競技ではありませんでしたが……」

 

「"それでも、勝てたのはすごいよ。"」

 

 二人にも言われたことだけど、先生に言われるとまた違う感じがする。そろそろ行こうかなと歩き出した先生に、ありがとうございますとだけ呟いた。

 

「ふふ、アイカちゃん顔真っ赤~。そんなに先生に褒められたのが嬉しいの~?」

 

「そ、その……うぅ……」

 

 マイハにからかわれて、何も言えないまま三角座りで下を向いて顔を隠す。嬉しい……そう、なのかも。

 

 

 

 

 応援合戦ではシスターフッドがやたらと厳かな応援を行い、会場が異様な雰囲気に包まれたりもした。

 その後いくつかの種目を経て目玉競技の一つである障害物競走の時間になり、出走選手が並ぶ。

 

「それにしても、今回はバトンが時限信管付き手榴弾なんだってね~」

 

「走るのが得意な人に全てを任せないで全員が全力で走るように、という趣旨でしたかしら」

 

 考えは分かるけど中々に強引な手段だな。参加しなくて良かったよホントに。そうして選手達がスタートの合図と共に駆けていき、まずは最初の撒菱ゾーンを全員が突破したところで……高速回転するキャタピラのような音が聞こえてきて、その発信源はというと。

 

「なんですか、アレ。障害物ですか?」

 

「えー、あんなのあったっけ~?」

 

 作業服を着た生徒数人と共に現れたのは、砲身を突き出して中央にはキャタピラが付いており、ミレニアムのマークが入った謎の巨大金属球。

 そう、エンジニア部が作った応援ロボットである。砲身は騒動やテロが起きたときに迅速に鎮圧するため、どこへでも素早く移動できるよう空気抵抗を減らした球形に無限軌道という形らしい。

 一つ一つはどれも理にかなってはいるが、全部組み合わせると途端に珍妙なモノへと姿を変える。端的に言えば応援ロボットにはとても見えず、デカい球形の戦車(クーゲルパンツァー)と形容する他ない。というかクロノスの報道もガッツリ戦車って言っちゃってるし。

 

 そうして障害物競走へと乱入しその場をグルングルンと回転する応援ロボットに、どこからか対戦車ロケット砲弾が命中し……炸裂。

 

「あれ、様子がおかしいですね」

 

 そうマアサが言った瞬間、ロボットは周囲を攻撃し始めた。フィールド上で障害物競走に参加している生徒はもちろんのこと、こちら観客席の方にまで攻撃が飛んできた。

 

「アイカちゃん、マアサちゃん、伏せて!」

 

「はい!」

 

 しゃがんで前方にある隔壁を盾にしてなんとか砲撃から身を守るが、この壁はせいぜいちょっとした銃撃に耐えられる程度の抗堪性しかないはず。いつまでも耐えられるわけではないので、早めにどうかしてもらいたいところだが……。

 

「あ、あの戦車と応戦してるみたい。あっちに気を取られてるうちに……」

 

 そういってマイハは愛銃を取り出し、狙いを定めて狙撃する。気持ち悪いくらいやたら機敏に動き回る応援ロボットに7.62mmNATO弾が命中し、一瞬動きを止めることに成功した。どうやら目の前の相手と今撃ってきた相手どちらを優先すべきか処理させる時間を作ったらしい。

 

「私の銃は……あ、ロッカーに入れたままでした」

 

「あたくしは拳銃しかなくて、ここからでは届きませんわね……」

 

 周囲にいる他の生徒もマイハの狙撃を見て、遠距離武器持ちは戦車を沈黙させるために加勢して支援射撃を行い、そのお陰もあってかしばらくして無事に暴走した応援ロボットは沈黙した。

 

〈お知らせします。ただいま、想定外のアクシデントが発生したため障害物競走は中止となります。後片付けの後、予定通りの時間に次の種目である騎馬戦が開始されます〉

 

 まあ、競技どころじゃないもんね……そしてそう、次の種目は騎馬戦で、その次に行われるのがマイハとマアサの参加する距離走だ。二人は会場の方に向かったので、一人で見る形になった。

 

 

 

 

 騎馬戦は百鬼夜行対ミレニアムで、ホログラムを使うなどグレーな手段をものともせず百鬼夜行が優勝し、次の種目である距離走。

 

 一般的な陸上で短距離走と言えば400mまでだが、この距離走の短距離部門であるキヴォトススプリントはなぜか1000mだ。そしてマアサが出場する中距離部門キヴォトスダービーは2000m、マイハが出る長距離部門キヴォトスセントレジャーは3000mという風になっている。

 

「この距離区分、競馬……ですの?」

 

 いやまあ、1000m刻みなだけだし考えすぎかもしれない。そう思いながら、天然芝とほとんど変わらない踏み心地というミレニアム謹製人工芝のレースコースを見ていると、なんか見覚えのある形の出走ゲートに、何故かファンファーレの演奏が聞こえてきて……。

 

「やはり競馬じゃないですか!!」

 

 僕がそうこっそり叫ぶと同時にゲートが開いてスタート、始まった実況はもう完全に競馬の実況で。困惑しながら見ていたら、短距離走はいつの間にか終わっていた。

 

「……気を取り直して、次はマアサさんの出番ですわね」

 

 そして6番ゼッケンを着てゲートに入った青髪の彼女に注目して……いざ、スタート。

 

〈さあ、全員綺麗なスタートを決めました。注目の生徒、6番は先団に位置して様子を伺っています。この位置取り、どう見ますか?〉

 

〈彼女は午前のマラソンにて2位で入線しており、その持久力には目を見張るものがあります。逃げる先頭と続く後方集団のスタミナをすり潰し、出し抜くのが狙いでしょうか〉

 

 マアサは逃げを打ったミレニアムの生徒を煽るような位置にピタッと付けながら、少しずつ加速して後方との差を開いていく。

 

〈前半1000mの通過タイムは……57秒8、これはかなりのハイペースです!先団はペースを作り出している6番以外、ついていくのに必死な様子!一方先頭に立つ4番も早くも疲れを見せています!〉

 

 そしてコーナーを回って、最終直線。逃げの生徒がバテてずるずる下がっていき、マアサが交わして先頭に立った。このまま行けば、勝利が確実だけど……。

 

〈現在先頭は6番、彼女がこのまま行ってしまうのか……おっと、ものすごい末脚で追い込んできました12番、ゲヘナの生徒が猛追を掛けます!〉

 

 そしてマアサと12番の生徒が並び、どちらも一歩も譲らない様子で、ゴール板が近づいてきて。

 

〈6番と12番、二人もつれるようにゴールイン!12番が僅かに体勢有利か、写真判定を待ちます!〉

 

 そして写真判定の結果、マアサは僅かに及ばず。2位という結果になった。

 

 

 

 

 そしてその次の長距離走ではマイハがスタートで飛び出してまさかの大逃げ……かと思いきや実際はスローペースでの逃げ、いわゆる幻惑逃げを披露して撹乱。最後は伸びを欠いて差され、5着になったものの……間違いなく見せ場を作った。

 ちなみにマイハは走るのは別に得意じゃないんだけど、なぜ長距離走に出たのかと言うと……大食い大会に出る以上、何か走る種目に出てカロリーを消費しておきたいかららしい。乙女だなぁ。

 

「お二人とも、お疲れさまですわ」

 

 そして戻ってきた二人をまずは労い、スポドリを一本ずつ渡す。

 

「うーん、ありがと~」

 

「悔しいですね……あと一歩で勝てたのに」

 

 相手のゲヘナ生徒は三年生だったみたいだから、一年生ながらあと一歩まで行くのは充分すごいと思うけどね。そしてマイハに、何故幻惑逃げを打って出たのか聞くと。

 

「うーん、そうだね……わたし、そこそこ走れはするけど得意ってほどでもないし、割と真面目に勝ち筋はあれくらいかな~って。ちょっとわんこそば食べすぎたせいか、粘りきれなかったけど……」

 

 ただ、マイハの方も彼女より上位に入っていたのは全て上級生。むしろよくやったと言うべきだろう。

 

 

 

 

 さあ、そうして午後の種目も過ぎていき、いよいよフィナーレの学園対抗リレー。例年なら大体この種目の前に勝敗はほぼ決しているらしいけど、今回はなんと。

 

〈現在総合得点の首位はゲヘナ・トリニティ・ミレニアムの三校の横並びです!そう、まさにこの対抗リレーで総合優勝が決まるわけですね!〉

 

「おお~!」

 

 前世では先生を通してこの世界を見ていたからどこが勝っても良かったけど、やっぱり今はトリニティの生徒だから是非ともトリニティが総合優勝してほしいところだ。

 

 

 

 といったものの。

 

「ありゃりゃ……」

 

「まあ、そういう時もあるでしょう」

 

 アンカー対決、早々にずっこけて脱落かと思われたゲヘナの赤司ジュンコが体勢を立て直して怒涛の巻き返しを決めて優勝。そのままゲヘナの総合優勝が確定した。

 一方はトリニティはミレニアムと僅差の6位。ただ、ずっと裏方で頑張ってたハスミがみんなの声援を受けて全力で走った結果だし、まあいいよね。

 

「それにあたくしたちは一年生ですもの、次は三年生として参加できるはずですわ。その時に今度こそトリニティの総合優勝を」

 

「……ですね」

 

「うん~!」

 

 そうして三人で密かに次の目標を決めて、今回の晄輪大祭の全ての種目は終了した。

 

 

 

 

 特に用事もないのでそのまま帰ろうかと思ったけど、マイハがキャンプファイアを囲んでフォークダンスをしたいと言うので折角だしマアサと一緒に付き合うことにした。

 

 

 

 そうして後夜祭のキャンプファイアー前、流れ出したコロブチカ*1に合わせて踊る。まずはマイハと手を繋いで向かい合い、押して、引いて。

 手を離して一回転して、手拍子。そしてまた手を繋いでを繰り返す。途中で交代してマアサとも踊って、次の曲に移ろうという時に……。

 

「バーベキュー!バーベキュー!!」

 

「止まりなさい!バーベキューをするための火ではありません!」

 

 美食研究会が食材と金網にトングまで持って突入してきた。後夜祭くらい大人しくしてて欲しかったなぁ……。*2

 

「ちっ、シケた花火だな……ホログラムだかなんだか知らないがパンチが足らなすぎる。丁度いいや、キャンプファイアーにアルミニウム*3とカルシウム*4放り込もうぜ!」

 

「ちょ、この周辺を吹き飛ばす気ですか!?」

 

 ……どうすんのこれ。巻き込まれないうちに早めに逃げた方が良さそうだけど……そう思ってマイハ達を見ると、一応フォークダンスは踊るという目標は達成したわけなので、当然……。

 

「……帰ろっか」

 

「はい」

 

「異論はありませんわ」

 

 三人の意見が一致して速やかにその場を離れ、雷が落ちたかのような轟音と共に火の手が上がるのを眺めながらトリニティへと戻っていった。

 

*1
テトリスのあの曲

*2
屋台巡りの最中、お気に召さなかったのか一件爆破している。

*3
危険物。粉末は可燃性で爆発の恐れあり。

*4
危険物。粉末を水と反応させると水素ガスが発生し火災および爆発の可能性がある。

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