晄輪大祭が終わってしばらくした休日、いつものごとく三人で集まってのお出かけ。
「今日は何をするんですか?」
「ふふ、今日はね……私たち三人それぞれが好きなものに、残り二人が付き合うって感じにしようと思うの~」
それぞれが好きなもの、か……。
マイハはとにかく料理や食べることが好きで、マアサはゲームが趣味で。そして僕が好きなものと言ったら、ぬいぐるみかな。
「わたしはね、やっぱりスイーツ食べに行きたい~!二人が行きたい場所は~?」
「私ですか?ゲームショップに行きたいですね」
「あたくしは……おもちゃ屋さんなどで、ぬいぐるみが……」
それじゃあ決まりだねー、とマイハは微笑んで、まずはマアサの行き先に付き合うこととなった。
◇
トリニティ学園からやや離れた近郊エリアにやって来て、駐車場にロイアルティー号を停めて降りる。そこはかなりの規模を誇るゲームショップで、生産数が少ないまま廃盤になったり、自主回収によって殆ど市場に出回らなかったり、イベントでだけ配布された同人ゲームだったりといった稀少なゲームも取り扱っている。
そうして商品棚が何列も並んでまるで団地のようになっている店内に入って、それぞれが欲しいゲームを探してみようということになり、個人行動に移ったのだが……。
「……どうしたんですか、マイハ。そんなところでグルグルして」
「わたし、こういうのあんまり詳しくなくて……何を見ればいいのか分からないの」
マアサはもちろん、僕もそれなりにゲームはやるタイプだけど……マイハは馴染みがないらしい。近くをずっとうろうろしていたところを見かねてマアサが一緒に選んであげることになった。
「マイハはどんなゲームに興味があるんですか?」
「うーん、キャラクターがかわいいゲームとかあるかな~?」
しばらく考えて、マアサはアクションゲームの棚から何本かのソフトを取り出して広げて見せる。
「ふむ、それならスタークリーナーシリーズはどうでしょう。えーと……これ、ですね。主人公はピンク色の丸いキャラクターで……」
「あ、これかわいい~!」
「このシリーズはゲーム初心者でも比較的クリアしやすいと言われていて……ああでもやり込み要素が豊富で、コアなゲームファンにも人気があります」
このゲーム、前世でなんとなく見覚えがあるな……。それはともかく、マイハはスタークリーナーのソフトをいくつか買い物かごに入れてマアサに向き直る。
「じゃあ、まずはこれ買ってみるね~。そういえば思い出したんだけど、こういうソフトってゲームだけじゃなくて料理のレシピとかが入ってるのもあるんだよね~?」
「そうですね、健康カルテや作曲ツール、教育用のソフトなんかもあります。尤も、今はそういった機能はスマホアプリで事足りるので一昔前のソフトになりますが……」
そうしてマイハは携帯型のゲーム機本体とソフトを購入し、僕もマアサも何本か見繕ってから店を出た。
◇
昼過ぎでお腹も空いてきた頃、次に向かったのはトリニティ中心街の高級ホテル。ここの1階にあるレストランで、ランチタイムにビュッフェが開かれるので食べに来たというわけだ。これを提案したのは、当然。
「ん~、おいしいね~」
そう、マイハである。ここのビュッフェは特にスイーツに力を入れていて、きらびやかな盛り付けのなされたデザートが宝石箱をひっくり返したかのようにならんでいて。
「もぐもぐ……」
既に食べ始めている二人に続いて、僕もミカンタルトを一口。これは……品種改良を重ねた結果だろうか、柑橘類特有の酸味が少なく、とても甘いミカン。生クリームのまろやかさと合わさってとても濃厚な風味だ。
「あら、もしかして……」
そう、このミカンには覚えがある。実家で慣れ親しんだ食感、味、風味。
「どうしたの~?」
「このミカン、おそらくうちの農園で採れたものですわね……」
「えーっと……ミカンタルトは『シャイニーアイブロウズ100%使用』だって~」
マイハがポップを見に行って確認すると、うちで栽培しているミカンの品種だった。高級ホテルのレストランでも使われてるなんて……ほんとすごいな、うちの実家。
「へぇ、アイカのところの……」
「ふふっ、やっぱりここを選んで正解だったね~」
実家の味……というのはちょっと違うかもしれないけど、いつも食べていた味だから安心する。
「あ、ミカンといえばあっちのパフェとかどう?あれもアイカちゃんのところの果物使ってるみたいだし~」
「いいですね、持ってきましょう」
「あたくしはサーモンのカルパッチョを……」
そんな感じで時間一杯までスイーツ以外も豊富なビュッフェの品揃えに舌鼓を打ち、昼食を終えた。
◇
最後に訪れるのは、レストランからそう離れていないところにあるデパートのおもちゃコーナー。
「ふんふん、なるほど~」
ここのお店は人形を広く取り扱っているとのことだったので、一度来てみたかった。そういうわけで、二人と一緒に訪れる場所に選んだのだ。
「アイカが好きなものって何でしたっけ、あのクスリキメてそうな変な顔のアヒル*1ですか?」
マアサが指を差した先にあるのは、ペロロのビッグサイズぬいぐるみ。割とボロクソに言われるペロロだけど、よく見つめてたら、意外と愛嬌があってかわいいかも……いや、やっぱり目がなんか怖いわ。
「いえ、アレではなく……こっちのアングリーアデリーさんですわ。あの、ペロロさんとは同じモモフレンズではありますが」
そう言って、Mサイズのアングリーアデリー人形を抱きかかえる。マアサは首を傾げて僕の様子を見ていた。
「ベロロ?*2よりは理解できますが……なんというか、渋いですね」
「そうですか?可愛くありませんこと?*3」
ピンク色で可愛いと思うんだけどな……モモフレンズでピンクというと他にピンキーパカとかもいたりするけど、僕の一番はアデリーさんかなぁ。
「あ、見て見て~!このぬいぐるみ、さっき買ったゲームのキャラじゃないかな~?」
「本当ですね、クリーナーです」
マイハが手に取ったのは、桃色のまん丸の胴体に短い手と赤い足の1頭身。スタークリーナーシリーズの主人公であるクリーナーだ。
「ふふ、かわいい~」
笑顔でぬいぐるみを持ち上げる栗色の髪の少女は、年相応の様子に見える。身長が高く、それに頭も良くて思慮深い彼女は僕と同い年の一年生だという実感が湧きにくいけど、こういう姿を見るとやっぱり女の子なんだなぁと思ったり。
「マアサさんは気になる人形、ありますか?」
「私ですか?そうですね……」
辺りをゆっくり見回して、やがて何かめぼしいものを見つけたようでそちらに向かうマアサ。
「これ、とか」
彼女が持ち上げたのは、そこそこ大きなヘビのぬいぐるみだった。動物はぬいぐるみのテーマの中でもかなりメジャーなものだとはいえ……。
「な、なかなか珍しいですわね……」
「ほら、つぶらな瞳で良くないですか?」
そのヘビのぬいぐるみはある程度デフォルメされてはいるけど、暗がりにこれがいるのが見えたらたぶんびっくりするだろうね。
「マアサさんがそれがいいと思ったのであれば、いいと思いますわよ。言われてみれば、目が綺麗だなと思いますし」
動物のぬいぐるみは僕も好きだし。イルカとかアザラシみたいな海生哺乳類、ウサギやハムスターなんかの小動物、あとは鳥類全般*4。
◇
それぞれの行きたい場所を巡って、その帰り道。三人共ゲームソフトとぬいぐるみの詰まった袋を提げて、並んで歩く。
「今日どうだった~?」
「そうですわね、とても楽しかったですわ。お二人の好きなものについてより深く知ることができて、有意義な時間だったと認識しております」
僕がそう答えると、次は長い青髪を風に揺らす少女の回答。
「私もアイカと同じ感じです。良い時間を過ごすことができました」
マイハはそれを聞いて、柔らかな笑みを浮かべる。
「ふふ、それならよかった~」
彼女の笑顔に釣られて、お互いに向き合って笑い合いながら、橙色に変わりつつある空の中を歩いていく。穏やかな時間が過ぎていった。
なんだか途中すごい圧を感じましたね……。