ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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07 ある生徒の記録

 はじめまして、皆様。(わたくし)は……いえ、名乗るほどの者ではありません。ただのしがないトリニティ生、とでも言っておきましょうか。

 

 皆様にご挨拶したのは、ここトリニティに存在する美しきものについて是非ご紹介させていただきたいからです。

 そういうわけで早速、志を同じくする方と共に配置について、トリニティに咲く美しき花々を観察します。

 

「あぁ、仲睦まじい様子で談笑されて……今日も魅力的だわ、士官候補生のお三方は」

 

「ええ、ここからだと何を話していらっしゃるのか分からないのが残念でなりませんが……」

 

 そう、私たちが心酔しているのは……ティーパーティー傘下組織において、士官候補生という役職に就いておられる三名のトリニティ生。

 土御門マイハ様、炎谷マアサ様、そして祇園アイカ様。私たちと同じ一年生でありながら、彼女たちは気品に溢れていて、気高く、慈悲深い、トリニティ生の模範となるべき姿です。

 

 とても聡明で、どんな生徒にも朗らかな笑みを浮かべて分け隔てなく接するマイハ様。

 武力に秀でて、自分の中に確かな信条を持ち、いじめなどを許さぬ真っ直ぐな性格のマアサ様。

 真面目な性格ながらも、ジョークを好むなどお茶目なところがあり、そして愛銃に機関砲であるポンポン砲を選び、トラックに載せて駆るなどロマンを愛するアイカ様。

 一人一人でも十二分に魅力的な方々なのですが、三人合わさるとそれはもう本当に素晴らしくて、何だって成し遂げてしまうような安心感があります。

 

 マイハ様はサンクトゥス派、マアサ様はパテル派、アイカ様はフィリウス派と各々別の派閥に所属していますが、そんなもの些細なことといった様子で仲を深めていらっしゃって。

 今から二年後……三年生になった暁にはそれぞれの派閥の中心人物となって、手を取り合いトリニティ発展に尽力してくれるだろうという大きな期待が、私たちを含む少なくない人数から向けられています。

 

 ティーパーティーの純白の制服をこの上なく着こなす彼女たちですが、人を助けるためならばその制服が汚れることを厭わないといいます。

 例えばそう、聖園ミカ様が悲しいすれ違いの果てに起こした事件において……落ちこぼれと見なされていた補習授業部の方々に手を貸して協力し、ナギサ様の身柄をアリウスの軍勢から守り抜いたと。

 その後エデン条約の当日に会場が攻撃され、混迷の中でも的確に動いたと聞きました。まず人々の避難を誘導し、ナギサ様とサクラコ様を含む負傷者を救護騎士団へと導く手伝いをし、争おうとするゲヘナとトリニティの生徒たちを収めたのだと。ただの1年生3人によるものとは、にわかに信じがたいほどの貢献をしたというのです。

 

「……はっ!見たわよね、今の!?」

 

「はい、“あーん”ですね……!!」

 

 マイハ様がお作りになったのであろうパウンドケーキ、その一切れをフォークに刺してマアサ様のお口へと運んでいるのです。

 

「こんな光景を見られるなんて……!」

 

 周囲にあまり人はいないものの、大っぴらにあのようなことをされてはいつも冷静なマアサ様も恥ずかしかったのか……少々頬を赤らめていらっしゃいます。

 

「次は……なんと、アイカ様に!?」

 

 続いてマイハ様は、クッキーを一枚手に取ってアイカ様に差し出します。彼女は少しためらうと、マイハ様にしばしじっと見つめられ、仕方なさげにそのクッキーを食べさせてもらったようです。

 

「尊みが凄すぎるわ……!」

 

 この景色を目に焼き付けることができるなんて……ああ、なんと幸運なことか!これはすぐにレッドウィンターにいる創作仲間へと、報告せねばなりません。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 今日の授業が終わって、昼下がり。僕らは学園の中心から少し離れたところにある休憩室で、アリウス生に勉強を教えに行く前に少しティータイムを取っていた。

 休憩室と言ってもちょっとしたカフェテリアくらいの大きさの建物で、結構な人数が収容できそうだけど僕ら以外にはあまり人はいない。元々ひと気が少ない、最近アリウス生たちが暮らすようになったエリアに近いということもあるのだろうか。

 

「……でね、ミカ様ったら食べきれないからってロールケーキをセイア様のお口に突っ込んじゃったんだよ~」

 

「あ、あはは……」

 

「全く、何をしてるんですかあの人は……」

 

 マイハが作ったお茶菓子を食べながら、そんな感じの他愛ない雑談をしていると。

 

「あ、そうだ~。マアサちゃん、あーん」

 

 マイハはそう言ってフォークに刺したパウンドケーキをマアサに差し出してきた。

 

「な、何ですかいきなり……」

 

「えー、だめ~?」

 

 少しずつケーキを近づけてくる彼女に観念して、マアサはそれを食べる。

 

「おいしい~?」

 

「美味しいですが、わざわざこうする必要は……」

 

 周りにはあまり人影がないとはいえ、少し恥ずかしかったのか赤面した様子のマアサ。それを見て満足そうにしたマイハは、次はクッキーを手に取って……。

 

「アイカちゃんも、あーん」

 

「あ、あたくしですの……!?」

 

 いやまあ、冷静に考えればこっちにも来るだろうってことは予想できるけど、それでもね。

 

「じーーー」

 

「でも……う、うぅ……」

 

 上目遣いでひたすら見つめられ、何も言えなくなって、そして僕も諦めて食べることにした。

 

「おいしいでしょ~?」

 

「ええ、それはまあ、もちろん。バターのまろやかさがイチゴの酸味を和らげて、濃厚な仕上がりで……」

 

 お茶菓子で小腹を満たしたら、ティーパーティー傘下の訓練の代わりに授業をしに行かないといけない。そういうわけで片付けをしたら立ち上がって、アリウス生たちの元へと向かった。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 事情があったとは言え、私たちトリニティを滅ぼそうとした元アリウス生たちを懇切丁寧に指導する士官候補生の皆様。なんと懐が深い方々なのでしょうか。

 学生でありながら教師としても恥のないそのお姿に胸を打たれた私たちは、その授業が終わるまで待ってから再び観察に移りました。

 

「……見えるかしら?」

 

「もちろんです!」

 

 彼女たちが放課後に移動した場所は、とあるショッピングモール。そこにあるアクセサリーショップでお互いに髪飾りなどを選んでいる様子でした。

 

「マイハ様がマアサ様の髪飾りを付けてあげて、ついでに髪の触り心地を確かめていらっしゃるようです」

 

「あぁ、私も触りたいわ……マアサ様のサラサラの髪……!」

 

 当然私たちは触れたこともないのですが、あの髪の光の反射、輝き具合は間違いなくサラサラヘアーに決まっています。

 

「マイハ様の髪はふわふわですね、絶対!」

 

「アイカ様は……たおやかで潤いがある感じね、きっと」

 

 彼女の実家で栽培されているという、高級フルーツのような瑞々しさとハリがあるはずです。

 

 

 

 そうしてショッピングを楽しむ彼女たちの後を付いていくと、モールでの用事を終えた士官候補生の皆様はアイカ様のトラックに乗り込んでどこかへと向かっていきました。

 タクシーを呼びつけて急いで後を追うと、その向かった先は……。

 

「この方向……D.U.地区ね」

 

「となると、もしかして……シャーレ、でしょうか」

 

 数ヵ月前に、失踪した連邦生徒会長によって設立され、彼女に招かれてキヴォトスの外からやってきた大人であるという先生。その方が顧問を務めている連邦捜査部、通称S.C.H.A.L.E(シャーレ)はキヴォトスで起きる様々な事件を解決したとして広く名前が知られています。特に私たちの属するトリニティや、ミレニアムにゲヘナの三大校では。

 

 私たちは機会がないために直接話したことはないのですが、生徒の頼みをできるだけ解決しようとする、信用に足る大人だという声を聞く一方。シャーレにバニースーツや水着を着た生徒を連れ込んだり、一部生徒に対して変態的な行動をなさっているという噂がありまして。

 

「気になるわね……」

 

「私も同じ意見です」

 

 シャーレ本部の近くのホテルに部屋を取って、張り込みをすることに。

 

 

 

 やはりというか、予想は的中してお三方はシャーレのある建物へと入っていきました。

 

「うーん……」

 

 そうして2時間弱ほど監……様子を見ていたのですが、特に目立った行動はなく……ひたすら書類などの事務作業を行うばかり。たまにアイカ様が先生の方に何かを仰っているのは確認できますが、その内容は分かりません。

 

「あ、皆様が立ち上がって……帰られるようですね」

 

「本当?じゃあ私たちも撤収しないと……」

 

 お三方が帰られてから少ししてホテルに料金を払って帰ろうとしたところ……。

 

「おっ、丁度いいくらいのトリニティの嬢ちゃんがいるじゃねぇか」

 

「身代金はいくらになるかなぁ、けっけっけ」

 

「トリニティと言えばさっきもいたけど、あの三人組はどう考えても手出したら返り討ちにされそうだったからな……」

 

 三人組……士官候補生の皆様でしょうか。とすれば、賢明な判断でしょう。その辺の不良の方々が束になった程度ではあのお三方に勝てるはずがありませんもの。

 

「"こんなところで何してるの?"」

 

「げっ、先生……」

 

「騒がしいですわね……うん?」

 

 丁度シャーレの目の前だったからでしょうか、建物の中からは先生が顔を出し、騒ぎを聞き付けて戻ってきた様子の士官候補生の皆様まで。

 

「これはだな……」

 

「"身代金とか聞こえたけど……そういうのは良くないよ。何か困ってることがあるなら、私に相談してほしい。"」

 

「はい……すんません」

 

 先生に窘められたスケバンの皆様はすごすごとその場を立ち去っていきました。

 

「こんな時間にトリニティ生……シャーレに用事があったわけではないんですよね」

 

「ひゃい、えっと、その……」

 

 憧れの存在の一人であるマアサ様に問い掛けられて、しどろもどろになってしまいます。

 

「言えない事情があるの?それなら深くは聞かないけど、トリニティの外はああやって身代金目当てに誘拐しようとする人たちがいるから、あんまり遅くまで外に出ちゃ駄目だよ~」

 

「は、はい!」

 

「ええ、気を付けるわね……」

 

 マイハ様……あまり大っぴらに言えないことだと察して、配慮していただけるなんて。

 

「これからトリニティに帰るのですか?でしたら、ロイアルティー号……このトラックにお乗せすることもできますけれど……」

 

「い、いえ!そこまでしてもらうほどのことではないです」

 

 アイカ様、こんな私たちをトラックに乗せて送り届けようと考えてくださるとは……ただあまりに畏れ多いので、断腸の思いで断ることにしました。

 

「そうですの?では、お気をつけて」

 

「……はい!」

 

 そして興奮冷めやらぬまま、私たちはトリニティへと帰りました。

 実際に会話した士官候補生の皆様は、評判に違わず思慮深く、慈しみのある方々で。あっという間でほんのわずかな会話でしたが、とても貴重な経験でした……。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 アリウス生への授業が終わった後、トラックで出掛けたショッピングモールにて、ちょっとお買い物をして三人で楽しむ。

 

「ほらこのお花の飾り、マアサちゃんに似合ってるよ~」

 

「そうですか?」

 

 アクセサリーを選んでいると、そんな感じでマイハとマアサがキャッキャしていてほほえましく思ったり。

 

 それから、僕らはD.U.地区へとロイアルティー号で向かう。三人一緒にシャーレの当番に選ばれたのだ。当番のやることと言うとD.U.地区周辺の治安維持の手伝いや、先生の仕事を一緒に片付けると言った感じだけど……。

 

「"やあ、よく来てくれたね。"」

 

「ごきげんよう、先生。本日は当番とのことですが、いったいどのような感じですの?」

 

 出迎えてくれた先生に尋ねると、無言でデスクの上に積み重なった書類を指差した。

 

「"この前ミレニアムで起きたことの報告書や、シャーレを空けていた分の仕事が溜まっていてね……。"」

 

「先生って大変なんだね~」

 

 本当にねぇ。この程度なら、僕ら三人と先生が集中すればそう何時間も掛かりはしないだろうけど。

 

 そうして仕事に取り掛かろうとして、あるものが視界に入る。

 

「……先生。このカップ麺とエナジードリンクは?」

 

「"あ、つい忙しくて片付けるの忘れてた……。"」

 

 どうやら、仕事に追われるあまりろくな食事も取れていないらしい。

 

「もう、そのような生活を続けていらしたら寿命が縮んでしまいますわよ」

 

 もし先生が倒れたら、僕が……じゃなくてキヴォトス中の生徒達が困るからね。

 

「"そう、だね……。"」

 

「シャーレにいらっしゃる方には、料理のお上手な人も大勢いるのでしょう?もっと生徒を頼ることを……」

 

 そうして言葉の赴くままに先生を諭していると、マイハがニコニコしながらあることを言った。

 

「アイカちゃん、先生のお母さんみたいだね~」

 

「おか、えっ……!?あたくしが……!?」

 

 先生のお母さん、母親……奥さん……いや、なんで奥さんが思い浮かんだんだ。今のはナシナシ。

 マイハの言葉を聞いた先生は、暖かい視線で僕のことを見つめる。そしてマアサはというと黙々と事務作業をこなしている。

 

「も、もう!妙なことを仰らないでくださいませ」

 

「はいはい~」

 

 そうしてマアサに倣って仕事に取り掛かる。途中、先生がポロっと睡眠時間が3時間しか取れていなかったことを漏らしたので問い詰めて、先生がちゃんと寝られるように明日明後日の分の仕事も貰って片付けるなどした。

 

「ふぅ、これで終わりかな~」

 

 大体書類仕事を済ませたら、良い時間なので三人揃って帰ることにした。ただ、それにしても……。

 

(なんだか視線を感じる……)

 

 自意識過剰かなと思いつつも、今日一日ずっと見られている気がするのだ。

 まあ気のせいだろうと強引に疑念を取り払って、近くの駐車場に停めてあったロイアルティー号に乗り込もうとすると、シャーレの方が少し騒がしい気がして一旦戻った。

 

 そこにはティーパーティーとシスターフッドの制服の生徒が一人ずついて、その周辺をスケバン5人が囲み、その後ろに建物から出てきたらしい先生がいるという構図だった。

 

「"身代金とか聞こえたけど……そういうのは良くないよ。何か困ってることがあるなら、私に相談してほしい。"」

 

「はい……すんません」

 

 そう先生に言われて、バツが悪そうに退散していく不良生徒。どうやらトリニティの生徒二人を拉致して身代金を取ろうとしていたところを、先生が収めたらしい。

 

「こんな時間にトリニティ生……シャーレに用事があったわけではないんですよね」

 

「ひゃい、えっと、その……」

 

 マアサがティーパーティーの制服を着ている方に声をかけるとあたふたするばかりで、マイハが優しく言い聞かせて落ち着かせようとする。

 

「言えない事情があるの?それなら深くは聞かないけど、トリニティの外はああやって身代金目当てに誘拐しようとする人たちがいるから、あんまり遅くまで外に出ちゃ駄目だよ~」

 

「は、はい!」

 

「ええ、気を付けるわね……」

 

 二人ともひとまず冷静になったようなので、同じトリニティ生だし、寮まで送ろうかなと思って声をかける。

 

「これからトリニティに帰るのですか?でしたら、ロイアルティー号……このトラックにお乗せすることもできますけれど……」

 

「い、いえ!そこまでしてもらうほどのことではないです」

 

 まあ、正直運転席は2人までしか乗れないし、3人なら僕は荷台で警戒しつつ移動って風にできるけど……5人にもなると誰が荷台に行くかってことになっちゃうから、断られてちょっと安心した。

 

「そうですの?では、お気をつけて」

 

「……はい!」

 

 そうして駆けていく二人を見送って、僕らも改めて帰途につくことにした。

 




お嬢様学校ということで、こういうタイプの生徒も出してみたかったり。
ちなみに(わたくし)ちゃんは自分でnmmn小説を書いてたりしていて、それで(レッドウィンターの)創作仲間と言っているわけです。
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