ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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02 先生救出へ

 しばらくD.U.地区を走らせて、もうすぐトリニティ領へと入るというところで、マイハはあることに気付く。

 

「あ、アイカちゃん……!?」

 

「どうしたんですか?」

 

「アイカちゃんが、荷台にいない」

 

 マイハが不安そうな表情で言ったのを聞いて自分も後方を見るが、アイカの姿は彼女の言う通り確認できず。

 

「探しましょう、一人で置いていくわけにはいきませんから」

 

 マイハも頷く。ティーパーティーの護衛についてはあと少しでトリニティ自治区に着くし、それにミカがいるから万が一襲撃されても何とかなるはずだ。ある交差点で信号待ちの後、直進するシルバークラウドをそのまま見送って右折して、D.U.地区中心へと引き返した。

 

 

 

 

 十数分ほど元来た道を引き返していると、日が傾いて暗くなり始めた街の中で一際目立つ白い服装、それに大きな翼と赤い長髪。

 

「アイカ!」

 

「ロイアルティー号……?お二人とも……!?」

 

 どうやら間に合ったようだ。トラックを停めて、アイカに駆け寄る。

 

「もう、ダメだよ!勝手に降りるなんて……!」

 

「申し訳、ありません……ですが、これから先のことにお二人を巻き込むわけには……」

 

 真剣な表情のマイハにひとまず素直に謝るが、それから言い訳をしようとして、遮られる。

 

「何をしようとしていたんですか?どうするかはそれを聞いて、私達が自分の意思で決めますから」

 

「先ほどの会議のときに先生が失踪したと聞いて、トリニティに戻る道中でカイザーの軍勢が見えて……嫌な予感がしましたの。ですから、まずシャーレに行って何が起こったのか調べようと……」

 

 それを聞いて、二人はそれぞれの答えを言う。

 

「なんだ、そんなことだったの?言ってくれれば協力したのに」

 

「ええ、私も先生が姿を消したということには引っ掛かりがありました。彼の身に何かがあった、その可能性は高いと思います」

 

 そうして、三人はこれからやることを確認するように互いの顔を見合わせる。改めて集合した士官候補生は先生に何が起きたのかを調査するという任務を開始した。

 

 

 

 

「あ、あれ……!」

 

 さらに数十分ほどシャーレに向かって走っている最中、マイハの目線の先にはカイザーPMCの部隊と交戦する一人の生徒の姿が見えた。

 

「カイザー……一人相手に寄ってたかって、卑劣ですわね」

 

「アイカのその、カイザーへの嫌悪はどこから沸いてくるんですか?」

 

 ポンポン砲のクランクを回し、カイザーの兵士に向けて躊躇ない砲撃を加えるアイカ。たちまち敵は全員戦闘不能となり、トラックから降りてカイザーに攻撃されていた生徒の方へと向かっていく。

 

「援護、感謝する……その制服は、トリニティか?」

 

「はい、トリニティのティーパーティー護衛部隊ですわ」

 

 その相手はヴァルキューレ警察学校の、公安局にて局長を務める……“狂犬”こと尾刃カンナであった。

 

「不躾ですまないが、トリニティの生徒が一体なぜここに……?」

 

 そう聞かれて、アイカが順を追って説明し始めた。まず自分達は今日開かれていた非常対策委員会設立会議にティーパーティーメンバーの護衛として参加していたこと。そこで先生が行方不明になっていることを知り、トリニティに戻る途中で大々的に動くカイザーの部隊を見て何か不穏を感じ、シャーレに向かって何が起きているのか調べようとして向かっていたこと。

 

「そうか……これから私の言うことを信じるか否かはお前たち次第だ、もちろん従う必要はない」

 

 そして今度は、カンナが自分の知っている状況を説明する。1時間ほど前、カイザーPMCが連邦生徒会を襲撃し、行政委員会を解散させ、サンクトゥムタワーを掌握。そしてカイザーはD.U.地区に戒厳令を敷き、物流や交通、通信は遮断され、閉じ込められた状態にあること。

 自身の権限でヴァルキューレ内の機密情報にアクセスし……その結果、シャーレの先生はカイザーの手に渡ったヴァルキューレ警察学校第3分校の地下に幽閉されていると知ったことも。

 

「それで、先生を解放するために場所へと向かっていたところをカイザーに捕まったのがさっきのことだ。今の私は、組織に背いているも同然だからな」

 

 士官候補生たちは互いに顔を見合わせ、そして静かに頷いて向き直る。

 

「協力させていただきますわ、尾刃局長」

 

 アイカのその言葉に、他の二人もゆっくり首を縦に振る。

 

「……分かった。ただ、たまたま居合わせたお前たちに助力を求めたのは私だ。その責任は全て負う」

 

 そういって歩き出すカンナに、アイカが声を掛ける。

 

「刻一刻を争う状況のようですし、こちらに乗車してくださいませ」

 

「ああ……そうだな」

 

 荷台に飛び乗ったカンナと共に、ロイアルティー号はヴァルキューレ第3分校へと急いだ。

 

 

 

 

 道中、向かってくるカイザーPMCの軍団に40mm2ポンド対空砲弾を撃ち込み続けて鎧袖一触、無事に目的地の前まで到着した。

 

「……ここから先は私がやる。お前たちはカイザーの援軍を表で食い止めてくれるか」

 

「はい、承知しましたわ」

 

 建物の中は仮にも警察学校の施設であり、かなり入り組んだ複雑な構造をしている。とてもではないがトラックが入ることはできない。そういうわけで第3分校の入口に陣取り、敵を寄せ付けないように迎撃を続ける。

 

 

 

 数十分後、だいぶボロボロになった様子のカンナと、シャーレの先生が建物から出てくる。

 

「先生……!ご無事、でしたのね」

 

「"士官候補生のみんな……。"」

 

 アイカは安堵した様子で先生に声を掛ける。それから先生と負傷しているカンナを運転席に乗せ、D.U.地区からの脱出ルートへ向かう。

 

「来たぞ、撃て!」

 

「なっ……!?」

 

 カイザーの待ち伏せにあって急襲を受け、対応が出遅れる。しかし、そこにカンナが前もって呼んでいた援軍が到着して事なきを得た。

 

「先生!大丈夫ですか!?」

 

「うう……らしくないなぁ。どうしてこんなことに……」

 

「"生活安全局、来てくれたんだ!"」

 

 ヴァルキューレ警察学校、生活安全局に所属する中務キリノと合歓垣フブキ。

 

「はぁ……なんとか、間に合ったか」

 

「見ましたか!?本官の完璧でパーフェクトな射撃で……カンナ公安局長、どうしたんですか!?」

 

「あちゃー、だいぶ痛そうだね。大丈夫?」

 

 トラックの運転席に腕を庇いながら座っているカンナを見て、心配した表情を見せる二人。

 

「この程度、気にするな……」

 

「それにこのトラック、どうしたのさ?ヴァルキューレの備品にはこんなの無かった気がするし……」

 

「はぁ……はぁ……色々と、説明せねばならんな」

 

 部下に規律を無視して着いてこいと言うわけにはいかず、先生を助けるために単独で行動していたところ、目的を同じくしたトリニティの生徒と出会い、共に動いていること。このトラックはそのトリニティ生の所有物であること。

 先生に対しては、これまでの状況について改めて説明する。カイザーPMCによる襲撃と、サンクトゥムタワー……引いてはD.U.地区全体の掌握。

 

「……忘れるところでした。……先生、こちらを」

 

 カンナは先生にタブレット端末とスマートフォンを手渡す。それはカイザーコーポレーションによって押収され、接続を試みたものの……全く操作することができなかった、先生のみが扱えるオーパーツ。

 

「"シッテムの箱……これをどうやって?"」

 

「ヴァルキューレ内部の極秘情報を収集していました。カイザーグループは私のことを企業と癒着して腐敗しきった警官だと思っていますので、疑われずに何とか回収までは……」

 

 それから、カンナは深呼吸をして続ける。

 

「……このままではこの都市はかつてないほどの混乱に陥るでしょう。これが現実だと妥協し、腐敗しきった警官の私にできる、最大限の抵抗でした。あの時の先生の教えがなければ……私はまた踏み出せずに終わっていました」

 

「"……カンナ。君は立派な警官だよ。ちゃんと自分の信念に従って、諦めずに行動しているんだからね。"」

 

 その言葉を聞いて、何かを考えるようにうつむく彼女に、先生はさらに。

 

「"それに、これがあればもう大丈夫。何とかなると思う。"」

 

「ん?それって大事な物なの?」

 

「"……我々は望む、七つの嘆きを。……我々は覚えている、ジェリコの古則を。"」

 

 そう暗号のような言葉を先生が呟くと、電源が付いてタブレットの画面が明るくなる。

 

「"……それじゃもう一度、指揮を始めようか。"」

 

「えっ、まってまって!先生の指揮がすごいのは知ってるけどさ……今の私達じゃ頭数で圧倒的不利……」

 

 フブキがそこまで言ったところで続きはカイザー兵士の声によって掻き消された。

 

「こっちだ!いたぞ!」

 

「……来ましたわね」

 

「こ、交戦に入ります!」

 

 トラックの運転席から素早く、的確に指示を出す先生。

 ヴァルキューレの生活安全局とトリニティティーパーティー護衛部隊の士官候補生という、普段なら全く指揮系統が異なる集団でもうまく連携を取らせて、敵を一人一人撃破していく。

 

「……なんとか、なりましたね」

 

「何とかなったけど、これ以上は頭数も支援も補給品も圧倒的に不利だって。援軍呼ぼうよ」

 

 しかしながら、D.U.地区内の通信網は封鎖されており、援軍を呼ぶのはほぼ不可能だ。アイカたちのスマートフォンも圏外状態になっており連絡はできない。

 

「えっと、こっちです!」

 

 道中で何度も交戦し、本来護衛任務で戦闘を想定していた訳ではない士官候補生組の弾薬は底を突きかけている。ヴァルキューレの三人も弾薬にこそ余裕はあるがかなり消耗してきており、状況としては芳しくない。

 その一行の前に立ち塞がるカイザーPMCの兵士。

 

「すごい数……」

 

「ここまで、か……」

 

「速やかに投降しろ。投降しないのであれば、掃射する」

 

 そして行き詰まりを感じたところで、ドローンの飛行音が聞こえてくる。そのドローンはカイザーに向かって攻撃し、間もなくして爆発音と共にヘリコプターから降下してくる生徒の姿が見える。

 

「どりゃあああああ!!」

 

 奇襲を受けた敵兵は吹き飛ばされてダウンし、そこに降り立ったのは。

 

「RABBIT2、現場に到着!」

 

「RABBIT1、先生と要人を確保。RABBIT3は敵ターゲットの位置を確認してください」

 

「"RABBIT小隊、来てくれたんだ!"」

 

 先ほど、ほんのわずかな隙をついて先生が呼んだ援軍。今は無きSRT特殊学園の部隊の一つ、RABBIT小隊。一年生で発展途上ながらも特殊部隊として練度、装備の質は折り紙付きであり、この状況でこれ以上ない心強い援軍である。

 

「勘違いするな、別に先生が助けを求めたから来たわけではない」

 

〈そうそう。たまたま救援要請があったから食後の運動がてらに寄っただけ〉

 

〈それにしてはみんなすごい急いでたような……〉

 

「……RABBIT小隊、先生の救助要請を確認し、参上いたしました」

 

 それを聞いて、アイカが荷台から顔を出す。

 

「SRT特殊学園の皆様がいらっしゃるのであれば、心強いですわね。あたくしたちは先生の無事も確認できましたし、弾薬も尽きかけているのでトリニティに一旦戻りますわね……」

 

 そして先生と、何とか歩けるほどには回復したカンナを降ろし、交通違反スレスレの速度でトリニティの方向へと出ていった。

 

「……そのまま行かせて大丈夫だったんでしょうか?」

 

「"うん、トリニティとの接続口はすぐ近くのはずだから。私たちも進もう"」

 

 その先生の一声で、ヴァルキューレとSRT、キヴォトスの治安を守る組織たちは共に進んでいった。

 




敵がカイザーということは……?
そう、アイカがカイザースレイヤーとして覚醒するお時間ということです。
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