ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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03 一人海軍

 トリニティ自治区とD.U.地区境界の検問。カイザーPMCの兵員が横一列に並んでいるところに、一台のトラックが近づいてくる。

 

「立ち止まれ!」

 

 兵士の一人が拡声器を使ってそう叫ぶが、トラックは速度を落とすことなく無視する。

 

「立ち止まらないなら、撃つ……ぐぁっ!?」

 

 一斉に銃を構えたところで、2ポンド対空砲弾の連射。兵士もろとも障害物は吹き飛ばされ、道は開けた。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 邪魔なカイザー共をぶっ飛ばして、無事にトリニティ領内に入った。なんとか弾薬が完全に尽きる前に辿り着けてよかったよ。

 

「お二人とも、ようやくトリニティまで戻れましたわ」

 

 そのまま中心部まで車を走らせて、学園の入口へ。

 

「うーん……一日も離れてないのにだいぶ久しぶりな気がするよ~」

 

「そうですね……これからどうしましょうか」

 

 D.U.地区内の問題なので、対処は完全に先生たちに任せてしまってもいいんだけど……。

 

「あたくしは……少し休憩したらカイザーを殲め、ごほん。先生の支援に向かおうと思っておりますわ」

 

「わたし達も一緒に行こうか?」

 

 もちろん、ついてきてくれるのは嬉しいんだけど……また巻き込むのはどうしても気が進まない。それに……。

 

「あたくしは平気ですわ、しっかり準備をして行きますから。それにお二人には、現在のD.U.地区で起きたことの報告をティーパーティーやその他の組織に伝えてほしいのです」

 

 そう、トリニティ上層部はD.U.地区からそのまま戻ってきて、その後に情報封鎖が行われたから何が起こったのかまだ知らないはずだ。特に先生の消息については絶対に伝えないといけない情報だと思う。

 

「……うん、分かった。そういうことなら」

 

「……アイカ、とにかく無事で戻ってきてくださいね。可能なら、トリニティの兵力も救援に動かしますから」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 そしてティーパーティーの本部へと向かう二人を見送って、僕は寮の方へと移動する。

 

 

 

 ……用意するもの。ポンポン砲の予備弾薬をあるだけたくさん、救急キット。それにリマーカブル操作用のコントロール端末、D.U.地区の港湾エリアに停泊させておく。後は携行食も忘れずに。

 

「……用意、完了ですわね」

 

 さあ、準備は整った。気に食わないカイザーの軍団を片付けに行こうか。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

〈敵の巡航戦車、中隊規模を確認!攻撃用ヘリからバリケードまで徹底的に準備してるよ〉

 

「ちっ、抜かりないな……」

 

 子ウサギ公園で一先ずの準備を整えた一行はカイザーに占拠されたシャーレ奪還へ向かって進み始めたが、この程度のことは想定済みだったらしく。かなりの規模のカイザーの兵力がその行く手を塞いでいた。

 

「正面突破は厳しいよね……どうしよう」

 

「もう少し支援があれば……」

 

 さすがに生活安全局とRABBIT小隊の6人だけで相手にするのは……やれないわけではないが、厳しいだろう。ここはまだ通過点でしかない訳で、相手にとって絶対死守すべきシャーレの内部に強力な戦力が配置されているのは確実だ。そこまでに十分な余力を残しておかないといけないのだから。

 

「見つけたぞ!こっちだ!!」

 

「連絡を受けて参りました、先生!私達も力になります!」

 

 到着したのはヴァルキューレ警察学校公安局の部隊。どうやら命令待機中に子ウサギタウンの近くでたまたまカンナと先生の姿を見かけ、上司のために先生に協力すべく駆けつけたという。

 

「ミヤコ、これなら……」

 

「……はい、いけそうですね」

 

 公安局員と共にカイザーの部隊へ吶喊しようとしたその時、ミヤコはある音に気づいた。

 

「……?何か、爆発音と……歌声が聞こえますね」

 

 その音は段々と近づいてきて、正体不明のものに警戒を強めると、その発信源がついに現れた。

 

 

──With a tow, row, row, row, row, row, to the British Grenadiers!

 

 

「"アイカ……!"」

 

「……あら、先生方。こちらにいらっしゃいましたのね」

 

 数時間前に一旦別れたトリニティの生徒。彼女が一人で対空機関砲の設置されたトラックに乗ってやってきたのだ。

 

「ええと……」

 

 昨日協力してくれたことから支援に加わってくれるのだろうが、いまいちその意図が汲めずにいると。

 

「ああ、お気になさらず。あたくしはカイザーグループが気に入らないので皆様を助けるついでに叩きのめしに来ただけですわ」

 

 気に入らない奴はぶん殴る、まるでどこかの()()()()()()のような単純明快な理由で味方してくれるということだった。

 

「そういうわけで、この方向は……シャーレに向かうのですわよね?道はあたくしが開きますわ」

 

「"うん、頼んだよ。"」

 

「はい、頼まれましたわ。さて……」

 

 アイカは空気を一杯に取り込んで、声の限り叫んだ。

 

 

 

「ここで会ったが百年目、穢らわしい金貸し共め!!キツネ狩りの時間ですわぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 そしてポンポン砲のクランクを回して目一杯に砲撃を叩き込みながら突撃していく。

 

「……私達も、行きましょうか」

 

 そんな、トリニティのご令嬢らしからぬ姿に若干引きつつも先生らはその後を追っていった。

 

 

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

 

Come, cheer up, my lads! 'tis to glory we steer──

 

 

 ヒリつくような爆炎。

 

 

「うわああぁぁ!?」

 

「まともに相手するな!てった……」

 

 

 規則正しくリズムを刻む砲身。

 

 

To honour we call you, not press you like slaves──

 

 

 むせ返るほどの硝煙の匂い。

 

 

 ──嗚呼、全てが愛おしい。

 

 

「ぐあっ!?今度は上から……!?」

 

「馬鹿な……空母航空隊だと!?」

 

 

 反撃はもちろんのこと、逃走さえ許さない。

 

 

Heart of Oak are our ships, hearts of Oak our men──

 

 

 心地のいいレシプロの音が上空から聞こえる。

 

 

「なんなんだ、なんなんだあれは!?」

 

 

 大気を切り裂いて落ちてくる手榴弾の音がする。

 

 

──We'll fight and we'll conquer again and again!

 

 

 ──胸の晴れるような、敵兵の恐れおののく声が耳に届く。

 

 

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 

 

「凄まじい……としか言いようがないな」

 

 無邪気な幼子のように軽やかに、伸びやかに歌い続ける少女を見て、ある公安局員が呟いた。

 

「何が彼女をあそこまで駆り立てるのか……」

 

 尤も、その少女がやっていることはひたすら機関砲で敵を蹴散らし、そして定期的に航空隊によって絨毯爆撃するという圧倒的暴力の極みなのだが。

 

「まるで一人海軍(ワンマンネイビー)だな」

 

「まあ、楽に目的地まで向かえるなら何でもいいけどねー」

 

 しかしアイカがカイザー兵を引き付けた上で木っ端微塵に粉砕してくれているお陰で、自分達は後方と側面を警戒しながら進み、やって来た部隊に対応するだけで良い。

 先生の指揮が優秀なこともあって、ほとんど無傷に近い状態でシャーレへと迫っていく。

 

 

 

 

 

 ──ヘリが立ちはだかっても。

 

 

「まさかこれが対空機関砲だと知ってノコノコとあたくしの前に出ていらっしゃいましたの?なんと愚かなことでしょう、墜ちなさい蚊トンボ!!」

 

 

 ──戦車が行く手を阻んでも。

 

 

「制空権下にない戦車など、ただの大きな的ですわね!第710中隊、爆撃開始!!」

 

 

 ──歩兵が戦列を並べて道を塞いでも。

 

 

「烏合の衆がいくら雁首揃えたところで無駄ですわよ、Tally-ho!!」

 

 

 その少女は如何なる障害もものともせず進む。神の如き強者のように。

 

 

 

 

 

 そうしてカイザーの軍勢相手に無双を通り越して無情とも言える殺戮劇を披露したアイカの先導で、先生達はいよいよシャーレの目の前までやって来た。

 

「建物の中に逃げ込むなど、小賢しいことを……」

 

 彼女に恐れを成してシャーレの内部へと撤退していったカイザーの部隊を睨むアイカに、ようやく追い付いた。

 

「お疲れ様でした、アイカさん。ここからは私たちの任務です」

 

 ミヤコに声を掛けられて、アイカは本当にスッキリした様子で答える。

 

「ええ、任せましたわ。あたくしはここで援軍を迎撃しますわね。中に逃げた小癪なカイザー兵たちをコテンパンにしてきて下さいませ」

 

「は、はい……行きましょう、先生」

 

「"うん。……ありがとう、アイカ。"」

 

「いえ、あたくしはほとんど私情で動いたようなものですので……」

 

 それだけ答えて、アイカとヴァルキューレ公安局の人員達は来たるカイザーの増援を迎撃する体勢に入った。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 ここまでの道中で弾薬を消費しまくったせいか、あんなに大量に持ってきた予備弾薬ももう4分の1くらいになっていた。

 そういうわけで基本的にはヴァルキューレ公安局に迎撃は任せて、僕は遠方の後続部隊を砲撃してこちらへ来るまでにある程度削る、という形だ。

 

 操作端末を確認すると、航空隊はあれだけ出撃させまくって結構被弾したはずなのに、20機全機母艦内に帰投しているみたいだ。ただ損害状況を見ると翼に張られている布はかなりボロボロらしく、ちゃんと交換しないと作戦行動は無理だろう。

 

「……お疲れ様でした、リマーカブル」

 

 端末を操作して、実家の湖に帰港するよう指示を出す。航空母艦は航空機こそが本体、これ以上の継戦が難しいのならば撤退はやむを得ないことだ。

 

 

 

 しばらくシャーレの入口に陣取って無防備に近づいてくる敵をなぎ倒していると、まだ昼の時間にもかかわらず突如空が紅く染まる。夕焼けや朝焼けの赤色よりも強烈で、ある種不快な紅色。それはひたすらに不穏なオーラを滲ませていた。

 

「空が……!?」

 

「なんだこれ!?」

 

 轟音と共に地面が揺れて、見ると上空から黒い巨大な柱のようなものが降りてくる。それはサンクトゥムタワーと激突し、破片がそこら中に降り注いだ。何度蹴散らしても未だにシャーレへと押し寄せていたカイザーの軍勢も、ただならぬ気配を感じたらしく引き返していく。

 

「……来ましたわね」

 

 キヴォトスを滅ぼしかねない、ただ到来するだけの不吉な光──色彩。

 




憎きカイザーを先生の指揮という大義名分の元にブッ飛ばせるということでやりたい放題しまくるアイカ。

アイカはポンポン砲を撃てる状況でさえあれば相手がツルギやヒナなどのキヴォトス最強格でもない限り、数発撃てば戦闘が即終了するマップ兵器みたいな存在なんですよね。
なのでこういった大軍勢相手でもないと、戦闘の描写のしようがないという悩みがあったりします。
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