ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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04 自治区防衛

 ……さて、どうしようか。このままここに残るか、それとも一旦トリニティに戻るか。もしくは、虚妄のサンクトゥム攻略に参戦する?

 そうして次の一手を決めかねていると、電話が鳴る。相手はマイハだった。

 

「もしもし、マイハさん?」

 

〈あ、やっと繋がった~!アイカちゃん、トリニティまで戻ってきて!先生がどうなったのかとか色々聞きたいことはあるけど、まずは戻ってきてからね!〉

 

 それだけ言うと、彼女は通話を切った。いや、切らざるを得なかったと言った方がいいのかな。どうやら電波の状況がかなり悪いらしく、またいつ通信が途切れるか分かったものではないし。

 

「さて、帰りましょうか」

 

 先生のことは皆に任せれば大丈夫だろう。ヴァルキューレ公安局員たちに別れを告げて、所々破壊されて凸凹になった道路を進んでいった。

 

 

 

 

「アイカちゃーん~!」

 

 先に弾薬と燃料の補給だけして学園内、ティーパーティー本部へと向かうと、マアサとマイハが出迎えてくれた。

 

「アイカ、無事でしたか」

 

「はい。一先ずカイザーによるD.U.地区支配については解決できましたわ。ですが……」

 

「うん、この変な色の空だよね」

 

 ひたすら不吉な深紅の空。それはシャーレの前からトリニティに戻っても変わらず。

 

「とりあえず、アイカ。中に入りましょう」

 

 マアサにそう促されて、ロイアルティー号を近くの駐車場に停めたら本部の建物に入って、二人についていつものベランダに行くと。

 

「アイカさん……」

 

 ナギサはもちろんのこと、サクラコにミネ、それにハナコもいた。トリニティの重要人物がかなり集まっている場に、ただの一年生である僕らが参加して良いのかと若干気後れする。

 

「……はい、まずはD.U.地区で起きたことの報告ですわよね。マイハさん、マアサさんからはどこまで聞いておられますか?」

 

 その問いかけにまずはナギサが答える。

 

「非常対策委員会会議に先生が現れなかったのはカイザーによって拉致されていたためで、私たちがトリニティに戻ったあとに連邦生徒会を襲撃したカイザーはD.U.地区を掌握。戒厳令を出して全ての出入りを封鎖したと」

 

 それに続いて答えたのは、ハナコだった。

 

「トリニティに帰る途中、士官候補生の皆さんがカイザーの軍勢を見てD.U.地区にUターンしてヴァルキューレと協力し、先生を助け出した……そこまでですね」

 

 やっぱり僕がD.U.地区にまた戻るまでのことまでか。じゃあしっかり説明しないとね。

 

「分かりました。まずはその後、二人に状況報告を任せてあたくしはD.U.地区へ戻って先生の支援に向かいましたわ。カイザーによるD.U.地区支配を止めるのはシャーレの建物を奪還する必要があるとのことでしたので、それに力を貸して無事にシャーレは先生の手に戻ったのですが……」

 

 そこで突如として空に異変が起きた。まもなくしてマイハに呼ばれたから急いで帰ってきたわけだ。

 

「となると、アイカさんもこの異常事態の原因は分からないと」

 

「そう、なりますわね。申し訳ございません」

 

 本当は知ってはいるけど、なんで知ったのかと聞かれるとねぇ……先生もまだ全貌は知らないだろうし。

 

「いえ、そしてこれからのことですが……」

 

 ナギサがそう言い掛けたところで電話が鳴る。彼女はすぐに受話器を取って通話を始めた。

 

「……そうですか、はい。……分かりました、すぐに対処します」

 

「どちらからですか?」

 

 サクラコが問うと、ナギサは真剣な表情で続ける。

 

「正義実現委員会から、トリニティの各所で突如出現した謎の機械や消滅したはずのユスティナの複製が市民や生徒を攻撃していると」

 

「聖徒会が……?」

 

 色彩の勢力はデカグラマトンや複製(ミメシス)、Divi:Sionを利用して、トリニティだけでなく、キヴォトス全域に攻撃を始めたようだ。

 

「後は先生からも連絡が……」

 

 先生からは各自治区の生徒は黒い柱に近寄らず、すぐに避難するように、ここから先は大人(シャーレ)に任せてほしいとのことだった。

 

「あ、私にも……なるほど……」

 

 ハナコにも先生からの連絡が届いたらしい。ただ、その内容はナギサに送られてきたそれとは違うらしく。

 

「……先生から事態解決のため、シャーレに来てほしいと。すみませんが、行ってきますね」

 

「分かりました、トリニティのことはこちらで何とかします」

 

 早速駆けていくハナコを見送ったら、ナギサが次の言葉を切り出す。

 

「さて……私たちはトリニティを襲う正体不明の勢力の相手をせねばなりません。ティーパーティー、シスターフッド、救護騎士団、それに正義実現委員会……組織としての枠組を超えて、トリニティを守るために一致団結すべき時が来たのです」

 

「……はい、もちろんです」

 

「私も……私たちも、救護を必要とする人のために尽力します」

 

 一同に頷いて、自治区を守るための戦いへと向かっていった。

 

 

 

 

 僕らに対するナギサの指示は、トリニティ領内を巡回して遊撃してほしいとのことだった。

 それにしたがってトリニティの市街地をロイアルティー号に乗って走る。あちこちに怪しい光を発する隕石のような物体が突き刺さっているせいで、美しい街並みは台無しの状態だった。

 

「あ、正体不明の軍勢ってもしかしてアレ?」

 

 マイハが運転席から顔を出して指差す先には、ウネウネ動く無数のアームを垂らした、金属でできたクラゲのような、宇宙人のような……形容しがたい物体が生徒を襲っていた。なんかこれだけ書くとエロゲーみたいだけど、アレにそういう意思はないだろう。

 

「なんか変な感じ……攻撃、効くのかな?」

 

「撃ってみれば分かることでしょう」

 

 そう言ってマアサは躊躇なく銃を持ち出して撃ち込んだ。もろに5発銃撃を食らったクラゲ*1は地面にべちゃっと倒れて機能停止。

 

「攻撃が効くのなら、少しは安心だね~」

 

「ええ、そうですわね」

 

 このポンポン砲は大量の軍団相手には滅法強い。撃てば倒せることさえ分かれば、後はこちらのものだ。

 

 

 

 

 機動力を活かしてトリニティ中を駆け巡って敵を破壊し続ける。

 

「うえぇ……なんですの、虫みたいで気持ち悪いですわ……」

 

 クラゲもまあまあキモいけど、四つ足のクモみたいなのや6本足のサソリみたいなロボットもいてげんなりする。前世ではめちゃくちゃ苦手だったんだよね、虫。今世では農家ということもあって慣れてはいるけど、あんなデカい奴だと話は別だ。それになんか動きがカサカサって感じでやたらリアルなのが嫌。

 

「はは……」

 

「なるべく見ないで済むようにさっさと片付けてしまいましょう」

 

「ええ、そうですわね……消えなさい!」

 

 ポンポン砲の射撃を開始する。14発撃ち終わった頃には、敵は原型を留めないくらい破砕されていた。

 

「……!今度はユスティナ聖徒会です」

 

 マアサの視線の先には、アリウス進入作戦以来のウィンプルにガスマスク、そしてレオタードや深いスリットの入ったドレスの変態的な格好の集団が。

 

「アイカちゃんだけに任せてもいられないよね、わたしたちも降りて戦うよ~」

 

 そう言ってマイハはマアサと共に運転席から降りて複製に銃撃する。何発か命中すると、成仏するかのようにふわりと浮き上がりながらそれは消滅した。

 

「お二人は大丈夫ですの?」

 

 砲弾も無尽蔵にあるわけではないので、二人も戦ってくれるのは助かるけど……ちょっと心配だ。そう思って聞くけど、二人は。

 

「いつかに言ったでしょう、打たれ強さには自信があると」

 

「わたしも大丈夫だよ、気にしないで~」

 

「……ええ、分かりましたわ。あたくしは遠距離の敵を優先しますわね」

 

 そうして僕らは、トリニティの防衛を続けていった。

 

 

 

 

 トリニティ中心部の中でも比較的閑散としたエリアまで来た。この辺りは遺跡地帯と呼ばれており、普段は観光地として知られているけど……。

 

「……二人とも。正実の通信を傍受していたのですが、コハルが危ないようです」

 

「コハルちゃんが?」

 

 何が目的でわざわざ正義実現委員会の通信を傍受していたのかは置いておいて、どうやらコハルがとある聖堂の跡で避難した市民と一緒になんとか攻撃を凌いでいるらしい。

 

「幸い、ここからそう遠くありません。救援に向かいましょう」

 

「ええ、分かりましたわ」

 

 こういう事態のために遊撃部隊をやってるんだからね。マアサとマイハを再び車に乗せて、急いで現場へと向かう。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 古い聖堂の建物に、爆発音が響く。瓦礫やそこら辺にあった机や椅子などを利用したバリケードが突破され、色彩の軍勢が内部に雪崩れ込んできたのだ。

 

「あ、あうぅ……こ、こっち来ないで!」

 

 ここをたった一人で死守していたコハルにも、ユスティナ聖徒会の複製がにじり寄ってくる。自分の後ろには市民や生徒たちがいる。正義実現委員会として引くわけにはいかない、が。

 

「うぅ……」

 

 一斉に武器を構えられ、多勢に無勢。まさに絶対絶命といったところ。

 しかし突然、聖堂の外壁が破壊されて周囲には土煙が舞う。そこから現れたのは、一人の人影だった。

 

「はいはーい、ちょっと失礼するね」

 

 象徴的な桃色のロングヘアを棚引かせ、白い翼を広げてコハルに迫っていた敵の前に立ちふさがる。そして振り向いて言う言葉は。

 

「コハルちゃんがここに居るって聞いて、ダッシュで来ちゃった☆」

 

「あ、えっと……ティーパーティーの……」

 

 聖園ミカにとって、下江コハルは特別な存在である。エデン条約のあの日……主戦派の生徒から暴力を受けていた自分を庇い、自分の立場が決定的に悪くなったあの後で、いじめで燃やされそうになった大事なものを守ってくれた恩人なのだから。

 ……尤もコハルにとってはそのどちらも、自分の正義として当然のことをしただけであり。ミカについては今のところ『マアサの上司のすごい人』としか認識していないが。

 

「コハルちゃん、大丈夫?怪我は……うーん、しちゃってるね」

 

「えっと……こ、これはただの擦り傷で……」

 

 何か決意した様子でミカは敵の方へと向き直る。

 

「あなた達がやったんだ……へぇ……」

 

 そして目を見開いて。

 

「……私の大切な()()()に、一体何してるの?」

 

「えっ、お友達……?」

 

 コハルがポカンとしていると、今度はミカが粉砕した方とは反対の壁が壊され、見覚えのあるトラックが。

 

「あ、アイカ!?」

 

「ええ、アイカですわ」

 

 40mm対空砲弾で壁をぶち破って乱入してきた光景には見覚えがある。……あの時と違うのは、ティーパーティーの最強戦力が敵ではなく味方であるということだろうか。

 

「助けに来たよ、コハルちゃん~」

 

「一人で頑張っていると聞きました。やはり、貴女は強いですね」

 

「マイハ、それにマアサも……!」

 

 明らかに自分の時より反応がいいコハルを見て、頬を膨らませていじけるミカだが、すぐに気を取り直す。

 

「……もう、嫉妬しちゃうなぁ。でもまあ……そんなことも言ってられないよね」

 

 お友達を傷つけた敵の方へと突っ込んでいき、コハルと士官候補生達は後ろからその援護へと向かった。

 

 

 

 正直なところ、ミカとコハルだけでも何とかなりそうだったところに士官候補生の三人まで加われば当然というべきか、敵集団はまず対空砲弾を叩き込まれた後にサブマシンガンで滅多打ちにされてほぼ消滅。仮に生き残っても狙撃銃でトドメを刺されるという……先ほどまでとは形勢逆転しての殲滅戦が繰り広げられることとなった。

 

「コハル!」

 

「コハルさん!大丈夫ですか!?」

 

 大体片が付いたところに正義実現委員会の部隊が到着する。

 

「よかった、正義実現委員会だ!」

 

「助けに来てくれたんですね!あの魔女がここに来て──」

 

 “魔女”というワードにミカより先にマアサが反応して、発言した生徒に向き直って言う。

 

「……訂正してください。ミカ様は魔女ではありません。あなた方を助けてくれた人に向かって、なんて言いぐさですか」

 

「は、はい……ごめんなさい」

 

「マアサちゃん……」

 

 それを聞いていたハスミはミカに歩み寄り、小さく頭を下げた。

 

「……助けていただき、ありがとうございます」

 

「あれ、お礼を言われるとは思わなかったなぁ……」

 

 エデン条約の時には色々あって、正義実現委員会にもかなり迷惑をかけた訳で。あれからそれなりに時間が経ったとはいえ、こうして素直に感謝されるとは思いも寄らなかった。

 

「コハルを助けてくださったのは、事実ですから」

 

「……まぁ、そうだね。じゃ、私は他にもまだやることあるから行くね☆」

 

 ミカは自分が開けた穴から外に出て、次の場所へと向かっていった。ハスミもそれを見送ったら、聖堂に避難していた生徒や市民たちの安全な場所への誘導に移ることにした。

 

 

 

 ◇◇

 

 

 

 一方その頃、ミレニアム自治区にて。

 

「おっし、お前たち!気ぃ引き締めなよ!」

 

「イエッサー!部長!」

 

 造船工学部部長、唐帆セイラは造船所付近の敵をサッと片付けた後、他の部員を大勢引き連れて支援のためにミレニアムの中心部まで移動していた。

 

(あの娘もトリニティで頑張ってるんだろうし、アタシらもやってやろうじゃないの)

 

 そうしてミレニアムサイエンススクールのとある広場にて、顔馴染みたちと鉢合わせる。

 

「おや、セイラじゃないか。無事だったんだね」

 

「おうよ!あんな数だけの連中にやられるほどアタシらはヤワじゃないさ、ウタハ」

 

 しばしば艦船の機関や武装の開発で共同戦線を張るのが、エンジニア部と造船工学部。今日のように戦闘で協力した経験はほとんど無いが、この程度の敵なら問題ではない。

 ただ、1年生の猫塚ヒビキがかなり疲労困憊の様子なのが気になったが……まあ大丈夫だろう。

 

「さてと……それじゃあ、ミレニアムプライスに向けての実戦データを集めさせてもらうとするかね」

 

 セイラはスマホとタブレットの中間程度のサイズの操作端末を取り出し、慣れた手付きで指示を出す。

 

「マルティニークちゃん、行くよ!サルボー!」

 

 数十秒が経過した後、つい先日竣工したばかりのミサイル巡洋艦『マルティニーク』*2から発射されたトマホーク*3が敵の密集地にクリティカルヒットし、殲滅。

 

「すごいな、あれは造船工学部で独自に開発したのかい?」

 

「ああ、ミレニアムプライス用だからね。なるべく造船工学部だけで完結させたよ。その分色々出費も重なったけど……」

 

「ふむ……気になるところは多くあるが、まずは目の前の敵を片付けるとしよう」

 

 セイラはウタハのその言葉に頷き、エンジニア部やトレーニング部と共にミレニアム中心部の防衛を始めた。

 

*1
正しくは無名の守護者

*2
Martinique;アメリカ独立戦争の中で、イギリス海軍とフランス海軍が戦ったマルティニーク島の海戦から。

*3
アメリカ軍が開発した対艦及び対地巡航ミサイル。核弾頭も搭載可能。




大量の雑魚敵相手には滅法強いアイカ、大活躍です。
あとコハルの対応ですが……何回か会っただけの雲の上の存在と、付きっきりで勉強教えてくれたり大変な時に手を貸してくれた同学年たちだとまあ……はい。仲良くなれるかはこれからに期待ですね、ミカも一般生徒の身となったわけですし。
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