再び出現し始めた、色彩の軍勢。戦闘状態ならこの浮かない気分も紛らわせられると思って、二人と共にまたトリニティの防衛へと駆けていった。
「ここしばらくずっと戦ってきたから、勝手はもう大体分かっていますね」
「そうだね~」
敵が集中している場所を見つけたら、まず僕がポンポン砲で叩く。そしてトラックから降りた二人が生き残りを潰し、また次の場所へ。
これを何度か繰り返して、敵の出現も散漫になってきたところで……空は再び青色を取り戻した。ただ、今の時間はとっくに夜になっているはずだけど……。
「あら?もう深夜も近い時間帯ですのに、昼のような明るさですわね」
「何回も変化してるせいで時間軸が狂っちゃったのかな?」
「そうですね……あっ、空が……」
マアサの声に釣られて見上げると、空色から茜色に、そして夜の暗闇へと急速に変化する天球。
「……今度こそ、本当に先生たちが成功したのかな」
「ええ、きっとそうですわ」
そして先生たちが勝利したと言うことは、別の世界線の先生の成れの果て──プレナパテスは。
「……」
……静かに、十字を切る。今度こそ、貴方が如何なる存在にも邪魔されず、ただ安らかに眠れることを祈って。
「……アイカちゃん?」
マイハに呼び掛けられて、意識を引き戻す。そしてこれからどうしようかと考えて……あることを思い付く。
「……先生を出迎えに行きましょう。シャーレの前で待っていれば、きっと会えるはずですわ」
「……そうですね。あの人はこの事態で一番身を粉にして尽力した人です、労いが必要でしょう」
一旦トリニティの本校舎に戻る。まずは執務室にいるナギサに防衛についての報告をして、シャーレに向かうことを伝える。
「はい、もちろん構いませんよ。皆さんは本当に頑張ってくださいましたから」
「ありがとうございます、ナギサ様」
お次は家庭科などの実習で使う調理室。マイハがお菓子を作るために利用していて、やたらと砂糖や卵、小麦粉にバターなどの材料が豊富に揃えられている。
「よし、それじゃあ帰ってくる先生たちのために、腕をよりをかけちゃうよ~!」
「合点承知ですわ」
「おー」
こちらが大変だったらしいと言うことを聞いてか、親が先ほど貨物機でこちらへ空輸してくれたドライフルーツやジャムもあるし……かなり良いものが作れそうだ。
◇
マイハだけでなく僕とマアサも手伝い、三人で準備した大量のお菓子。それを箱に詰めて荷台に乗せ、D.U.地区のシャーレまでゆっくり移動する。というか、ゆっくり移動せざるを得なかった。
「うわー、路面ボコボコだね~……」
「ですね」
輸送の手間も考えてちょっとの衝撃で崩れるようなタイプのスイーツは作っていないが、それでも瓦礫や隕石みたいなものが降り注いだせいで道路はもうズタボロ状態だったから慎重に行かざるを得なかった。
シャーレの前に着く頃にはもう、朝日が顔を出し始めており、空を見上げると……。
「あれ……流れ星?」
「綺麗ですね、青色っぽい光と紫色っぽい光の結晶を纏っていて」
「うーん、でも……あのような流れ星は見たことがありませんわね……」
流星といえば、日本海軍の末期の艦上攻撃機*1……と今はそんなこと考えてる場合じゃないな。
その流れ星が地平線に消えてしばらく、先生が戻ってくるのを待って1時間くらいが経った頃。ようやくこちらへとやって来る集団が見えてきた。
「あれはもしかして……」
「うん、きっとそうだよ!先生~!」
「先生、お帰りなさ……えっ」
身命を賭して無事キヴォトスの危機を救ったと言うのに、何とも言えない表情のオペレーターたちの後ろにいた先生の様子は。
「きゃあぁぁ!?」
「せ、先生!?」
マイハが珍しく悲鳴を上げてマアサの目を両手で塞ぐ。僕はというと今、ようやく思い出したところだった。先生はプレナパテスにシロコ*テラーを託されて、自分用の脱出リソースを彼女に使い……自分は上空10万メートルから落下してきた。
アロナとプレナパテスのA.R.O.N.A*2が保護にリソースを目一杯に使って何とか身体は無事だったけど……服は断熱圧縮*3で発生した熱で燃え尽き、地表にたどり着いた時には全裸になってしまっていたのだ。
「先生!?何で裸なんですか!?早く服を着てください~!!」
「ま、マイハちゃん……」
いつもの調子も出ずただ苦笑いするだけのハナコを筆頭に、どうすればいいのやらといった感じの面々。
「"話せば長くなるんだけど……とりあえず中に入っていいかな?"」
しょうがないので無言で道を開けて、先生たちを中に通し身なりを整えるのを待つ。先生の裸……その、色々と凄かったなぁ。
◇
取り乱していたマイハもすっかり落ち着いて、先生やオペレーターたちの着替えも終わった頃かと思ってシャーレの中に入り、皆が集まっている部屋で箱いっぱいのお菓子を机に広げる。
「これは一体……?」
「はい、先生たちはずっと頑張っていて、お疲れだと思ったので~わたしたち士官候補生で作ったお菓子ですよ~」
「はい、遠慮なさらず食べてくださいませね」
クッキーやパウンドケーキ、ジャムサンド、フルーツタルト……フィナンシェにキャンディー、チョコビスケットなどなどのお菓子。攻略で相当頭脳を使ったであろう彼らへの労いとしてはベストな選択だろうと思う。
「"ありがとう、みんな!それじゃあいただこうかな。"」
僕らのスイーツで糖分補給した後、先生たちは今回の事件についてまとめたりして後処理を始める。
ある程度作業を進めたところで、ひとまず解散ということになり……ハナコも一緒に乗せてトリニティへ帰ることにした。
「ふふ、アイカちゃんのトラックに乗るなんてあの時以来ですね♡」
「ええ、そうですわね」
あの時……というと補習授業部の三次試験で、一連の騒動が終わって試験会場へ向かうときかな。そうか、あれからもう何ヵ月も経ってるのか。
◇
ハナコがナギサに今回のことを報告するのに付き合ったら、今度こそ本当に解散。本来何事もなければ今日は授業があるのだけど、ナギサ曰く。
「D.U.中心地区に比べれば被害は小さいですが……トリニティ総合学園も校舎やその他の施設が一部破壊されており、生徒や職員にも大なり小なり負傷者が多く存在しています。とても授業が行える状態ではないので、ある程度復旧できるまでは休講となりますね」
まあそりゃそうなるよねと思いつつ、寮の自室で休んでいる。休校の間何をしようかなと思っていると……。
「やっほ、アイカちゃん~」
「気分はどうですか?」
マイハとマアサが僕の部屋に来た。
「お、お二人とも……!?一体なぜ……」
「昨日……昨日でいいのかな?あんなにうなされた姿を見て、一人で大丈夫だとは思えなくて」
「ええ、心配なんですよ。アイカのことが」
……本当に、いい友達を持ったな。僕には不釣り合いなくらいの。この二人を守るためにも、僕は……。
(もうすぐしたら、ここから消えないと)
そう、改めて決心した。
短めながら(というか3章が尋常じゃなく長かっただけですが)、これで最終編に対応する5章は終わりです。次が本編最終章になる6章ですね。
アイカは一体何を決心したんでしょうか?答えは数日後です。