ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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6章
01 選択


 キヴォトス滅亡の危機から何週間か経った。トリニティでは急ピッチで破壊された送電線や水道、そして道路などのインフラの復旧作業が進んで何とか不自由ない生活を送れる程度には回復した。

 

 学校や病院も優先して補修され、一応の機能を取り戻している。多くの授業で、教材を自分で視聴する自宅学習から教室での講義に順次切り替えられている。

 

 前世に比べて随分と早い復興だと思ったけど、こちらではAIやロボット技術がかなり発展しており、建設用ドローンやオートマタのお陰で効率的に作業を進められるがゆえらしい。あとキヴォトスでは建物が破壊されるなんて日常茶飯事だし、復興のノウハウがより多く蓄積されてるのだろうか。

 

「うーん、この後暇だね~」

 

 アリウス生への講義が終わって夕方間際、士官候補生の三人で集まる。この前の事件では教育の効果あってか、元アリウスの生徒たちはトリニティ防衛の際にちゃんと指示にしたがって避難しており、中には正実と協力して敵の排除にあたった生徒もいたという。

 

『彼女たちがトリニティに馴染めるのか不安でしたが、この調子で行けば問題なさそうですね』

 

『ああ、当初ミカが言っていたアリウスとの和解……少しばかり形が違うかもしれないが、着実に一歩ずつ踏み出せていると思う』

 

 ……とティーパーティーの二人は言っていた。でもまあ、普段アリウス生たちが交流しているのは選抜された穏健な生徒たちな訳で。それ以外のトリニティ生と馴染めるかと言うと……まだ分からない。

 

(まあ、僕が心配してもしょうがないけど)

 

 そうして、ふと空を見上げる。ここからは遠くて建物本体は見えないけど、事件前と変わらずサンクトゥムタワーから上空へと伸びる一筋の光は確認できる。

 虚妄のサンクトゥムのせいで完全に破壊されたサンクトゥムタワーだけど、以前の設計図を元に大規模工事を進めて昨日竣工したらしい。

 

(連邦生徒会の主要施設が入る重要建造物だもん、最優先するよね)

 

 ただ噂によると再建工事はカイザーグループが手掛けた、というのが気にくわないけど。そんなどうでも良いことを考えていると。

 

「アイカちゃん、どうしたの?空なんか見て」

 

「いえ、こうして何事もなかったかのように復興した街並みを見ると……この前の一連の事件が本当のことだったのかと思いまして」

 

「それは、そうですね。空が紅く染まり、黒い塔が天から降ってきて、世界を滅ぼそうとする怪物が暴れるなんて……この身で確かめていなければ、何とも信じがたい話です」

 

 こうして普段の生活に戻ってみると、その実感と言うのは少しずつ薄れていく。この日常がずっと続けば……そう思っていたら突然聞き馴染みのないアラームが鳴動した。

 

「このアラート……連邦生徒会?」

 

 まさかまた虚妄のサンクトゥムが出現したとか言わないよね?いや、もう解決したんだし再出現はしないか。となると、これは。

 

〈キヴォトスの皆様にお知らせいたします。まもなく、キヴォトス連邦生徒会より緊急声明が発表されます。市民の皆様は、連邦生徒会の公式チャンネル、もしくはクロノスチャンネルをご覧ください〉

 

 自動音声による案内放送。最終編が終わってしばらくして、連邦生徒会からの緊急声明……そうなるともうあれしかないよね。スマホで連邦生徒会のページを開き、動画にアクセスするとそこには……。

 

〈キヴォトスの皆様、こんにちは。キヴォトス連邦生徒会の防衛室長、不知火カヤです〉

 

 ……出たわね。

 ピンクの髪を後ろでシニヨン状にし、糸目で微笑を浮かべるその姿は一見、柔和な印象を与えるが……まあ本当に温和で朗らかなマイハと比べると、その差は一目瞭然である。

 

〈──昨今、キヴォトスは数々の未曾有の惨事に見舞われてきました。空から落ちてきた正体不明の構造物によって都市の機能が麻痺し、D.U.地区はもちろんのこと、各自地区においても甚大な被害が発生しました〉

 

 そこまで言って区切り、カヤは声のトーンを少し落として申し訳ないといった様子でその先の言葉を続ける。

 

〈しかしながら連邦生徒会は、こういった危機的状況の解決をシャーレや各自地区に任せきりにして、事件後においても復旧作業にのみ注力しておりました。これは非常に恥ずべきことであると考えます〉

 

 ただ、今まで基本的に何が起ころうと自治区に任せて放置だった連邦生徒会に、誰もそんな期待なんかしてないし……急に来られても困惑するだけな気がするけどね。連邦生徒会長がいなくなった後の連邦生徒会に余裕なんて全くないわけだから、しょうがないとは思うけど。

 

〈……これらは全て、最終決定者──つまり連邦生徒会長代行であった七神リンが事件当時に行方を眩ませ、責任を放棄していたために起こったことです〉

 

 事情を知っているマイハとマアサと共に、呆れ顔を浮かべた。不信任案を提出された上にカイザーに襲撃されて軟禁されてたんだから何かしようにも動けるわけない状態だったし、開放されたらすぐにアトラ・ハシース攻略に行ってたからね。

 

〈本件を受け、防衛室内では七神行政官の責任問題を追及し……本日、一連の騒動により保留中であった七神リン行政官に対する不信任決議案が可決されました。これに伴い、新たな連邦生徒会長代行として私、不知火カヤが就任いたします〉

 

 カヤの代行就任宣言を聞いた二人を見ると、マアサはじっと何か考えている最中で、マイハはどうやら合点が行った様子だった。

 

〈市民の皆様におかれましては、突然の連邦生徒会長代行の変更に驚かれていると思いますが、私たち新生連邦生徒会はキヴォトスの“正常化”に向けて尽力していくつもりです。皆様のご理解とご協力をお願いします〉

 

 そこでカヤは一旦頭を下げて礼をする。顔を上げたら今度は。

 

〈──そして最後に、シャーレの先生。先生もどこかでこの放送をご覧になっていると思います。キヴォトスとシャーレの未来のために、先生に折り入って相談がございます〉

 

「先生……」

 

 ちょっと不安になる。この時点ではカヤは別に先生に危害を加えはしないだろうけど、生徒からの頼みだと先生は素直に付いていっちゃうだろうから。

 

〈この放送が終わり次第、連邦生徒会のレセプションルームへお越しくださいませ。連邦生徒会一同、先生がお越しになることを心よりお待ちしております。……それでは〉

 

 画面が暗転し、放送終了。……もう始まってるのか、カルバノグ2章。

 

「新しい連邦生徒会長代行……彼女は一体何をするつもりですか?」

 

「それは分からない……けど、この前空が紅くなる前にカイザーが連邦生徒会を襲撃してD.U.地区を支配しようとしてたよね?」

 

 頭のよく回るマイハのことだ、おそらく大体の流れについて理解したのだろうか。

 

「ホームページ見ると……やっぱり。カヤさんが連邦生徒会代行になって明日から新体制が始まるみたいだけど、色々とD.U.地区内の規則が追加されてて……カイザーの兵力が地区内の治安維持を担当するみたい」

 

「……マイハ、それはつまり」

 

 マアサもどうやら答えにたどり着いたらしい。計略はめんどくさいから力で解決するタイプの彼女だけど、別にできないわけではない。

 

「それにあの日、D.U.でカイザー兵が平然と展開したことや、連邦生徒会のあるサンクトゥムタワーの襲撃なんて関係者が手引きしないと難しいことが起きている……これを踏まえると、あの人はカイザーグループと手を組んで連邦生徒会を掌握した。そしてD.U.地区を、引いてはキヴォトス全土を支配しようとしてるんじゃないかな」

 

 もちろん確実な証拠があるわけじゃないけどね、と締めるマイハだが、彼女の言ったことは正しい。カヤがカイザーとつるんで自分の権力基盤を作り出したこと、ゆくゆくはキヴォトスを自分の理想とする手法で統治するつもりだということも。

 

「それで、どうするんです?アイカ」

 

「えっ、あたくしですか?」

 

 急にマアサに振られてびっくりする。そんな僕に構わず、彼女は続けた。

 

「カイザーが気に入らないのでしょう?だったらアイカが次に取る行動は大体予想が付きます」

 

「うん、もしD.U.に()()()()するならわたしたちも連れていってほしいなって~」

 

 カイザー嫌いの僕のことだから裏でなんか企んでるならすぐにでもぶっとばしに行くと予想したらしい。でも、今は……。

 

「いえ、大丈夫ですわ。この前飽きるほど撃ちましたし、今は大人しくしておきます。それに、先生がいつものように何とかしてくれるでしょうから」

 

「……?そうですか、まあ私は何でも良いですが」

 

「普通のお出かけも大歓迎だよ~?」

 

 真剣な表情からいつもの調子に戻った二人を見て、思わず頬が綻ぶ。

 ……でも。この二人が危ない目に遭わないためにも、僕は……消えてしまわないと、いけないのだから。

 




さあ、ついに最終章です。アイカたち士官候補生の神秘考察のラストチャンスとも言います。まあここまででかなりヒントを散りばめてきたのでやろうと思えばすぐ分かるかもしれませんが。
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