ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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02 決意

 カヤが連邦生徒会長代行に就任してから数日後、子ウサギ駅爆破未遂をきっかけに彼女の謀略の数々が元SRT生たちによって白日の元に晒されて辞任、連邦生徒会矯正局送りとなった。併せてカイザーの癒着も次々に暴露されてカイザーコーポレーションの上層部にも家宅捜索が入った。

 

「……そろそろ潮時ですわね」

 

 カルバノグ2章の内容終わったんだ、もう僕にできることはない。だから……。

 

「計画の最終確認をしましょう」

 

 キヴォトスから、この世から消えるために僕が考え付いたのは──サンクトゥムタワーから投身すること。

 

 キヴォトスの生徒の身体は直接的な打撃には非常に強い。銃弾をいくら撃ち込まれようが気絶で済むわけだから、並大抵の衝撃では死には至らない。

 要は銃で自決するのは不可能ということ。ナイフもいまいち刃が通らないし、首吊りや水死など生徒でも有効な自殺法はいくつかあるけど……死に至るまでに多大な苦痛がある。それが怖くて、僕は飛び降りを選んだ。

 

 とはいっても、そこら辺の高層ビルからでは頑丈さゆえに命が助かる可能性がある。だから……このキヴォトスで最も高い建造物であるサンクトゥムタワーに目を付けた。

 もちろん、サンクトゥムタワーは連邦生徒会の入っている建物だから業務時間中の警備はそれなりに厳重だろう。

 ……でも、業務時間外なら?連邦生徒会はお役所仕事的な面があり、退庁時間になると少数の巡回警備員を残して一斉に人が出ていく。それに休日ともなれば、緊急対応の窓口以外は開いていないので屋上までは比較的簡単に移動できるはず。

 

 そういうことで、休日のサンクトゥムタワーを制圧して屋上まで行って飛び降りる算段を立てたわけだ。

 

「こちらはまあ、何とかなるでしょう。そして……」

 

 残される人へのメッセージを書いていく。まずは、この計画を実行した時、一番に責任を被るであろうナギサへ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓──桐藤ナギサ様

 まず最初に、ご迷惑をお掛けすることを謝罪いたします。申し訳ございませんでした。

 

 それからこうした理由について、お話しすべきでしょう。先に前提として申し上げておきますと、あたくしには未来視と似たような能力があります。ナギサ様のご友人にしてティーパーティーの一員である百合園セイア様が、かつてお持ちだったそれとはまた似て非なるものではありますが……まあ、そのような感じの能力に、トリニティへ入る前に目覚めたのです。

 

 あたくしの見たキヴォトスでは、様々な世界の可能性があり、ほんの僅かなきっかけによってキヴォトスが崩壊する恐れがありました。それでも、シャーレの先生が生徒たちを導き、尽力したお陰で危機を逃れることができました。エデン条約、虚妄のサンクトゥム……そこでの先生の活躍は、きっとナギサ様もご存知でしょう。

 

 さて、それが自死を選んだこととどう関係するかというと、未来視で見たキヴォトスにはあたくしが存在していませんでした。上述した通り、キヴォトスは些細な変化で滅びへの道を辿るかもしれないのです。本来存在しないはずのあたくしが存在したままでは、その可能性は大きく高まります。ゆえに、決定的な影響を与える前に、この世から消えてしまうこととしました。

 

 勝手なことをして、ナギサ様に対して心労を掛けてしまうことは心苦しいのですが……これは必要な犠牲であると考えています。あたくし以外のキヴォトスの全員が平穏であるために。あたくしはゴミ箱に捨てられるべきゴミ、ということです。

 

 ……そういえばナギサ様が補習授業部についてそう仰った時、責め立てるようなことを言ってしまったことを改めて謝罪させてください。未来視で、その時のナギサ様がどのような状況にいたのかは知っていましたのに。

 

 そして、あたくしが消えたことについては、ナギサ様に一切の非はありません。これはあたくしが勝手にやったことなのですから。

 

 それともしかしたら、未だにナギサ様はあたくしをティーパーティーに参加させたことでご自身を責めておいでかもしれませんが……ティーパーティーに入ったことは後悔していません。護衛部隊の士官候補生として活動するなかで得た学びは多いですし、何より大切な友人と出会うきっかけになりましたから。その事で感謝はすれど恨むことなどありません。

 

 最後になりますが、これまであたくしの面倒を見ていただきありがとうございました。あたくしは決して、手の掛からない後輩や部下では無かったと思いますが……それでもお付き合いいただいたことに。そして、あたくしたち士官候補生を将来のトリニティを担う存在と仰ってくれるほど、期待していただいたことに。

 

 これからのご健闘を祈って、別れの挨拶とさせていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな感じ、でしょうか」

 

 所々失礼かもしれないけど……どうせ死ぬんだしいいか。形式よりも素直な気持ちを表現したと言うことにしておこう。

 ……ごめん、ナギサ。卒業も近いのにこんな面倒を掛けることになって。それに今までも、僕がやらかした時の後始末の多くはフィリウスのトップである彼女がやってきたわけで。

 

「……でも、これで終わりですから。次の……」

 

 ……手紙を書く相手。誰にすべきかと考えて、そして決めたのは。

 

「お父様に、お母様……」

 

 今まで僕を育ててくれた両親。ナギサへの手紙を仕舞って、次の便箋を手にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓──お父様、お母様。

 この手紙を読んでおられるということは、もうあたくしはこの世にいないのだと思います。敬愛するお二人に先立つ不孝をお許しください。

 

 あたくしがこの手段を取るに至ったことについてお話しする前に、まずはあたくしがずっと抱えていた秘密についてお話しせねばなりません。

 

 ……あたくしには、幼少のある時からずっと未来が見えていました。あたくしがいない状態での、キヴォトスの未来です。

 それの中では、ちょっとした運命の歯車のずれによってキヴォトスが崩壊へと向かうことが示されていましたが……お二人ももしかしたら耳にしたことがあるかもしれません、連邦生徒会長によってキヴォトスに呼び込まれたシャーレの先生が……彼自身の思う最良の選択によって崩壊へと至る道筋を回避していったのです。

 

 そう、ほんの些細な変化のせいでこのキヴォトスが崩壊へ至るかもしれない。あたくしはきっと、本来ここにいる存在ではなかったのでしょう。それゆえ、ずっと悩んでいました。あたくしは退場すべきではないかと。キヴォトス滅亡に至るような影響を与えないために。

 

 だから、あたくしは死を選びました。お二方は優しいですから、きっとあたくしが居なくなったことを悔やんで泣いてくださると思います。でもこれは、大切なお父様とお母様に娘を失うより大きな不幸が振りかかるのを防ぐために、あたくしが決断して、あたくしが納得したことです。

 

 この事は、決して、決してお父様とお母様のせいではありません。これは全てあたくしのせいなのです。ご自身を責めるのは、あたくしが望みませんのでお止めください。

 

 最後に……ここまであたくしを育てていただきありがとうございました。

 時に辛い農作業もありましたが、実家で栽培されている果物はあたくしの誇りです。どうかこれからも、トリニティの皆さんをその美味しさで喜ばせてください。

 

 ……わがままを言ったり、お二人の手を煩わせたことも少なくないと思います。それでもこの15年間、あたくしのことを暖かい目で見守ってくださったことに最大限の感謝を申し上げます。

 お二人はあたくしにとって、最高の両親です。それだけはずっと変わることはありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ……うぅ……」

 

 涙が零れる。こうやって改めて両親への感謝を言葉にして、大好きな両親の顔が浮かんで、これまでの思い出が蘇ってきて、気持ちが揺らぐ。

 また、会いたい……最後に顔を見てから、もう3カ月も経って……このまま別れるなんて、嫌だよ……。

 

「だ、め……決めたん、だから……」

 

 でも……その両親が、危険に晒されないために自身を犠牲にするんだから。

 

 涙を拭いて、次の手紙を書く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓──炎谷マアサ様。

 まずは勝手なことをして、ごめんなさい。それから、あたくしにはあなた方に隠していたことがあります。それは未来視ができることです。

 

 あたくしの見たキヴォトスでは、今いるこの世界とほとんど変わらず、シャーレの先生が起こる事件の数々を解決していました。しかし、そのキヴォトスでは……あたくしの姿はまるで存在していないかのように、描写されていませんでした。

 

 それから、その未来視ではキヴォトスはほんのちょっとの切欠で崩壊への道を辿ることが示されていました。それらは現実同様に先生のお陰で防がれましたが……本来存在していないはずのあたくしの存在は、もしかしたら現実のキヴォトスを崩壊へと導くかもしれません。それを危惧して、あたくしはそうなる前に皆さんの前から消えることを選んだのです。

 

 ……難しいことを長々と書いて申し訳ありません。つまりあたくしの存在がキヴォトスを滅亡させるかもしれないから、自分のせいでマアサさんたちに危機が訪れる前に死ぬこと選択したということです。ですが、これは誓ってマアサさんたちのせいではありません。ただあたくしに全ての責任があり、あたくしが身勝手ながら決めたことなのです。

 

 マアサさんはあたくしにとって、大切な友人です。こんなあたくしと仲良くしてくれて、危険が伴うようなことにも、マイハさんと一緒に手伝ってくれて……何度も三人でお出かけしたことは、あたくしにとって掛け替えのない尊い日常の一コマです。一緒に海に行った時は、途中でトラブルに見舞われたりもしましたが、本当に楽しかったです。その少しあと、あたくしの家に遊びに来てくれたことも、面白いゲームを教えてくれたことも、全て大事な思い出です。思えば……あたくしが過ごしたトリニティでの青春には、常にマアサさんやマイハさんが隣にいてくださった気がします。

 

 そしてあたくしは、マアサさんのことを尊敬しています。常に自分の中に確立された正義を確かに抱いていること、それを実現するに十分な力を備えていること。自分の信念から外れた相手には、例え自分の上司であろうと、大軍勢であっても躊躇うことなく向かっていくこと。あなたの心構えは貴く素晴らしいものです。あたくしが居なくなったあとも、きっと揺らぐことはないと思います。

 

 最後になりましたが、どうかお元気でいてください。あたくしに今まで友人として付き合ってくれたことに、感謝します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓──土御門マイハ様。

 まずは、こんなことになったことを謝罪します。ごめんなさい。

 

 もしかしたら、聡明なあなたなら前々から気づいていたかもしれませんが……あたくしはあることを隠していました。それは、ある時期までのキヴォトスの未来が見えていたということ。

 

 ええ、あなたの上司にあたる百合園セイア様と似たような……正確に言えばかなり異なった様相ではありますが、未来が見えるという点だけ見れば大きな差異はありません。

 

 その未来ではある点を除けば、現実のキヴォトスとそう変わりはありませんでした。連邦生徒会長が招いた、シャーレの先生。その人が少しの切欠で崩壊につながるキヴォトスで活動し、見事危機を免れたこと。

 

 して、その違う点というのは……あたくしがいないことでした。そう、あたくしは本来なら存在しないはずだったのです。ほんの些細な異変で容易に滅亡へと転がり落ちかねないキヴォトスで、イレギュラーであるあたくしが存在し続ければ、皆さんを危険な目に遭わせてしまうかもしれない。それを恐れて、あたくしは自ら死を選びました。

 どうかこの事で、あなた自身を責めるようなことはしないでください。

 

 マイハさん、あたくしにとって大事な友人です。あなたはどんな人にも朗らかに接して、楽しくお話しができる素敵な人です。それにとても優しくて、賢くて、思慮深い……自慢の友達です。あなたやマアサさんと知り合えたことは、本当にあたくしにとって幸福なことだと思っています。

 

 マイハさんは、いつもあたくしとマアサさんを連れて、どこかに行ってみようと声を掛けて引っ張ってくださいましたね。あたくしはそれほど積極的な方ではありませんから、あなたの提案にどれほど救われたか。近くへショッピングに行ったり、海へ行ったり、あと夏休みの終わりごろには逆に家に遊びに来てくれたりもしましたね。マイハさんたちと過ごした日々はとても、とても楽しくて、あたくしにとって宝物のようです。

 

 あと……マイハさんに託したいものがあります。あたくしが亡きあとに残される、ミレニアムの造船工学部が手掛けた四隻の軍艦です。あの中にはマイハさんに譲ってもらったヨットを改装したものがありますし……何より。穏和で聡明なマイハさんなら、彼女たちを正しく使ってくれると信じていますから。造船工学部の部長、唐帆セイラさんに連絡してください。

 

 最後に、一言だけ。今までありがとうございました。これからも元気で過ごしてくれることを祈ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……っぐ……うぁ……」

 

 一番大切な友達二人に書く手紙。拭っても拭っても涙が溢れてくる。今まで二人と過ごしてきた楽しい時間を思い出して、死にたくないと、まだ二人と一緒に居たいと、そう思ってしまう。

 

「で、も……ぐすっ……あたくしが、いたら、ふたりはっ……!」

 

 僕の存在がキヴォトスの崩壊を招いて、そうしたら二人にまで危害が及ぶ。それは、許せないから。

 

「だけど、ひぐっ……う、うあああぁぁぁっっ……!!」

 

 でも、それでも、マアサやマイハとまだ別れたくない。一緒にいたい。二人だけじゃなくて、父と母だって。感情が溢れて机に突っ伏して、嗚咽をあげた。

 

 一度堰が切れるともう止まらなくて、何分泣き続けたのか分からない。友人たちの後は、先生への手紙を書こうと思っていたけど……胸が苦しくて、辛くて、どうにも書ける気分じゃなかったから後回しにした。

 




ああ…シャーレの先生…!
あなたの可愛い生徒が悲しみに泣いています
行きなさい、先生!
セートノイノチヲスクウノデス
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