???「そんな暗くて憂鬱なお話、私は嫌なんです。それが真実だと、この世界の本質だと言われても、私は好きじゃないんです!」
???「友情で苦難を乗り越えて、努力がきちんと報われて、辛いことはお友達と慰め合って……!途中に苦しいことがあっても、最後には必ず誰もが笑顔になれるような……そんなハッピーエンドが、私は好きなんです!」
???「終わりになんてさせません、まだまだ続けていくんです!」
「いつもなら何か用事があっても来てくれるのにな~」
先ほどアイカから返されたメッセージを見ながら、マイハは呟いた。キヴォトスの空が紅く染まった辺りから、時々様子のおかしかった友人。
そしてどうしても外せない用事でもない限り、誘いにはほぼ乗ってくれた彼女からのお断りの返事は……マイハに疑念を抱かせるのには充分だった。
「……なるほど。確かに、何か事情がありそうですね」
マアサも予定が空いており、アイカが受けてくれれば三人で買い物に行くつもりだったが……予定を変更して、アイカの周囲を探ることにした。
まずは彼女の直属の上司、ティーパーティーのホストであるナギサにアポを取ってから執務室へ行く。
「アイカさんの予定ですか?少なくとも、ティーパーティーの仕事などで今日やらなければならない内容はないはずですよ」
「そうですか、ありがとうございます~。ついでに、何かアイカちゃんのことで気になることとかはありますか~?」
「気になること、ですか」
ナギサは暫し考え込んで、そして言葉を続ける。
「数日前に辞表の書き方を聞きに来ましたね。何か辞めたい理由があるのかと聞いたら言葉を濁して退室されましたが」
「なるほど、辞表ですか……」
何かティーパーティーの人付き合いで嫌なことでもあったのだろうか。いじめとか、そういったことが?
だが、アイカの普段の様子では特にいじめられているとかそういったこともなく……むしろ同級生や、たまに先輩にも尊敬の眼差しで見られていることが多い。
「それ以外に決定的なことはありませんでしたが、ここ最近のアイカさんの様子がおかしいということは私も感じています」
アイカのことを一番理解しているのは二人だろうから、側で見てあげてほしいとナギサに言われ、次はアイカの寮の部屋へと向かった。
「あれ、いないね」
ノックしても返事はなく、寝ているのかと思って聞き耳を立てても寝息は聞こえず、配線から漏れるジーーーーという音だけだった。どうやらアイカは不在のようで、一旦1階の寮の管理人室へ行って鍵を借りて中に入る。
部屋の中を見渡すと、ベッドの上に何個かぬいぐるみが置いてあったり、携帯ゲーム機が充電器に繋がれたまま床に放置されていたりとこの前、アイカが心配で見に来た時と変わらない様子だが、気になったのは勉強机の上にある封筒。
「なんでしょうか、これは……」
誰かに送る手紙だろうか、まだ封はしていなかったのでこっそり中の便箋を見てみると。
「『拝啓──炎谷マアサ様』……」
「わたし宛てのもあるね……こっちはナギサ様、これは両親宛て……」
宛先だけ確認したら、二人はそれぞれ自分への手紙を読む。読み終わった二人は顔を見合わせて。
「……マアサちゃん。止めに行くよ」
「……もちろんです。アイカがしようとしていること、その理由は分かりましたが……それでも、私は彼女と一緒にいたいですから」
もうここを出ているなら、どこへ行ったのかは分からないが急がなければ手遅れになる。アイカの学生証と車用のコントローラーを持ち出して、駐車場へ。
彼女の私物であるトラックを勝手に使うのは罪悪感を感じるが、一刻も争う状況だから仕方ない。今回だけということにして、トラックに乗り込む。
「マイハ!」
「何か手がかりあった?」
アイカの行方について調べようとしたら、ちょうどクロノススクールの報道がライブ中継しており、なんとなく関係していそうだと思って見ると……。
〈見たでしょうか、今のアクロバティックな動き!単身でサンクトゥムタワーに侵入したというテロリスト、どうやら相当な手練れのようです!この少女が辿る結末とは!?どうかリモコンはそのままで最後までお付き合いください、クロノスチャンネルです!〉
サンクトゥムタワーから外へ飛び出して端を掴んで下の階の窓を割り、そこから再び建物内へと入るという離れ業を披露するトリニティの制服を着た赤髪の少女がいた。
「サンクトゥムタワーです!」
「分かった!間に合って……!!」
向かうべき場所は分かった。そして手紙の内容を考えたら、アイカのやろうとしていることは自ずと分かってくる。そんなこと、させるわけには行かない。
◇◇
今日もまた書類仕事をする。内容は各自治区の復興に際しての経過報告や支援要請など。ここのところ毎日似たような内容で、代わり映えがせず退屈だ。BGM代わりに流しているニュースの内容も同じようなもので、キリがいいところまで終わったら背伸びをして休憩しようとしたら。
〈臨時ニュースです!1時間ほど前に業務時間外のサンクトゥムタワーに侵入した生徒がいるとのことです〉
「"……ん?"」
サンクトゥムタワーへの侵入者。連邦生徒会の重要な機能が集中している場所ではあるし、実際シャーレとサンクトゥムタワーを占拠できればD.U.地区を支配できるのは少し前にカイザーが示した通りだ。
ただ、カイザーグループはこの前汚職が白日の下に晒されたことで大打撃を受けており、またそんな大仰なことをする余力はないだろうし……しかも侵入したのは一人の生徒だという。
いったい誰だろうと思って報道を見ていると、その画面に映ったのは見覚えのある少女だった。白地のティーパーティー制服に大きな翼、そして艶やかな赤毛のロングヘア。
「"アイカ……!?"」
先生の記憶にあるアイカは、とても真面目で穏和で、基本的に問題行動を起こすようなことはない優等生で。決して単身サンクトゥムタワーに突入するような生徒ではなかった。
「"どうしたんだろう……。"」
ただし……サンクトゥムタワーを再建するとき、カイザーが工事を担当しており、色々と怪しい状態だという噂を聞いたことがある。かなりカイザーを嫌っているアイカなら、もしかしたら糾弾の目的で突撃する可能性もないわけではない。
「"とりあえず、まずは話を聞かないと。"」
書類仕事はこの件が片付くまで後回しにする。決して、処理するのに飽きたから理由を見つけて放置するわけではない。連邦捜査部として、生徒の起こした問題は見過ごすわけにはいかないのだ。
シャーレの所有するヘリに乗り込んで、サンクトゥムタワーへ向かう。すぐ側のヘリポートに着陸したら、サンクトゥムタワーの中へ。
「"すみません、上に私の生徒が……。"」
「ああ、シャーレの先生か。分かった、エレベーターを動かすよ」
エレベーターホールに向かったがエレベーターは動かず、管理室の方に行くと何度か顔を会わせたことのある警備員がいた。
「あいつ、何が目的は分からないが警備員の引き留めにも応じず交戦して、サンクトゥムタワーをひたすら上に登っていって……先生、どうにかしてくれ」
それを聞いて、先生はなんとなく嫌な予感がした。機密情報が多く存在するのは地下階なので、どうやらカイザーの不正を掴もうとかそういう目的ではないらしい。
……ならば?アイカは上に行って何をするつもりだろうか?
「"……急がないと。"」
エレベーターを乗り継いでいって、屋上の扉を開けると、そこにはやはり。
「"アイカ!!"」
手すりを登って飛び降りようとしているアイカがいた。
◇◇
あれ、ここは……そっか、僕はサンクトゥムタワーから飛び降りようとして、先生の説得で踏みとどまろうとしたけど、足を踏み外しちゃって。一緒に落ちてしまった先生のクッションになろうと思って下になって……それから……。
……死んだのかな、ここは天国なのだろうか。それよりも、先生は無事だったかな。
「アイカちゃん……!!」
「アイカ!」
そう思って目を開けると、まず視界に入ったのは泣きそうになりながら僕の名前を呼ぶ一番の友人たち。
「マイハ、さん……マアサさん……」
起き上がると、マイハは僕の体を抱き締めて泣き叫ぶように言う。
「アイカちゃんのバカ!バカバカ、大バカ!!何で相談してくれなかったの!!それで、サンクトゥムタワーから飛び降り自殺しようなんて……ダメに決まってるでしょ!!」
「マイハさん……」
マアサの方を見ると、いつも糸目がちだった目を見開いて、僕の顔をまっすぐ見て言葉を続ける。
「手紙、読みましたよ。……ずっと悩んでいたのは分かりました。でも、マイハの言う通り相談してほしかったです。私たちはそんなに頼りないですか?」
「そういう、訳ではありませんが……」
戦闘でも、学園でも、私生活でも、本当に二人のことは頼りにしている。それでも、今回のことは二人には事前に言えなかった。
「ぐすっ……アイカちゃんがいなくなるなんて、嫌だよ……」
「……ごめんなさい、マイハさん。マアサさんも」
「あなたが世界を滅ぼすかも知れないからなんだと言うんですか。アイカは私たちの大事な友達です、一緒に居たいに決まっています」
そう言われて、自然と涙が出そうになる。僕なんかのために、そこまで言ってくれるなんて。
「それに、キヴォトスが崩壊するとかなんだとか……面倒なことは先生に投げてしまえばいいんです、何とかしてくれるでしょうから」
先生の話題を出されて、ハッとする。僕と一緒に落ちてしまった先生、あの人は無事なんだろうか。今はそれが、一番気がかりで。
「"はは……信用してもらえているみたいで何よりだよ。"」
「先生……!ご無事、でしたか……?」
マアサの後ろから現れてきた、その姿。巻き込んでしまったけど、まずは無事だったことに安堵する。僕のせいで先生を死なせてしまうようなことにならなくて、本当に良かった。
「"マイハとマアサにアイカごと受け止めてもらった。"」
「そう、でしたか……」
これからトリニティに戻って、どうなるのかな、やっぱり処分はあるだろうなと考えていると、先生が思い出したように口を開く。
「"そういえば、アイカ。"」
「なんでしょう……?」
投身自殺を図ったことについて説教を受けるのかと思ったけど、その次の言葉は予想外の方向から飛んできた。
「"さっきの告白だけど、ごめん。"」
「えっ……あっ……」
告白……そういえば落ちてる最中に、先生のことを抱きしめて大好きとか愛してるとか言っちゃってたことを思い出した。
「な、なぜ思い出させたんですの……?恥ずかしくて憤死してしまいそうなのですが」
あの言葉に嘘偽りはなく、本心ではあるんだけど……今掘り返すのはやめてほしかった。
「"ご、ごめん……。"」
「先生、告白って?」
マイハは涙を拭いて立ち上がり、先生に尋ねる。そういえば恋バナとか割りと好きだったな、マイハ。
しかしそれを聞かれた先生は、自分の大人のカード……ではなく、シャーレの名刺を取り出しながら。
「"大人の黙秘権を出す。"」
「ずるーい~」
マイハがすっかりいつもの調子を取り戻したのを見て、言わなきゃいけないことを言うことにする。
「皆さん、まずはあたくしを助けてくれてありがとうございます。……はい、もう二度とこのようなことはしませんわ。その分、先生には色々と頼ることになると思いますが……」
「"もちろん、大丈夫だよ。"」
「……ともかく、心配をおかけして申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げる。再び友人や先生の方を見ると、マイハが満面の笑みで言う。
「おかえり、アイカちゃん!」
「……ええ、ただいま」
満面……かは分からないけど、僕もできる限りの笑顔でそれに応えた。
実はこの場面自体はかなり初期から考えていたんですが、初期のプロットだとアイカと先生を受け止めるのはミカで、ナギサも側にいるという形でした。しかしながら主に士官候補生二人の影響で要所要所がガラリと変わったので、アイカはミカとの因縁が薄い……というかほぼ無くなりました。そのため、ここはやっぱり親友二人が受け止めなきゃでしょということでこんな感じに。
ちなみに前回のあとがきで書いたように、一応アロナの防御機能のお陰で地上に着く頃にはだいぶ減速してます。難なく受け止められるくらいには。