ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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06 ティーパーティーの田舎令嬢

 謹慎が明けてから2年生になるまでの2ヵ月半も、色んなことがあった。

 

 まずは計画していた通り実家に三人で泊まりに行った。自殺を図ったことは両親にもナギサか先生から伝わっていたらしく、帰ってくるなり泣きつかれてしまった。もうこんなことはしないと諭して、何とか理解してもらえて、それからは夏休みのときと同じく三人で遊んだりお喋りしたりして。

 

 それから帰ってきたら、ナギサから将来のフィリウス派首長候補として、引継教育を受けた。自室謹慎者がホストになれるのかなと思ったけど、あの辺りの処分については経歴に残らない形にしていたらしく、特に問題はないのだとか。ナギサ曰く。

 

『ゲヘナへの偏見が比較的薄く、穏健で優秀な士官候補生の皆さんには是非、私たちが卒業した後のトリニティを牽引していって欲しいと考えています』

 

 それにマアサは個人戦力として有望で、マイハは賢くて人当たりがよく、僕は前世の記憶で他学園の重要人物の情報を多く持っていて交渉が上手いらしいのと、持っている武器*1のお陰か一人で小隊~中隊規模の戦力扱いを受けてるんだとか。

 

 ちなみにパテル派は結局ミカが卒業するまでに次の代表が決まらず、次年度に改めて決定するらしい。サンクトゥス派は……よく分からない。あそこって何か独特の雰囲気があってマイハ以外とはあんまり喋ったことないんだよね。

 

 

 

 2月に入って皆がバレンタインのことばかり考えている中、僕もとりあえずお世話になったナギサと友達二人、あとは先生に送ってみたり。

 

 ナギサには紅茶によく合いそうな市販の高級ビターチョコ、先生や他の士官候補生には高めの板チョコを溶かして、実家のドライフルーツを混ぜた手作りチョコを贈る。別にナギサに塩対応してるわけではなく、上司相手だしもし失敗したらって思うとね。

 

 手作りの方は結構会心の出来で、みんなに喜んでもらえた。特にマイハなんてもう感激といった様子だった。先生も喜んではいたけど、キヴォトス中からどっさりと贈られてきたチョコの山の中で仕事をしていたのでさすがだなぁと思ったり。

 

 手作りチョコを作ったのは僕だけでなく、マイハとマアサもそうだった。ただマイハはひたすら大量に作って配りまくりで、マアサはあまり慣れていないので不恰好かもしれませんが、と僕ら二人にだけくれた。あとは何か、いつぞやに会ったシスターフッドやティーパーティーの生徒たちから士官候補生三人でチョコを貰ったり、マアサが同級生からやたらプレゼントされていたりとちょっとしたイベントのような一日だった。

 

 

 

 3月、雪で覆われたトリニティにもすっかり緑が戻ってきた頃、3年生たちの卒業式を迎えた。トリニティは結構な人数がいるので卒業式に参加が必須なのは3年だけだけど、式のあとに各組織でお別れ会があって、僕らも当然ナギサたちの見送りをする。卒業の時くらい参加してもいいだろうということで、側にマアサが付き添いながらミカも来ていた。

 

『ついに解放されるのですね……はぁ、今まで長かったです……。ああいえ、今のは聞かなかったことにしてください……』

 

『もう、ナギちゃんってば。それじゃまるで派閥のトップが罰ゲームみたいじゃん』

 

『実際そうではないかい?*2

 

 各派閥のトップたちも久しぶりに心からゆっくり出来ている様子で、何とか大きな揉め事もなく卒業式の日を終えることが出来た。

 

 

 

 それから春休み、実家に帰ってゆっくり……はできなかった。イチゴは収穫のフィナーレを迎えているし、メロンやミカンは植え付け作業。ブドウは芽の剪定があるし、4月は特に作業のないカキも含めて農園の広い範囲で雑草取りもやるわけで。

 中々骨の折れる作業だけど、その分充実感はある。それに今度もまた、放課後スイーツ部などのトリニティ生のバイトを雇ったので例年よりは楽だった。

 

 

 

 

 

 

 2年生に上がってからも本当に様々なイベントや事件があって。

 

 新年度開始早々「トリニティは我々に温泉を隠している!*3」などと意味不明なことを言いながら侵攻してきたゲヘナ温泉開発部vsイチカ委員長率いる正義実現委員会の全面戦争が勃発したり。

 

 何かと誤解されがちだったサクラコ*4が卒業したからシスターフッドの印象も改善するかと思いきや、救護騎士団の中でもミネの意志を継いだ頭救護な団員と些細なきっかけで合戦を始めたり。

 

 縦帆操術部と汽船倶楽部*5が放課後スイーツ部や自警団などの他の部活動まで巻き込んで、トリニティの一区画を焦土にするレベルの闘争をやったり。

 

 3年生になったヒフミが『トリニティペロロ祭り』なる謎の奇祭を開こうとしてトリニティ全体を巻き込む大騒動になったり。

 

 次の主宰がトリニティになる晄輪大祭について、毎年開催するかこれまで通り隔年開催か、はたまた晄輪大祭そのものを中止するかで連邦生徒会が大荒れになった余波でティーパーティーの本部が空爆されたり。

 

 あとはアリウススクワッドが自分探しを終えて、トリニティに償いのために来たので、とりあえず必要な教育を受けさせることになったり。

 

 そうして一年間、キヴォトスでは日常茶飯事なトラブルに遭遇しつつも、マイハやマアサらの友達と青春の日々を過ごして、そしていよいよ迎えた最高学年。

 

 

 

 

 

 

「皆様、お集まりいただきありがとうございます」

 

 1年生だった時から何度も訪れていた、ティーパーティーの会談が行われるベランダ。そこにはトリニティの新たな主要人物たちが一同に介していた。

 

「改めましてご挨拶させていただきます。今期のティーパーティーホストを務めさせていただく、フィリウス派首長を拝命致しました、祇園アイカです。あたくしだけでは解決できない事態も多々あると思いますので、その時は是非皆様のお力をお借りできればと思います。よろしくお願いいたします」

 

 まずは僕、祇園アイカはフィリウス派の首長になった。正直他にも適任はいそうだけど、派閥の意見は僕をトップに推す声が大きかった。1年生の後半あたりで割とやらかしてた気がするけどね……。

 

「はい、次はわたしですね~。サンクトゥス派首長に任命された土御門マイハです、よろしくね~」

 

「同じくパテル派閥首長に就任しました、炎谷マアサです。と言っても、顔馴染みばかりですがね」

 

 マイハとマアサも順当に3年生に上がってトップに就いた。ティーパーティーのそれぞれ文と武を担当する。僕はそのバランスを取る存在と言うわけだ。

 

「正義実現委員会新委員長、下江コハルよ。よろしく」

 

「副委員長、静山マシロです」

 

 続いて正義実現委員会の紹介。委員長に就任したのはコハルだ。彼女はこれまでの2年間で本当に成長した。マアサや他の正実部員にひたすら特訓をつけてもらったことで、さすがにかつてのツルギには及ばないものの委員長として申し分ない実力を備え、数々の修羅場をくぐり抜けたことで精神的にも一皮剥け*6、勉強にも正実として恥のない姿を見せるためしっかり取り組むようになり、赤点は回避できるくらいの成績を取れるようになった。

 そんな変化を経て、正実内部でもコハルが委員長になることに反対する声は殆どなかった。それに身長もちょっと伸びてマアサより高くなっている。

 

 マシロも正義についての話で暴走しがちなのは相変わらずだけど、2年間の経験を経て結構落ち着いた。僕たちティーパーティーとしても、トリニティの治安をこの二人に任せることに不安はない。

 

「次ですね、救護騎士団長にしてヨハネ分派の首長、朝顔ハナエです!怪我人・病人の救護に一所懸命尽力するので是非ともよろしくお願いします!」

 

 ハナエはこの2年間で知識と見識を蓄えたことで、1年生の時のような斜め上の治療行為に走ることはなくなったものの……かつてのミネを彷彿とさせるような、頭救護な感じは大きく変わってはいない。だが実力と治療に対する信念は確かであり、救護騎士団の中では彼女が最もふさわしいだろうということだった。

 

「では、私が……シスターフッドの代表、伊落マリーです。至らないところもあるかもしれませんが、皆さんよろしくお願いしますね」

 

 シスターフッドの長にはマリーが就任した。時折自分はまだ未熟だと謙遜するけど、その姿は代表として恥のない、立派なシスターだと思う。

 2年生時には彼女が主体となってシスターフッドに親しみを持ってもらうために様々な活動をしていて、やはり現在のシスターフッドの代表はこの人しかいないということだったらしい。

 

「それでは次ですね。この度図書委員長になりました円堂シミコです。今日の記念に、皆さんにそれぞれ一冊ずつおすすめしたい本があるのですが……!」

 

「ええと、会が終わってから是非お願いしますわね……」

 

 シミコは……この会のメンバーではあまり面識がなかったけど、本を大切にする気持ちはかつての委員長であったウイにも劣らないだろう*7。キヴォトス屈指の蔵書量を誇るトリニティの図書館のトップとして、しっかり責務を果たしてくれると思う。

 

「最後は……私かな。秤アツコ、トリニティ総合学園アリウス派の首長。よろしくね」

 

 1年生の時にアリウス自治区を制圧し、必要な教育を受けてもらうためアリウスの生徒をトリニティに編入、トリニティ・アリウス派が創設されてから一年半程が経過した。最初は環境が大きく違うことやこれまでの歴史もあって馴染めていなかった様子だけど、最近見た感じではもう大分トリニティにも慣れてきているし大丈夫そうだ。

 アリウススクワッドは自分探しののち、今から半年ほど前に戻ってきたものの……さすがに卒業に必要な課程が不足しているためアツコ以外の三人は残念ながら留年ということになってしまった。まあ、今年に四人全員で卒業できるとは思うけど……。

 そうして、アツコは元々アリウスの生徒会長の血筋であるロイヤルブラッドだったので、今年のアリウス派のトップは彼女ということになった。

 

 ちなみにあの時、アリウスで暮らしていた就学前の児童も保護したので今後少なくとも十世代くらいはアリウス派が存続することになる。その後のことは……どうなるんだろうね。一応次世代に向けて今後のアリウス派についての取り決めもした方がいいかもしれない。

 

「"これがトリニティの新体制か……。"」

 

「あら、先生。ごきげんよう」

 

 そうして全員の紹介が終わったところで会議の場へと姿を現した大人、シャーレの先生。依然連邦生徒会長は行方不明のままで、まだまだキヴォトスでは大なり小なりトラブルが頻発している。彼が外の世界に帰れるのはしばらく先の事になりそうだ。

 

「"そうだ、せっかくだしこの後みんなでシャーレに来る?"」

 

 その提案に、一同は目を輝かせる。ここにいるのは僕を含めてみんな先生に助けられた生徒だから、そのお誘いは願ってもないことだった。

 

「そうですわね……顔合わせも済んだことですし、会談は一旦お開きにしてシャーレでまた歓談会としましょうか」

 

 そういうわけで、シャーレの建物へ。他の代表者たちは先生と一緒にシャーレのヘリで向かったみたいだけど、僕らはもっと慣れた交通手段があるからね。

 

 

 

 

「わーい、アイカちゃんのトラックだ~!」

 

「トリニティでこれまで過ごした中で、私たちは何回この車に乗ったんでしょうね」

 

 いつも通り二人を運転席に乗せて、僕は荷台でポンポン砲を撃てるように待機。

 

「そうですわね……とりあえず両手両足で数えるよりは多いかと」

 

 運転席にはマイハの持ってきたおやつの甘い匂いが若干染み付いており、座席と座席の間にはマアサが忘れていったゲームの攻略本が挟まっている。長い間過ごしてきて、もう僕だけじゃなくて三人の象徴みたいな存在になっているのが、このロイアルティー号だ。

 

「あれ、なんだろ~」

 

「ヘルメット団ですね」

 

 D.U.地区へ向かう途中、理由は不明だが大量の不良が道を塞いでおり、その手前で一旦停車すると。

 

「おうおうなんだよてめぇら!ここはドスドスヘルメット団の縄張りだぞ!邪魔するやつはドスドスしてやる!!」

 

 ドスドスヘルメット団……?そんなのいたっけ?というかドスドスするってなんだよ。

 

「あたくしたちは用事がありますの、道を開けてくださらない?」

 

「ああん?うるせぇ!通りたきゃ力ずくで来いや!!」

 

 どうやら後ろにある対空機関砲(ポンポン砲)が見えないのか、威勢のいい言葉を張り上げる。どうしても引いてくれないのなら、しょうがないよね。

 

「“ティーパーティーの田舎令嬢”、本領発揮というわけですわね」

 

 そう呟いてクランクを回すと、愛銃が爆炎と共に対空砲弾を14連発。煙が晴れたそこには、100人はいたであろうヘルメット団の誰も立っていなかった。

 ちなみに“ティーパーティーの田舎令嬢”というのは、僕に対して付けられた36……72?*8正確な数は忘れたけど、数多くある通り名の一つだ。他には“戦場の歌姫”、“一人海軍”、“機関砲女”、“トリニティのマップ兵器”など。

 

「よし、それでは急ぎましょうか」

 

 不良生徒たちを轢かないように気を付けながらその場を突破し、皆が待っているであろうシャーレへと向かった。

 

*1
拳銃と散弾銃を使いこなし、ポンポン砲で並大抵の戦力なら即時に無力化、極め付きは航空支援で塵さえ残さない。

*2
ナギサはエデン条約関連の一連の事件でかなりの心労を抱え込むはめになったし、ミカもなまじ権力を持っていたせいで事件を起こしてしまい一時期は学園中から目の敵にされ、セイアはアリウスによる襲撃の結果1年間近く寝込むという状況になった。

*3
隠してない。掘ればどこでも温泉が湧くゲヘナとは違う。

*4
もちろん本人に悪気があったわけではない

*5
3章14を参照

*6
ただしエッチなモノに対してすぐ反応するのは相変わらず

*7
スキルで遮蔽物として扱っているのは見なかったことにする

*8
彼女には72通りの名前があるから、なんて呼べばいいのか……。




2年後のトリニティの各組織の代表は順当に現在のネームド1年生をそのまま置いただけなので、絶対こうなるわけではないということは念頭に置いてください。というか、ティーパーティーの三人はそもそも原作に存在しないですからね。
ちなみにマシロではなくコハルを委員長にしたのは、現在公式で判明している情報だけでも結構特殊な感じ(四枚羽、謎の線など)なのでもしかしたら将来的には覚醒するんじゃないかなという若干妄想の入った考察故です。




さて、これにて2ヵ月以上に渡って連載してきた本作も一旦完結ですね。まずはここまで読んでくださり、お気に入りや感想、評価をしていただいた皆さんに改めて感謝したいと思います。
さて、完結で66話およそ28万字という文量となりましたが……ここまで長い小説を書いたのは初めての経験です。そのため、本作の初期部分と終盤だとだいぶ文章の形が異なっていたり粗があったりするかもしれません。いずれ手直しできたらとは思いますが……。

そして、主人公のアイカですが、私自身が色んな意味でこんなキャラがブルアカにいたらいいなという思いで考えました。真面目な優等生で、割と正統派なお嬢様で、だけど愛銃にポンポン砲を選んでぶっ放すような紅茶キメてる娘で……そして親しい相手を大切にする優しい女の子で。私の表現力不足で伝えきれていない部分もあるかもしれませんが、それでも読者の皆さんがアイカに魅力を感じていただけたら幸いです。


あとまあ反省点としては、作者としても主人公の視点からしても、原作の流れを壊すのを過剰に恐れていたところですかね……もし次の作品があるとしたら、もう少し自由に動かした方がいいのでしょうね。


今後の投稿については色々考えがあります。アイカの絆ストーリー・メモロビ回収とか、造船工学部の日常などオリキャラたちのサイドストーリーとか、一度やってみたかった掲示板形式とか。
ただまあ、これ以降については書き溜めも何もない完全不定期になりそうなので、その辺りはご容赦くださいませ。
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