休日も終わっていよいよ授業が始まる。最初は授業の大まかな展望の説明で終わり、その次から授業内容に入る。大体はBDによる映像学習であり、ロボット教員の話す内容を聞きながらノートを取る。
……のだけど、正直かなり退屈だ。前世では仮にも高等教育を修了した身の上であり、今さらこんな内容やるのか…と思いながら聞いていたりする。
もちろんこれは転生に気づいてからの小学校や中学校でも経験したことだけど、油断しているとテストの時にど忘れや凡ミスで結構点を落としたりするので一応宿題や復習はやっている。
そんな感じで授業にも段々慣れてきた頃、授業を終えて寮に戻ってきて、自分の部屋の郵便受けを見る。普段は何もないか近所の店のチラシくらいだけど、今日は違った。入っていたのはどことなく高級感のある紙を使い金色の縁取りをされた白い手紙で、珍しくシーリングスタンプで封をされていた。そして、スタンプの柄は……。
「Tea Party……」
白い羽とティーカップを模した図称にTea Partyの文字。そう、トリニティ総合学園の生徒会であるティーパーティーのものだ。
「あ、あたくし、何かしましたか……!?」
偉い人に無礼を働いたとか……あ、もしかしてこの前のショッピングモールの騒ぎのせいで、退学処分……!?
「と、とりあえず部屋に戻って内容を確認しましょう」
そう自分に言い聞かせるように呟き、足早に部屋へ戻った。
勉強机の上で手紙を恐る恐る開封する。そこには、要約すると次のような内容が書かれていた。
『祇園アイカ様はティーパーティーへ参加するに相応しい能力を保持していると認められたので、ティーパーティーホストとの対談面接を受けることが可能です。面接は下記の日時で行われるので、参加しない場合は指定の日時までにその旨を窓口まで報告すること』
締め括りには恐らく直筆のサインで桐藤ナギサ、とあった。
読み終えた直後、数秒ほど放心した。
えっ、ティーパーティーへの採用?面接?マジで?
「偽造……ではないですわよね。封もサインも本物としか思えませんし、嫌がらせとしてもただの一年生のあたくしに送る理由がありませんし……」
それよりも、ティーパーティーへの参加するに相応しい能力……。そんなに自分が有能とは思えないんだけど。手違いで僕のポストに入れられた?
「でも確かに祇園アイカ様って書いてありますから、あたくし宛てであることは間違いない…ですわよね」
どうしよう。でも折角呼ばれたわけだし行った方がいいよね……どうせまだ委員会や部活に入ってないから暇だし。
「……行き、ましょうか」
悩んでいてもしょうがない。ダメだったらダメでまたその時に対応は考えればいいのだから。
◇
面接の当日がやってきた。緊張しながら指定された場所へ行くと、そこはティーパーティーが茶会によく使う、広いベランダ付の部屋で。
「面接ですね?お名前をどうぞ」
「祇園アイカ、ですわ」
「祇園アイカさん……はい、確認できました。こちらへどうぞ」
廊下から部屋に入ると、ティーパーティーメンバーの象徴でもあるケープの付いた白いセーラー服を着た受付係に出迎えられ、名前の確認を受ける。
ベランダへの扉が開けられて移動すると、そこにいたのは。
「ごきげんよう、祇園アイカさん」
「は、はい……!桐藤、ナギサ様」
フィリウス派のトップであり、現在ティーパーティーのホスト*1を務める、入学式で見た亜麻色の髪の乙女。
「そう緊張なさらないでください。そちらにお掛けになって」
「はい、失礼いたしますわ……」
言われた通り、対面の椅子に腰かける。
「まずは手紙でも申しましたが、トリニティ総合学園高等部への御入学、おめでとうございます」
「ありがとうございます、桐藤様」
「ナギサで構いませんよ。さて、アイカさんは内部進学ではなく外部からの受験とのことでしたが、トリニティへはどういった志で入学しようと思ったのですか?」
おお、自然な流れで面接の話題に入っていった。改めて、緊張する。
「はい、あたくしは郊外の田舎に住んでいましたが、高校へ上がるにあたって、地元だけでなくもっと広い世界を知りたいと思いましたの。それで三大校の中で一番近いトリニティ総合学園への進学を決めました」
よし、ちゃんと言えた。外部進学である僕なら必ずトリニティへの志望理由は聞かれるはずだと思っていたので、予め準備しておいたのだ。準備していたと言っても、心構えとかそういうことであって言っている内容が嘘というわけではないけど。
「なるほど。トリニティであれば古書堂や古聖堂をはじめとした歴史ある建造物が多く、またキヴォトス最大とも言われる図書館が存在します。見識を深めるにはこれ以上ない場所であると、私もそう思います」
そこまでで、ナギサは一度区切りを付けるように紅茶を手に取り口に運んだ。無駄のない、流麗な所作をただ眺めていると。
「アイカさんは飲まないのですか?」
「ああいえ、勝手に飲んでもよいものかと思いまして…お言葉に甘えて、頂きます」
目の前に用意されてあるティーカップに慎重に手を伸ばし、恐る恐る飲む。紅茶は前世ではほとんど飲んだことがなく、馴染みがない。だが、この紅茶は強いクセなどはなく良い香りで。
「如何でしょうか?」
「ええ、とても美味しいですわ。あまりあたくしは口が回る方ではないので、月並みな表現しかできませんが……」
「そう言って頂けて嬉しいです。私が淹れた紅茶ですので。良質な茶葉を集めたり、お茶菓子を用意したり……そういった茶会の準備が私の趣味でして」
「なるほど……」
前世のゲームにおいても、茶葉収集、お菓子作り、庭の手入れが彼女の趣味だと明かされていた。茶会というのは彼女にとって、趣味を存分に活かすことのできる楽しい場なのだろう。……政治が絡まない場合は。
「アイカさんにもそのような趣味はありますか?」
「趣味、ですか。そうですわね……ピアノや、あとは手芸を嗜んでおります。人形なども好きですわ」
「人形……例えば、モモフレンズといったキャラクターの?」
「はい、モモフレンズではアングリーアデリーさんが特に。ナギサ様もご存じなのですか?」
そう聞き返すと、ナギサは少し表情を緩めて答える。
「友人がモモフレンズの大ファンなので、私も少々勉強しています」
モモフレンズの大ファンの友人……まあほぼ確実に阿慈谷ヒフミのことだろう。
「あとは……そういえば、アイカさんの愛銃はそちらの先込め銃ですか?随分とレトロですね」
「えっと……これはサブウェポンと言いますか、愛銃として登録してあるのは別のものですの」
まさか銃について聞かれるとは思わなくて少し返答が遅れた。そうだよ、こんな前時代の遺物持ち歩いてたらそりゃ気になるよね。
「こちらは実家で猪などを追い払うための銃の予備でして、愛銃は狭い場所には持ち込めないので」
「そのような事情があったのですね。ただ、さすがにマスケット銃では戦闘になった時に不利かもしれませんので……。もしティーパーティーに入会した際に、最低限の装備は支給されますのでよろしければそちらを使ってみては」
「ええ、そうですわね」
あれ、ナギサの言い方的にもしかしてもうティーパーティーへの入会は半ば確定してたりする?
「さて……面接としてはこのくらいでしょうか。お疲れ様でした、アイカさん。退室していただいても構いません」
「は、はい……それでは、失礼いたしますわね。ごめんあそばせ」
そう言って立ち上がり、ナギサへ礼をしてからベランダを出た。面接の結果はどうなるんだろう、と思いながら寮へと戻った。
◇◇
祇園アイカ、という存在を知った時に桐藤ナギサが抱いた第一印象は──「怪しい」、その一言だった。内部進学ではなく外部から入学してきた、成績優秀で入学直後に行われた戦術テストでも良好な結果を出した少女。それだけならまだしも、トリニティの中心街の商業施設で不良生徒に因縁をつけられて、旧型のマスケット銃一つで5人集団を難なく倒したという正義実現委員会からの報告。
エデン条約を目前に控えた今、新入生の中でも優秀な祇園アイカはどこかからトリニティへ送られてきたスパイなのではないか。セイアが襲撃を受けて疑心暗鬼に駆られたナギサがそう考えるのも無理な話ではない。
例年であれば、ティーパーティーとその傘下組織へは志望者の中から書類選考で参加するに相応しい人物を選定するところだった。だが今年はティーパーティー内部で予め候補者を決めて手紙を送り、直接面接で合否を決める方法を取ったのも、エデン条約を妨害し、あるいは自分や幼馴染かつ親友である聖園ミカを害すような不穏分子を見極めるためのナギサの策であった。ティーパーティー候補にアイカを入れ、面接の場を設けたことも。
しかしながら、実際に会った祇園アイカは自分との対談に緊張した様子を見せており、面接中の印象も、純粋にトリニティに憧れてやって来たあか抜けない田舎令嬢と言った雰囲気で、特段怪しいところはなかった。大立ち回りを見せたマスケット銃についても、ただの猟銃の予備らしい。それはそれで何かおかしいが、まあ幼馴染であるミカのことを考えればそういう人物がいてもおかしくないのかもしれないとやや強引に納得した。
話を戻すと、エデン条約直前であり、セイアが倒れたという状況でさえなければアイカのことなど気にも止めなかっただろう。だが面接を経てもなお、ナギサはアイカへの疑念を完全に吹っ切ることはできなかった。
「補習授業部……へは無理でしょうね。彼女の成績は悪くないですし」
補習授業部。名目上は成績の振るわない生徒に集中講義を行い、成績向上を目的とする活動で、常設されているわけではなく、必要に応じて創設するものだ。
だがナギサはこの補習授業部に「一定の成績を修めなければトリニティからの退学」という条件を設けた上で、エデン条約締結に際して何か良くない行動を起こしそうな人物──いわば、トリニティの裏切り者候補を集め、まとめて退学させることで強制排除しようという謀略を立てていた。
既に幾人かの候補はまとめているが、アイカについてはまだ様子見が必要だろう。新入生で特に権力もコネもないアイカだが、彼女本人にエデン条約をどうこうしようという気が無くとも、一年生としてはかなりの戦力である彼女を“裏切り者”が扇動して対ゲヘナに駆り立てる可能性もある。
そう、例えば組織全体としてタカ派の傾向があり、特に副委員長がゲヘナに対してあまり良い印象を抱いていない……正義実現委員会、とか。
「そういえば、ツルギさんが彼女のことが気になると言っていたようですね。……彼女には悪いですが、アイカさんには正義実現委員会ではなくティーパーティー傘下へ入ってもらうことにしましょう」
もし万が一正実内の過激派がエデン条約の際にゲヘナに攻撃を始めるといった状況を仮定したら、その戦力は少しでも削っておくべきだろう。と同時に、それを食い止めるティーパーティーの戦力は少しでも多い方がいい。
もちろん、そのようなことが起きないようあちらにも“調整”を行うが、エデン条約への不安要素を少しでも排除するため、祇園アイカはティーパーティーの、引いては自分の管轄下に置くことにした。
「例え多少恨みを買うことになっても、必ず成し遂げなければ。全ては……」
そう言いかけてティーカップを手に取り、紅茶と一緒に飲み込んだ。その先の言葉は、彼女にも分からない。
この辺りから独自解釈・独自設定のオンパレードです。原作でもティーパーティーはこういう歴史でこういう組織なんですよ~というふわっとした説明はありますが、じゃあ具体的にどういうことをしている組織なのか?どういった組織構成なのか?入る方法は?と言ったことはあまり説明されていませんからね……。
そしてお労しやナギ上……。