ティーパーティーの田舎令嬢   作:サンタクララ

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造船工学部の日常・ゲーム開発部来訪編

 ミレニアム自治区の郊外、沿岸地域。戸建住宅の並ぶ住宅地に小規模な事務所、倉庫、公園等が混在するのどかなエリアで一際目を引くのが、赤レンガの倉庫や事務所群。

 ミレニアムサイエンススクールの成立初期から存在する、ミレニアム造船工学部の本拠地。船渠や埠頭には何十もの船が繋留されており、この部の規模と歴史がうかがい知れる。

 造船工学部はミレニアムの中心からは離れた位置にあるため、普段は部員以外のミレニアム生が訪れることは少ない。しかし、今日は違っていた。

 

 

『勇者には、大陸と大陸の間を移動するための船が必要です!』

 

 

 その声を切っ掛けとして始まった、四人パーティーでの冒険。モノレールとバスを乗り継げば30分も掛からない距離だが、せっかくだからと徒歩で来たため、朝に出発して着く頃には昼前になっていた。

 

「つ、疲れたぁ……」

 

「お姉ちゃん、最近部屋でゲームばっかりしてたから体が鈍ったんじゃない?」

 

 モモイがそう溢すと、間髪入れずにミドリの鋭い切り込み。アリスは造船工学部という初めて訪れる場所に興奮している様子で、そしてユズはモモイのように一言吐く余裕すら無い。

 

「パンパカパーン!港町に着きました!しかし……船を手に入れるためには、ボスを倒さなければなりませんが、一体どこに?」

 

 そのアリスの声に呼応するように、大柄な人影が突如四人の前に現れる。全体的に身長の低いゲーム開発部から見て頭一つ分以上の差がある、色々と大きなその人物こそが倒すべきボスなのか……。

 

「おう、どうしたんだい?チビ助たち!」

 

 ……否、彼女は造船工学部の部長・唐帆セイラである。確かに造船工学部のボスと言える存在だが、別に倒さなくても船はくれる。

 

「えっと……造船工学部部長の唐帆セイラさんですよね?この前連絡したゲーム開発部です」

 

「アリスたちは行動範囲を広げるために船が必要なので、用意してもらいに来ました!」

 

「ほう、元気がいいねぇ!うんじゃとりあえず、ついてきとくれよ」

 

 話は中で、ということらしく建物へ入っていくセイラ。夏も盛りで暑い屋外にいつまでも留まる理由はなく、ゲーム開発部もその後ろに続く。

 

 

 

 

 高性能な業務用コンピュータ、3Dプリンター、ゲーミングPC、そして多数の貸出用タブレット……造船工学部の事務所にある設備は、建物のレトロな外観とは裏腹にミレニアムらしい最先端のものだった。

 

 廃部の危機こそ免れたとは言え、ゲーム開発部の予算は決して潤沢ではない。成果がまだまだ乏しいが故に割り当てられる資金も少なければ、モモイを筆頭に部の財源を参照資料という名目でゲーム購入に使っているためである。

 そんな状況のため、四人が事務所内の機器類をなんとなく羨ましそうに見つめていたところでセイラが声を掛ける。

 

「船が欲しいんだったね?どんな船がいいとかはあるかい?」

 

「はい!このような、勇者が乗る船です!」

 

 アリスはそう言ってドラゴンテスト*1の攻略本を取り出し、主人公たちが乗る船の挿絵が載っているページを見せる。

 

「ほう……なるほどねえ。帆船、ということは……ヨット部門の子たちに任せるとするかねぇ……」

 

 造船工学部は非常に大規模な組織のため、いくつかの部門ごとに分かれている。花形である軍艦部門の他に貨客船や漁船を担当する商船部門、帆走船を扱うヨット部門、そして小型舟艇を専門とするボート部門などがあり、ミレニアムの内外から届く依頼に幅広く対応している。

 

「どのくらいのサイズがいいとか、こういう機能を付けて欲しいとかはある?」

 

 そうセイラが問うと、四人は各々の要望を並べた。

 

「当然船の中でもゲームできるように充電設備は欲しいよね!」

 

「宝箱とたくさんのアイテムを置きましょう!」

 

「アトリエ的な部屋があるといいかも」

 

「隠れられるスペースがあると嬉しいです……」

 

 その言葉をメモに取りながら、造船工学部の部長は頭の中で大まかなイメージから具体的なカタチへと船を組み立てていった。

 

 

 

 

 そうしてしばらく話し合った後、案を取りまとめたセイラは船において最も重要とも言えることを訊ねる。

 

「さて、設計図はこんな感じかねぇ。あとはそう……一番大事なことが残ってる」

 

「それは一体……?」

 

「名前さ、船の!名前を付けるってのは、言うなればそれに命を吹き込むってことさね」

 

 何か案はあるかい?と四人の目を順繰りに見るセイラ。ゲーム開発部のメンバーたちはそれぞれ思案して……モモイが口を開いた。

 

「ひらめいた!」

 

「ほう?」

 

「お姉ちゃん、変な名前じゃないよね」

 

 思い付いた名前を言おうとした瞬間に妹に出鼻を挫かれ「なんでよー!」とでも言いたげな表情。だがすぐに表情を戻し、近くにあった紙とペンを手繰り寄せて書きなぐり、ババンッという効果音が付きそうな勢いで見せる。

 

 

ユズ女王の復讐(ユズクイーンズ・リベンジ)号!」

 

 

「えっ」

 

 唐突に自分のハンドルネームを使われたユズは小さく驚愕の声を漏らし、ミドリとアリスはモモイの案をまじまじと見る。

 

「えー、なにその微妙な反応!私としては会心のできだと思ってるんだけど?」

 

「いや、別にその案が悪いって思ったわけじゃないけど……」

 

「そうですね……アリスはいいと思います!ゲーム開発部の部長はユズですから、ゲーム開発部の船にその名前を入れるというのは!」

 

 アリスの賛同にそうでしょそうでしょと満足げに頷くモモイ。その様子を見たミドリの反応はというと。

 

「でもユズちゃんは、どっちかというと復讐するよりされる方だと思う」

 

 ネット対戦ゲームで圧倒的な腕前を誇るユズに打ち負かされて、対戦相手が復讐(リベンジ)を挑んで再度蹴散らされるというのはよく見る光景である。

 

「細かいことは気にしないの!で、ユズはどうよ?」

 

「えっと、わたしは……うーん……でもまあ、悪くないかも」

 

 廃部危機から始まったゲーム開発部を取り巻く一連の事件で、ユズは以前よりも自分に自信が持てるようになった。自分の名前が使われることに、不思議と抵抗感は思ったよりも少なく、モモイ以上の良案が浮かばなかったというのもあるものの……その船名でも問題ないと思えた。

 

「じゃあ、決まり!そういうことでよろしく!」

 

「おうよ、任せな!工期は……1ヵ月半から2ヵ月くらい掛かるかな?ま、出来上がったら知らせるから待ってておくれよ」

 

 資料等を片付けたセイラは、四人に向き直る。船の建造依頼を終えて今日の造船工学部での用事はもう済んだわけで、となると次に来る言葉は当然。

 

「は、はい……すぐ帰ります……」

 

「ん?いや、折角こんな遠くまで来たんだし、もうちょっと遊んで行ったらって思ってさ」

 

 そう言いつつ、ゲーミングPCを起動してウインクして見せる。割と問題行動ばかりしているせいで自業自得とはいえ、こんな温かい対応をされたのはいつぶりだろうか。

 

「い、いいの?」

 

「うん、ゲーム開発部なんだろ?ま、こっちの都合もあるんだ、あるゲームのテストプレイをお願いしたくてさ」

 

 起動したPCからとあるアイコンをダブルクリックして開く。するとそこには……。

 

「Millennium of Warships?」

 

「そ、造船工学部で開発してる海戦ゲーム……というか、卓上演習システムだよ」

 

 造船工学部では数多くの軍艦*2を保有しており、定期的な演習を行っていた。

 

「……でも、船体が小規模だから駆逐艦とかは演習弾でも直撃したら沈没しかねなくてねぇ。それで実際に演習をせずとも済むように開発したのさ」

 

 それに、時間にも燃料や修復のための資源にも限りがあるわけで。卓上演習システムの開発は必須だったということだ。

 

「一応、本来の目的は演習用だから基本的には全部AIが操作するんだけど……いわゆる海戦ゲームみたいに手動で航行したり戦闘もできるようにしてあるんだ」

 

 造船工学部の演習システムなので、登録してある艦船は全て造船工学部が所有している、所有していた船のみ。それでも何十隻ものデータが存在し、ゲームとしてのボリュームは充分なものだった。

 

「そういうわけで造船工学部内で開発してテストプレイしてたんだけどさ、ここって中心部から遠くて全然人が来ないだろ?だから造船工学部外からの意見が欲しくて……依頼ついでにどうよってね」

 

「なるほど……そういうことなら、ぜひ」

 

「ふふん、私の神業的操作を見せる時が来たみたいだね!」

 

 ゲーム開発部の専門はレトロゲームであり、こういった3Dモデルを多用した海戦ストラテジーは範囲外である。とはいえ、ゲームと付くものならばなんであろうと手を抜くわけにはいかない。四人はテストプレイを快諾したのであった。

 

 

 

 

UZQueen:DD CRONAN が撃沈 AI_03:BB TRANSCENDER

 

UZQueen:DD CRONAN が撃沈 AI_08:CL ANTIGUA

 

 対人戦で無類の強さを発揮するユズは、海戦ゲームにおいても例外ではなく。何回かの戦闘で完全に仕様や立ち回りを把握して着々と戦績を重ねっていった。

 

「すごいじゃんユズ、一斉射で二隻同時に沈めるなんて!私も負けてられな」

 

 それを見たモモイin空母は敵戦艦を一撃で倒そうと爆撃機と雷撃機を向かわせるが、ミドリは何かに気づいた様子で。

 

「お姉ちゃん、雷撃機来てる」

 

 彼女が警告した次の瞬間。戦術マップを見ていたモモイの搭乗艦は、敵の雷撃機中隊が投下した魚雷が無防備な横っ腹に突き刺さり、派手に大爆発を起こした。

 

AI_01:CV COMFORTABLE が撃沈 Peach_Figther:CV KINGS MOUNTAIN

 

「なんでー!?」

 

「モモイ、前線に戦闘機全部張り付けてるからだよ」

 

 沈み行く自艦を眺めることしかできないモモイに、ユズからのアドバイス。

 

「だって……相手の空母が2中隊戦闘機出してるから、こっちは3中隊出さなきゃ勝てないじゃん!?」

 

「別に足止めできればいいんだから、勝つ必要はないよ。それに、モモイが乗ってたキングスマウンテンは対空兵装が少ないから1中隊は残しておかないと……」

 

 対人戦がお世辞にも強いとは言えないモモイ。どうやら海戦ゲームも例外ではなかったらしい。

 

「ミドリ!あの戦艦に魚雷を撃ってください!」

 

「うん、わかった」

 

 そうこうしているうちに、アリスとミドリは共同で戦艦を撃沈。空母が沈められたとは言え、戦況はこちらが有利だ。そのままAI操作の艦を各個撃破し、戦闘はゲーム開発部の勝利に終わった。

 

 

 

 

「あ、もうこんな時間……」

 

 その後も造船工学部の海戦ゲームに熱中し、セイラに求められた改善点などの意見書も書き終えた頃には空はオレンジ色に染まり始めていた。

 

「そろそろ帰るかい?」

 

「はい、ありがとうございました」

 

「また遊びに来てもいい!?」

 

 才羽姉妹の言葉に、セイラはにこやかな表情で言う。

 

「もちろんさ、こちらこそ今日はありがとな!」

 

「で、では失礼、しますね……」

 

「勇者一行の船、楽しみに待っています!」

 

 

 建物の外まで見送るセイラに手を振り、ゲーム開発部は造船工学部を後にしてミレニアムの中心部へと戻っていった。

 

*1
通称ドラテス。キヴォトスで発売されているロールプレイングゲーム。元ネタはおそらくドラゴンクエストシリーズ。

*2
と言っても、実物と比較するとスケールダウンしており、多くはおよそ7分の1サイズ。




当話更新にあたり、オリキャラ紹介にセイラの詳述を追加しました。



あと、今回の話とは全く関係ないことなので聞き流してもらって構わないのですが……以前に士官候補生の三人がトリニティ内で出会わなかった場合、トリニティの派閥争いに嫌気が差して退学してゲヘナへ転校してしまうこと、それによってエデン条約調印式の当日、恐怖へ反転した三人とアリウスがトリニティを滅ぼすという話をしたかと思います。それについて本編が落ち着いた時にやると言いましたが……やめました。

というのも、ぶっちゃけ蛇足じゃないかなと思ったのとあまり筆が乗らなかったからです。

前話で種明かしした通り、士官候補生の三人の神秘が堕天使由来なので当初トリニティに属しているものの、ゲヘナにも適正があったということだけ把握してもらえればそれで大丈夫です。
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