「"ううん……ここは……。"」
シャーレの先生が目覚めたのは、時の流れに任せて朽ちた廃屋らしき場所。手を動かそうとするが、柱に後ろ手に縛り付けられているらしく無駄なあがきに終わった。
次にシッテムの箱を探す。部屋を見回して、自分が縛られている場所の反対側の壁沿い。これまたボロボロの机の上に電源が落ちた状態で無造作に置かれていた。
使うつもりはないが、少し体を揺らすとコートの内ポケットに大人のカードがあるのも確認できた。これなら、誰かが助けに来てくれさえすればあとは大丈夫だろう。
「お、お目覚めか?」
周囲を確認していると、少し離れた場所で錆び付いたパイプ椅子に座っていたスケバンが気づいてこちらにやってきた。
「"私を捕まえて、どうするつもりなのか聞かせてほしい。"」
「んまぁ、そう言うと思ったよ。簡単なことだ、うちらの抗争に手助けしてくれればいい」
「"抗争……?"」
キヴォトスでは様々な理由で学校からあぶれた生徒たちが、徒党を組んでスケバンやヘルメット団として活動している。不良と一くくりにされがちではあるが、それぞれの集団で対立して戦闘することはしばしばある。それに手を貸せということだろうか。
「ああ、ゲヘナの風紀委員会。あいつらに戦争を仕掛ける」
しかし、先生の予想は外れた。彼女たちが抗争する相手は風紀委員会だと言う。わずかに困惑する先生をよそに、その生徒は続ける。
「うちらはな、あいつらに何回も辛酸をなめさせられてきたんだ。ちょっと気に入らねぇヤツとドンパチしただけですっ飛んできてまとめてボコられるし。特に委員長はヤバい、暴力の化身だろアレ」
風紀委員会の委員長……空崎ヒナ。彼女とそれなりに交流のある先生は「ヒナも戦いたくて戦ってるわけではないんだけどな」と思ったものの、口には出さずスケバンの話を聞く。
「委員長がいなくても毎回鎮圧されて拘置所にブチ込まれるしよ……それでやられっぱなしはムカつくから確実に勝ちたくてさぁ。それで、お前」
「"私?"」
「ああ、シャーレの先生。指揮がすげえって噂を色んなとこで聞いたから、いつも痛い目に遭わされてる風紀委員会にもあんたの力を借りりゃ一泡吹かせられるって思ったんだよ」
そして、その生徒は先生に顔を近づけて言う。
「それに……先生は助けを求める生徒を無碍にできないらしいからな、ひひひっ。うちらのこと、助けてくれるよな?せ・ん・せ・い」
確かに助力を求める生徒なら、誰であろうと力になろうとするのが先生だ。しかし、自分から風紀委員会に喧嘩を売ろうとしているスケバンを助けるべきなのか。
それに風紀委員会は、少し前にトリニティの遺物を運ぶ際に一悶着あって、また敵対する立場になるというのは心苦しい。特に銀鏡イオリは先生の行動にショックを受けており、この前一日中仕事に付き合ってようやく機嫌を直してもらったばかりだ。
「この為だけに100人規模で人を集めて、風紀委員長が遠出するタイミングとシャーレが手薄になる日を見計らってたんだからなぁ。協力してもらわなくちゃ困るぜ?」
先生が決断に迷っていると、遠くで爆発のような音が聞こえる。
「ああん?もう先生を取り返しに来たのか?」
そうしてスケバンが窓の外を見ようとした瞬間、軋む扉を開けてゾロゾロと仲間たちが入ってくる。
「どうしたんだお前ら、そんな慌てた顔して」
「メイド服着た連中がこっちに来てるらしい」
「はぁ?メイド服?……ま、まさかミレニアムの特殊部隊か!?」
メイド服を着た、ミレニアムの部隊。先生はそれに心当たりがあった。
ミレニアムの生徒会であるセミナー、その直属で凄腕のエージェントのCleaning&Clearing。メイド服を着た彼女たちはミレニアムで屈指の戦闘能力・作戦遂行能力を誇り、特にリーダーである美甘ネル、そのコールサイン「
「リーダーの強そうなチビに乳がデカい奴が三人……メガネの女もいるし間違いない、ミレニアムのメイド部だ!」
双眼鏡でそのメイド集団を覗いて不良が叫ぶ。彼女たちならば不良生徒がいくらいたところで助けに来てくれるだろう。しかし、先生は少し引っ掛かっていることがあった。
「"こんな短時間で……?"」
空の様子から見て、おそらく襲撃されてから今まで1時間経っているかどうかというところ。いくらC&Cでもそんな短時間で先生が誘拐されたことを知り、全員で駆けつけるのは不可能なはずだ。それでも、先生にはメイド姿の集団と言ったらC&Cくらいしか思い当たりがない。
「どうするんだよ……噂でしか知らねぇけどメイド部ってめちゃくちゃ強いんだろ?リーダーは風紀委員長と同じかそれ以上って聞くしよ……」
そう怖じ気づくスケバンに、ヘルメットを被った生徒が冷静に返す。
「でも、本当にあいつらメイド部なのか?四人のうち三人はトリニティの連中みたいな翼付いてるし、残り一人は角生えてるぞ?ミレニアムなのにか?」
「……あれだろ、外国人部隊ってやつだ」
先生はその言葉で、今向かってきているのがおそらくC&Cでないことに気づいた。記憶の中にある四人は翼も角も生えてはいないからだ。尤も、潜入のためにそういう格好をしている可能性もあるが。
「うわ、もうすぐそこまで来てやがる!あたしらも応戦すっぞ!」
「お、おい!待てよ!」
スケバンたちは全員再び部屋の外へと出ていって、すぐ近くで銃撃戦の音が聞こえる。その音はどうやらボルトアクションライフルやショットガンのようで、C&Cが使っている銃とは全く違うものだ。
そしてしばらくして銃声が止み、床を軋ませながら駆けてくる足音。扉がバンッと開けられ、姿を現したのは。
「あたくしの先生を返しなさい!!」
「"あ、アイカ……?"」
なぜかクラシカルなメイド服を着たアイカたち士官候補生と、いつも通りゲヘナ学園の制服にエプロン姿のジュリ*1。
「先生、無事だったんですね」
「よかった~」
なぜ士官候補生たちがメイド姿なのかはよく分からないが、一先ず助けに来てくれたことは確かなようだ。そしてジュリが先生の目の前に来て頭を下げる。
「ごめんなさい先生、私が頼りないばかりに……」
「"いや、あの時はしょうがなかったよ。助けに来てくれてありがとう、ジュリ。士官候補生の皆も。"」
そしてアイカが結ばれたロープを解き、先生はようやく自由に動けるようになる。
「"えっと、色々と話したいことはあるけど……とりあえず、戻ろうか。"」
「はい、先生」
そうして帰路に就こうとして、倒れているスケバンたちを見て先生は。
「"ごめん、少しだけ待ってもらっていいかな?この近くにお店は……。"」
先生は少し歩いた場所の路地裏に隠れるようにあったケーキ屋で何ホールかを購入し、1つを残してスケバンのアジトにメッセージと共に置く。それからシャーレへと5人で戻っていき、騒がせたお詫びとしてケーキを一緒に食べた。
◇◇
「うぐぅ……何なんだよあいつら……」
先生を助けに来たらしいメイド集団の攻撃で気を失ってからしばらくして目が覚める。
ミレニアムのメイド部ではなかったらしいものの、まずトラックに乗せた対空機関砲を容赦なく撃ち込んで制圧してきて、何とかそれに耐えてもスナイパーライフルで前線に突っ込んでくるチビに今の時代にマスケット銃で吶喊してくる頭のおかしな赤毛女、後方からはデカい栗毛と角が狙撃してくる。はっきり言って二度と相手にしたくない部類だ。本物はアレより強いのだろうか、だとしたら一生出会わないことを祈りたい。
「お、おい!」
そんなことを考えていると仲間の一人が興奮した様子でやって来る。寝起きの頭に響くからあまり大声を出さないでほしい。
「なんだ?」
「先生は取り戻されちまったけど……その代わりにケーキが!」
何言ってんだお前という意味を込めて睨み付けるが、そいつの様子は変わらず。
「そんな目すんなよ、まあ見ろって!」
どうせ先生は取り返されたんだし、何でもいいかと半ば諦めながら起き上がって歩く。先生を縛っておいた部屋にはさっきあいつが言った通りケーキの箱があって、仲間が大勢囲んでいた。
「マジでケーキじゃん。誰が?」
「先生。これ読め」
そう言われて手渡されたちょっと丸文字っぽいメモを読む。
『残念だけど、君たちのお手伝いをすることはできない。ごめんね。その代わりと言ってはなんだけど、近くのお店で買ってきたケーキをあげるから元気を出してほしい』
「はっ、なんだよそれ……。まあいいや、ケーキなんていつぶりに食うかもわかんねぇし許してやるよ」
当然本人はいないが、そう言って笑う。そうだよな、カチコミなら先生に頼らず自分らで何とかしなきゃだよなぁ。何度負けようが無様晒そうが挑んでやろう、それがうちらだからな。
……ちなみにその後しばらく、うちのシマでは「メイド」は禁止ワードになった。
◇◇
「話は聞いてる。お疲れ様、そしてよく頑張ったね」
百鬼夜行連合学院で暴れた温泉開発部を鎮圧した帰り、ヒナは自分が不在の間に不良生徒集団に襲撃されて抗戦したという風紀委員たちを労う。
「全く何なんだよあいつら……数日前から『とっておきの戦略がある』とか息巻いてたから警戒してたけど、結局ただの数の暴力だったし」
イオリは溜め息を吐いて言う。数だけの集団とは言え、ヒナ無しの風紀委員会では制圧に手こずってしまった。相手が何故か消耗していなかったら果たしてどうだったか。
そんな苦しい内心をヒナに悟らせないように、天雨アコは声を張り上げる。
「はい、委員長!例え委員長が一線を退いたとしても、風紀委員会は私たちにお任せください」
「……アコ、あなたは私と同学年でしょう。留年でもするつもり?」
そう突っ込まれて、羞恥で頬を染める風紀委員会のナンバー2。しかしそれは一瞬で、すぐに返事をする。
「ああいえ、そういうわけでは……。とにかく、ご安心下さい。ゲヘナの風紀は委員長の手を患わせずとも守ってみせます……イオリ達が」
「アコちゃん……」
部下にやや冷ややかな目を向けられるのも気にせず、アコは部屋を出ようとするヒナを見送る。
「……そう、期待しているわね。じゃあ、私は温泉開発部を移送してくる」
「はい!いってらっしゃい、委員長」
それから、自分達が相手した不良集団が先生を誘拐しており、そしてすぐに助け出されたことを風紀委員会が知ったのは翌日のことだった。
ちなみにメイド服を着ている時のアイカは水着や農作業の時と同じく三つ編みツインテールです、描写していませんが。
そしてこの話は前回で追記した通り、最終編よりも前の時系列です。もしかしたらこの時ケーキを貰ったスケバンたちが、最終編で虚妄のサンクトゥム攻略中に襲撃されたシャーレをワカモやヴァルキューレと共に防衛したのかもしれませんね。
それとT.S搭乗が追加されたということなので、始めてすぐに引いてたイロハもいるし試してみたんですが中々面白そうなシステムですね。
アイカも文中で色々な生徒をロイアルティー号に乗せてますが、T.S.A搭乗となるとやっぱりマアサかマイハでしょうね。