私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
「私、この子達にしたいです……!」
キラキラと目を輝かせ、軽機関銃二丁を所望するホノカ。射撃のセンスこそないものの、威嚇や制圧の面からもやはり銃は携帯しておいた方がいい。
重武装なら絡まれづらくなるし一石二鳥だ。
「うんうん。置いてあってもノノミちゃんぐらいしか使えないし、持ってっちゃっていいよ〜」
やったやったとはしゃぐ姿は一年生相応でまだ幼さが伺える。
「今右に持ってる方を『アタランティス』左に持っている方を『アタルンデス』と名付けます!」
「その名前、本当に大丈夫〜?」
「大丈夫です!問題ありません!!」
キヴォトスに来て2週間ほど。銃より拳の方が強いと豪語していた風音ホノカは、重火器に魂を売ることになった。ほぼ威嚇用でこそあるものの、『もらえるものは貰っておく』精神に基づき相棒を賜った彼女は、アタランティス達を抱えブラックマーケットへと試運転に赴くのだった。
***
ブラックマーケット、とある路地裏にて。絡まれ待ちをしていたホノカは、想像の斜め上の絡まれ方をすることとなった。
「お願いします!!姉さんの強さに惚れました!!舎弟にしてください!!」「お願いします!呼び方だけでも!!」「アタシも、アタシもお願いします!」「姉さん!」「姉さん!」
「う、うおお……落ち着いてください……一人づつ、話を聞きますから……」
ゲヘナ自治区やブラックマーケット、最近ではアビドスを拠点に自己研鑽と治安維持……の名目の元不良生徒達を蹂躙していたホノカだったが、彼女らの間でいつの間にか『最速の風紀委員』との異名が付き、伝説の人物として恐れられるに至っていた。
無論、彼女にそんなつもりはない。ただ痛いのは嫌だから銃弾は避けるし、銃は無くしたから使えない。それ故の拳、それ故の超速だったのだが、あろうことか『舐めプでブラックマーケットを制圧した』との尾ヒレがついて広まっていたのだ。
「おっほん!それでは、私についてきてください!試練を乗り越えられれば舎弟として認めて差し上げましょう」
むんと薄い胸を張って見せ、先頭を行くホノカ。それに続き、大名行列のように続く不良たち。ぞろぞろと連なる列の後方では『最速の風紀委員に弟子入りできる』との噂が流れ始めていたのをホノカはまだ知る由はない。
***
「ここって……」
「ええ、矯正局です」
聴衆からどよめきが上がる。それらを片手で制し、ホノカは説明をはじめた。
「私に弟子入りしたいというのであれば、まずは今までの行いを悔い改めることです。清廉潔白な身になって、改めて風紀委員会の戸を叩きなさい。そこまでの覚悟をもって示したのなら、私は歓迎しましょう」
「姉さん。ちなみに断ったら……?」
「気絶させてぶち込みますよ」
しぶしぶと言った様子のもの、嬉々として飛び込むもの、逃亡しようとして捕らえられたもの……。様々な形ではあったが、全員が収監されたのを確認したホノカは、満足気に報告へと帰還した。
どうも皆さん、ご無沙汰しております。風音ホノカです。今回ですが、なんと久しぶりにヒナ委員長にいい報告を持って帰ることができました。
まあ絶賛目の前ではイオリやアコが顔をしかめている訳ですが。というかアコの視線が怖い!明らかに敵を見る視線です。心当たりは一つしかありませんのになぜでしょうか。
「ひとまずは、お疲れ様。ヴァルキューレから報告が届いたときはかなり驚いたわ」
「ありがとうございます。委員長。絡まれたので制圧して矯正局送りにしてやりました」
はぁ~と大きなため息が聞こえました。誰ですかそんなひどいことしたの。中身が大人とはいえ一年生ですよ私。なかなかに傷つきまっすって。
「ねぇホノカ。いろいろと風紀の仕事をしてもらったわけだけど、それでも入りたいって思う?」
「もちろん。それで委員長の負担を減らせるなら?」
「本当にあなたは……」
おもむろに立ち上がってコートを羽織るヒナ委員長。武器まで担いで完全に出撃準備OKな状態です。仕事に行くタイミングで引き留めてしまったのでしょうか。だとしたらかなり申し訳ないことをしました。
「アコ。ホノカ。訓練場に行く。武器をもってついてきて」
訓練場、訓練場ですか。もしかして稽古でもつけてくれるんでしょうか。いや、嫌というわけではないのですが委員長の銃撃となるとモブちゃん時代にハチの巣にされた記憶*1がよみがえってちょっと足がすくみます。
プルプルと震えていたらアコに『さっさと逝け』と叩き出されました。やっぱり私のこと嫌いですよねこの人。
ゲヘナ学園、訓練場。その名ばかりのだだっ広い広場に、三人の人影が佇んでいる。
「いい銃ね」
「でしょ?右手がアタランティス、左手がアタルンデスと言うんだ」
考えかたを変えれば、『稽古』とみて差し支えないだろう。しかし、本質的に、ヒナが仕掛けたのは先ほどホノカが不良に吹っ掛けたものとほぼ同じであった。
つまりそれは、風紀委員会加入の試練。委員長直々に実力を測ってやろうといういわば通過儀礼のようなものであった。もっとも、これがホノカ以外に課されたことはないが。
ついでに言うのであれば、おまけとして引っ張り出された天雨アコはいわば審判の役割、それだけの大役を任されるという信頼の裏返しに彼女は一人心躍らせていた。
「それじゃあ、始めましょう」
「勝つよ、私は」
「かかってきなさい」
しかし、この数秒後に彼女は全力で後悔することになる。
敬愛してやまない委員長の『本気』がどれほど化け物じみたものか。そして、それを引き出す後輩の実力もまた人知を超えたものであると、今の天雨アコはまだ知らない。