私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。   作:まっしろたまご

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アビドス編という章立てを真剣に考え直しています。


『ヤケ烏龍茶』

 ゲヘナ救急医学部。下校の時間が近づく校舎に、ツカツカと足音が響く。

 シャッという音とともにパーティションが開かれ、紺色のナース服に身を包んだ人影が姿を現す。

 

「ホノカさん。そろそろ下校の時間ですが調子は———って居ませんね……」

 

 本来ベッドで寝ているはずの人物、風音ホノカが消失していた。が、氷室セナは狼狽えない。

 ホノカが医務室を抜け出すのはいつものことだ。一応心配のメールを入れておく。

 

 

 

 始まりは数時間前。彼女を抱えた委員長が現れたことだった。

 

「……やり過ぎたわ」

「死体ですか?」

「怪我人よ」

 

 あとはいつも通り手当てをして終わり。以上、回想終了。

 

 

 

 彼女こと風音ホノカは医務室にお世話になることがかなり多い。不良生徒に絡まれるなり、はたまた戦いの仲裁に入ったり。とにかく大なり小なりいつもケガをしている。

 

 そういえば、初めて会った時も委員長に担がれてきて、また同じようにいつの間にか抜け出していた。

 

 全く、救急医学部の部長としても……彼女の一友人としても、もう少しぐらい体を労わってほしいものだ。そうは思うものの、彼女の性格を鑑みるにそんなことはないんだろうなと思い、氷室セナは小さな溜息を洩らした。

 

 

 

***

 

 

 ところ変わってゲヘナ郊外。おでん屋のキッチンカーのカウンターに二つの人影が並ぶ。真っ黒なスーツをピシリと着こなした、顔面に白いひび割れの走る人物、黒服と先程医務室を抜け出してきた風音ホノカである。

 

「もぅマヂ無理……」

「ククク……いやなことでもありましたか」

「もぅマヂ無理。 ヒナにまけた。

ちょぉ大好きだったのに、ゥチにゎ風紀に入ってほしくなぃんだって。どぉせゥチゎ湧きあがり、否定し、痺れ、瞬き、眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れーーーー破道の九十 黒棺 ……」

「余裕そうですね」

「これが余裕に見えるならお前の目は節穴だよ」

 

 べったりと机に突っ伏し、ぶーぶーと愚痴を垂れるホノカ。いつもの態度はどこへやら、今は『彼女』としてでなく、『彼』として素で存在している。

 

「ささ、グイっと行って忘れてしまいましょう」

「こんな中身でも生徒だぞ俺は。何を薦めてやがる」

「烏龍茶ですよ」

「気遣いのできる男がよ……クソが……」

 

 別に彼とて些細なことでヤケ烏龍茶と洒落込んでいるわけではない。

 ただ勝利宣言をした演習にこっぴどく負け、あろうことか医務室に運び込まれ、挙句の果てにはヒナと顔を合わせるのが恥ずかしいがために医務室から飛び出してきたのだ。

 

 尚、これを十五歳の少女の気の迷いと取ればかわいらしいが、生憎と中身はアラフォーのオッサンだ。これで事の重大さが少しは伝わったであろう。

 

 ホノカとて、ゲヘナ最強を冠するヒナに勝てるとは毛ほども思っていなかった。ただもう少し、ステゴロ勝負なら勝機があると思っていた。

 結果は相手のレンジに持ち込まれ、惨敗。なんと情けないことか。

 

 

 ピロリとモモトークの通知が鳴る。万が一委員会関連だと困るため確認しておいたが、届いていたのはセナから、いつも通りの小言だった。短く、『了解』とだけ返信してスマホを閉じる。

 

「なあ黒服。俺は情けない大人だと思うか?」

「ええ。今の様子ですと、特に」

「バッサリ言ってくれるな」

 

 しばし沈黙。黙々とちくわぶをほおばる。どうしてちくわぶは食べるとなくなってしまうのだろうか。ホノカの思考は世界の真理に挑戦していた。

 

「私からは何を言っても無駄そうなので、ここらあたりでお開きとしましょう」

「あ~……そうだな。帰って休むことにするよ」

「最後にはなりますが、もしかすると今のあなたは精神が肉体に引っ張られているのではないのでしょうか?何分イレギュラーな存在なので推測の域を出ませんが」

「確かに、ここのところ感情のコントロールが効きづらいとは感じてる。疲れてると顕著だ」

「ええ。ですからお休みください」

 

 では、と言い残して颯爽とアビドスに戻る黒服。代金は『子供には奢らせませんよ……ククク……』とのことで黒服持ちになった。常々、友人としてかかわるなら愉快な奴だ。心の底からそう思った。

 

 

 

***

 

 這いずるようにして帰宅。いつぞやのメイド事件を彷彿とさせて少し頭痛がした。

 鍵を取り出して、ドアを開けようと顔を上げると、今一番合いたくない相手と目が合った。

 

「……あ」

「委員長……」

 

 まごまごと視線を泳がせてはいるものの、どこか安堵したような表情の空崎ヒナがそこにいた。




前回の投稿後、二十件近くの感想とたくさんの誤字報告をいただきました。本当にありがとうございます。


▼ホノカの中の人(TS前)

 一般的なくたびれたオッサン。アラフォー。インターネット老人会会員であるにも関わらす近年のミームにも堪能。
 ブルアカだけを楽しみに生きていたところブルアカ世界に転生したので、『先生みたいなかっこいい大人』を目指して頑張っている。

ホノカちゃんに使わせたいよって武器や技

  • パイルバンカー
  • グレード類
  • ジョジョみたいなラッシュ
  • そこらへんに落ちてたパイプ
  • その他(コメントへ)
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