私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
妙なことになりました。なんとか『私』モードに戻った風音ホノカです。
ことの経緯と現在の状況を説明しますと、家に帰ったら委員長がいました。今はかるーく晩御飯を振る舞っています。食べる姿が小動物っぽくて可愛いです。以上、説明終わり。
こう、改めて三人称視点から見てみても状況が変わる事はありませんでした。というか整理したところでと言った感じでしたとても気まずいです。
「料理、上手なのね」
「あ、ありがとうございます……?」
しばし沈黙。気まずいですって。
委員長が直々に自宅に乗り込んでくるって事は私相当のことをやらかしましたよね?ゲマトリアとの繋がりがバレたとかでしょうか。だとすると早々にアウトローに身を落とさなくてはならないかも知れません。ぐるぐると思考を巡らせていると、不意に委員長が口を開きました。
「……昼間はごめんなさい。少しやり過ぎたわ」
「アレは煽った私も悪いので……」
またも沈黙。
そういえばこの人かなり口下手な人でした。まあ、私も相当の口下手と言いますか、気の利いた事を言って差し上げることはできないんですが。
「……ねぇ」
「はッ、はい?!」
「いつものように、呼んではくれないの?」
慌てて顔を上げると、そこには目に涙を溜めたヒナ委員長がおりました。
本当は誰よりも繊細で、いつもは強がっているだけだと知っているのに再びこのような事態になってしまったのは私の落ち度という他ありません。生徒を泣かせてしまうなんて不甲斐ないを通り越して先生失格です。
口下手な私には、ひしと抱き止めて差し上げることしか出来ませんでした。
「……ごめんなさい、ヒナ。友達と顔を合わせづらくなるのは久しぶりで……どうしていいか分からなくて……」
情け無い大人であり後輩の独白を、ヒナは私の胸に顔を埋めたまま黙って聞いてくれました。
転生してきたことこそ伏せたものの、それ以外の全てを……私に関する全てを、ゆっくりと語ったのでした。
「……で、何でこんな重要なことをずっと黙っていたのかしら」
熱烈なハグを終えたのち、ホノカを襲ったのはぐうの音も出ない叱責の言葉だった。
「……あまり迷惑をかけたくなくて」
「あなたのことで迷惑と思った事はないわ」
「ええっと……じゃあ……あの……」
まごまごと口を震わせるホノカ。それもそのはず、彼女の知るヒナとは大きく違い、かなりの積極性を出してきたからである。
(ヒナ委員長ってこんなに恋愛強者……というか積極的でしたっけ?いや私が恋愛対象としてみられていないのかもしれないですけど、それはそれとしておかしくないですか?風が吹けば桶屋が儲かるとかバタフライエフェクトとかそういう?)
ホノカは空を見つめ、完全に思考がフリーズしてしまっていた。心配したヒナが肩を揺するも、頭からカラカラと音が響くばかりであった。
致し方なしと布団に放り投げる。
疲労困憊と言った様子でそのまま意識を失った後輩を見やると、とても安らかな寝顔でスースーと寝息を立てていた。
普段の彼女の振る舞いは完全に、『自分を大人っぽく見せたい子供』のそれだ。危なっかしくて、がむしゃらで、それでもってどこか惹きつけられるような魅力がある。
「これからも無茶をする予定がある」
あの時彼女はそう言った。きっと、これから彼女に襲いくる過酷な未来で、あるいは自らそんな運命に飛び込んでいくのかもしれない。
もし、その時に隣に立つのが自分ならば、どれだけ幸せだろう。そうは思うが、きっと誰にも頼らず、一人で抱え込んでなんとかしようとするのだろう。
まるで、少し前の自分のようだとヒナは思った。ホノカが現れてからは気兼ねなく話せる友人ができ、方向性は違えど自分と同じくらいの実力を持つ者として対等に接してきた。
彼女の目に自分がそう映っていると思うほどヒナは自惚れていない。
だがせめて、遠慮なしに話せる友人や悩みを打ち明けられる相手ができればいい。あわよくばその時まで一緒にいられたらいいと、切に願うのだった。
かなーり早めに……というかほぼ気絶のような形で就寝したので深夜に目覚めた風音ホノカです。
そういえばお風呂も入ってないし歯も磨いてないなぁめんどくさいなぁなんて思いながら改めて寝支度を整えるために寝室から出るとヒナがいました。帰ってきた時といいデジャヴを沢山感じる日ですね。今日は。
「ごめんなさい。起こしちゃった?」
「うんにゃ、早めに寝たから目が覚めた。ちゃんと寝支度をして寝ようと思って……ヒナは?」
「早めに上がったからその分の仕事。あなたを放って帰るのも忍びないから」
サラサラと仕事を片付けていくヒナ。おそらくまだであろう山はほぼ終盤に差し掛かっていました。
「何か手伝える事ある?」
「なら、隣で見ていて頂戴。さっと終わらせるから」
お言葉の通り隣に座ってヒナの作業を眺める。私が隣に来る前と比べたら二倍ぐらいの作業効率になってます。もはや早すぎて適当にやってないか心配になるレベル。
「……さすがの作業速度だね」
「ホノカがいるから」
「……?ありがとう……?」
私は速度アップの設置アイテムか何かなのでしょうか。不思議と悪い気はしませんが。
じっと眺めていると、『しゅばしゅば』という擬音が浮かんでくるようです。戦闘もできて事務作業も優秀で性格もばっちりとは、アコがお熱なのも納得ですね。あとは恋愛強者なら比の打ちどころがありません。
「……よし」
「お疲れ様~」
ふうと一息。夜遅くまでお疲れ様です委員長と言いたいところではありますがそれはアコの仕事。私はあくまで友人の距離間で接します。
「そろそろお暇する。しっかり休んで頂戴」
「……深夜ですけど、大丈夫?」
「私は強いから大丈夫」
「ええっと……そうじゃあなくって……」
今度は私がまごまごとする番でした。『さみしいから帰らないで』なんてクサいセリフ誰が言えるってんですか。
ちなみに私の名誉のために弁解しておくといくら強かろうと女の子を深夜一人で帰らせるのはいかがなものかと思っただけであって決して本当にさみしかったわけではありません。本当にですよ。
さすがのヒナ委員長でもこの言葉の意図は汲み取ってくれたようで、うんうんと一人で頷いた後に聖母のような微笑を浮かべて見せました。正直破壊力がヤバかった。
そしてそのあと彼女は私に言ったんです。
「夜も遅いようだし、泊まっていってもいい?」
「……もちろん!」
この時の私は、きっと今までになく目を輝かせていたことでしょう。
お風呂を上がりまして風音ホノカです。私は現在何をしているかというと……
ヒ ナ の 寝 間 着 を 選 定 し て お り ま す 。
いやまぁ、仕方ないですよね。もともと泊まるつもりで来ていたらそれはそれで怖いです。
上に着るのはちょうど洗濯してあった私のパーカーでいいとして、問題はその下……さすがに体操着を着せるのは犯罪臭。理性にやんわりと留められました。
もうなんかめんどくなってきましたしでかいTシャツと柔らかい生地の短パンでいいでしょう。下着も買って放置してたやつがありますし、これで良し。
サイズは……バスト残念仲間なので大丈夫でしょう。
こんもりとした服の山を抱えてぽてぽてと廊下を歩きます。これでラッキースケベとかあったらきっとオーディエンスにバカウケですね。まあ透き通った世界観なのでそんなことは起ころうはずがございません。
「ヒナ。着替えはここに置いておくよ?」
「ありがとう。助かる」
お風呂の方に響く返事が聞こえてきました。疲れて寝ていたらどうしようとか考えていたので安心安心。
それからしばらくして。オーバーサイズパーカーとその他もろもろを着用したヒナが出てきました。まあ一旦それは置いておきましょう。それよりも、それよりもです。
「し……」
「し……?」
「シナがヒナヒナになってる!!!」
「逆よ……」
そこにいたのは、水分を含んでシナっとしているヒナでした。まさしく洗われてボリュームダウンした犬のごとし。私はあわててドライヤーを取りに行きました。
適当な椅子に座らせて髪を乾かします。娘ができたらこんな感じかなぁなどと考えて戦慄しました。もしかしたら思考まで女の子寄りに……というか今のは完全におかんでしたけど。
これも父性ということで何とか自分を納得させました。
「まるでお泊まり会みたいね」
「まるでというかまさにでしょ」
「そうね」
そういってクスリと笑って見せるヒナは何か楽しそうでした。まあ仕方ないですよね。あんまり人の家に行ったことなさそうですし。友達と言っても遊びに行ったりできてませんし。
さらさらとした髪からいい匂いがします。先生はストーリーでお日様の匂いと言っていましたが今は私の匂いです。と言っても私ぜったいこんなにいい匂いじゃありません。
やっぱりカワイイ女の子はいい匂いを発する物なんでしょうか。そんなことを考えながらドライヤーを動かしていると、見る見るうちにふわふわとしてきて、『ゲヘナシロモップ』になりました。かわいい。
「よし、そろそろ乾きましたね」
「じゃあ交代」
「えっ」
あれよあれよという間に立場が逆転してしまいました。昼間とは違って別の意味で死んでしまいそうです。おかしくなっちゃいそう!心臓が破裂しそう!もうどうしよう!愛してる!ソラサキ!!
しかし、現実は無常であります。既に自然乾燥しかけていた私の長髪は匠の技によってあっという間にツヤツヤに仕立てられていました。
さすがと言いますか、あれだけの毛量を自分でケアしているだけはある。素直に感服とともにあの時間がもう少しだけ続いたらよかったなと思いました。
あとはもう歯を磨いて床に就くだけ。二人で並んで歯を磨く姿はさながら姉妹。娘だったり妹だったりなかなかに失礼なことを思っていますよね。
まあそんなことは何でもいいんです。問題は床に就く際に起こりました。
「私はソファーで寝るのでヒナはベッドで寝てください」
「私は大丈夫。ホノカがベッドを使って」
両者にらみ合い。この時の我々は昼間の模擬戦を彷彿とさせる気迫を発していたことでしょう。
「……ソファーなんかで寝たら腰が痛くなるわ」
「それはヒナもでしょう」
「でも……」
さすがにそこまでしてもらうわけには、と視線で訴えてくるヒナ。先に痺れを切らしたのは私でした。
「じゃあ!!一緒に寝ればいいじゃん!!同衾だよ同衾!!!」
半ばヤケクソでしたが結果オーライ。これでお互い腰を痛めることなく朝を迎えられることでしょう。
「……ヒナ。抱き着くのはいいですが吸わないでください」
「でもいい匂いよ」
千載一遇のヒナ吸いチャンス。そう思っていたのもつかの間、布団をかぶるや否や後ろから抱き着かれ、私が吸われる羽目になりました。
「……本当に、今日はいろいろとありがとうございます」
「友達としてなすべきことをしたまでよ」
にしてはいささかいろいろといきすぎな気がするのは私だけでしょうか。
ヒナも満足、私は大満足しているのでもうそれでいいですよね。うん。それでいい。
「それでも、本当にありがとうございます」
かくして、我々少女二人は波乱万丈な一日を終え、眠りについたのでした。
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