私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。   作:まっしろたまご

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今回から先生の括弧をダブルコーテーションで表記します。あとは一話一話の文量が増えて頻度が減ります。


『当番、人生相談』

 ハルナ達と昼食を楽しんだ翌日。まだまだメンタル不調が続くホノカの元に一通のモモトークが届く。

 

“やあホノカ。今大丈夫?”

〈問題ないです。何か御用ですか?〉

“ちょっとシャーレの業務が滞ってて……臨時で当番をお願いしたいんだ”

〈この時間はみんな授業ですもんね。わかりました。30分ぐらいで行きます〉

 

 先生からの救援要請。最近では彼女の日常に溶け込むくらいの出来事だ。

 きっかけは、アビドスの事後処理で追われていた先生を、『暇だし』と手伝いに行った事だった。

 

 デスクワークだけならなんとかと頼み込んで作業をしたところ、事務作業の能力の高さを買われて度々呼び出されるようになったのだ。

 

 

 

 この間の一件以降基本銃は一本だけ持ち歩いているが、撃つことはない。軽機関銃の威圧感様様だ。後々分かったことではあるが、どうやらアタランティス君達はヒナの『終幕 デストロイヤー』と同じモデルだったらしい。ヒナのはカスタマイズがガチガチすぎてわからなかった。

 

 駆け足で来たから、まだ約束の時間まで余裕がある。下のエンジェル24で差し入れでも買って行こう。

 

「いらっしゃいませ!」

「やぁソラちゃん。この間ぶり」

「あ、ホノカさん……今日も先生のお手伝いに?」

「そう。学校は短期の休学中だからね」

 

 いつも通りに雑談をしつつ、妖怪マックスやAPドリンクなんかを放り込む。

 

 少し話題は逸れるが、この世界でびっくりしたことの一つに、『割と普通にゲーム内アイテムが存在する』というものがある。

 

 APドリンクは栄養剤だし、授業はノートとBD。通貨はクレジットだし、これなら遺物とかもあるんだろう。カケラとかがあればぜひ神秘解放をしたいものだ。

 

 

「お会計お願いするよ」

「えっと……1324クレジットになります!」

「はいよ〜」

 

 スマホを差し出して決済を完了。電子マネーはとても便利だ。個人的なポリシーとして、コンビニで1000クレジットを超える買い物はしたくないが、一人分として買うわけではないのでシャーレに向かう前の買い物は目をつぶってある

 

 愛想よく対応してくれたソラちゃんにお礼をして、そのままエントランスへ。オフィスの階層を指定してエレベーターに乗り込む。

 やがて、『ポーン』という音と共に扉が開き、先生の元へ向かう。

 

「来ましたよ先生。起きてますか……ってダメそう……」

 

 見れば、まさに力尽きたと言った様子で机に突っ伏したまま微動だにしない先生の姿があった。

 制服の上着をかけて、さっき買った差し入れを冷蔵庫に入れておく。

 

 私とて前世はデスクワークで食っていた人間だ。やり方さえわかれば一人でも割となんとかなる。

 まずは触っちゃダメそうなやつと代理で記入して大丈夫そうなやつに仕分け。

 シャーレの住所や先生の名義をサラサラと記入していくうちにみるみる書類は減って行き、先生が確認するのを待つのみになる頃には、時計の針が二本揃って真上を指していた。

 

 一旦椅子から降りてストレッチをしていると、先生がムクリと体を起こした。

 

「お目覚めですか。先生。おはようございます」

“ごめん寝ちゃってた……早速仕事に……”

「もう終わらせておきましたよ。あと、もう昼です」

“ど、どうして起こしてくれなかったの?!”

「随分とよくお眠りになっていたので。どーせ何日か碌に眠っていなかったんでしょう?」

 

 朝も早かったし、そろそろお昼にしようと思い立ち、手を洗いにいくついでに先生の顔に冷水をぶっかけてやるため手を引いて引きずっていく。

 どうやらこの人は私のことを、だらけても大丈夫な生徒だと思っているらしい。

 

 もちろん仕事をするときはするけども、随分と信頼をされたものだ。無防備な先生はユウカの太ももにつぶされてしまえ。

 

「私は先にお昼の用意をしていますから。先生は顔をしっかり洗ってきてください」

 

 さっさと手を洗った私はオフィスの方へとんぼ返り。行きがけにフウカから預かったお弁当二つを机の上に並べておく。あとは温かいお茶……まだ先生は眠そうだし緑茶でも淹れておこう。

 

 

 電気ポットが湯気を拭きながらゴボゴボと騒ぎ始めた頃、シャッキリと普段の様子に戻った先生が姿を現した。

 

「目が覚めましたか?」

“うん。おかげさまで”

 

 茶葉を用意しようと棚を開けると、一瞬どれを手に取っていいかわからないぐらいの物量が威圧感を発していた。

 緑茶、紅茶、ハーブティー、コーヒー……また増えている。

 

 先生が買い込んだのか贈られたものなのかはわからない。慎重に、真ん中の辺りから私が持ち込んだティーバッグを取り出した。

 

「お昼にしましょう、先生」

“そうだね。用意をしてくるよ”

「もう済ませました。あとはお茶だけです」

 

 また少し萎れてしまった先生を慰め、私達は少し早いお昼ご飯と洒落込むのでありました。

 

 

 

***

 

 

 書類の確認を手伝って、連邦生徒会に提出。差し戻し分を修正して再提出。

 

 これらの流れを終わらせてひと段落つく頃には、どっぷりと日が落ちてしまっていた。

 

「本来当番の子、今頃上で待ちぼうけかもしれませんね」

“一応モモトークで了承は取ってあるけど、早く謝りに行こう”

 

 エレベーターを降りて、バタバタとオフィスの方へ向かうと、手持ち無沙汰と言った様子でソファに腰掛ける小柄な少女がいた。

 

“お待たせ。ヒナ。待たせちゃったかな?”

「いいえ。今きたところよ」

 

 当番で呼び出された生徒。その正体は空崎ヒナであった。

 

“ホノカは休学中って聞いたからまだ話し合えてないんじゃないかって思って。ヒナには事情を伝えてあるよ”

「えぇ〜……いや……私は……」

“それに、事前にホノカに伝えたら逃げるでしょ”

 

 

 大正解だ。事実今私が逃げ出しても追い付かれはしないだろう、なんて思ったりはしている。

 もちろん、さすがにそんなことはしないが。

 身体的には健康な私を見て安心したのか、シナっとしていた翼に力が込められ、ヘイローが紫色に発光を始めました。

 

「そこに正座しなさい」

「えっいやあのその……」

「正座して、と言ったのだけれど」

 

 完全に大説教モードにはいってしまった。

 先生の顔をチラと見れば、滝のような冷や汗と見たことのないぐらいバツの悪そうな顔をしていた。

 

「まず、貴女がいなくなってからのゲヘナの様子はどうか、わかる?」

「い、以前の状態に戻ったとか?」

「逆。美食も温泉も、万魔殿すらも恐ろしいほど静まりかえっているわ」

「さ、さすがヒナ委員長ですね……」

「違う。これはそれぞれが勝手に貴女のためにやっていること」

 

 思いがけない言葉に、口ごもってしまう。『私のために』と言われても、何かしてされるような覚えはない。

 

「本当に、あなたは全部無自覚なのね」

「えっと……はい……」

「わかっていないようだから教えてあげるけれど、あなたの命はもうあなた一人のものではないの。貴女がいなくなれば、私とおなじか、もしかしたらそれ以上のパニックが起きるかもしれない」

 

 淡々と言葉を吐くヒナは激しく怒っているようであって、とても冷静だった。以前のように取り乱したりはせず、伝えるべきことをゆっくりと伝えていく。

 

「あなたが傷ついて、それ以上に心が痛む人がいる。それだけは覚えておいてほしい」

「それはこの一件で重々と。肝に銘じました」

「そう。なら明日から職務に復帰して。貴女宛ての仕事が山ほど届いているから」

 

 くるりと身をひるがえし、去っていくヒナ。恐らくこれからまた仕事に戻るのだろう。

 嵐の去ったオフィスには、元の二人だけが残された。

 

“えっと、おめでとう。なのかな?”

「おそらく、多分です」

 

 緊張が解けて、どっと疲れが押し寄せる。

 まともな話し合い……というよりは説教だが、まあよし。あとは私の中身だ。

 

「先生。ちょっとお時間よろしいですか?」

“もちろん。どうしたの?”

「人生相談です。ちょっとお話聞いてください」

 

***

 

 

 人生相談。彼女は今そう言った。

 病室での対話以降、ぎくしゃくとした関係が続いている。

 

 大人のカードを使えた以上、ホノカの内面には間違いなく『大人』が潜んでいる。

 彼女は今、悩んでいるのだ。大人として生きるべきか、子どもとして生きるべきか。

 ともあれ、そんな重大な相談を私に持ち掛けてくれたことを喜ぼう。

 

 作業中と同じデスクに座ると、ホノカはぽつりぽつりと語り始めた。

 

「たとえば、たとえばです。貴方の大好きな人が空中で綱渡りをしていたとしましょう。一歩踏み外せば転落死、それなのに本人は『自分が綱渡りをしていること』にすら気づいていなかったら、どうしますか?」

“危ない、って警告するかな”

「それでも、まるで聞く耳を持たなかったら?」

“きっと、助けに行くと思う”

「ですよね。私だってそうします」

 

 あの時抱いた『嫌な感じ』。今考え直してみれば、あれは同族嫌悪のようなものだったのではないか。もっと詳しく言うのであれば、ドッペルゲンガーが目の前に現れたような、そんな感じ。

 

 もちろん、ドッペルゲンガーと出会ったことはないが、それでも彼女を見ていると、まるでもう一人の自分を見ているような錯覚に陥る。

 

 彼女が下してきた決断。そして生徒のためなら自分の体を削り取られるのもいとわないという『覚悟』。もしかしたら彼女は『風音ホノカ』である以前に、『先生』であるのかもしれない。

 これといった確証はないが、漠然とそう思う。

 

「私は、あなたのようになりたいと思って生きてきた。でも、気づいたんです。『どれだけまねても、出来上がるのは劣化版』だって」

“それは……”

 

 私に、憧れを否定する権利はない。

 でも、私に憧れて私のあとを追おうとする者がいれば、間違いなく引き留めるだろう。

 

“ホノカはホノカで、私じゃない。生き方に縛られる必要はないんだよ”

「生き方、生き方ですか。簡単に言ってくれますねぇ……」

“ごめん……”

「ちょっと嫌味っぽくなっちゃいましたね。今のは私が悪いです」

 

 ぴょんと立ち上がり、すたすたと出口へ向かっていくホノカ。その背中を見て、思わず引き留めてしまった。

 

“ど、どこ行くの?! 相談は?!”

「おしまいです。口が寂しくなったので飴でも買いに行こうかと」

”そ、それで大丈夫なの……?“

「ええ。吐き出したら少しラクになりました」

 

 にへらと笑って見せる彼女の顔は、先ほどまでの暗さを残しつつも、どこか憑き物が落ちたようだった。

 

「あ、一応確認なんですけど、タバコとか持ってます?」

“持っててもあげないよ?!?!”

 

 『残念です』と言い残し、後ろ手を振ってホノカは出ていった。

 このままブラックマーケットでタバコを買いに行ったりしないだろうか。

 最後の軽口のせいで心配になってしまった……あとで確認のモモトークを入れておこう。

ホノカちゃんに使わせたいよって武器や技

  • パイルバンカー
  • グレード類
  • ジョジョみたいなラッシュ
  • そこらへんに落ちてたパイプ
  • その他(コメントへ)
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