私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
正直疲れました。ホシノを言いくるめられたことがほぼほぼ奇跡のようなものです。今はただ、
一旦それはそれとして。問題は黒服が同じ方法で納得してくれるか。まあ最悪殴れば……いや、さすがにそれは最終手段すぎますね。最近脳みそまで筋肉が詰まってきた気がします。私の目的はあくまでお互いに存在を認知する程度、協力関係になるのはあわよくばです。決してそこを履き違えてはいけません。
一呼吸置いて、眼前の大きな扉を押します。ギィという音と共に、原作スチルにて見覚えのある光景が姿を現しました。
「おやおやこれは……珍しいお客人ですね……ククク……」
「初めまして、ですかね?黒服さん」
「ええ。私の記憶する限りでは、あなたと関わりを持ったことはありません」
「良かった。
ファーストコンタクトはよし。こちらが相手について情報を持っている事をちらつかせつつ私に対して初見のリアクションを引き出すことができました。
「しかし、名乗ることなくその名で呼ばれることがあるとは。てっきり、仲間内やとある方にのみ浸透しているものかと思っていたのですが」
「特に巷で噂になってるとかじゃありませんよ。
「とある事情……ですか。面白い」
さて、どこからどこまで話したものか。洗いざらい全部……いうわけにもいかないだろからまぁ、適当に嘘を交えつつ説明してみましょう。ダメそうならやはり殴ればいいんです。
「じゃあ早速本題に入ります。私、いや
「ククク……それでは、私達が探求者だとするならば、貴方は観測者……辛抱たまらずこの世界に飛び込んできたと……興味深い」
「まぁ、飛び込んだのは偶発的なことですけどね。せっかく興味深い場所に来た以上、相応の目的を持って行動しますよ」
「目的については……お聞きしてもよろしいことでしょうか?」
「私の目的……それは、いずれ来る『色彩』を打倒することです」
「……ほう?」
私が喋り始めて一時間とちょっと。物物しい雰囲気だった会談はお茶会へと発展……していたはずなんですが、たった今また物物しい雰囲気へと逆戻りしました。
「神秘を恐怖に反転させ、キヴォトスに滅びをもたらす。そんなモノを、神秘をその身に宿すあなたがどうこうできるとお思いで?」
「別に何も一人で一人でやろうってわけじゃありません。たくさんの生徒たちの力を借りる必要があるでしょうし、それだけでは足りないからこそ、貴方に会いに来たんです。その上ちょうど今日……『先生』がキヴォトスにいらっしゃいました」
「ええ、存じ上げております。
「彼の未来を見たというだけですよ。彼の輝きを目にすれば、きっとその理由がわかるでしょう」
『ゲームとしてこの世界の未来を知っている』なんて言えない手前、『この世界の外側から観察していた』(嘘は言ってない)と説明してみたところ、勝手に解釈して友好に接してくれました。
わざわざ自分で先生に手を組まないかと勧誘するくらいですし、対象に興味さえあれば邪険には扱われないらしいですね。流石キヴォトス屈指のできる男。頼り甲斐があるぜ。
その後は世間話をして解散。連絡先も交換しました。
そしてウキウキで駅まで帰ってきて今に至ります。
「えーっと、次の電車は……」
スカスカの時刻表を指差して確認。ない。これはまさか。
「終電逃した……」
田舎を舐めていました。まさか昼過ぎが終電だとは思わないでしょう。来る前に確認しておかなかった私側にも比はありますがまさかここで足踏みすることになるとは。かくなる上は仕方なしです。
「……歩いて帰ろ」
かくして、半分ヤケだった私はアビドスからゲヘナまで徒歩での帰宅を敢行したわけですが、到着した頃にはすでに朝日が地平線から顔を覗かせる頃でした。正直、今までしたどんな運動よりきつかったです。
次の日。私の朝は早いです。朝起きたら黒服からのメールに返信。筋肉痛の体に鞭打ちながら着替えて洗面台へ向かいます。
転生してきてはや数ヶ月。鏡にはやっと見慣れてきた顔*1が写る……はず……だったんだけど……
「へぇあ?」
髪の色が変わっていましたし、ヘイローもつむじ風のようなシンボルに変わっていました。昨日までは汎用ヘイローだったのに。これはまさか……いや、間違いなく……
「きた!!!ネームド化!!!!」
落ち着きましょうまだ慌てるような時間じゃありません。落ち着いてどこが変化したか確認するんです。
風を思わせる形になった、薄い緑色のヘイロー。ずんだ餅のような優しい緑色のロングヘア。以上。
……これだけ?髪の色とヘイローが変わっただけ*2じゃないですか。え、ほんとにこれだけ?もうちょっと力がみなぎる〜とかないの?
と、1人で騒ぐのはいい加減にして、朝食の用意をしましょう。最近は風紀委員会に入るため素行の矯正中。遅刻をするわけにはいきません。
パンを一枚トースターに放り込んで、ジャムを出す。ビンの蓋が堅く、少し力を込めると、ビンが弾け飛びました。
困惑。そしてさらに困惑。ビンが砕け散って……ええ?いや、昨日までも同じような力で握っていたはずなのに。粉々に砕け散ったガラスは手に刺さらないし、どうやら気づいていないだけで力はみなぎっているらしいです。手から滴るジャムを見ながらぼんやりとそう思いました。
素材そのままの味のパンを口に押し込んだ後。出発前に貴重品の確認をしていた時に、一つ気づいたことがあります。
それは、学生証だ。髪やヘイローよろしく、これもモブちゃん仕様だったはずですが、いつのまにか個人情報がポップしていました。
《風音ホノカ 一年 ゲヘナ学園》 ちゃっかり証明写真まで変わっています。
とりあえず、黒服に連絡を入れておきました。おそらくは神秘によって引き起こされた現象ですし、アイツなら喜んで調べてくれるだろう。しばらくして、ノリノリな黒服から『こちらでも調べてみる』との返事がりました。やはりできる男。
通学途中、沢山のモブちゃんに会いましたが、彼女らからは一貫して『ホノカちゃんおはよう(意訳)』と声をかけられました。まだ誰にも名乗っていないはずなのに。怖。
「フウカちゃん、おはよ」
「あ、ホノカさん。今日も手伝いに来てくださったんですか?」
お前もか。
美食研に攫われながら、ぼんやりと色々考えてみましたが、答えらしいものは何も思いつきませんでした。
黒服の方も捜査結果は芳しくないそうで、これはもう『そういうもん』として受け入れることにしましょう。
あ〜。『給食部の手伝いをしてたら仕方ないか』なんて思ってたけど、なんで私まで攫われてんだろ*3。