私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
———カ
——————ノカ
—————— ———ホノカ!!
「……あぇ?」
「どうしたんだ……私の顔を見るなりぼんやりして……どこか体調でも悪いのか?」
「ああいえ、そう言うわけではなくて……」
「だったら、なおさらどうしたんだ?」
「どうやら……私たちは
「……は?」
回想からの回帰、存在した『肉体の記憶』。今この場で『お姉ちゃんの顔見たら全部思い出しちゃいました!てへ!」なんてことを言う胆力を彼女は持ち合わせていない。
故に、彼女の脳味噌が弾き出した最善解は、『戯けつつも分かる人には分かるネタ』だった。この間0.02秒である。
「フフフ……いえ、失礼。懐かしいなと思っただけですよ」
「あ、ああ。そうか。思い出してくれたようで何よりだよ」
ホノカのざっくりとした目論見は功を奏し、カオリに記憶を持っていることを伝えることができていた。
イレギュラーな事態が重なったが、後はもうお茶会と歓談に興じるだけである。
「……変わった方でしたね」
交流の茶会を終え、風音ホノカが退出した後に、桐藤ナギサは彼女のことをそう評価した。
「ゲヘナの子って聞いてたからちょっとアレだったけど、カオリちゃんの妹ならもっと早く言ってくれたらよかったのに〜」
「それはミカさんが話を聞いていないだけでしょう」
「同感だね」
先の茶会で、ホノカと最も打ち解けたのは意外なことにミカだった。
初めこそ警戒していたものの、『イジりがいがある』と判断するや否や手のひらを返し、グイグイと距離を詰めていった。
「しかし、ミカさんがあそこまで興味を示すとは思いませんでした」
「その点で言えば、ナギちゃんも大概だけどね」
「ずっと無視してましたけれど、その呼び方やめていただけませんか?!」
「え〜?別にいいじゃんね!☆」
「ミカさんの真似をしてもダメです!!」
嵐のような来客の余韻も冷めて、いつも通りの光景に戻ったティーパーティー。
話題は先の少女のもので持ちきりである。
(しかし、『アレ』は間違いなく……ホノカではなかったな)
一人、別の視点で振り返り、寂しい笑みを浮かべるカオリに二人は気づかない。フリをしている。
(まぁ、大切な妹であることに変わりはないか)
姉としてか、あるいは恐怖を知った者の覚悟か。
いずれにせよ、カオリは妹の為に全てを投げ打つ『覚悟』を改めたのだった。
「ククク……お久しぶりですね」
「言うほどでもない気がするけどね」
ゲヘナ自治区の端……トリニティ自治区との境界線上にある廃墟地帯に、二人の人影が立つ。
「今回は、どう言ったご用件で?」
「とぼけるなよ。黒服。私の過去やベアトリーチェの企みも、全部知ってたんですよね?」
二つのうちの小さい方……子供は、『大人』に純粋な疑念をぶつける。もう一つの人影もそれを否定はしない。
「ええ。あなたの望む答えはおそらく。ただ、冷静な話し合いをお願いしたいところではありますね。ククク……」
「別に怒りゃしないですよ。ただ、『聞かれなかったから言う義務もない』でしょう?それが大人ってもんです」
「……よくご存知で」
「ま、聞いたことにだけ答えてくれればいいですよ。答え合わせと洒落込みましょう」
ゲマトリアの内でも、それぞれのスタンスは大きく異なる。
その中でも異質を放つのがベアトリーチェであり、『子供は大人に搾取されるべきものである』と言う考えの持ち主だ。
本人の過激な性格も相まって、何度か争いに発展しかけたこともある。
だが、だからこそ、黒服はベアトリーチェの計画を……それによって弄ばれた少女を、よく知っていた。
「私の考えではまず、『過去、アリウス自治区に風音ホノカは存在していた』。次に『ベアトリーチェによって
ホノカの簡単な考察。記憶を取り戻して、黒服との会合を取り付けるまでにまとめた考えだ。
しかしこれは、かなり的を射ている……ほとんど正解と言って相違ないものだった。
「素晴らしいですね。その認識で間違いありません」
想像を大きく超える考えに、黒服は存在しない目を丸くする。
「しかし、ところどころ抜けている部分がありますね。そこは私から説明いたしましょう」
「じゃあよろしくお願いします」
聞かれれば答える。そう言っていた手前、疑問からは逃れられない。
それ故、彼はゆっくりと語り始めた。
「まず、あなたの魂はここではないどこかを漂っていました。役目を終え、いずれ燃え尽きて天へと向かうだけの魂が、ある日突然地上へと堕とされることになります。堕天したあなたは肉体に元々あった魂よりも強度が高かったのでしょう。体の主導権を奪い取ってしまいました。神秘への適性を持たないあなたが憑依した肉体はいずれ崩壊へ向かうはずでした。しかし、あなたはまた神秘を再獲得し、肉体の記憶をも得て今に至ると言うわけです」
「……終わり?」
「終わりというのは?」
「いや、神秘を再獲得のくだりがわかんないなって」
「それは私にもわかりかねます。『わからない』という答えですね」
最後の最後で拍子抜け。盛大な溜息が漏れるが、あらかたの謎は解けた。
「説明ありがとう。ふと気になったんだけど、どうして私にここまで良くしてくれるの?」
「元々は、あなたの神秘が目的でした。しかし、あなたの魂の輝きを見てからは———貴女こそが、『崇高』に最も近い存在であるとして、行く末を見届けたくなりました」
「それは、先生のことではなくて?」
「いいえ。あなたのことで間違いありません。『神秘』と『恐怖』を併せ持つ、『大人』にして『子供』。この世界の結末を知る貴女が、この『物語』にどう関わっていくのか……とても興味が惹かれると思いませんか?」
珍しくやや興奮した様子で言葉を並べる黒服とは対照的に、ホノカはかなり冷静だった。
『先生』にはなれない。そう結論付けた自分こそが崇高であると言われても、いまいちピンとは来ない。
「なるほどね。でも、私はそんな大層な人間じゃないよ」
「ご謙遜を。先生と……彼と同じことを言うのですね」
「私は生徒たちが幸せに、そして平和に暮らせる世界を作りたいだけさ。その目的のために、君の協力を得られるのであればまぁやぶさかではない」
今宵の会合はここで終わりだ。お互いに軽く視線を交わし、その場を去る。
「あ、最後にいいかな?」
「……何でしょうか?」
クルリと振り返り、黒服に呼びかける。その顔は、年頃の少女らしからぬ深みを持った笑顔だった。
「これからも、『悪友』として……よろしく頼むね?」
「ククク……それはそれは……ええ。もちろん」
これ以上の言葉を交わすことはなく、密会の場からは誰もいなくなった。
すっかり温くなった夜風が、辺りを駆け回るばかりだ。
回想編はおしまいです。質問は受け付けます。