私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
戦闘により穴だらけになった建物の屋上に緑髪の少女が一人、周囲を見回すように突っ立っていた。
「うーん……距離は400メートルぐらい……二人で固まって動かれてるな〜……」
厄介な二人を無力化し、残るは純粋なフィジカル強者である二人。どう相手したものかと彼女は考える。
(2v1はあまりよろしくない……先生の指揮も受けれるだろうし、ちょっときついかもなー……)
つい先日、『彼』はまだ純粋なキヴォトスの人間として生きていた頃の風音ホノカの記憶を獲得した。
アリウス分校という特殊な育ち、その中でも卓越した能力の持ち主であった『彼女』は言うまでもなく近接格闘のスペシャリストであった。
よって『彼』……もとい現在の風音ホノカは過去の自分を模倣することによって、本来持ち得ることのない『経験』を手にしていた。
だがそれもどこまで行こうと付け焼き刃の力。もちろんデメリットや限界はある。
まずデメリット。これは記憶を深く辿ることによって過去の風音ホノカに人格が侵食されることを指す。現に今『彼』思考は天真爛漫な少女のそれに引っ張られ、口調まで変化している。おそらく1時間もすれば『彼』と『彼女』の境界があやふやになり、姉のような存在になることだろう。
そして限界について。いくら天性のフィジカルを賜り、格闘技術を学んだとしても、やはり一番重視しているのは銃器。特別何かおかしな技を使えるわけではないというのが『彼女』の限界だ。
そう。だからこそ、『彼』の神秘の知覚が生きる。攻守一体、変幻自在に姿を変え、主人の思うがままに形を変える神秘を手にした時、文字通り風音ホノカは
だが、これは覚醒ではない。
屋上から飛び降りてきたホノカは、私の知っている彼女とは違った様相をしていた。
放つ光が緑色という差異こそあるものの、ヒナの頭の上に浮かんでいたヘイローとそっくりだった。
「なになに?そんなに見られると照れるんだけど〜?」
“ホノカ。その姿は一体……”
「うーん。ちょっと本気出しかけてるだけだから気にしないでいいよ〜!」
“……無理はしないでね”
「あははっ!心配してくれるんだ!意外!」
以前、アビドスでが起こった戦闘の際、彼女はかなりエキセントリックな様子で戦っていたが……今回はまた違う、言うなれば無邪気さすら感じられる。
自身を『大人』と称するように、彼女の立ち振る舞いは理性的で丁寧、到底15歳の少女とは思えないようなものだ。
『先生!警戒してください!!ホノカさんの神秘が爆発的に増加しています!!』
“ごめんアロナ。考え事してた。ありがとう”
『はい!スーパーOSのアロナちゃんにお任せください!!』
あれ以降、定期的のシャーレの当番を頼んだりはして見たものの、彼女は結局打ち解けた態度を見せてくれなかった。
いや、これは語弊か。正しくいうのであれば、『わざわざ打ち解けたように見せかけた』態度をずっと取られている。それが先生である私を警戒してのことなのか、他の誰にもそうなのかはわからない。
しかしまず間違いなく……彼女は『何か』を抱え込んでいる。
アビドスでの騒動での後の、病院での会話。あの時の彼女は———まるで、『私』を見ているようだった。
生徒のためと身を削り、周囲にたしなめられて事の重大さを知る。彼女はそれをうまく隠せなかっただけで、もし私のように動くことができていたら。そう思うととてもゾッとする。
“……ホノカ。君は一体……何者なの?”
「前言ったじゃん。私は『生徒であって大人』だって。この答えじゃ満足できないかな?」
“私は、君の胸につかえている問題がどんなものか、私にはわからない。だけど……”
「急に何?ネルちゃんたちが来るまでの時間稼ぎか何か?」
“それがどんな物だろうと、一緒に解決するから。絶対に、君の敵になんかはならない”
「……へぇ」
そこまで聞き届けたホノカがどこからかデザートイーグルを取り出し、真っ直ぐに構える。照準はピッタリと私の眉間に合っていた。
「思い出したんだぁ。昔のこと。昔の私はちょっと特殊な育ちでさ。『普通』がどんなものか知らなかった。けど一度だけ外に出て、全員が私より幸せに生きてることを知ったんだ」
“……それで、どうしたの?”
「美しく見えてたはずの世界が、急に憎くなった。私を洗脳した大人も、あんな場所で生きなくちゃいけないようにした運命も。全部全部ね」
初耳だ。彼女からこんなことを聞いたことがない、というのもそうだが、それとなく聞き出そうとした時もやんわりとはぐらかされてしまったから。
そもそも、これは本当に私の知っているホノカなのか?それすらも疑わしいが、今は確かめる手立てもない。
「私の体を使ってた人がね、知ってたんだ」
“……何を?”
「
“……ッ?!”
不意に放たれた銃弾が、私の頬の近くを掠めていった。
『先生!軌道を逸らすのが精一杯です!!ナビをしますのでこの場を離れてください!!』
“それは駄目だよ。アロナ”
「逃げないでくださいよ〜。せっかく機会を狙って体の制御を奪ったのに〜」
間違いなく、今私の目の前にいるホノカは正気じゃない。それなのに放り出して逃げるなんてことは、『先生』失格だ。
▼ 大人のカードを取り出す。
「大人のカード、でしたっけ?誰を呼び出しても勝てっこないですよ?」
一度は彼女によって使用を止められたカード。ならば本来使うはずだった一回を、ここで使うことにしよう。
「どうしてそんなことをするのか、理解に苦しみますね。世界は所詮、虚しいものなのに」
“でも、最後まで抵抗してみないとわからないでしょ?”
カードが蒼く輝き、発動の準備が整う。あとは募集を開始するだけだ。
“アコ、ヒナ、イオリ、チナツ、ミカ、カオリ。お願い、力を貸して”
ゲヘナ風紀委員会の四人に、以前ホノカが呼び出していたミカ。そして、ホノカの姉であるカオリ。
“みんな。急にごめん。大変なことになった”
「あそこに見えるのは……ああ。なるほど。相手は我が妹か」
「……ホノカってお姉さんが居たのね。最後に見た時は羽なんて生えていなかったはずだけれど……」
“やぁ、カオリにヒナ。少しホノカが今……暴走気味っていうのかな?」
「はぁ……どうせまた無茶をしたんでしょう。協力するわ」
ミカとカオリが乗り気かどうかが不安だったが、『ホノカの為なら』と共同戦線を張ることを承諾してくれた。
確執の深いトリニティとゲヘナの生徒たちを団結させるとは、ますます彼女は何者なのだろうか。
気にはなるが、今は考えるべきではない。雑多に荒れた思考を、指揮用に切り替えた。
ややこしくなってきたのでホノカの時系列整理置いておきます
過去ホノカ(キヴォトス人)
↓
ベアおばに生贄にされる
↓
今の魂(主人公)が憑依。もとの人格は消失。
↓
記憶無しで生きる。幕合まで。
↓
姉と出会い、肉体に刻まれた記憶を取り戻す。
↓
戦闘のため過去の記憶を掘り起こしていると深く辿りすぎて人格を乗っ取られる(イマココ)