私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
大人のカードによって生徒たちが呼び出され、6対1の構図になってもホノカは依然として余裕の態度を崩さない。
「ねぇ、先生はなんで私を倒そうとするの?」
“私は先生で、ホノカが私の生徒だからだよ”
「それは、先生が『大人』だから?」
“うん。間違いないよ”
先生としての私の矜持、大人として全うすべき責務だ。しかし、それを面と向かって言われた彼女は盛大に顔を顰めた。
「やっぱり……あなたも
“……マダム?”
「あ、そっか。まだアイツについて、知らないんだっけ……記憶によれば今は……パヴァーヌ編の……アリスちゃんが攫われる前ぐらい?」
“知らないけど……生徒を傷つけるなら、きっと私とは相容れないかな”
「じゃあ、私も『そう』ってことになりますけど?」
“うん。だから、止めるよ”
姿が変わる前の彼女は、明確な敵意を露わにすることはなかった。もしかすると胸の中には抱いていたかもしれないが、ひとまずその状態になんとかして戻すことが先決だろう。
“イオリ。カオリ。脚を狙って!動き回られたら勝ち目がないよ!”
「「了解」」
“ミカは二人の護衛について。アコは私と一緒にホノカの動きのデータを取る。チナツは負傷者が出次第指示を出すからすぐ動けるように待機しておいて!”
「OKだよ!」
「了解です」
「了解しました!」
5人に指示を出し終え、最後はヒナに———そう思ったのも束の間、先程まで視界の端に捉え続けていたホノカの姿が消えていた。シッテムの箱のマップ上では同じ位置に止まったままだ。
彼女と共闘することは数回あったが、ちゃんと指示をすることができなかったことには幾つか理由がある。一つ目は、『集団戦における協調性が皆無』ということだ。いくら私が指示を出しても従ってくれなくては何の意味もない。
そしてもう一つは、『彼女が速すぎる』ということ。シッテムの箱によって五感にはある程度の補助が入りはするものの、元が元なだけに彼女の速度を捉え切れるまでにはならない。
そして極めつけは、『一人で戦わせた方が数段強い』ということ。これに関しては言わずもがな、彼女の戦闘スタイルの問題が超スピードで殴るというものだからだ。彼女の能力……ポテンシャル込みで考えれば相手の練度次第では一個大隊を単騎で任せられるほどだ。
戦闘中の判断力も凄まじく、優先して倒すべき敵もよくわかっている。故に、彼女のスピードに追いつけない私の指揮を待たせるより自己判断で戦わせたが強い。故に彼女は私の指揮下で戦った経験に乏しく、そしてそれは圧倒的な戦闘データ不足を表していた。
近づき、殴り、次。拳での戦闘を主にするのであればこれが基本スタイルであるはずだが、それを『認識できない』となると厄介さが跳ね上がる。
「っ!」
「ミカ。下がって、私の後ろへ」
「うーん。今のは獲れたと思ったんだけどなぁ」
「甘いな。何も考えず戦うのでは勝てないぞ?」
「知ってるよ。だから、
一瞬前まで目の前でカオリと掴み合いをしていたはずのホノカの声が後ろから聞こえた。『敵将の首』。そういうことかと理解したとこにはもう遅い。
姉を振り解き、私につかみかかろうと手を伸ばした瞬間、ホノカの眉間を銃弾が襲った。
「痛ったぁ……どこから……」
「おや、私の戦い方を忘れたとは。流石に寂しいぞ?」
「でもお姉ちゃん後ろにいたじゃん?それは流石にハッタリがすぎるよ?」
「別に過程を省略して着弾しただけだろう?何もそんなに驚くことじゃない」
私はさまざまな神秘を持つ生徒と関わったことがあるが、いずれも『直感で電子暗号を解く』だったり『再生力が異常に高い』だったり『デメリット付きの豪運』のような……ツルギは例外としても、殆どが戦闘にここまで直接的に関わってくるものではなかった。
「ふむ……誰も理解できていないようだから説明しておこうか。元々は命中率が少し上がる程度のものだったのだが……そこにデメリットを付与する『契約』を結ぶことによって能力の底上げを図ったのさ」
“……その契約の内容を聞いてもいい?”
「もちろん。一つ、誰かの命に関わる場面以外では発砲できない。二つ、使える弾丸は一戦闘につき六発のみ。まあ、キヴォトスの人間が死にかけるような事態はほぼないから、普段は……こう戦っている」
その時、へたり込んで話を聞いていたホノカの首根っこを掴んだカオリが彼女を放り投げた。
「委員長!イオリさん!聖園さん!今です!!」
そう。たとえ並外れたフィジカルを持っていれど宙を舞っている時は何の抵抗もできない。短時間ではあるがアコと弾き出した結論。ヒナ、イオリ、ミカにはそこで不意打ちを仕掛けるように、カオリには意識を逸らすことと準備のための時間稼ぎを『通信で』頼んでおいた。直接出した指示はブラフだ。
「あークソ……これは先生を低く見積もり過ぎましたね……」
落下して地に体を預ける彼女は指一本動かせないと言った様子だった。
“……ホノカ”
「なぁにぃ……?体中痛くてたまらないんだけど……」
“それは謝るよ。でも、どうして急にこんなことをしたの?”
「……別に。自分より幸せなやつが憎かっただけですよ。特に、
“……そうだったんだね”
再び体を起こそうとしたホノカの胸部にカオリのエグい蹴りが炸裂し、ヘイローが消える。息はしているためただの気絶だが、風紀委員会の面々は盛大に顔をしかめた。私もしかめた。
“ねぇ、カオリ。さっきのホノカはどういう……?”
「ああ。きっと深く記憶を辿りすぎたってところだろう。あの子が昔抱えていた心の問題は根深いからね」
“それは……知ってしまうだけで錯乱するほどにってこと?”
「むしろ、あれで済んだのが奇跡と言えるだろう。最悪、自我が崩壊していてもおかしくはない」
彼女は、基本過去のことを語りたがらない。基本的には生徒の自主性を大切にしてはいるものの、これは一度腹を割って話す必要があるかもしれない。
「丸投げするような形になって申し訳ないが……先生。あの子のことを頼めるだろうか」
“もちろん。ホノカも私の大切な生徒だからね”
「ああ、そうだ。きっと目を覚ましたホノカはきっと不安定な時期に入ると思うから———」
『できたら、側に置いて様子を見てやってくれ』そう言い残し、カオリはティーパーティーの制服を翻して
「センセーよぉ……急患だから人を呼んでこいってんで言うから行ってきたが……何があった?」
“ちょっと色々ね。ありがとう。ネル、アスナ”
「『きっと非常事態だし先生を一人で残すのは』ってリーダーずっと心配してたんだよ!!ご主人様怪我してない?」
「バッ?!言うんじゃねぇ!恥ずかしいだろうが!!」
遠くの方から救急車のサイレンが聞こえてきた。
……この子たちは車より早く戻ってきてくれたのか。そう思うと、心配させてしまったなと少し反省する。
その後救急車によってホノカは病院へ運ばれ、きちんとした検査を受けることになった。
検査の結果、外傷は目立ったものはなし、軽い擦り傷だけだった。
ヒナに『問題が起こったためしばらくホノカをシャーレで預かる』と連絡を入れて、居住区のベッドに寝かせたのが三十分ほど前。
「……んぅ」
小さな息を漏らし、薄く目を開ける。
“やぁ、ホノカ。おはよう”
「ふぇっ……?!先生?!どうして?!」
“お、落ち着いて。ここはシャーレだよ”
「どうして私がシャーレ……に…………」
彼女はみるみるうちに顔が青くなっていき、次第に体が震え始めていた。
「……そうだ。あの時、なんでもできるような気がして……自分が自分じゃなくなって…………」
ぐしゃりと顔が歪む、呻くような声を上げて泣き出すホノカの頭を優しく撫でた。
“ゆっくり、話をしよう。今までのことも、これからのことも”
「アコ」
「ホノカさん遅いですね……どうかしましたか?委員長」
「問題が起こったからしばらくホノカはシャーレで預かるそうよ」
「へ、へぇ……それは大変ですね。後できちんと事情を聞かないと」
「アコ」
「はい」
「事情をきっちり伺っておくこと」
「はい」
「あとは反省文倍」
「はい……」