私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。   作:まっしろたまご

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『聞いてくれますか?先生』

 深夜のシャーレ居住区にはどんよりとした空気が漂っている。

 

“……落ち着いた?”

「はい……すみません。取り乱しました」

“何か暖かいものでも飲もうか。何か飲みたいものはある?”

「先生と同じのでお願いします」

 

 ああ。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。原因で言えば私で間違いなのですが。

 

 先生に襲い掛かった挙句発砲して大人のカードまで使わせてしまうなんて。最悪も最悪です。先生は『大丈夫』ってずっと言ってましたけれど。あれもきっと私を安心させるため。

 そして一番心の中に引っかかっているのが……

 

「大嫌いって言っちゃった……」

 

 そう、これが一番つらい。過去の私はどんな境遇で生きてたんですか……って、ベアトリーチェに洗脳されていたのにふとした拍子にそれが解けて自分以外の人間が自分から見たらことごとく当たり前に『幸せ』を享受していると知ったら……まぁしょうがないかなと思う面はありますけど。

 

“ホノカ。持ってきたよ”

「わっ!?ちょ、驚かせないでくださいよ……」

“ごめんごめん。考え込んでるみたいだったからさ。はい、ハーブティー”

 

 受け取ったマグカップの中に注がれていたのは優しいレモン色のお茶。一口含めば、リンゴのようなすっきりとした味わいが口に広がります。

 

「……おいしいですね」

“セリナから貰ったんだ。リラックス効果があるんだって”

「成程。カモミールティーでしたか」

“正解。よく知ってるね”

 

 ちょうどいい暖かさのお茶と、私の言葉を待ちながら先生がそこにいてくれる空間がとても心地いですね。生徒の自主性を重んじ、そっと寄り添う大人に思わず堕ちてしまいそうです。

 

「……先生は、怖くないんですか?」

“……何が?”

「昼間、乱心を起こして殺そうとした相手が真隣にいるのに、ですよ」

“全然。ホノカは優しい子だって知ってるから”

「……自分のことを話した覚えはありませんけど」

“私も伊達に先生やってないからね。少しの時間でも、一緒にいたらそんな子かは大体わかるよ”

「……でも、何も知らないじゃないですか」

“うん。だから、教えてほしいな”

 

 ふと顔を上げると、先生と目があいました。真っ直ぐな先生の瞳はどこか吸い込まれそうで、過ぎに消えてしまいそうな儚さも孕んでいました。

 

「……知って、先生に得がありますか?」

“ホノカが少しでも楽になってくれたら得かな”

「そういうところ、本当に狡いです」

 

 こういうところが、どうあがいても追いつけないんですよね。いいでしょう。センチメンタルな空気にまかせてこの際すべて吐き出してやります。

 

「それじゃあ、聞いてください。私のこと、全部」

“もちろん、喜んで”

 

 


 

 それからは、いろいろな話をしました。

 『俺』が、元々この世界の存在ではないこと。

 未来を知っている理由。

 そして、自分がこの世界に来たせいで元々『風音ホノカ』として生きていた少女の体を奪ってしまったこと。

 最後に、この体の生まれのこと。

 それはもう、全部全部、洗いざらい話ました。

 


 

 

 

 Side先生

 

 

 

「……というわけです。長くなっちゃいましたね別に信じなくていいですよ」

“いや、信じるよ。ホントのことじゃなかったら告白するのにそんな勇気がいるはずないからね”

 

 ホノカの口から語られた真実は、想像を絶するほど大きく、厳しい現実だった。

 

“……ホノカ”

「ごめんなさい。急にこんなこと言って。気持ち悪かったで―――」

“話してくれて、ありがとう”

 

 そう伝えた瞬間、ホノカはまた顔を伏せてしまった。

 

 例えば、大好きな物語があったとして。

 そして、ひょんなことからその物語の世界へ生まれ落ちたとして。

 過酷な運命を背負っていると知らずにその生を謳歌できればどれほど楽だっただろうか。

 

 自分が生まれた時点で一人の少女を犠牲にしていると知り。

 その少女が清算できない重い過去を持っていたとしたら。

 

 果たして私は誰かに打ち明けることができるのだろうか。いや、おそらくはその前にいろいろな感情に押しつぶされてしまうのではないか。

 

“私は、信じるよ”

「……どうして」

“ホノカが、勇気を出して話してくれたから”

「でも、それじゃあ」

“今まで、よく頑張ったね。もう我慢しなくても大丈夫だよ”

「私は、大人で」

“でも、私の大切な生徒だから”

 

 グッと握りしめられた華奢な拳で、どれほどの敵を討ったのか。私よりも少し低い場所にある頭で、どれほどのことを思い悩んだのか、私にはわからない。想像もつかない。

 

 それだからこそ、私にできることは、きちんと聞いて向き合うことだ。

 

「……先生」

“うん。どうしたの?”

「みんなを守れるくらい、強くなりたいです」

 

 泣き腫らした赤い目を真っ直ぐにこちらへ向けて、ホノカはそう言い放った。

 

“大丈夫。きっとなれるよ”

「先生のような、素敵で誰かを導けるような大人に、なりたいです」

“うん。ホノカならきっとなれるよ”

 

 いつか、病室で話したことを思い出すした。

 

 あの時はまだ、彼女自身、自己を定義しかねていた。

 ただ、まっすぐに生徒のためを思い、時には危険を顧みずに進んでいく彼女こそが、本当になりたい自分なんだろうなと今となっては思う。

 

“じゃあ、これからはシャーレに所属して私の補佐に当たってもらおうかな”

「え?」

“私みたいに、っていうんだったら近くで見れた方がいいんじゃない?”

「そ、それはそうですけど……」

“ちょっと待ってて。渡すものがあるから”

 

 前シャーレに出向にきていた時、渡し忘れていたもの。

 ごたごたに紛れてうやむやになっていたけれど、正式に所属するとなれば渡しておかなければいけないだろう。

 

「こ、この箱は……?」

 

 丁寧に包装された箱を受け取り、少し困惑しながらも開封していく。

 

「これって!」

“うん。私と同じコート。シャーレ所属なら渡しておかないとって”

「うわぁ……なんか畏れ多い……」

“畏れ多い……?”

 

 と、とりあえず喜んではくれたようでよかった。

 部活とはいえ、『超法的機関』だから、何か有事の際には制服を着て出張っていかないといけない。これで彼女も正式に……『シャーレ』として各学園の問題を解決に向かえる。

 

“今日すべきことはもう終わりかな。あとはホノカがしっかり休むだけだね”

「ありがとうございます。夜も遅いので、このお部屋を使わせていただいても?」

“もともとそのつもりだよ。おやすみ”

「おやすみなさい。先生。いろいろありがとうございます」

“どういたしまして”

 

 うまくまとまった、とはいえきっともっと早く気づけていれば彼女の負担を減らせたかもしれない。

 

 今は、ホノカの夢を叶えられるように尽力しよう。

 ―――彼女の行く先に続く未来には、無限の可能性が広がっているのだから。

 

 

 

追憶編 Good end

 

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