私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
『早朝のシャーレ』
おはようございます。情けない大人全国一位の風音ホノカです。
モチベーションは死んでますが今日からシャーレの業務。張り切っていきましょう。
のそのそとまだ暗いうちから起き出して前日に洗濯機に放り込んでおいた制服を取り出します。
おや、ちゃんと乾燥してる。これは乾燥機様様ですね。さっさと部屋に帰ってアイロンをかけましょう。
え?制服を洗濯しているのに今何を着ているんだって?
実は私なんと今シャーレを全裸徘徊中……って笑えない冗談ですね。シャーレにいくつか備え付けられている汎用の体操着を借りております。
ま、下着も洗濯してるんである意味全裸徘徊よりもフェチズムは高いんですけどね。HAHAHA。笑えねぇ!
さっさと自室に飛び込んでアイロンをかけます。ついでに昨日もらったコートもきれいにしておきましょう。
この時点でまだ朝の五時半。なんなら朝練できますね。
ところで今気づいたんですが、これ先生と同じ匂いしませんか?うん。しますね。
シャーレに泊まり、先生と同じ匂いがして、まずい格好で施設内を徘徊……まっずいいやこれまっずいどころの話じゃないですよ。刺されますってユウカさん辺りに。うっっっっっわ誰にも会いたくねぇ!!
まぁいいや。(無敵)
さっさと着替えてコーヒーでも飲みましょう。なんかマシになりますよきっと。
だだっ広い居住区に私一人。先生はどこで寝ているんでしょうか。というか寝ているんでしょうか。
薄ぼんやりとそんなことを考えながら辿り着いたのはシャーレ併設カフェ。さて何を飲みましょう。超人目指してブルーマウンテンでしょうか。
オフィス用コーヒーサーバーから紙コップに注いでそっと一口。
「うぁっつい!!」
なんてこった。クソ熱いですよこのホットコーヒー。流石にホットが過ぎます。
「誰ですかこんなコーヒーサーバーを作りやがったのは……」
いやまぁ温度設定の問題かもしれませんが。コーヒーを冷ましがてらメーカー名を探していると盗聴器とミレニアムのロゴが。ああ。そういうね。
さぁそろそろコーヒーも冷めた頃で……
「うぁっつい!!」
まだコーヒーを持ってうろうろしないといけないみたいですね……今度はオフィスの方に行きましょう。
***
オフィスの方に移動してきました。風音ホノカです。コーヒーからはまだまだもうもうと立ち上っています。これ冷めない紙コップだったりするんですかね。『新素材開発部?』みたいなトンデモ部活があるぐらいですし、実用性も需要もあるので存在してもおかしくは……いや、流石にキヴォトスの技術を過信しすぎですね。
しかしまぁここにきたとてやることは机の掃除ぐらいで———
「せ、先生が机に突っ伏して寝ている……?!」
おそらく人を感知するセンサーでもあったんでしょう。ムーディーな明るさとなっていた電気を付け直して掃除でもしようかと辺りを見回すとなんとそこには机に突っ伏して意識を失っている先生の姿が!
「せ、先生……?大丈夫ですか……?」
「その方に触れるな」
はーい強者エンカウント入りまーす。なんなのほんとに……
「……狐坂ワカモ」
「『厄災の狐』と呼ばれないのですね」
「まぁね。ただ、シャーレの中で銃を構えるのは感心しませんね」
「……ええ。そうですね」
手を上げてホールドアップのポーズで後ろを振り向きます。
なんとそこには狐のお面をした和装の少女が立っておりました。やはり貴様か……
「それで、何をしようとしていたのですか?」
「起きてきたら机で寝ていたので、せめて少しでも布団で寝れるよう運ぼうかと」
「……なるほど」
悪意はないんですよ悪意は。というかあなたはいつの間にどこからっていうかなんでこんな時間に訪問してきてるんですか。
「いや、起きてきた、とは……?」
「えぇっと……それについては道すがら説明するので……」
「ええ。運びましょうか」
やけに協力的ですね。やはりシャーレのコートは全てを解決する……?
先生をお姫様抱っこで運ぶ役は年功序列ということで譲って差し上げました。逆らうと怖いですからね。
「それではなぜあなたが泊まっていたのか教えなさい」
「いいですけどなんでこんな小声なんですか?」
「先生を起こしてしまうでしょう。分かったらあなたも静かになさい」
「わかりました」
「昨日ちょっと暴走しちゃいまして……」
「それは激しい怒りとかの比喩で?」
「体の制御が出来なくなる感じで……」
「姉にとんでもない蹴りで止めを刺されまして」
「おいたわしや……」
「シャーレでお話ってことになって遅い時間だったので居住区に泊まらせて頂きました」
「どうやら私はあなたを勘違いしていたみたいですわね……」
先生を運び終えてオフィスエリアに帰還。途中かなり端折って説明したせいでワカモさんからの評価が『かわいそうな一年生』で固定されたような……
「あなたも大変ですのね……先程は銃を向けてしまい申し訳ありません」
「あ、頭を下げないでください!こんな時間にいるのは不審で間違いないですから!!」
「それは私にも刺さりますわ……」
先生を二人がかりで運んで二人きり。一人は大犯罪者でもう一人は先日先生に銃を向けたばかり……かなり絵面が不味いですね。
「では、私はそろそろお暇しますわね」
「え、もう行っちゃうんですか?」
「ええ。人に見られればあらぬ噂が立ちますから」
シャーレのあらぬ噂はもう手遅れだと思いますが、気遣いをしてくれるのであればありがたく享受するべきでしょう。
「次は、貴女に会いにきますわ」
「大胆なプロポーズですね」
「そう受け取っていただいても構いません」
それだけ言い残してワカモさんは窓から飛び出して行ってしまいました。
正面玄関には監視カメラが多く設置されてるとはいえ、窓はないでしょう。窓は。せめて裏口とか。
「そろそろ流石にコーヒーも……」
ふと思い出して、適当な机の上に置きっぱなしだったコーヒーを手にとります。
「……南無三!」
「うぁっつい!!」
結局、コーヒーを飲むことができたのはオフィス中を掃除し終えた後だったのでした。
「め、目立った怪我もなく精神的に好調だそうです委員長」
「そう。なら仕事がひと段落ついたら会いに行っても良さそうね」
「そうですね!私もご一緒します!」
「なら反省文半分でいいわよ」
「ありがとうございます委員長!!!」