私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。 作:まっしろたまご
シャーレでの仕事を大方片付け、先生とホノカはそれぞれ別件でトリニティ自治区へと出向いていた。
先生はトリニティ総合学園へ、ホノカは古聖堂へ。各々シャーレの公務の一環として向かっている。
ホノカの具体的な仕事は『調印式へ向け、現場の安全確認』。
と言ってもこれはほぼ名目上にすぎないのだが、彼女に何かしらの腹積もりがあるのを感じ取って単独の任務となっている。
「記憶が正しければ……このあたりに……」
一応管理こそされているものの埃の舞う通路を通り抜け、ひっそりと床に同化している蓋を開けると、下層部へと続く石階段が姿を現した。
暗闇でも目はよく見える方ではあるが、懐中電灯を手に構えておく。有事の時はフラッシュとしても役立つかもしれない。
「……よし」
耳に全神経を集中しながら歩を進めれば、すぐに自分のものとは別の足音が響いてきていることに気が付いた。
(まずいですね……ここは一旦引きますか)
自治区から続くカタコンベ、接敵するのがモブ生徒であればまだ勝算はあるが、これがスクワッドなんかになろうものなら一気に逃げきれる確率が下がる。
少しの名残惜しさを感じたまま聖堂の一室に戻ったものの、そこに待ち受けていたのは『カタコンベ内で息をひそめていたほうがマシ』とも思える状況だった。
「風音ホノカだな。交戦しようなどと変な気を起こすな。それはマダムの本意ではない」
特徴的なガスマスクに、一切の飾り気のない銃。そして極めつけは右上腕につけられたどくろのワッペン。そんな服装の人物がザっと7、8人で出口を包囲していた。
(誘い込まれた……これはやらかしましたね)
ひんやりとした汗が頬を伝い、緊張を加速させる。
ひとまずは両手を挙げて無抵抗を示す。幸いなことに向こうも交戦の意志がないことは確認できているため安心はできる。
しかし、依然として油断はできない。
先ほど、包囲しているうちの一人が『マダム』の名を出した。
マダムことベアトリーチェ。彼女こそブルーアーカイブ内でも屈指の嫌われキャラであり、彼女がかかわった事象は大概碌な方向に向かわない上性格もねじ曲がり歪んでいるというまさに『先生とまるきり反対』というにふさわしい忌むべき相手。
アリウス自治区の育ちの後、よくわからない儀式に巻き込まれて、現在のホノカはこの世に生を受けた。と、同時に
つまりいうなれば仇と言っても差し支えない相手。の、手先が目の前にいるのだ。
「これを。マダムからの書簡だ。我々はこれで失礼する」
最悪の場合、またヒナが泣くことになるな。なんて考えていたホノカに、蝋で閉じられた封筒が手渡される。
やる気満々で飛びかかろうとしていただけに、思わず拍子抜けしてしまう。
「ちょ、ま……撤収早すぎでしょう……」
幸いカタコンベの地形は過去の自分の記憶通りだったため、これ以上の捜査は必要なしと判断し、先ほど受け取った手紙にさっそく手を付けてみる。
「……へぇ」
ベアトリーチェから『
それらを目にしたホノカは不快感のあまり―――いっぱしの大人として、溢れ出る嫌悪を隠すことができなかった。
だがしかし、最後まで読み終わる頃、彼女の脳内には一つの妙案が浮かんでいた。
大人のやり方には大人のやり方で―――なんて言ったのは誰だったか。しかしそんなことはどうでもいい。
即席で組み上げた『計画』。それさえうまくいけば、彼女の目的とする『ハッピーエンド』もぐっと近づく。音速の拳とて、色彩の力を我が物にした冥界の神を穿つことができるとは限らないのだ。
「待っていてください。クソババア。近いうちに、あの世へと送ってやります」
ひとりでに口からこぼれた宣戦布告。
キヴォトス全土を巻き込んだ未曽有の大災害。そのきっかけとなる事件の火蓋がここに切られた。
“この五人で補習授業だよ。本当は顧問としてもう一人いるんだけど、今はちょっと席を外してるんだ”
「あはは……なんだろう。少し波乱の予感がしますね……」
「孕……何言ってるの?!しけぇ!!!」