私気づいた。銃より拳のほうが強いんじゃないかって。   作:まっしろたまご

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『下拵えは入念に』

 ベアトリーチェより想定外のアプローチを受け、少し遅刻気味にはなってしまったが走ってブラックマーケットへ。目指すは中心部から外れた小さなオフィスの一室だ。

 

「失礼。少し遅れ気味になってしまいましたが、先日電話で依頼の相談をさせて頂いたものです」

 

 厳密に言えば遅刻はしていないのだが、『大人』として時間に余裕を持った到着ができなかったのは責められて然るべきことだろう。

 少々の自戒を挟んでいると、オフィス内からドタバタと走り回るような音がひとしきり響いた後、気弱そうな声で『お入りください』との返答があった。

 

 こぢんまりとはしているものの、キチンと掃除の行き届いた通路を抜けて応接間へ。待ち受けていたのは便利屋68の面々である。

 

「お久しぶりです。皆さん。アビドス以来ですね」

 

 今回ホノカがここを訪れたのは『ゲヘナ風紀委員会として』。それも仕事を依頼するためだ。

 だがしかし、不意に現れた宿敵の重要ポストに、社長と呼ばれた少女は今にも軽快なBGMが流れ出しそうな表情である。

 

(ななな、何ですってーーーー?!どうして副委員長がここに?!)

(社長……だから先に依頼内容を電話で聞いておけってあれだけ言ったのに……)

(くふふ!アルちゃんおもしろーい!)

 

「お、オッホン!副委員長ともあろうお方がこの便利屋68に何のご依頼かしら?」

 

(あ、あくまで刺激しないように!!態度で負けないようにしないと!!)

 

「あ〜……そこまで警戒しないでください……いや気持ちはわかりますけど、落ち着いて。キチンと話を聞いていただけるとありがたいです」

 

 不用意に驚かせてしまったが、これも公務の一環。風紀委員会から直接の依頼をするに当たって少なからず関わりのあるホノカが抜擢されたのだ。一人怪訝そうな表情を浮かべるカヨコに、彼女は順を追ってここに至るまでの経緯を語り始めた。

 

 

***

 

 

 ホノカが正式にシャーレ所属になる前、普段となんら変わり無く書類仕事に忙殺されていた時のことである。

 

「また便利屋ですか……委員長の手を煩わせて……」

「どうしたんですかアコ。眉間に皺が増えますよ」

「あなた平然と呼び捨てする様になりましたよね……まあいいですが」

 

 書類の束を纏め、はぁと大きなため息を吐く。何やら問題ごとがありそうな気配だ。

 

「ため息を吐いたら幸せが逃げますよアコ。それでそれは……ああ。便利屋の出現情報ですか」

「ええ。条約も控えているのでさっさと確保しておきたいのですがチョロチョロと狡猾に……」

「だったら、私が捕まえてきましょうか?」

「え?」

「え?」

 

 近々行われる、エデン条約の調印式。トリニティ側のことは知ったことではないが、ゲヘナ側には軽く挙げても『風紀委員会と万魔殿の確執』、『キヴォトス各地で問題を起こす便利屋』、『それらの解決に取り掛かれない量の仕事』と言うジェットストリームアタックを抱えていた。

 しかし、風音ホノカにはそのうちの一つ、便利屋問題を解決する妙案を持っていた。

 

「あなた如きが解決できたらこんなに苦労しませんよ……反省文もまだまだ残ってるのに……まぁ、聞くだけ聞きはしますけど」

「簡単な話、雇って手元に置いておけばいいじゃないですか。依頼ともあれば途中でほっぽり出して逃げるような人達でもありませんし」

「ああ……それは私も考えましたよ……ですが風紀委員会を名乗るとすぐに電話を切られてしまって……」

「嫌われてますもんね」

「少し黙ってください」

 

 優秀とは言え一年。やはりこの程度かと書類に視線を戻そうとしたアコの脳内に突如電流が走る。

 『あれ、そう言えばこいつちょっと関わりあるって言ってなかったっけ?』と。

 

「あなたならあるいは……」

「そう、私ならあるいは!」

「いや、しかし雇うための資金が……」

 

 即座に財政状況のファイルを取り出し、顔を顰めるアコ。だがその葛藤を吹き飛ばすようにドアが勢いよく開き、小さな人影が現れる。

 

「話は聞かせてもらった」

「「ヒナ委員長?!」」

「雇うための資金は便利屋の被害を出さなければそこの復興費から捻出できる程度。むしろお釣りが来るぐらいよ」

 

 外勤に出ていた委員長、ヒナの帰還。そして作戦への雑な太鼓判。ここに、ゴーサインが出た。

 

「そうと決まればアポを取りなさい!今!今すぐにです!」

「アコ……落ち着いてください。今は夜中です」

「ええ。仕事の電話をこんな時間にするのは相手が誰であれ失礼に当たる。だから私たちも今日は休みましょう」

「これ私が間違ってるんですか?!?!」

 

***

 

「と言うわけです」

「つまり、不安要素は減らしておきたいから、より確実な方法で穏便に身柄を確保しようってことね……」

「要約ありがとうございます。つまりはそう言うことです」

 

 ホノカの持参した契約書を確認しながら、時折低く唸るような声を上げるカヨコ。

 ひとしきり目を通した後、視線はアルへと向けられる。決断もまた然りだ。

 

「任期が終わったら速やかに身柄を解放すること、必要であれば寮に寝泊まりが可能なこと、弾薬や爆発物など必要な物質があれば全て費用は風紀委員会持ちで支給すること。一番大きいのは、これに応じれば今までの行いに多少の情状酌量の余地を与えるってこと。まぁそれ以外にも痒いところに手が届く内容だし、正直受けない手はないレベルかな」

「そ、そのお仕事を受ければお腹をすかせることもないのですか……?」

「ただ一つ、気になる点があるとすれば……」

 

 カヨコの視線は再びホノカへ。友好的とも取れるが、一切の私情を持ち込んでいない『仕事の顔』に、少し気圧される。

 

「ここの、『有事の際には副委員長直接の指揮のもと行動する』ってところ。ここだけ少し引っかかるんだけど、説明もらえるかな」

「ええ。まぁ、カヨコさんであればご存じかと思われますが、これはエデン条約へ向けた下準備でして。安全を確保と同時にもし何かが ─── そう、クーデターなんかが起こった際にはご助力をお願いしたいと言うことです」

「随分と含みのある言い方だね。心当たりでもあるの?」

「はい。不安要素はまだまだ。ですので、実力としても申し分ない貴方達を味方につけておきたいのです」

「……なるほど」

 

 対面で話し合うべきことはこれで全て、事が事であるために仕事を受けるか否かの決断は後日連絡するとの旨を受け、その日は解散の運びとなった。

 

 すっかり日が傾いてしまったが、ホノカはこれより最後の目的地、トリニティ総合学園へと向かう。

 着々と布石は整いつつあることに少しだけ安堵の息を漏らし、夕日に目を細めながら彼女は徒歩で次なる戦場へと向かうのであった。

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